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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
43.剥離
440/952

『オルデク』身勝手



 日誌には、丁寧な文字で剣術の基礎が書かれていました。足運びや腕の振り、体の動かし方に心構え。基礎中の基礎です。リッカさまくらいになると、意識せずとも行えます。ですがそれは、これらの基礎を毎日行なっていたからです。ライゼさんも、そうだったのでしょう。


「絵付きなんだ」

「はい。リッカさまから見て、どうですか?」


 剣術が無い世界で、一から作られた物です。上段からの振り下ろしが描かれているようで、矢印や文字も使って剣の振り方や体の使い方、どうすれば剣が止まるのかといった事が書かれています。


 ここまで読んだ中で感じた事は――この日誌では何故か、()()()()()()()()()ように見える所でしょうか。もちろん対マリスタザリアでも有効です。そうできるように書かれていますが……言葉の節々から、人への恨みも見て取れるのです。


(マクゼルトが人を恨んでいるのは、当然ですね……)


 マリスタザリアになっても自我を保てるだけの意思と恨みが、マクゼルトにはあるのでしょう。村民への激情を考えると……わざわざ触れる事では、ありません。


『見やすい絵だと思う。確実に私より上手――って、何でちょっと悔しいって思っちゃったんだろ』

「レイメイさんの教科書になるんじゃないかな」

「あ?」

「私と修行してない時は、これを読んで模倣してみるのもありだと思いますよ」


 ここ数日の激闘と、リッカさまの体調や今後を考えると……レイメイさんとの修行に時間を使えるか怪しいです。レイメイさんも良い経験を積めていますし、強くなっていると思います。ただ、初めからリッカさまが言っていたように――レイメイさんには基礎が足りていません。


「これがねぇ」

「ライゼさんの動きは、これを基にしています。何でこれを置いていってしまったのかは分かりませんけど、レイメイさんの修行にぴったりですよ」


 リッカさまとライゼさんの動きには、決定的な違いがあります。リッカさまは衝撃や相手の力を利用しますが、ライゼさんは自分の力を使うのです。体の柔らかさも、リッカさまと他の人では差がありますし、リッカさまを参考にするよりも日誌を見た方が発見は多いと思います。


(置いていった理由は――これでしょうか)

「理由はこれみたいですね」

「何か書いてあった?」

「基本的には剣術や体術の指南書ですけど、所々にライゼさんの事や奥さんの事が書かれています」

「日記代わりにも、なってたのかな」

「日記というよりは、独白ですね。父親として、ライゼさんにちゃんとやれているかとか、奥さんが居たらライゼさんも嬉しかったろうなとかです」


 寡黙だけど誠実、そして息子であるライゼさんへの愛を感じる独白が綴られています。本当に、今のマクゼルトからは想像が出来ません。


「最後のページに、ライゼさんの言葉が書かれています」

「何て書いてあんだ」

「……今まであんがとよ。俺は一人前になったから、親父は休んでろ。と書いています」


 指南書というだけでなく、マクゼルトの心と想い、言葉が残っています。だからこれは――亡くなったと思われたマクゼルトそのものだったのでしょう。ずっとライゼさんと妻を想い、そんな苦労を見せずに生きていた父であるマクゼルトに感謝の意味を込めて、ここで眠って貰おうと思ったのかもしれません。

 

(この事から……ライゼさんはやはり、マクゼルトと村人の確執を知らなかったのでしょう)

「……」

「どうぞ」

「……あぁ」


 神妙な面持ちで日誌を見ていたレイメイさんに渡します。何か気付いた事があれば、後程教えて欲しいです。


「そういや、いつも何か読んでたが……これだったのか」

「何だかんだで良く覚えてますよね」

「レイメイさんにとっても良い思い出だろうし」

「忘れる事のできない思い出なのでしょう」

「おい。こっちの言葉で話せ。阿呆共」


 共和国の言葉で内緒話をしていた私達に、レイメイさんが舌打ちをしています。私達の生暖かい視線だけでどういった内容なのか分かっているようですし、訓練の成果が実感出来て良かったのではないでしょうか。


