『ゾォリ』元老院
お風呂で、少しだけ弱さを見せてしまいましたが……癒しは、出来たと思います。肘の調子も戻ってきたようですし、輸血も必要ないようです。無理をして、腕輪だけで”抱擁強化”を使った反動が出ているようですが……歩くくらいは、出来ると思います。
私の魔力は……一応、町での活動分はあるので問題ありません。甲板に上がりましょう。
「丁度呼ぶ所でしタ。着きましたヨ」
集落よりも小さい町を、私は初めて見ました。農村でしょうか。自給自足出来るだけの畑はあるみたいですけど――ダルシュウとザブケュの関係みたいに、出稼ぎに出ているのでしょうか。防衛機能が全くないように見えるのですが……地下とか、あれば良いのですけど。
「さテ、どうしまス?」
「町の中心まで歩いて、私達への感情を探ります」
「その後、私が広域感知で悪意を探すよ。個別浄化が終わったら静かに去ろう」
「私達は町で聞き耳でも立てますカ」
「神隠し対策はどうする。コイツを見といた方がいいのか」
「子供扱いは癪なんですけどネ」
「神隠しの手段が、逃げられる物なら良いんだけど……」
リッカさまが受けた……”硬直”とも言うべき魔法を受けてしまうと、神隠しを避ける事など出来ないでしょう。
「神隠し被害者の話から考えるに、子供達は意識も奪われてるっぽいし」
「暴れる事無く、困惑すらせずに消失したという話でした。神隠しの魔法を受ける前に、精神操作のような魔法を受けているかもしれません」
魔王が直接……それこそマクゼルトや他の幹部ではなく、魔王自身が動き始めたのです。より一層の警戒は必要でしょう。
「シーアさんはしばらく、私達と行動しようか」
「精神操作にしろ神隠しにしろ、”拒絶”出来ると思います」
「じゃア、サボリさんは一人ですネ」
効率は格段に落ちますが、シーアさんの安全が第一です。ただ――メルクでの出来事は、シーアさんを攫う絶好の機会でした。私達は牧場に釘付けとなり、シーアさんは孤立していたと言えるでしょう。
(その状態で連れ去られていないという事は……いえ、念には念を、です)
「一応この中だと、唯一の成人だから」
「一応とは何だ」
「それは、まぁ」
「おい」
万が一にもシーアさんが連れ去られる事など、あってはいけません。暫くは、一人と三人の変則二組で動きましょう。
「聞き込みは大丈夫でしょうけド、騒ぎを起こしちゃダメですヨ」
「俺が率先して騒ぎを起こした事があったか?」
「当事者の目の前で何を言ってるんですかネ」
率先して私に敵意を向け、リッカさまを誘き出した人が居ましたね。
「お前の所為で赤いのがキレたんだが」
「その後にリツカお姉さんを無差別に襲う宣言したんですよネ」
「……」
恐らくこの怒りは、一生物なのでしょう。アルツィアさまですら、赦されない過ちがあると言っていました。レイメイさんのはそれです。
「実際に襲った事あるんですカ?」
「襲われかけた事ならあるよ」
「未遂だろが」
リッカさまがいつでも良いと言ったその翌日に、襲おうとしました。直接見た訳でも、リッカさまから聞いた訳でもありませんが、リッカさまに小さな『恐怖』を与えた事は忘れません。
「騒ぎを起こさないようにご注意ください」
「……」
リッカさまの念押しに、レイメイさんは顔を顰めましたが――旅人が邪険に扱われる時というのは、騒ぎを起こした時です。それ以外は遠巻きに見たり、ひそひそ話をされたり、その程度だと思います。つまりいつもと変わりません。騒ぎさえ起こさなければ、普通の旅人くらいの対応はして貰えると思います。
ルイースヒェンさんが言っていた事を肝に銘じて動きましょう。”森”を出ているというだけで私の信用が無くなっているというのは、北部後半の真実なのですから。
「到着でス」
町から少し離れた場所に船を止めるつもりですが――この町は少し、北に向かって長いです。円ではなく楕円状に見えます。横から見た感じ、住宅地と……何か、講堂のような大きな建物がある場所で別れているようでした。ただの居住区かと思いましたけど、何かあるのでしょうか。
「どうしまス? まだ余裕はありますけド、休みますカ?」
浄化を数回出来るくらいには回復出来ていますが、戦闘込みで考えると危険です。それでも、町の様子だけは見ておきたいと思っています。
「一応、様子見だけはしよう」
「でハ、巫女さん達は町中央まで顔を隠さずに歩いて様子見。その後感知ですかネ」
「はい」
「いつでも広域出来るよ」
