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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
5.生活
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国③



(しかし……もしかしたらコルメンス陛下は、リッカさまを知っているのでしょうか)


 お父様が連絡をした可能性は、確信に近くなりました。その為にリッカさまの紹介を遅らせていたので、そうではないかとは思っていましたが……。

 明確な、リッカさまに対する敬意を感じます。


「紹介が遅れました。六花立花さまは、アルツィアさまによりこちらの世界にやってきた、此処とは異なる世界の”巫女”です」

「違う世界、ですか」

(本人を見るまでは半信半疑だったが……。二人から聞いた通り、この世界の者とは違う雰囲気を感じさせる。初見でマリスタザリアに立ち向かえる方が……こんなにも可憐な少女とは、思わなかった……)


 当のリッカさまは、部屋の内装を見ているようです。コルメンス陛下が、リッカさまに良い印象を持っていたからでしょう。疑われている事で起きていた緊張はなくなったみたいです。


(本当に戦えるのだろうか。あの二人が嘘を言うはずはないが……ライゼさんと会った時のような感覚は、感じない)


 可愛いリッカさまが視界の端に映っています。コルメンス陛下の視線に気付いたのか、首をきょとんと傾げて……。先ほどまでリッカさまを”巫女”として完全に認識していたコルメンス陛下が、思わずドキリとするような仕草でした。


「……この世界の危機を知ったリッカさまは、私と共に旅を完遂する覚悟を持っています。実力も、すぐに証明出来るはずです」

「ッ……す、すみません。疑っていた訳ではないのです」

『魔法がある世界だから、結構簡単に受け入れられてるのかな。向こうの世界だと、違う世界って言っても信じてくれないと思うし』


 リッカさまが取ってくれた剣の意味を、蔑ろにして欲しくないのです。たとえ一国の王で、尊敬出来る方であろうとも、そこを勘違いして欲しくありません。


 ドキリとしたという事は、リッカさまを女性もしくは少女と認識したはずです。そんな子が剣を取り、世界の為に戦う決意をしたという事実だけを見てください。


 多くの想いを受け決意し、革命軍を立ち上げたコルメンス陛下だからこそ、分かってくれるものと思っております。



 次は、国民への注意喚起について話そうと思います。先日の行商にしろ、検問に並んでいた人達にしろ、少しばかり不用意すぎです。


 話そうと思ったのですが、辺りを見渡していたリッカさまが一点を見詰めていました。何か見つけたのでしょうか。


(紅茶、ですか)


 殺風景な執務室兼私室に、紅茶とカップが数個置いてありました。いくつかあるカップの中に、一際大切にされている物が見えます。普段使いはしていないようですね。


『来賓用かな』


 来賓用は来賓用でも、もっと特別な方の為に保管されてそうですね。例えば、エルヴィエール陛下、とか。


「リツカ様、興味がお有りなら王宮の見学でもいかがですか。私が即位した際、殆どの貴重品は手放してしまいましたが、まだ面白いものが眠っているかもしれません」


 リッカさまの興味に気付いたコルメンス陛下の提案に、リッカさまはバレない程度に頬を染めて頭を深々と下げました。


「お心遣いしていただき、ありがとうございます。ですが、私にも関係することですので、このまま一緒にお聞きしてもよろしいでしょうか」

『もうキョロキョロするのは止めよう。失礼すぎだった』


 リッカさまはしっかりと、話を聞いていました。全てを理解し、噛み砕き、自身のやるべきことを認識し終えてから周囲の観察に移っていたのです。ただ他者から見れば、手持ち無沙汰で観察をしていたと思ってしまうものだったのでしょう。