「そんで。もう行くんか」

「そのつもりですけド、大丈夫ですカ」

「はい」

「私も大丈夫」


 オルデクに向けて、船が動き出しました。最後にトゥリアの方を向き、黙祷を捧げておきます。どうしてマクゼルトはこのような行動に出たのか。これはきっと、村民達も分からず仕舞いだったはずです。手向けと言えるか分かりませんが、マクゼルトに問い質しましょう。少しでも安らかに、空の向こうへと旅立てるように――。



 黙祷を終え、船の進路へと視線を向けます。この先に、オルデクがあるのですね。


「どういう町なの?」

『俗に言う、キャバクラだよね。女性の店員さんがお客さんと会話したりお酒を注いだりする』


 リッカさまが、町の詳細を気にしています。これから向かいますし、活動はするので知っておくべきです。教えるべきですが、今言える事は……リッカさまが考えているようなお店()ある、という事だけでしょうか。


「えっト。お風呂とかですネ」

「温泉もあるの?」

「いエ」

(温泉なら、共和国の北部にあったはずですけど――リツカお姉さん、本当に何も知らないんですね……。漸く実感出来た気がします)


 お風呂……ですか? 私も観光案内を読んだり、アルツィアさまとお母様に聞いた程度の知識しかありませんけれど……お風呂というのは、俗称でしょうか。


『温泉じゃないのかな。入ってみたいと思ったけど、どういうお風呂なんだろ。歓楽街なんて初めて』


 リッカさまが、お風呂を気にしています。旅を始めてすぐ、露天風呂を作りましたけれど……あの時も、露天風呂が楽しみという話をしていました。リッカさまと露天風呂や温泉というものを堪能してみたいという気持ちは今でも持っています。ですが……オルデクでは、無理です。


 歓楽街として、娯楽施設が充実した町と思ってしまっているのでしょう。ですが……歓楽街では、ありません。()()専用の、それだけがある町です。なので……お風呂に入れるだけの施設では、ないと断言出来ます。


「どうするんでス?」

「どうしましょう……余り近づけたくないのが本音なのですけど……」

「まぁ、そういう店は奥の方だからな。手前をお前等が調べりゃ良いだろ」

「やけに詳しいですネ」

「……」

「勘違いすんな。ライゼが包丁を届けに行く時についてっただけだ」


 レイメイさんがオルデクに詳しい理由は置いておいて、手前が大丈夫という言葉が本当ならば……いけそうですね。


「町の玄関から見て手前を私達が担当しテ、奥をヘンタイさんが担当で良いですネ」

「分かりました」

「うん?」


 外から見える物ではありませんし、箍が外れたお客さんに気を付けていれば問題ありません。”巫女”の務めを放棄する理由にはならないでしょう。


「言っておきますけド」

「何度も言わんで良い。入ったりしねぇよ! つぅか、変態はやめろ」

「今日を乗り越えるまでヘンタイさんはヘンタイさんでス」

「……人前で俺を呼ぶなよ? 絶対呼ぶな」

「それはヘンタイさん次第でス」

「……」

「えっと?」

「リッカさま。次の町では私が先導しますね」

「うん。分かった」

「私の手を握って、しっかりと付いてきてください。お店にはなるべく入りません」

「やっぱり、未成年は入らない方が良いよね」


 ちょっとだけ気になっているのは、分かっています。未成年だからという理由はもちろんの事、普通の酒場でもシーアさんを困らせるくらい賑わせてしまうのですから……オルデクのお店は特にダメ、です。


「えっと、広域感知は」

「……今日は魔力の使用を禁止していますけれど、仕方ありません……。一度だけです」

「うん」


 襲撃があるかもしれないので、広域感知で街巡りを短縮するのは……必要な作業だと思います。一昨日、昨日と肉体を酷使し……そして今日は、心までも。


『魔力が足りていないからか、疲労が残っているからなのか、なんか……ぽやぽや? してる。体を動かしてないからっていうのも、あるのかも。走り込んでないから体力落ちてるのかな』


