表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
42.氷解
435/952

『トゥリア』悔恨⑭



 今から数十年前。とある行商が王国にやって来た。今は連合と呼ばれる国から命からがらやって来たそうだが、立ち寄った村で邪険に扱われてしまったそうだ。その村は閉鎖的で、排他的だった。


 肩を落として帰る行商に、村の女性が声を掛けた。その女性は外の事を沢山聞いたそうだ。その女性は村で生まれ、一度も外に出た事がないと言っていた。何も知らない女性と、色々な物を見てきた行商。相性が良かった事もあり、仲良くなるのに時間は掛からなかった。


 出会いはそんなものだ。お互い惹かれ合い、結婚まで至った事もありふれている。()()()()()で死別し、行商と息子だけが残る事も、この世界では珍しくないのだろう。


 だが行商は、世界を恨み、村を恨み、人を恨み――そして、己を恨んだ。


 弔砲代わりの()()()と、()()()()()()()()()()()で奏でられる葬送曲が村を染め上げていく。


 一体誰に向けられた物なのだろうか。ただの()()()()()に意味を求める事が間違っているのかもしれない。()()はけじめなのだろう。この()()は怒りなのだろう。


 静かに、迅速に行われた復讐劇は――幕を閉じた。


「わざわざ戻って何をするかと思えば」


 ()()()()()が家屋に付着し、村全体が同じ色に染め上げられている。生活感が一切感じられない村の隅に、マクゼルトは仁王立ちしていた。その背に黒い影が声を掛けている。呆れたような、仕方ないといった共感のような、そんな声音だ。


「悪意の回収も済んどるんだろ」

「えぇ。それは恙無く」


 腕は千切れかけ、致命傷はリツカよりも多いが――マクゼルトは普通に歩けている。失血量や欠損など些細な問題なのだ。命があるかないか。”悪意”を維持出来ているかどうかだ。だからといって、千切れかけた腕はすぐに治さなければ繋がらない。ただの傷ならば問題ないが――”光”は”悪意”への特効だ。


 影の男からすれば、時間を掛けてまで行った復讐に肩を竦めてしまうのだろう。本人が喜んでいたのなら問題ないが、気が済んでいる様子すらないから。


(まだまだ()ですねぇ。トゥリアでの決戦に拘ってまでやりたかった事が()()とは)

「今度こそ帰りますよ。赤の巫女はもう戦えないでしょうが、巫女はまだまだ戦えますのでね」

「赤の巫女と違って巫女には負けんがな」

「魔王様と貴方は赤の巫女を重視していますが、私はどちらかといえば巫女の方が恐ろしいんですがね」

「またそれか。そういや、今回の小細工もてめぇの発案だったな」

「まぁまぁ。一対一は楽しめたでしょう」

「チッ……」


 場にそぐわない雑談をしながら、二人が闇に溶けていく。闇に溶けきる直前、マクゼルトは無感情にある物を踏みつけた。恨みがましく、こちらを見ていた――()()を。




 部屋に戻り、リッカさまをベッドに寝かせた後……私は、着替えます。着替えをお風呂場に持って行くのを忘れていたので……少し、慌てました。シーアさん達は……もう少し、掛かるようです。新しいローブを編みながら、待ちましょう。


「隣、失礼しますね」


 椅子は、ありますけど……少しでも近くに居させてください。


「裁断と、仮縫いは魔法で……」


 一度着て貰ってから調整したいですから、仮縫いまで一気にやりましょう。眠っている間に着せるのは憚られますが……完成した後をリッカさまへのお披露目としたいので、仮縫いの後に少しだけ着てもらいましょう。


「色合わせを先にしておいた方が、良いですね」


 赤色をいくつか用意しているので、どの赤が一番リッカさまに合っているのか、実際に見ておきたいです。寝ている間にするのは憚られますが……初めて見せるのは、完成後にしたいと思っていますから。