様子見だけのつもりですが、必要に応じて浄化はしなければいけません。広域感知による”悪意”捜索は……必須、ですね。でも、リッカさまの体調次第です。私の警告は、聞いて貰います。
「サボリさんはどうしますカ。広い町って訳でもないですシ、共に行動しますカ?」
「いや、適当に歩く。お前等と歩くと俺が注目されるんでな」
「あァ、悪い意味でですネ」
「そういうことだ。俺は別のとこから入る」
理由はどうあれ、レイメイさんの方でも捜索をお願いします。
「後のことは反応を見てからにしましょう」
「うん。じゃあ、行こっか」
「分かりましタ」
「あぁ」
ここに来て、浄化が必要な方が増えてきたようです。北に行けば行く程減ると思っていたのですが……魔王が吸収した傍から『感染』しているのかもしれません。吸収とはいわば、収穫なのでしょう。根が残っているから、再発症が早いのだと考えます。
(浄化に予防効果がある訳ではないので、今の有無でしか判断出来ませんね……。何にしても、”悪意”はあると思って動きましょう)
「私は余裕あるのデ、戦闘が起きたら任せて下さイ。二人はお休みでス」
「私はまだ戦」
「お休みでス」
「はい……」
「リッカさま。お言葉に甘えましょう」
シーアさんの攻撃魔法も強くなっています。弱体化していたとはいえ、魔王産のマリスタザリアを”炸裂”のみで倒せていますから。私達は補助に回りましょう。
「先行ってるぞ」
レイメイさんが船から飛び降りました。私達もカギを掛けて降ります。少し緊張しますね。理解した上で気にしないと心に決めても、やはり嫌われるのは慣れません。
「ゾォリの人でしたっケ」
「神隠しの事を知ったのは、その人が最初だったかな」
「話を聞きたいですけど、恐らくゾルゲに居ます」
確かゾォリ出身のお子さんは、岩山に居たはずです。ゾォリで待っていたご家族もゾルゲに向かっているでしょう。直接お話を聞く事は出来ませんが、痕跡でもあればと思っています。
「警戒を解けって話ではないですけド、お子さんを見つけた”巫女”に敵対するとは思えませんネ」
「この町での誤解はないとは、私も思います。しかし、町の様子を見るまでは、決めません」
「はイ」
「メルクからも近いから、”巫女”の悪評? が来ててもおかしくないもんね……」
この町なら、メルクで発動した”アン・ギルィ・トァ・マシュ”が見えていたかもしれません。町民達の反応は――旅人が来たという事に驚いているだけです。騒ぎになっていないので、大丈夫とは思いますが……メルクと親交があった場合、すでに噂が届いているかもしれません。もう少し様子を見ます。
「山を一つ挟むだけデ、結構届かないものですネ」
「王都でも、最初は半々でした」
「そういえば、もしかしてって感じで、自信なさげだったよね」
「銀髪や赤い目など、特徴的な部分は広まっていたようです」
目を引く容姿ですから、それだけ知っていれば分かって貰えるはずです。それでも、「本当に”森”から出てきたのか」といった驚きはありました。ルイースヒェンさんに言われるまでもなく、”森”から出る事の意味を理解していたはずですが――心のどこかで、理解して貰えていると慢心していたのでしょう。
「リツカお姉さんの広告がここに届いてないって事ハ、ここから北にはもう、顔を知っている人は居ないかもしれませんネ」
「昔なら、変に目立たなくて嬉しいってなったけど」
旅人は結構居るようですから、”巫女”として知られていなくても活動は出来ると思います。ただ……やはり、旅人に見えない事が問題でしょう。不審者を見る様な視線を向けられています。声を掛けても答えてくれるか、自信がありません。
「お二人なラ、”巫女”でなくても目立ちますけどネ」
「それはシーアさんも一緒ですよ」
「そのためのフードでス」
「偶にチラチラと見えるから、余計に気になって見ちゃうと思う」
「何ですト」
私達と居るから自分は大丈夫とシーアさんは言いますが、フードから偶に覗く容姿には人を惹きつけるものがあります。シーアさんも目立っている側なのですよ。
「ここにお姉ちゃんとエリスさんが居たらどうなるんですかネ」
「逆に静まり返るんじゃないかな」
「お母様とエルさんなら、それすらも楽しみそうです」
「想像に難くないですネ」
町に入って暫く歩きましたが、見事に「”巫女”かもしれない」という視線はありませんでした。
『ちょっとでもそういった目で見て来た人が居たら睨もう』