 魔力の消耗に、心と体……体力よりも、一気に蓄積された損傷に体が驚いているのかもしれません。現実味がない、というべきでしょうか。


「もし奥側に居たらどうするんでス?」

「レイメイさんに呼んできてもらいます」

「徹底しますネ」

「……そういった職業もあるとは分かっているのですけど……それをリッカさまに見せて良いかどうかとなれば話は別です」


 職業への偏見という物はありません。実際に仕事内容を見た訳でもなく、「そういった職業がある」と聞いた事があるだけの私がここまで避けて良い物ではないでしょう。ですから、どちらかといえば私は……働いている方達ではなく訪れる方達を見せる事に、躊躇を覚えてしまうのです。


「私も同じ立場ならそう思うでしょうシ、こちらもお手伝いしますヨ」

「ありがとうございます……」


 きょとんとした表情で成り行きを見ていたリッカさまを抱き寄せると――少し気恥ずかしそうに、自分の手首を鼻に近づけていました。ライゼさん宅を調べた時の汚れを気にしているのかもしれません。


「お風呂、入って良いかな」

「オルデクまで時間がかかります。入りましょう」

「うん。ありがとう」

「今日のお願いも、そこで使いますから」

「ぅ、うん」


 休める時に、休むとしましょう。心に傷を負った時こそ、です。私を目一杯感じてください。気持ちを切り替えるお手伝いくらいは、出来るでしょうから。


「私も後で入りまス」

「分かりました」

『お風呂、お願い――』


 意識がふわふわとしているリッカさまの手を引いて、浴室に入ります。浴室でのお願いと言う事で、過去の色々なお願いを思い出しているのかもしれません。もう暫くは、自分で脱げそうにないので――リッカさまの服を、私が手早く脱がせます。


 心が休まるお願いかどうかは分かりませんが、必要な事なので……体を洗う前に少しお時間をください。


「では、本日のお願い――診察を開始します」

「――診察?」

「ここ数日で、リッカさまは倒れる程の戦闘を繰り返しています。ここで一度、しっかりと診させていただきます」


 大侵攻時以来の大怪我を、連日にわたって負ってしまいました。リッカさまの意識がある時に大怪我をしたのは、この二日が初めてのはずです。これ程の怪我をした自分の状態を、リッカさまは知りません。そのズレが、ほわほわとした意識に繋がっているのだと思います。


「昨日は特に……。一度しっかりと診たいと思っていました」

「分かった。じゃあ、よろしく、ね?」

「はいっ」


 詳細をリッカさまにお伝えします。この詳細が意識の修正になれば幸いです。


「リッカさま。こちらへ」

「ぅん」


 浴室にあるベッドに、リッカさまが仰向けになりました。しっかり診る為に――タオルすら掛けていません。


「……」

「……、……っ」


 真剣に、じっと、鋭い目つきでリッカさまのお体を診ていきます。私の理性が働いている間に診ましょう。肌に傷は残っていません。足先からじっと診ていって――そしてリッカさまのお顔を見た所で、はたと止まってしまいます。


(傷は完璧に治しきりました。火照りで、少し赤いのは……羞恥、ですよね。本当に、愛らし――)

「……」


 潤んだ瞳で私を見ていたリッカさまと、視線が合ってしまい……きりっとした私の表情が崩れてしまいました。急いで視線を逸らしましたが、診察の妨げにならないように手を横に置いたままです。今度は、上下するリッカさまの胸が飛び込んできました。手で顔覆って、俯く事で落ち着く時間を作りましょう。一度意識していまうと、止まりません。


(危うく、覆い被さってしまいそうに――)

「アリス、さん……」

「ひゃいっ」


 咎められた訳でもないのに……声を掛けられた私はびくりと肩が跳ねさせ、眩暈がするくらいの勢いで顔を上げました。


「何か、悪い所……あった……?」


 私が俯いてしまったので、悪い所があったのだと勘違いさせてしまったようです。


「ぃ、いえ。綺麗な、体ですよ」

「ぅん……」


 本当に、うっとりとするような……綺麗な、お体だと思います。お体の方に異常は、ありません。


「では、続きを」

「はぃ」


 私がこうなるのは……いつもの事ですから、落ち着かせる方法もいつも通りです。


(ですが――)

