『トゥリア』間隙
A,C, 27/04/07
一体……私はどこで疲れていたのでしょう。分かりませんが……私は、寝坊してしまいました。”アン・ギルィ・トァ・マシュ”を使おうと魔力を練って、他の魔法に使ったりして……無駄に魔力を消費した、のでしょうか。
(メルクの時に使った”アン・ギルィ・トァ・マシュ”が、原因……?)
そうではない気も、しますけれど……私の魔力も、もの凄く減っていたようです。リッカさまが起きる数分前に目覚めました。
「危うく、リッカさまに寝顔を見られてしまうところでした」
「もうちょっとだったのに……」
「ふふふ……。約束を守る為に、私も必死なのですよ?」
朝以外でリッカさまは、無理に見ようとしません。だから続けられている約束ですが――朝だけは、頑張っています。
「シーアさんとレイメイさんが、朝食を用意してくれているようです」
「また、レイメイさんは味見を受けたのかな」
「朝食はゆっくりが良いからと、我慢したようです」
「我慢、なんだ」
昨日もそうでしたが、シーアさんに任せっきりとなってしまいました。夕飯は作れたのですが……「巫女さんも疲れが見えてますよ」と言われて、部屋に押し込まれてしまったのです。リッカさまから離れたくないと顔に出ていたからと思っていましたが――まさか本当に、疲れていたなんて……。
「リッカさま」
「ありがとう」
手を差し伸べ、リッカさまが立つお手伝いをします。昨晩、立ち上がろうとしたリッカさまは……立ち眩みを起こしてしまい、ベッドに倒れこんでしまいました。貧血と魔力消耗が原因です。それ以外の異常は……魔法・感知消失といった異常は、ありません。
(時間さえあれば、治るものばかりですけど……)
「魔力は、六割といったところですね」
着替えながら――今日までは、今までのローブですね。間に合いませんでした。着替えながら、体調について話しておきます。
「そういうアリスさんもまだ、全快ではないよ?」
メルクでの”アン・ギルィ・トァ・マシュ”は確かに……予想以上でした。ですが魔力消費自体は、戦争時よりも良かったと……思って、いたのですけど……疲れが残っています。生命力を消費した時と同じくらい、治りが遅いです。とはいえ……リッカさまの方が、問題でしょう。
「私のは正規の魔法です」
「やっぱり、魔力を素撃ちするのは危ないかな?」
「危険です。近接戦闘の中で、補助として魔力を使うのならまだしも……相手の拳圧と魔法を弾く程撃ち出すなんて、無謀です」
リッカさまは魔力に余裕がありますし、魔力運用が上手いので余剰分が生まれているというのは知っています。それを打ち込むだけならば良いのですが……昨日は、撃っていました。量と質が違いすぎるのです。
「それがリッカさまの秘策で、奥の手である事は理解していますけれど……出来るならば、余り使わないで欲しいです」
使える物は全て使うべきです。リッカさまの奥の手ですから、私が止めてはいけません。でも……消耗がここまで激しい上に、謎の魔力消費傾向がある物を無暗に使わせる訳には、いきません。
「奥の手は奥の手としてあるから効果を持つから、出来るだけ完全に避けるつもりではいるよ」
「そうしていただけると、嬉しいです」
魔力色が見える私とシーアさんにとって、あの光景は……目を奪われるくらい、美しいものでした。ですがそれは、リッカさまの命の輝きなのですから……出来る事なら、見たく、ありません。
「今日は大事を取ってもらいます。魔力を練るのはもちろん、戦うのなんて言語道断です」
「それは、私の存在意義に関わっちゃうよ……」
「リッカさまは私の全てです。万全でない貴女さまを戦わせるなんて出来ません」
「う、うぅ……」
トゥリアでは戦闘に発展するかもしれませんが、リッカさまの戦闘は極力回避させていただきます。これはもちろんリッカさまの為ですけど……一度襲撃があった以上、次を警戒するのは当然です。一秒でも長く、リッカさまは休息に努めてください。私達が生き残るには……リッカさまが生き残るには、万全に近い状態で居なければ、いけないのです。
(これは方便です。私は単純に……こんなにも弱ったリッカさまを、戦わせたくありません)
「リッカさま。私の気持ちも考えてくださるのですよね?」
「う、うん。そうだ、ね。アリスさんの気持ちを無駄にしちゃ、私じゃないよね」
狡い言い方だと思いますが、赦してください。貴女さまは、私の全てなのです。