「では、まずはこちらの赤を。シーツ、失礼します」


 シーツをはだけさせ、露となった白い肌の上に……色々な赤の布を置いてみます。朱、紅、深緋……カルミン、ハンティング……これくらいしか持って来る事が出来ませんでした。リッカさまの髪は、ワインレッド寄りの深緋といったところですから――朱で少し明るくさせるか、同系のカルミンにするか、ですね。


(白色の線を入れますから、真っ赤という事にはならないので赤を強く――布と布の、隙間からリッカさまの……)

「――さーん」

「!」


 シーアさんが帰って来たみたいです。お出迎えに……いえ、こちらに来てくれているようなので、待ちます。その前に急いで片付けないと…………。


「巫女さーン。入りますヨ」

「…………は、はい。どうぞ」


 何分固まっていたのでしょう。もうシーアさんが扉前に……片付けは、出来ないのでシーツをかけて出ます。


「何してたんでス?」

「看病、していただけですよ?」


 扉を開け、その場で応対する事に、しましょう。シーアさんが目敏く気付いてしまいそうなので……体をずらして隠すしかありません。扉を閉めれば良いだけかもしれませんが……扉一枚であろうとも、今はリッカさまから離れたくありません、から。


「……」

「……」


 どうしても今のリッカさまを見たいのか、私を出し抜こうとシーアさんが左右に揺れています。


「ふぅ……リツカお姉さんは大丈夫なんでス?」

「少し……いえ、かなり魔力を消耗しています。今日は起きれないと思います」

「そうですカ……。生命に別状はないんですよネ」

「はい。ですけど……あれだけの魔力を撃った割には、消耗が少ない程でして……」

(巫女さんも疲れてますね。体力や魔力ではなく、精神が……。今日は安静にしてもらった方が良さそうですね)

「消耗ガ、少ないくらいですカ?」


 何も分かっていないので、報告するのはどうかと思いましたが……この現象を解明出来れば、もう少しだけ自由に魔力砲を使う事が出来ます。本音で言えば、使って欲しくありませんが……”風”を使えないリッカさまが、拳圧に対抗出来る唯一の手段です。


 使わせないのではなく、自由に使える方法を考えるのが……私の、役目でしょう。


「あんなに撃ったんですヨ? あれはリツカお姉さんの魔力総量を超えていたと思うのですけド……」

「私もそう思ったのですけど……リッカさまの限界を超えた後からは、減っていなかったようで」

「……? どういう、ことです?」

「私にも何がなんだか……」


 いつも私達の常識を覆し、新たな道を示し続けていたリッカさまです。今回もそうだと思うのですが……そうだとしても、私がリッカさまの事を間違える事はありません。リッカさまの魔力ではないものが、あの時……使われていたと、思います。


(残りの疑問は……リッカさまが目覚めてから、ですね)

「それでも、限界を超えている事に変わりありませんので」

「そうですネ。私達が見た魔力より少ないってだけデ、使いすぎって事実は変わらないんですヨ、ネ」


 リッカさまの魔力は、残っていません。普通の人達が「疲れた、もう使えない」という段階ではなく……本当の限界を、超えているのです。体力回復に努めてくれているので、今日中に起きられるかもしれませんが……休めるだけ、休んで欲しいと思っています。


「話は私が聞いておきましょう。村民は、何と?」

「あー……いエ。それはリツカお姉さんが起きてからにしましょウ」

「……何かあったのですか?」

「まァ、言い辛いのは確かでス」


 どんな内容でもリッカさまにはちゃんと伝えますが――何が起きたのか、事前に知っておきたいです。視線を泳がせるシーアさんに、自然と目が座っていきます。あの状況では()()()()と思うので、シーアさんの口から聞かせてください。


「リツカお姉さんに話すかはお任せしまス」

「分かりました」

「先ず謝罪ヲ。村民はもウ、私達の話を聞いてくれませン」

「レイメイさんが何かしてしまいましたか」

「そうですネ。もともと確執があったのニ、任せたのが間違いでしタ」


 説明を聞いて思った事は――シーアさんの判断は間違えていないという事です。ただ、私は……レイメイさんの心情も理解出来ます。冷静に話そうと思っていても、出来る物ではありません。