「注目してる人たちの目線には負の感情がないから、少しは活動しやすいかな?」
最初こそ不審者を見るような視線でしたが――ただ単に立ち寄っただけと分かってくれたようです。排他的な町ではないようですから、少し踏み込んでみましょう。
「浄化対象者には”巫女”である事を伝えてみましょう。ただ一人目の反応が悪ければ、次以降は冒険者として協力を求めるという事でよろしいでしょうか」
「うん。流行り病の疑いがあるからその治療で、とかね」
「速さが鍵ですネ。噂が広まるのは早いでス」
ここでそういった反応をされるようなら、今後は全て冒険者として動くしかありません。最初が肝心、ですね。”悪意”はある意味流行り病ですから、嘘ではない……というのは、詭弁でしょうか。治す為に、強かな言動は必要です。
「騙すようで申し訳ないと思います。しかし……あながち間違いではないと、思いますので」
「そうですネ。最近の流行、悪意病でス」
「……何れは王国からの発表がここにも届くだろうし、そうなった時に思い出してくれれば、良いかな?」
「今後もそれで良さそうですネ」
「まずはこの町で上手くいくか確かめないと」
『そろそろ中心かな』
”神林”集落のように、中央は少し開けていました。休憩する体で感知してみましょう。
「リッカさま、いけますか?」
「うん。多分一回で大丈夫」
「……本当ですか?」
「う、うん」
「私でも分かりますヨ」
恐らく、使う事は出来ます。ですが……万全の状態ならば問題なく出来る事でも、体調が悪い時は何が起きるか分からないのです。思わぬ怪我に繋がるかもしれません。
「明日にした方が良いんじゃないですカ? 巫女さんも万全ではないですシ」
「そうですね……」
「うぅ……」
浄化が必要な人が居るかどうかくらいは確認したいという、リッカさまの気持ちは大事だと思います。私も必要とは思っているのですが……リッカさまの顔色が、いつもよりも青白いのです。
(広域感知はさせない方が良いでしょうし……もう少し散歩をしながら探すべき――)
「レティシア・エム・クラフト様」
「はイ?」
共和国の言葉で、シーアさんが呼ばれました。呼んだのは男性三人です。同じ服を着ていますが――見覚えが、ありますね。礼服ではありません。これは、制服です。
「これはまた、このような場所で会うとは思いませんでした」
「お知り合いのようですね」
「まぁ、良く知ってますよ。お姉ちゃん共々苦労させられてます」
「苦労?」
パッと、シーアさんが共和国の言葉に変えました。それは相手に合わせたというよりも……これからの会話を聴かれてはいけないという意味合いが強いです。シーアさんの反応で、共和国語に切り替えた理由も、相手の正体も分かりました。つまりシーアさんは、今から――滲ませた不快感のままに言い争いを始めるつもりです。
「それはこちらも同じですよ。おてんばも大概にして頂きたい」
「貴方達が不甲斐ないから、私もお姉ちゃんも仕事が増えてるんですよ」
「こちらにはこちらの考えがあります。それをお二人が守らないからでしょう」
「いいえ。貴方達は確かのそれを行う資格を持ってます。でも、国民が認めていませんよ。支持率みました? 次の選挙で誰も受かりませんよ」
「次の選挙が、それとは限りませんぞ」
「お姉ちゃんを引き摺り下ろそうなんて下らない事を考えているのなら、辞めておいた方がいいですよ。私を相手にしているのと同じくらい簡単だとでも思ってるんです?」
流れるように口論が始まりました。共和国で似たような光景が何度も繰り広げられていたのでしょう。シーアさんは手慣れた様子で捌き、三人の男は苛立っていっています。
「何の用で話しかけてきたかは知りませんけど、貴方達暇人と違って私は忙しいんです」
「ただの旅行にしか見えませんな」
「こちらも仕事で来ているのですよ」
「女王陛下の方にも向かっておりますぞ」
「ならばさっさとしてください」
相手の正体は分かっていますし、どういった話なのかも凡そ掴めました。ですが、私達が口を出せる雰囲気ではありません。というより、言葉を間違えるとシーアさんが不利になるでしょう。しばらく静観します。
「大体、どうやって私の場所を――って、情報部ですか」
「えぇ。貴女が居らずとも優秀な者達です」
「でしょうね。お姉ちゃんが選んだ人たちですから。さっさと用件を話して下さい」
「では、レティシア様及びエルヴィエール女王陛下には即刻――――共和国への帰国を願います」
やはり、そういう話でしたか。