「じゃあ、えっと……守って、ね?」
「!」
脚を擦り合わせ、背中を丸めて上目遣いに……リッカさまは、指を胸の前で弄んでいます。その姿が可愛くて――私の体から疲労感が消え去りました。
「お任せ下さいっ。リッカさまには指一本……いえ、視線一つも通しません!」
余りの可愛さに歯止めが効かず……抱き締め頬擦りをして、頭を撫でてしまいます。リッカさまが戦闘行動を取るかどうかは、私にかかっているのです。予定では……今日の目的地にはあの街が含まれています。戦闘の如何に関わらず、注意する必要があるでしょう。
「では、食事へ」
「うん」
抱き締めていたリッカさまから一度離れ、私は手を差し伸べます。気分は大事でしょう。今日はリッカさまが、お姫様です。
『これはこれで、嬉しいかも』
私にエスコートさせてください。私だけのお姫様。
『白銀の王女様と赤髪のお姫様。白馬が似合いそうな王女様……かっこいい。赤髪のお姫様は……正直、毒リンゴがついてきそう、かも? もしくは狼』
「リッカさまを食べようとする狼など、私が近づけさせません」
「ぅん……あり、がと」
今日は、オオカミに気を付けないといけません。詳細は後程話し合う事になりますから、まずは食事を摂ってトゥリアの浄化に当たりましょう。きっと、”悪意”があるはずです。
「リッカさま?」
「ぅうん。行こっか」
ゆっくり歩いていたリッカさまは――とろんとした顔で、私を見ていました。
「もう少しなら、大丈夫です」
「ぇ――」
「今のリッカさまを、他の人には……」
「ん……」
二人はもう、食卓に着いていると思います。ですが、今行く事は……出来ません。リッカさまの肩を抱き、浴室に誘導します。
「シーアさん達、待って」
「もう少し、このままで居ましょう」
『今日のアリスさんは、甘えん坊かも――凄く、何だろう。擽られる』
リッカさまの表情を戻すなら、抱きしめたままではいけません。でも私は――昨日の事を、引き摺っているのでしょう。リッカさまを抱き締めていないと、心がざわついてしまうのです。
「巫女さーン」
「少し、身嗜みを整えています」
「ふム。でハ先に頂いてますネ」
「はい。すぐに、向かいます」
抱き合う事に慣れた訳ではありませんが……私達にとっては、心が安らぐ行為です。リッカさまの表情は元に戻っているでしょう。ですが――嗚呼、今度は私が出られなくなってしまいました。
『心配かけちゃう戦い方しか出来ないのが、心苦しい』
私がこんなだから、リッカさまが心配してしまいます。より強く気負ってしまうのです。この顔をリッカさまに見られる訳には……いきません。
『もっと避けて、もっと上手く攻撃を相殺しないと。もっと鋭い斬撃を手に入れて、もっと素早く動く術を身につける。それは勝利に繋がって、アリスさんの安寧にも』
「アリスさんの守りがないと、私……簡単に壊れちゃうから……」
「はい……」
「頼らせ、て?」
「もちろんです。すぐに追いつきます……。貴女さまを守る、新しい力を……」
「うん」
示し合わせる事無く、リッカさまと私は抱き合っていた手を離し――指を絡め合いました。そして、教会で誓い合うように目を瞑り、額を合わせます。頼って欲しいと望むばかりで、私の実力が伴っていませんでした。歪みを正さないと、正しい誓いになりません。だから、昨日のような事になったのでしょう。
「アリスさんが私の為に作ってくれる物全部……暖かい。私、大好きだよ」
「――――っ!? は、はい。リッカさまの為ならば、私は、いつであろうとも、も……っ」
教会で誓い合うように、なんて思っていたから……リッカさまの、不意打ちに、動揺を隠せません。
(い、いま、リッカさまが……大好き、って――)
「わ、わ」
「アリスさん?」
「い、いきましょう」
「うんっ」
私も、と言えば良いのに……私は言えませんでした。あくまで、心が暖かくなるから大好きなのです。私もリッカさまの暖かさが好きですが……私の心は勘違いを起こしています。歪みを正すと言ったばっかりでしょう。一人で突っ走っては、いけません。
私の緩んだ顔を見て、シーアさんがメモを走らせています。それには触れず、食事を摂って――今日の予定を話す事にしました。
「さテ、巫女さんは動けますカ」
「はい」
「リツカお姉さんは、大事を取るト」
「うん」
シーアさんの料理も美味しいですね。それはつまり、それだけ私が作らなかった事になるので……反省します。