「巫女さん達の顔はバレてはいないようですけド、ここに来ている事は分かっているでしょうネ。サボリさんが少し含みを持たせてしまいましタ」

「レイメイさんにとっては因縁のある村です。どうしても許せない部分や割り切れない感情があったのでしょう」

「気持ちは分かりますけどネ。今回に限ってはもう少し私情を殺して欲しかったところでス」


 確かに、私情を排してやるべき事をやるのが……優秀な戦士なのでしょう。私達なら、やろうと思えば出来ると思います。ですが完全に私情を排す事など、”人”には出来ません。レイメイさんを責めるのは、酷です。


「そんな訳デ、村での浄化は難しいですネ」

「リッカさまは見捨てないでしょうから、今のうちから浄化をする方法を考えておきましょう」

「こういっては何ですけド、今回の村のような場所でハ、諦めることも必要だと思いまス」


 思わず、苦笑いになってしまいました。


「私も、そうは思っています」

「そうなんでス?」

「全員救えるとは、思っていませんから。どうしても無理ならば、前進を優先させる必要もあると割り切っています」


 そうするべきだと、思います。”お役目”優先という事は、リッカさまも私も理解はしているのです。でも……最大限の努力を、私達は未だしていません。


「リッカさまは、後悔したくないのです」

「それでご自身が傷ついてたら世話ないですヨ」

「それは……私も、少し気になっているところです。ですけど――」


 少しずつ、昔に戻ってしまっています。でも……それでもリッカさまは、一に私を……そして二に自分を、大事にしてくれているのです。


(だから……)

「私はそんなリッカさまを……大切に想っています」

「リツカお姉さんも同じ気持ちでしょうネ。だからそんなニ」


 中々良い間隙を縫って、シーアさんが体をズラしました。私でなければ出し抜けたでしょうけど、通しません。


「一体リツカお姉さんはどうなってるんでス」

「寝ているだけですよ」

「……本当でス?」

「……本当です」


 少しはだけてしまっていますし……その下は、布を掛けただけという状態ですが……眠っているだけ、ですよ。


(巫女さん相手に出し抜くなんて無理でス)

「残りの話はリツカお姉さんが起きてからにしましょウ。もしかしたラ、この村を諦めてくれるかもしれませン」

「許せない部分があるとはいえ、余り嫌ってはいけませんよ。この村の方達もまた、この混迷の時代において、何かに縋らなければいけなかった者達なのですから」


 シーアさんでも赦せないくらい、村人たちの言は傍若無人だったのでしょう。悪態が過激になっています。シーアさんは、マクゼルトに捕まった事を気にしていますから……苛立っていたのかもしれません。それでもシーアさんは、冷静です。すぐに気持ちを鎮めてくれました。


「どのような神を奉じようとも、アルツィアさまの愛に揺らぎはありません。私達はその想いを形にするために動くだけです」


 怒りは多分、あります。悔しさや悲しさもあるのでしょう。ですが、覚悟していた事です。私達がどんな目に合おうとも……私達は私達の意志で、アルツィアさまの愛をお届けします。


「……分かりましタ。リツカお姉さんも同じ気持ちでしょうかラ、準備だけはしておきましょウ」

「苦労をかけます」

「良いですヨ。そのための私達でス」


 レイメイさんともう少し話をするようで、部屋から離れていくシーアさんに頭を下げます。いつも無茶ばかり、です。しかも今回は……死んでいたかも、しれません。二人を喪う事も、私達の痛恨です。


(……あれ?)