「情報部から聞いてないんですか。私は魔王討伐で忙しいんですよ」
「そんなものはそちらの方達に任せれば良いのです」
「それにこう聞いておりますぞ。王国が狙われていると」
「王国の次は共和国、連合、皇国です。王国に居ると分かっている魔王をさっさと倒すのが一番に決まってます。後手に回るから貴方達は一向にお姉ちゃんを落とせないんですよ」
魔王の目的ははっきりしていませんが、王国だけの問題ではない事は考えるまでもありません。間違いなく王国の次は共和国でしょう。それが分かっていながらシーアさんの考えを突っ撥ねるというのは、おかしいですね。
これは余り言いたくありませんが、シーアさんとエルさんが居ない今こそ、この人達――元老院の好機でしょう。それを捨ててでもシーアさんを戻そうとするのは、何か意図があるとしか思えません。
「何をおいても共和国。貴女は我等が国を守る義務がある」
「魔女の称号たる『エム』を継いだ以上、それが定めですぞ」
「共和国に命を捧げたのは貴女でしょう」
共和国を守るのが、魔女であるシーアさんの役目です。それは私達も重々承知していますし、シーアさんが考慮していない訳がありません。この旅に同行する事を、シーアさんが簡単に決めたと思っているのでしょうか。未来を見据え、覚悟を持ってここまで付いて来てくれたのです。
いけないと思っていても、シーアさんの覚悟を蔑ろにするこの人達に反論せざるを得ません。
「シーアさんは、義務を放棄してませんよ」
「共和国の脅威を誰よりも理解しているのはシーアさんです」
「部外者は黙っていてもらいましょう。”巫女”様方」
「共和国の最大戦力である彼女を失うのがそんなに嫌なのですかな」
「何と自己中心的な。無理難題を突きつけているのでしょう。レティシア様の顔に疲労が見えますが」
「無責任にレティシア様を酷使しているのでしょうな」
この人達の言葉もまた真実です。シーアさんが居なくなって困るのは言うまでもないでしょう。無理をさせていると、反省もしています。ですが、私達はあなた達のように――シーアさんを道具として見た事はありません。
『というより、この人達って……アレでいいんだよね』
(はい。元老院だと思います)
「巫女さん達の悪口は許しませんよ。共和国まで送ってさしあげましょうか」
「嘆かわしい。我々はただただ国を想っているというのに」
「何処をどう想っているんです。国民が貧困にあえいでいる時、貴方達は何をしてたんですっけ」
「何もしておりませんよ」
「そうですね。何もしてなかったんですよね」
常に共和国の平和を願い行動するエルさんとシーアさんに対し、この人達はエルさんを降ろす為だけに動いていると聞いています。地位と名誉の保身とお金儲けしか考えていないと、シーアさんが吐き捨てた事があるくらいです。だからこそ、分かりません。そんな人達がシーアさんを連れ戻す為に、危険と分かっているここに来ているのですから。
「あんなにも怠惰だったのに、良く元老院になれましたね。どんな魔法を使ったんです?」
「国民は分かっているんですよ。その時誰が居たおかげであの程度で済んでいたのか」
「国民は知らないだけですよ。貴方達が何もしなかった所為で先代達の政策が滞っていた事を」
自分が間違えていると自覚した上で謗ってくる相手程、面倒なものはありません。人と状況によって言い分を変えてくる相手に、正論は通じないのです。この人達には、自分の意思と言葉がありません。酔っ払いと変わらないのです。
「謗り合いはそろそろ辞めましょう。本当の理由を話して下さい。貴方達が国の為に働くはずがありません」
「偏見ですな。言ったではありませんか。我々は国を想い、貴女をお迎えに上がったんですよ」
「情報部の連中は貴女の意思を尊重しすぎていましてな。重要なことをお伝えしていなかったのです」
「何のことです」
「国民は女王陛下と貴女の不在を不安に思っているんですよ」
「私の行いについては情報部が国民に」
情報部の言葉が問題なく国民に通達されていたら、元老院はここまで強気になれないと思います。
「握り潰したんですか」
「それか歪曲して伝えたか、ですね」
どうやら――シーアさんは遊び歩いていて、エルさんはコルメンスさんとの結婚を決めて逢瀬を楽しんでいると伝えたようです。
「そうなんです?」
「いえいえ。情報部から聞いた事をしっかりと、私共の言葉で伝えたにすぎません」