「私とサボリさんは問題ありませんネ」
「腹痛ぇんだが薬ねぇか」
「薬箱に入っています。白湯でどうぞ」
「あぁ」
どうやらレイメイさんは、味見でお腹を痛めたようです。我慢するという話だったので、悪戯されたのでしょう。
「食べ物は粗末にしてないので大丈夫でス」
「食い物で遊ぶのは良いんか」
「遊んでないでス。真面目でス」
「たち悪ぃ……」
げっそりとした表情で船内に入ったレイメイさんを診るに――ブフォルムで買ったトウガラシで、悪戯されたのかもしれません。香辛料は量を誤るとお腹を壊します。
「巫女さんから話しますカ?」
「はい。私の役目です」
「分かりましタ」
今日の活動を始める前に、トゥリアの事をリッカさまに話さなければいけません。
「リッカさま……」
「うん?」
「この村での浄化は難しいようです」
「やっぱり、嫌われちゃってる?」
異教の教会に、閉鎖的な村とは聞いていました。更に慰霊碑の近くでの戦闘という事でリッカさまも、無理かもしれないと考えていたのでしょう。
「村民は言ったそうです。”巫女”と関わった所為で、ライゼさんは死んだのだと」
「……間違いでは、ないよね」
確かに、アンネさんの為であったとしても……あの場で私達を逃がす為に足止めをしてくれた事に間違いはありません。しかしライゼさんの生死は不明ですし――何よりも、ライゼさんの意思を無視しています。
「少なくとも……リッカさまの所為ではありません。ライゼさんは命の使い方を知っている方ですから」
「うん……ライゼさんに、お礼を言いたいから、諦めてないよ」
誰から聞いたのかは、分かりません。ルイースヒェンさんは王都の情報に気を遣っていれば誰でも分かる事と言っていましたが――王都の発表とは違う情報が、ここでは流れています。歪められているのです。
(この村の方達は、思い込みが激しいようですが……)
正確に理解していないと、”巫女”の所為とは言えないでしょう。王都の事に注目した上で、多くの情報を取り入れる必要があります。しかしこの村は閉鎖的で排他的です。そのような情報が流れて来るはずがありません。誰か、黒幕がいます。
「……問題はそれだけではありません。私達よりもマクゼルトの方を信じているらしく」
「マクゼルトと戦ってた私達は、最悪の客人って感じ……かな?」
「はい」
あの方達は自分の信じた方の言い分を全て受け入れてしまうのでしょう。この事から――やはり、異教の教会が気になりますね。”巫女”に対する敵対心はライゼさんの件だけなのでしょうか。村人達の情報源が気になります。
「浄化どころか、村に近づくのも許されそうにないね……」
「一応確認には、参ろうかと思っています」
「……そうだね。見るだけ、見てみよう」
”悪意”があれば――今日は私が浄化しましょう。メルクの時みたいなことにはなりません。届きそうなら遠距離から撃ち抜いて、離脱します。
「でハ、一応確認してからその後を決めるという事で良いですカ」
「はい。それでいきましょう」
『ずっと、目を瞑ってきたんだから……ここも、その一つ。割り切らなきゃ……っ』
「リツカお姉さン。大丈夫ですカ」
「うん。覚悟はずっと前から、出来てるよ」
方法は、あります。しかし条件が整わなければいけません。それを見極めるために、確認しましょう。もしも無理なら……ここは、後回しにするしかありません。
「少し考えてたんだけど……これからは、皆で動かない?」
今後の活動で必要な確認、ですね。その事についても、昨晩シーアさんと話しています。
「私もそう考えたんですけどネ」
「二手に別れられる時は、別れた方が良いと思います」
私の結論は、今まで通りです。再度人質に取られる事になったらと、思いますが……それはないと思っています。
「捕らえた理由は、リッカさまと一対一となるためです。マクゼルト以外だと、捕らえるなんて事はしません」
影から出てきた男は、奇襲をかけてきました。リッカさまが居なければ私は死んでいたでしょう。マクゼルト次第ですが……人質はもう、取らないと思います。
「マクゼルトがどれくらいで復帰するかは不明ですけれど、捕縛に関しては注意する必要はないかと」
「マクゼルトも、もう一対一なんて考えないと思うよ」
『もう私には、勝てないから』