「私、巫女さんに話しましたっけ」

(村民達がアルツィア様以外を崇めているって)


 死ぬかもしれない旅ですが……ここでは、ありません。最後はあっても最期がないように、したいです。


(まぁ、巫女さんですし)


 まずは……食事の用意は、どうしましょう。


(リッカさまの傍から離れたくありませんし、かといって食事を作る事までシーアさんに任せる訳には……)

「ん……」

「リッカさま?」

 

 夢を、見ているようです。久しぶりかも、しれません。


「っ……」


 頭痛が起きたと思ったら、また……リッカさまの夢が、流れ込んできました。


(能力の、暴走……っ)


 視てはいけないと、思っている時に限って……視えてしまいます。視線を合わせずとも、流れ込んできてしまうのです。


「こ、れは――」


 リッカさまは、向こうの世界に居る夢を見ていました。いつもより鮮明に、そして現実と思えるくらい……空気を、感じているようです。


『立花』

『お母さん』

『帰るわよ』

『……それは』

『立花。言う事を聞きなさい』

『……』


 向こうの世界に居た頃の、リッカさまならば……お母さまの言う事を聞いたでしょう。ですが……リッカさまは、動いていないようです。


『お母さん』

『立花。ダメよ』

『帰ります』

『そうよ。早く家に』

『ここに、私の欲しい物はありません』

『立花。悲しい事を言わないで』

『……行ってきます』


 この夢を見るという事は、少なからず……向こうの世界に戻りたい気持ちが、在るのだと思います。当然です。こちらの世界にはない平和が、平穏が向こうにはあります。家族が心配している事も、リッカさまは分かっているでしょう。ですがリッカさまは、迷いませんでした。


 私は、声が聞こえているだけなので……リッカさまのお姿が見える訳では、ありません。ですがきっと、リッカさまは――いつものように、私を想っている時のように、優しく微笑み……堂々と、告げたのでしょう。


 向こうの世界を、リッカさまが走っているようです。”神の森”までの道。何年も通い続けた道だけに、普通ならば目を瞑っていても着く事が出来たでしょう。ですが――。


『ここ、どこ……?』


 迷うはずがない場所で迷う事に、リッカさまの『恐怖』が刺激されていきます。『恐怖』です。どうしてこの夢を見る事になったのか。その元凶が――現出、しました。


『分かっとるだろ』

『……っ』


 いつもの夢みたいに……こちらに戻る為の儀式だったはずです。『恐怖』を”秘密”に仕舞い込む、儀式。それなのにマクゼルトが、出てきました。大侵攻時、目覚める直前に視た時の、ように――。


『俺が初めから魔法を使っとったらどうなったか』


 リッカさまが付けた傷を残したマクゼルトが、話しかけてきています。マクゼルトの性格からして、このような負け惜しみは言いません。敗北を確信して尚、リッカさまを迎え撃つために手を伸ばした狂人なのですから。だからこれは――リッカさまが、考えている事です。


『次は殺す』


 魔力砲は、凄いです。ですがそれを支えているのは、リッカさまの読みと感知、第六感です。()()()()()()()()()()()()()。リッカさまの想像を超えた一撃……見た事の無い初撃や反応出来ない一撃、躱せない状況等が重なった時――魔力砲を合わせられない可能性が、あります。幹部達と魔王は、その隙を狙える力があるのです。


 マクゼルトが霧散し、景色が晴れたようです。不安を認識し、心の中で整理出来たのでしょう。多分、起きた時にはもう――リッカさまは不安を述べる事無く、前を……向いています。


 景色が晴れ、これで”神の森”に行けるとリッカさまは駆けだしました。しかし――”神の森”が見えて来たのに、近づけないようです。


『帰りたくありませんか?』

『アリス、さん』


 遂に……私が、出てきたようです。夢の中の私に、リッカさまは近づいてきてくれました。でも、”森”からは遠いままです。私は……番人のように、立っているのでしょう。


『このまま、こちらで過ごしても良いのです。私も共に、居ますから』


 多分、今の状況なら……私は、そう言ったと思います。ここは夢の中です。本音を話せます。声に出すのはきっと、「前に進みましょう」です。でも――本音では、リッカさまは平和な世界に居て欲しいと思っています。ずっと……今も、これからも……。