「もし、よろしければ……後ほどアリスさ……コホンッ。”巫女”様と一緒に見学させていただきたいのです」

『アリスさんも興味があるだろうし、アリスさんと一緒に色々見てみたいのも、本当だし、ね』

「わかりました。では、後ほど案内をつけます」


 隠し切れない好奇心と、私と一緒に回りたいという想いが流れ込んできて、私の頬を柔らかくします。

 真面目な話ではありますが、お硬く纏まる必要はないと思っています。ありのままのリッカさまで居て欲しいという想いを、私は隠しきれそうにありません。


「あの、国王陛下。私はこの世界の”巫女”ではありませんし、敬語でなくても」

「あなたもこの世界のために戦う巫女様であることに変わりはありません。どうしてもと言うのでしたら、そうしますが……」

「いえ、詮無いことを、いいました。ご期待に副えるよう、尽力します」


 リッカさまが、目上の者からの敬語に……苦手意識を持ってしまった理由は、リッカさまを”巫女”にした神主と呼ばれる方の所為です。


 あの日、リッカさまの全てを視てしまった時に、読みました。敬語で、”巫女”の職を誇張して話し、リッカさまの”恐怖心”を煽り続けた人です。その所為でリッカさまは……っ。


(今居ない人に恨み言を思っても、意味はないですね。一生会いたくもなければ、会う事もないでしょうし……。もし出遭ったら、私の杖はアルツィアさまを作り出してしまいます。それに……問題はもう一つあるのです)


 リッカさまは間違いなく”巫女”です。ですがそれは、神主が思っているような存在ではありません。”人”と共に歩む者であり、繋ぐ者です。この世界の”巫女”は私ですが、今はもう、リッカさまも含まれています。二人で”巫女”なのです。ですが……。


(……私は、貴女さまを、信じています。リッカさま)


 貴女さまならば、自ら気付いてくれると、思っています。

 ”巫女”とは自称ではなく、信じてくれる人が居てこそ成り立つ者だという事に。世界が”巫女”を求めている今、貴女さまが私の為に自分自身を蔑ろにしないように、貴女さまも掛替えの無い者だという事に……。


 貴女さまが、私を守る剣士で居たいと思っているように…………私もまた、貴女さまという唯一無二の”陽光”を守りたい”月光”なのです。


「では――国王陛下。これからのことについてのお話しをさせていただきます」


 私は、言葉を噛み締め、”巫女”としてお願いを申し上げます。私の葛藤は数秒でしたが、その数秒で事態が悪化する可能性だってあるのです。すぐさま取り掛かる必要があるでしょう。


「はい、我々キャスヴァル王国は、巫女様方のご協力を惜しみません。どうぞ、なんなりとお申し付けください」

「ありがとうございます」


 少々無理難題も含まれているでしょうが、私達の”お役目”を遂げる為に、王国にも手伝ってもらいます。


「マリスタザリアが出た場合、敵の程度に関わらず連絡を入れて欲しいのです」

「それは……」

「全てに対処は出来ませんが、出来るだけ多くの戦闘に介入したいのです」


 これは、私達の戦闘経験値の蓄積という目的を達成させる為でもあり、犠牲を出させない為のお願いです。

 魔王が動き出した今、何時何処で、特別な個体が出るか分かりません。


「大型だけでも良いのです。出来るだけ私達にも連絡をお願いします」

「その判断は、こちらで行っても良いのですね?」

「はい」


 コルメンス陛下の性格上、報告は最小限にしてしまいそうですが……本当に、全ての出来事に対処出来る訳ではないのです。これ以上の意固地は、傲慢です。


 それに、重要なのは次からです。


「次に、国民への注意喚起と避難誘導の確認をしてもよろしいでしょうか」

「はい。現在国民に通達している物は、護衛をつけるようにするという()()()と、避難所は闘技場と王宮、教会の三箇所という御触れだけです」


 状況が分からない以上無理強いは出来ません。ですがこれからは違います。


「お願いを強制に出来ますか?」

「可能です。元々準備はしていました。もうそろそろ予算と計画書が出来上がるはずです」


 護衛についてはお任せしても良さそうです。一人でも多くを救う為に、多少無茶でも全員に優秀な護衛を就けるのは必須事項でした。最低でも”盾”を素早く頑強に作れる方を一人は就けて貰わなければ、対処する時間も稼げませんから。


「避難所を一つにするのは、難しいですか?」

「現在王都には十一万人住んでいます。中心都市ではありますが、先代の煽りを受けて散り散りになったままといった状況です。しかし、十一万人を一箇所となると……闘技場でも半分入れば良いくらいですね。それに、身動きが取れない上に、混乱が起きた際に犠牲が出るかもしれません」