マクゼルトは私に意識を割いていました。ですがそれはリッカさまも同じです。何もしないと言っていましたが、敵を信じるリッカさまではありません。格付けは済んでいます。あの状況で私への奇襲に唯一気付けたリッカさまの方が、全てにおいて上です。
「背後にさえ注意していれば、問題ないと思います」
「足手纏いにならなくて済むのなラ、構いませン」
「町の外を歩く時は共に参りましょう。しかし、町中ではいつも通りを提案します」
マクゼルトの個人的な狂気によって一対一が行われましたが……他幹部は、どうなのでしょう。
「これ以上、動きを制限されたくないもんね」
謎の行動が多い魔王陣営ですから、これ以上行動を制限されるのは避けたいです。街巡りは最小限にしたいので、二手に分かれて素早く終わらせましょう。それ以外の時間で警戒をします。
(ある意味、賭けです。鎖の男は、一も二も無く私を狙いました。動けない二人ではなく、私を、です。囮にする意味合いが強かったのかもしれませんが……あわよくば私も殺そうとしたのだと、仮定します)
魔王陣営の狙いが私達”巫女”だけである事に、賭けましょう。
「もし敵と出会ったら、何でも良いので魔法をお願いします」
「分かりましタ。花火当たりを打ち上げましょウ。アレは魔力消費が多いのデ」
勇気と蛮勇は、違います。ですが……これは勇気なのだと、信じるだけです。再び私の時は凍ってしまいました。これを氷解させるには――やはり、旅を完遂する以外にないのです。
「あ゛……? 何の話だ……」
「……大丈夫なんです?」
「まぁ、薬は効いてるが……」
ここまで弱ったレイメイさんは初めて見ましたね。ふらふらとしながら戻ってきましたが、顔色は良くありません。水を飲んで休んでおいた方が良いでしょう。塩水か、白湯が一番です。
「今まで通り行動しよう、という話をしていました」
「俺等がまた捕まったらどうすんだ」
「捕まらないようにするんですヨ。何度も同じ過ちを繰り返す訳にはいきませン」
シーアさんとレイメイさんにとっても、痛恨でしょう。私も乗り越えますから、どうか二人も乗り越えてください。己の手で払拭する事でしか……これは、乗り越えられません。
「んで、ここにも行くんか」
「確認するだけです」
「じゃあ行きますカ」
「うん」
すぐに村へ向かいましょう。今は朝の支度で忙しい時間帯です。こっそり忍び込む事が出来るかもしれません。
(騒ぎを起こさずにと、思っているのですが……)
「何か……」
「おかしい、ですね」
「うン?」
「静かすぎる……」
船を降り、村に近づいていった私達は――違和感を、覚えました。夜の静寂とは違います。生活音もなければ、人の気配もありません。
「ま、って」
そして、感覚が鋭いリッカさまでなくとも感じ取れてしまう程の強い刺激臭が……森の中に、充満しています。これは……私達も知っている、臭いです。
「アリスさん」
「……あくまで支援です。どうか、前線にだけは」
「うん」
相手次第では、約束を守る事は出来ません。しかしリッカさまは、魔力を練るだけで怠さを感じてしまうのです。だから、私がやります。
「血の臭い。そして微かに……腐臭」
「それハ」
「この辺は寒いから……腐臭がする以上、結構時間が経ってる」
これだけの臭いです。一人二人ではありません。この寒さならば、形が残る殺され方だった場合……ここまでの腐臭はしないでしょう。
「一応言うが、ここは土葬だぞ」
「血の臭いが説明出来ません」
「まぁ、だよな」
騒ぎになっていません。村人が生きているのなら、最初に疑うのは私達でしょう。それが無いという事は……そういう事、なのですね。村について最初に見つけたのは――人の、腕でした。
「魔法か?」
「”爆裂”なんかあれば出来るでしょうけド、音が出ますヨ」
「これだけの破壊を生む魔法で無音はありえません。つまり――」
「体術、だね」
音もなく、騒ぎすら起こさせずに行われたのです。”人”の仕業ではありません。目にも留まらぬ速さで、短時間に……全滅させたとしか、思えないのです。
「緊急事態だから、一緒に行こう」
「分かりましタ」
「私とリッカさまで全方位を感知します。二人は、左右と後ろを目視でお願いします」
「あぁ」
血と腐臭だと、血の方が強い臭いを放っています。それもそのはずで……原型を留めた人が、殆どいません。腕や足といった末端は残っていますが、体を残した人がいないのです。血で家屋が、染まっています。
(ザブケュの盗賊達は、体を残していました。ですがここに、そのような人はいません。つまり……盗賊達を殺した相手と今回の相手は違います)