『私の心の、アリスさん』

『はい。リッカさま』

『すぅー……はぁー……』


 深呼吸したリッカさまの瞳は――赤い炎を、携えているのでしょう。見えないのに、そうだという確信があります。


『私は、頼りないかな』


 リッカさまが居ないと、私は前に歩けません。


『リッカさまが居ないと、私は前に歩けません』


 一言一句間違える事無く、リッカさまは私を理解しています。だから、この確認作業は――()()()と、一緒です。リッカさまの覚悟を支えているのは……私、なのですから。


『一緒に、行って良い?』


 どこまでも、永遠に。


『どこまでも、永久に』


 最後の問いは、外れて、しまいました。リッカさま、私は……例え、()()()が起きようとも……そうならない為の努力を惜しまず、貴女さまを愛し続けます。終わりのある、永久ではなく……貴女さまを、永遠に。


『行こう』


 はい。私は絶対に、待っています。


『はい。私もきっと、待っています』

『……うんっ』


 この違いが、一致した時……きっとリッカさまは、自覚するのでしょう。それまで私は――絶対に、ずっと、待っています。リッカさまが”神の森”に入っていき……そして、目覚めました。


「おはようございます」

「うん。おは、よう」


 ベッドに腰かけていた私と目が合ったリッカさまは、気恥ずかしそうにしながらも――頬を綻ばせています。


「どれくらい……」

「六時間程、です」


 私もリッカさまの夢に居たから、でしょうか。時間が一気に進んだような感覚がしています。シーアさん達のお昼……作り損ねて、しまいました。


(リッカさまの傍に居たかったので、お昼は作りに行けなかったと、思いますけど……)

「そっ、か」

「……」


 そっとリッカさまを、抱き締めます。私の方から、言わないといけません。


(次こそは、次こそはと、言うだけになっていますが……次こそは、貴女さまと、共に……)

「何も出来ないって……辛いの、ですね……っ」


 こんなことを、言いたかった訳ではありません。なのに……あの夢を、視て、我慢出来なく、なってしまいました……。


「アリスさんが居てくれたから、マクゼルトの意識が分散してたんだよ? 本当ならもっと……攻められてた」


 何も出来ていないと、しても……いつもは、補助くらいは出来ています。でも今回は……それだけ、です。それだけでも救いにはなっていたのかもしれません。でも……安全な場所から隙を伺うだけでは、何もしていない事と同じです。私は結局……マクゼルトへの止めを邪魔しています。


(これ、以上……弱音を吐くわけには、いきません……っ)

「傷つくリッカさまを見続けるだけなんて……二度としたくありませんっ」


 リッカさまに体重が掛からないように、乗ると……リッカさまの頬に、ぽたぽたと雫が落ちてしまいました。


「私は、リッカさまを……っ……」


 弱音が零れたから、ですね。まだ言ってはいけない事を、言ってしまいそうになりました。


「とにかく……しばらくは、安静にしていてください……」

「うん」


 私を抱き寄せたリッカさまが、背中を撫でてくれています。力が、ありません。背中に手を置く事で……精一杯、なのです。


『アリスさんをこれ以上心配させたくない……アリスさんを傍観者にさせない方法……人質を取られるのだけは、絶対避けないと』

「リッカさま。安静にしてください」

「う、うん」


 考え事を始めてしまったリッカさまの胸に顔を埋め、ぐりぐりとします。考え事は、完治してからです。


「シーアさん達は、大丈夫?」

「はい。船に戻っていますよ」

「あまり確認出来なかったけど、無事なら……良かった」

「さぁ、休みましょう。リッカさまが疲れたままでは、皆さんも安心出来ませんよ」

「はーい……」


 私が一番、安心出来ません。


「リッカさま……」

「うん?」

「……」

『寝ちゃった、みたい』

「おやすみ。アリスさん」

『こんな時、敬称略出来たら……』

「アリス…………さん」


 惜しい、です。


『くっ……。不貞寝しちゃおう』

「………おやすみなさい。リッカ」


 私も、へたれさんですから……眠っている時しか、言えません……ね……。



ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