 今現在も、王都に戻ってきている人達が居るそうです。南の検問に居た家族もその一人なのでしょう。私達が滞在している間にどれだけ戻るかは分かりませんが、三箇所でも足りない状況になりえるかもしれませんね。


「一番多く収容できる闘技場の護衛を、私に任せてもらってよろしいでしょうか」

「それは、構いませんが……」

「私が国内に居る時に避難する事があれば、私がそこを守ります。その分、王宮と教会の守りを手厚くして下さい」

(守りでアルレスィア様の右に出る者は居ないと、聞いている。アルレスィア様の話を聞いたディルクは疑っていたが……この目を見れば、慢心していないのは明白か)

「分かりました。現在三分している防衛計画を再編しましょう」


 護衛も防衛も問題なさそうです。王都には優秀な防衛班が居ると聞いています。ライゼルトさんという方含め、防衛は問題ないでしょう。護衛の徹底と、冒険者、王国兵の連携が鍵ですね。

 私達も冒険者となり、その一端を担いましょう。


「もう一つお願いがございます。リッカさまの身分証を発行いたしたいのですけれど、よろしいでしょうか」

「わかりました。では、すぐにでも」


 お願いしてすぐコルメンス陛下は立ち上がり、執務室から出て行こうとしました。何でも自分でやろうとするという話は本当だったようです。


「あの、私が自分で発行所まで」

「いえ、お気になさらずに」


 リッカさまの申し出に、ニコリと微笑んでから出て行ってしまいました。


「ねぇ、アリスさん。陛下って」

「革命軍のリーダーではありましたけれど……元々は、小さな町の町長の息子だったそうです」


 その所為か、人を使う事に慣れていないそうです。


「その、あれだね……。あまり、落ち着かないね」


 申し訳なさそうに、でもちょっとだけ苦笑いでリッカさまはコルメンス陛下が出て行った扉を見やりました。


 リッカさまの身分証作成は重要任務ですが、それは私達が行っても良い物です。それすらもコルメンス陛下がやっていては、一日中仕事をしても終わらないでしょう。


 思わず苦笑いが出そうになりますが、私は別の事を少し考えていました。


(ここまで、お母様から聞いた話が本当ですと……)


 コルメンス陛下と両親はやはり、連絡を取り合ってそうですね。陛下が私をすんなりと信じすぎなのも、両親から私の魔法を聞いているからでしょうし……。


(それならそうと、先に言っておいて欲しかったですが……)


 隠したい理由が何かあるのでしょうし、今は置いておきましょう。リッカさまを信用してくれたのですから、ありがたい限りです。


「信用してもらえましたし、王都での活動は問題なく送れそうですね。直に私達の事も告知されると思います」

「これで少しは、不信感もなくなるかな?」

「多分、先程よりはマシではないかと」


 少しでも多くの人が信用してくれれば良いのですが……。どんな告知なのか、早く知りたいですね。


「おまたせしました」


 コルメンス陛下が帰ってきました。これでリッカさまも、この国に所属した事になります。早く……リッカさまが安心して外を歩けるように、したいですね。


「今日くらいは王宮で御食事なさってください。その後王宮の案内をさせていただきます」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 昼食の時間は大幅に過ぎていますが、食べないのは体に悪いですね。

 

『洋食のテーブルマナー、ちゃんと出来るかなぁ』


 コルメンス陛下と一緒の昼食会とはいえ、気にせずとも良いのですよ。

 

(リッカさまの舌に合う食事があれば、それを作れるようになりたいですね)


 王都での生活も、先行きが少々不安でしたが……悪い面ばかりを気にしてはいけませんね。リッカさまとの共同生活、楽しみなのは変わらないんですから!


『身分証が手に入って、漸くこの世界の人になれたって感じかな。これからこの街で、アリスさんと一緒に住むんだ。楽しむばっかりって訳にはいかないだろうけど――頑張るぞっ』


 ええ、リッカさま。共に楽しみましょうっ。



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