「どんな力で殴ったんだよ」
「マクゼルトの攻撃が当たるとは、こういう事です」
この村出身で、何か確執があるようでした。マクゼルトが怒りに任せて拳を揮った事に間違いはないでしょう。ですが――怒っていたから、体が残らなかった訳ではありません。マクゼルトの攻撃に当たったら……こうなるのです。
「これだけ見たら、私はついでだったと思うんだけど」
「恐らく、こちらも本命だったと思います」
「私を殺した後、この村も含めて全滅……?」
「はい。隠れるように行ったのは、リッカさまに負けてしまったからでしょう。音を聞いて、私やシーアさん達が戻ってきてはいけませんから」
マクゼルトが私を危険視するとは思えませんが、謎の幹部級は分かりません。”アン・ギルィ・トァ・マシュ”を残していた私を警戒した……というのは、考えの一つでしかないでしょう。恐らく、マクゼルトの怪我が重傷だからです。
(向こうに優秀な”治癒”持ちが居ないという証明にするのは……弱い、ですね。理由は何にしても……私達に隠れて、この惨劇を起こした以上、マクゼルトはトゥリア壊滅も本命としていたのです)
「これだけ、無残に……乱雑にやられているというのに……頭だけは残っていません」
「腕や脚は、あるのにね」
「そういえば目が合いませんネ。合いたくないですけド」
「頭を正確に狙ってる証拠だね……」
足や腕という末端が残っている以上……体を殴られた場合、頭が残るかもしれません。それが無いという事は……顔しか、狙われていないのです。強い殺意の、発露でしょう。確実に殺すという意識を持たなければ、マクゼルトは急所を狙いません。リッカさまとの戦いですら、その傾向が強かったのです。
「レイメイさんは、ライゼさんから何か聞いていないんですか?」
「アイツから、ジジイの話は余り聞いてねぇ。厳格者だったってのは聞いたがな」
これだけの殺意ですから、昨日今日の怒りではありません。長年の……積年の恨みという物でしょう。
「あぁ、だが」
「何か思い出しましたか」
「ジジイは村人と殆ど喋らなかったと言ってたな」
その頃にはもう、村人への恨みを持っていたのかもしれません。ライゼさんが記憶しているのですから、四歳前後です。マクゼルトの死はライゼさんが一〇歳の頃という話でしたから、その間に何かあったのならライゼさんが知っているはずです。つまり……ライゼさんが生まれる前か、生まれてすぐに、何かあったのでしょう。
「寡黙だからとか何とか言ってたから、分からんがな」
「愚痴のようでした?」
「そこまでは覚えてねぇな。刀を打ちながら話しとったから顔はみてねぇ」
村人を襲った理由は、マクゼルトの根源に関わってきます。そこを知る事が出来れば、魔王の考えも見えてくるかもしれません。誰でも彼でも仲間にしている訳ではないのですから、何か法則があるはずなのです。
「こう言っては何ですけド、調べるなら今しかないかト」
「誰かが来ちまうと、俺等の所為にされるだろうよ」
村人全員が、殺されています。誰か来るとは思えませんが……来訪者であるはずの教会を受け入れている以上、関係者が来るかもしれません。そうなれば、疑われるのは私達でしょう。それでも――死者をこのままには、出来ません。
「マクゼルトと村の確執も気になるけど」
「とりあえず、ライゼさんの家へ行きましょう」
「もし誰か来たら、説明しないとね」
疑われる事になろうとも、私達は私達の想いで動きます。
「弔わないと」
「手前ぇを嫌ってる人間を弔うなんざ、面倒とは思わんのか」
「皆違うんですから、嫌いな人も居るでしょう。この村の人達は勘違いで嫌ってた訳ですし、話し合いする余裕があれば変わったかもしれません」
私達を嫌っていたからといって、死者を貶めてはいけません。悪事は嫌いです。赦せない罪という物はあります。ですが――死は、平等なのです。人の死に、心が動かなくなった時点で……私達は”人”ではなくなります。死を悼む心に、善悪は関係ありません。
「ライゼさんの家に行く前に、祈りだけ捧げましょう。せめて天へと昇れるように」
「ありがとう。アリスさん」
一人一人祈りを捧げる事は、出来そうにないです。全員の魂に安らぎを。村の入り口で祈る事を、赦してください。
ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!