「………………」


 どくん、どくんと、脈打つ音がリッカさまから聞こえてきます。リッカさまの心音が、静かな浴室に響いているのです。もっと、聞いていたいですが――裸のままだと、風邪をひいてしまいます。


「しっかりと治ってはいます」

「良かった……明日には、普通に出来るかな?」

「……」

「えっと……」


 分かっていた事ですが、私の顔が険しくなってしまいました。問題なのは体の傷ではなく……魔力の消耗なのです。リッカさま。


「魔力の回復が、遅いです」


 どくん、どくんと跳ねていた心臓が――別の鼓動を、刻んでいます。これは……『不安』を感じているのです。リッカさまの胸に手を置き、リッカさまの状態を告げます。そして――どうか、私のお願いを聞いてください。診察には……お医者様からのお願いがつきものです。


「こんなに遅いのは……リッカさまの生命力が落ちているからです」

「ぇ――」

「約束してください。リッカさまの申し出の通り、広域感知一回は、お願いしたいと思います」

「う、ん」

「ですけど……それ以外で魔力を使う事を禁じます。例え……っ私に、危機が訪れようとも」

「それは、出来ないよ……」

「そう言うと、思っていました……」


 即答されると分かっていても……言わない訳には、いきませんでした。リッカさまの命が懸かっているのなら、私は……いくらでも、傷つく覚悟だったのです。それを叶える事は、出来ませんが……今でも頭の片隅に置いています。


「それでも、出来るだけ……守ってください」


 リッカさまの頬を撫でた後、お姫様抱っこをしてお風呂場に入ります。


「私も、貴女さまと同じくらい……大切な人の為なら何だって出来るのです」


 リッカさまも……頭の片隅でも良いので、置いておいてください。あの()()で、()で言い損ねてしまった……私の、覚悟を。


「頑張って、みる」

「はい。どうか……ご自愛を……」


 さぁ、お体を流しましょう。せっかくですからこのまま、私に全部――させてくださいね。



 くたぁと私に背中を預けているリッカさまと、頬を合わせます。体が疲れている時程、リッカさまの五感は鋭敏になっていきます。可愛らしい反応をしてくれるリッカさまをもっと感じたいのですが、オルデクは近くです。そろそろ上がらないといけません。


「そろそろ上がりましょう」

「ぅん。シーアさんも、入るからね」


 浴槽から出る際、リッカさまは体の重さを感じたようです。魔力運用すら中断し、体の回復ではなく魔力の回復に努めて貰っています。今の状態こそが、本来のリッカさまです。魔力で補助をしていないと……普通の動きすらも、違和感を覚えてしまいます。


『これが私の世界での普通。これに違和感があるって事は、馴染んでる証拠。逆に、考えてみよう。気付かないくらい魔力運用に馴染んできたって考えると……私が魔法を完全に受け入れられてるって事だと、思うから』


 体は休息させていますが、心は燃やしていました。瞳は常に先を見据え、頭は次の戦いを想定しているのでしょう。リッカさまが持つ、戦士としての資質が成せる技です。私も、先を見据えなければいけません。


(その為に――)

「オルデクに着くまでに、服を完成させますね」


 まずは、服です。


「見てても良いかな? どういう風に作るか興味あったり」

「是非見ていて下さい。リッカさまが見ていてくれた方が、良い物が出来ますから」

「うんっ」


 採寸と色合わせ、細かい部分の調整は終わっています。後は縫っていくだけです。早速部屋に戻りましょう。


(では、リッカさまの服を着せて――)

「?」


 こてんと、リッカさまが可愛らしく首を傾げました。


「さぁ」

「き、着るのは自分で」


 口では抵抗していますが、肩に手を置いてもリッカさまの体は私の想い通りに動いています。私がしても良い、という事ですよね。


「早くしませんと、シーアさんが待っていますから」

「ぅぅ……」


 しゃがみ込んだ私の肩に、リッカさまが手を置きました。下着を履くために片足を上げて貰いましたが、ふらついています。船の揺れ程度でリッカさまはふらつきませんから、細かい所で疲労の跡が出てしまうのでしょう。診察しておいて、良かったです。やはり戦闘は……させられません。




