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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
5.生活
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国⑥



「ごめんください。少しお願いがあるんですけど」


 店員の方は一応、リッカさまをお客として見てくれているようです。一応なのが、私の心に影作り出しますが……。


「この木刀……木剣のような形の剣ないですか」

「ないね。見たことすらない」

「作って欲しいとお願いしたら、やっていただけますか?」

「そこらへんの剣でいいじゃないか。何よりその腰の剣、かなりのモノだ。なんで欲しがる?」

「叩き潰すための剣じゃなくて、斬る為の剣がほしいんです」

「あぁん? うちの剣じゃ斬れないってか?」


 片刃の剣すらないのは、リッカさまにとっては予想外だったのでしょう。完全に焦りが出てしまい、言葉に余裕がなくなっていっています。心で思っている事の半分も言葉に出来ていません。


 ここにある剣で一番高価な物は、良く切れそうです。ですが、リッカさまの言う”斬る”には足りないようです。何より両刃なのです。


「いえ、ありがとうございました」

『どうしよう。ここに無いと……。職人さんの前で商品を馬鹿にするような言い方をしてしまったのは、失敗だった。そういう意味で言いたい訳じゃなかったんだけど……』


 リッカさまが言いたかったのは、マリスタザリアを斬る為の武器が欲しい、です。対人ならばここの剣で十分ですし、マリスタザリア一、二体なら問題ないでしょう。ですが、私達は多くのマリスタザリアを相手にしますから……ここの剣では、足りないのです。確実に旅の途中で折れます。


 それに、リッカさまの技術にも合っていません。力で斬る事になるこの世界の剣では、リッカさまの消耗が激しいです。


「ごめんね、アリスさん。時間無駄にしちゃった」

「いえ、私は大丈夫ですよ」

『ここの鍛冶屋で無理なら、作れそうな人を探そう。神さまが無理とは言わなかったんだから、何処かに作れる人は居るはず……』


 それを探すのは、私の役目です。ギルド登録が出来たら依頼して探しましょう。多少お金が掛かっても探してみせますし、刀を作る代金も稼いでみせます。


「じゃあ、生鮮市場のほうにいこうか」

『アリスさんと料理、楽しみだなぁ。私は料理、ちょっと苦手だけど……邪魔しない程度に、頑張ろう。まずは砂糖と塩を間違えないように気をつけて――』

「はいっ!」


 無い以上、次に気持ちを切り替えるしかありません。リッカさまとの料理に想いを馳せましょう。早速市場に向かいます。


 リッカさまと料理を作ろうと話したのは先日の事です。何でも、料理をするとドジをしてしまうそうで、苦手という話でした。リッカさまとの料理が楽しみなのもそうなのですが……リッカさまがドジをしてしまう所をちょっとだけ、見てみたいなぁ、と思ってしまったのです。


「待てよ。嬢ちゃん」


 せっかくリッカさまと市場に向かおうと思ったのに、先程の大男が声をかけてきました。鍛冶屋からは出て行ったのに、何故声をかけてきたのでしょう。


「俺たちの剣がきれねぇとか訳のわからんこと言いやがって」


 リッカさまの言葉が、この人の逆鱗に触れたようです。集中すればその心の内の全てが見れるでしょうけど、この人相手に集中出来るでしょうか……。もしかしたら納得出来るだけの想いがあるのかもしれませんが、リッカさまの想いを小馬鹿にしているこの人を直視したくないのです。


「ごめんなさい。その剣で人なら問題なく斬れるでしょうけど。私は人を斬る為に、武器を求めているわけではないのです」


 私とは違い、リッカさまはこの人の疑問全てに答えるつもりのようです。自身の発言で起きてしまった争いと思っているのでしょう。最初に仕掛けてきたのは相手の方なのに、リッカさまはその事で反論しようとは思っていないのです。


「あぁ? 人じゃないなら何斬るってんだ」

「マリスタザリア、動物の化け物たちです」

「あの化け物でも斬れるだろうが!」

「あなた達のように屈強な人なら問題ないでしょうし、一、ニ体くらいまでなら私でも斬れます。でも私たちはこれから、一、二体じゃ済まない戦いをすることになるので、より斬れる武器がいるのです」

「お前みたいな嬢ちゃんに、何ができるってんだよ」


 リッカさまは相手の質問に、淡々と答えました。自身の腕力に限界があり、”強化”状態であろうとも長期戦は辛いという現実に歯噛みしながらも、現状を打破する為に必死なのだ、と。


 ですが、相手には伝わっていません。リッカさまの実力を見た目で判断するのは仕方のない事です。それこそ本当に、剣よりも花の似合う可憐な少女なのですから。それはリッカさま本人も納得しています。ですが、何が出来るかを問われるのは、許せない行為でした。


 リッカさまは、怒りません。自分がどんなに疑われようとも、貶されようとも、少しムッとするくらいはありますが、(おもて)には出しません。集落でもそうでした。他者が自分をどう思っているかを、第三者視点から見る事が出来るのです。なので、多少間違われていようが「仕方ない」で済ませます。


(怒りとは、恐怖から生じます。なのでリッカさまは、怒りを制御する事にしたのです。長い年月をかけ手に入れたそれは、かの世界の菩薩とも言えるだけの静謐さを体現させています)


 そんなリッカさまですが、全く怒らないわけではありません。


(リッカさまは、踏み躙られた時、怒るのです)


 人の命、尊厳、想いが踏み躙られた時、リッカさまは激昂します。他者の為だけに、リッカさまは怒ります。静かに、それでいて心は熱く、激情を刃に込めます。


 でも……リッカさま”唯一の想い”と、私が関わると……一も二もなく、リッカさまの頭は沸騰するのです。それを面に出し、相手に圧倒的なまでの激情をぶつけます。


(リッカさまの、”唯一の想い”とは――私を守る、です。命をかけ、全てをかけ、私の為に剣を手に取ったのです。全ては……私を……私の想いを成就させるために――)

『私が、何も出来ない……? どんな言葉でも、答えるつもりだった。私の言葉足らずの所為だから。でも……でもっ!! 何も出来ないなんて、言われたくない。新品の剣、他者を貶すことしか出来ない口、傷一つない腕や脚。戦闘経験の少ないこんな、何もしてこなかった人に、私が何も出来ないなんて言われたくない。私は、遊びで剣を取った訳じゃない。私は、アリスさんを守る為に――――っ!!』


 リッカさまの激情は、痛いほどの殺気となって、相手を威圧しています。リッカさまの想いを知って貰うには、このままが良いのでしょう。幾千もの言葉によって相手を完膚なきまで圧倒するでしょうから。


(しかし……今は、駄目です)


 リッカさまの噂がどんどんと広がりをみせ、尾ひれがついていっています。今此処で、大通りで舌戦を始めれば……どんな、噂になるか。恐らく――短気で、暴力を行使する事も厭わない、野蛮な……っ。そんな、根も葉もない噂、流させる訳にはいかないのです。


(あの剣士娘、やる気か。何が起きた――何て殺気出しとるんだ……。短気には見えんかったが)


 いえ、これは建前です。リッカさまが心配なのは本当ですが、私も……私の為に剣を取ってくれたリッカさまに対して「何も出来ない」と言ったこの男が、赦せません。リッカさまは”出来ます”。


『アリス、さん?』


 私はリッカさまの前に立ち、止めました。でも止めたのはリッカさまの行動であって、想いは止めません。私が止まりません。


「この方は、私と同じく”巫女”として、我らが神、アルツィア様より”お役目”を賜った、私の大切なパートナーです。これ以上この方を侮辱するのは、私が許しません」


 集落の時もそうです。この言葉は、目の前の大男だけに言っていません。全員良く聞いて下さい。この方が、どれ程の覚悟をしたのかを。どれ程の想いを持って、戦いに身を捧げたのかを。


「近々、陛下より私たちが遣わされた理由が発表されます。どうぞご確認くださいませ」


 言葉は、あくまで静かに。ですが私の心は燃え盛っています。リッカさまを侮辱された事が、本当に我慢出来ない。過去の自分に戻ったかのように、私はリッカさまを守る為に、言葉の刃を手に取りました。


 ですが、後悔はありません。リッカさまの神格化は避けたいですが、リッカさまを蔑ろにする噂は全て、取り除きます。神格化と周知は矛盾していると迷っていましたが、心は決まりました。




 聴衆の視線に追われるように、大男は最大限の不機嫌を表現するように地面を蹴り、踵を返していきました。

 私達も市場に向け、歩き出します。聴衆の疑問や、再び変化するであろう噂については、一旦置きます。本番は王国から発布される報せが掲示されてからです。


「……ごめん、アリスさん。ちょっと、頭に血が上ってたよ」

 

 歩きながら、リッカさまは俯いていました。私も思わず、俯いてしまいます。感情的にならないように気をつけていたのに、止まれませんでした。集落での学習が、一切役に立ちませんでした……。


「私も、怒っていました」


 リッカさまが謝る必要はありません。あの人の挑発でしかない言葉に、あそこまで本気で怒ってしまったのは申し訳なく思います。ですが、我慢出来なかったのです。


()()()()()()()()。リッカさまが……っ私のために、私達のために剣をとってくれたこと、更に力をつけようとしていることを。それを、あのように……知ろうともせず否定するかのような言動に、我慢できなかったのです」

『知――まさ、か?』


 リッカさまの秘密を、これ以上暴きたくありません。私が知っているのは、リッカさまの覚悟です。でも……いつか、その秘密を……私にも背負わせてください。私は絶対、支えてみせますから。


「アリスさんが、知っていてくれるから……それだけで、頑張れるよ」


 リッカさまが優しく微笑み、立ち止まりました。


「だから、私を見ていて? 強くなるから」

「――はい。私も強く」


 もっと強くなります。それは、精神的なものです。私の”想い”を全て乗せ、貴女さまを守る、貴女さまだけの”光”になってみせます。



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