 着替えさせられたからなのでしょうか、ぽーっとしているリッカさまを自室のベッドに誘導しました。私が糸と布を用意し終わる頃には元に戻ってくれていたので、仮縫いしていきましょう。


「この糸は、アルツィアさまの髪から作られています。これでこちらの布を縫い刺繍を施します」

「溶かし込んでるんだっけ」

「はい。布はこちらですね。薄くみえるかもしれませんけれど、温かいです」

「これとは違うの?」


 スカートを持ち上げたリッカさまが、伸縮性を確かめるように引っ張っています。チラリと見える、リッカさまの細くしなやかな脚が……艶を、放っていました。視線が外せなくなる前に、魔法を発動させます。


「こちらの方が温かいですね。その分伸縮性に難があるので、その辺りを調整しましょう」


 仮縫いまで魔法でやっていくつもりです。本当は全部手作りにしたいのですが、時間が掛かりすぎてしまうので断念しました。


『おおー。まるでアニメのワンシーンみたい』

「ふふふ」

「ぅ?」

「可愛らしい」


 きらきらとした瞳で、宙に浮いて仮縫いされていく布を見ています。可愛らしい反応を見られて、私も嬉しいです。仮縫いが終わるまで時間が空くので、リッカさまと少し戯れようと――顎の下をこちょこちょと擽ってみます。


「んっ……ゃ」


 私の指にされるがままのリッカさまが、目を閉じてしまいました。


「もっと瞳を見せて下さい」

「ん」


 ゆっくりと目を開けてくれたリッカさまと、視線が絡み合います。先程までの和やかなじゃれ合いから――少しだけ、高揚してきました。


「キラキラしていて、綺麗です」

「アリスさんも、きれい」


 撫でていた指を止め、くいと顎を持ち上げます。じっとお互いの瞳を見続け、近づいていきながら――――。


「ぁ……」

「……残念です」


 仮縫いが終わったようで、布が床に落ちてしまいました。拾い上げて、本縫いに移れるか見ていきます。私の口から自然と零れた言葉の意味を尋ねられると困ってしまうので、すぐに作業を再開させましょう。


「……」


 私の手元と横顔を交互に見ていたリッカさまは、ゆっくりと近づいてきて――私の肩に、頭を乗せました。そこから私の手元を見る事にしたようです。リッカさまの体温と、窓から差し込む陽射しが心地良く感じます。


「……っ」


 そんな朗らかな時間だったからでしょうか。リッカさまの頭がかくんと船を漕ぎました。


「眠いですか?」

「ご、ごめん……」

「ふふ……。どうぞ、私の肩をお使い下さい」

「でも……」

「傍に居てくれるだけで、嬉しいです」

「……うん――すぅー……すぅ……」

「ふふ」


 返事をしてすぐに眠ってしまったリッカさまの頬を一撫でし、起こさないように細心の注意を払ってリッカさまの頭を膝に移します。座ったままよりも、横になった方がゆっくり休めるでしょうから。


「起きた頃には、新しい服を用意していますからね」


 肩に頭を乗せたリッカさまを、もう少し愛でたかった気持ちはあります。頭を撫で、頬を撫でたいです。でも――それをしてしまうと、昨日の二の舞になってしまいます。今日でローブを完成させると決めていますから、おあずけです。


「喜んでくれるでしょうか」


 予定通りの形に縫っていきます。完成品のお披露目も予定通りに出来そうですね。喜んでくれているリッカさまの表情は頭に思い浮かびますが、現実のものを見たいと想っています。


(仕上げに、魔力を少し通してみましょう)


 私の魔力色である白銀が、ローブに燈りました。このローブにリッカさまの赤い魔力が燈ると、きっと――太陽みたいになります。リッカさまが魔力を纏わなくても良い世界にしたいと思っていますけど……少しだけ楽しみにしている私が、居ました。



ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!

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