エルさんとシーアさんの苦労が伺えます。こんな人達に邪魔されていたら、真面な国政など出来るはずがありません。
『町民達の視線が……』
「場所、変えよ?」
「分かりました」
「付いてきてください。ここだと迷惑をかけます」
町の中心で余所者が騒いでるなんて、誰であっても怒ります。これ以上町の方達に迷惑を掛けないよう、外に出ましょう。
「話も何も、レティシア様が頷いてくれれば終わる話なのですがね」
動こうとしない男達を無視して、シーアさんが歩き出しました。そんなシーアさんに「聞き分けの無い子供だ」と言わんばかりに肩を竦め、男達も歩き出しましたが――本当に、嫌な人達です。
こちらが何をやっても、向こうに有利な結果となるように準備をしてきたのでしょう。元老院が何を考えているのかはまだ視えていませんが、シーアさんを苦しめるようなら私達は容赦しません。
船の近くに移動し、改めて話をします。ここならば何があっても町に迷惑はかかりません。
「帰ってくれませんかね。私は魔王を倒すまで帰るつもりはありませんので」
「それは困りますな」
「困るっていうのが分からないんですけど。魔王が居なくなって誰が困るんです」
魔王が居なくなって困るのは、王国と敵対している人達でしょう。王国が衰退すればするほど嬉しい国となれば、一つくらいです。
『連合……? でも、共和国に利点があるかな……』
エルさん派と呼称しますが、エルさん派には利点などありません。ですが、元老院が手を組む利点はあります。
「王国と共和国は、関税等の国交が自由でしたね」
私はシーアさんに、そっと尋ねました。
「はい。お姉ちゃんとお兄ちゃんの関係とは無関係に、お互いに利が……」
自由な国交。お互いに利益を得られるように、エルさんとコルメンスさんで調整しています。ただ――それだと、国は潤っても一部の人が儲からないのです。私の意図に気付き、シーアさんが考え始めました。
「なるほど。税ですか」
先程までと同じく、元老院達の口はにやにやと歪んでいますが――目が笑っていません。
「王国が窮地に陥れば、交渉しやすいですね」
「連合も同じ考えではないでしょうか」
「まさか、連合とも話しを?」
シーアさんの力を、元老院達も良く分かっています。だから、シーアさんを離脱させて魔王討伐に時間を掛けて欲しいのでしょう。連合とどういった密約があったのかまではまだ視えていませんが、間違いなく王国の衰退を狙っています。
「何を根拠におっしゃっているのやら」
「昔から王国との関係に疑問を呈していましたし。お姉ちゃんとお兄ちゃんの邪魔ばかり。そして持ってくる縁談は連合のが多いときてます」
「それだけで決め付けるには弱いですな」
「妄想とも言えますぞ」
妄想と言えば妄想ですが、証拠は何れ出てくるでしょう。今シーアさんに露呈したという事が、あなた達にとっては問題なのだと思いますけれど。
「この際本当かどうかは問題ではないです。疑い有りという事で査問にかけるだけですよ」
「そのような事が出来るとお思いですか」
「出来ないならそれでも良いです」
国の為に税を掛けようとか、そんな殊勝な事を考えている訳ではありません。欲しいのは自分の懐に入って来るお金なのです。
「どうせお姉ちゃんも呼び戻しているのでしょう」
「当然でしょう。女王陛下が他国で遊んでいるなど、国民に示しがつかないというもの」
「国民全員が知っている事です。言っておきますけど、貴方達の発表よりお姉ちゃんの言葉の方を信じますよ」
「でしょうな」
会話を続ける理由は一つだと思います。先程元老院達が言った事ですが、シーアさんの疲労が顔に出ていました。疲れていると、思わず口が滑る事があるので――失言を待っているのでしょう。エルさんを貶してシーアさんを怒らせているのも、煽っているのだと思います。
「今日はもう疲れました。話の通じない人ばっかり相手して」
あのまま、浄化の為に動いていれば、気力でどうにか出来たかもしれません。ただ、今は……疲労がどっと、表に出て来てしまいました。シーアさんが言うように、話の通じない人の相手は、疲れるのです。
「話は明日にして下さい。私達はもう休みます」
リッカさまと顔を見合わせ、浄化は明日にすると決めてからシーアさんに付いて行きました。
「それでは明日。こちらに来ますので」
「来なくて良いですよ」
シーアさんの言葉は無視して、元老院達は明日も来るのでしょう。その時の事は明日考えて……今日は、休む事にします。
「あんな街中で口論しちゃったから」
「浄化を申し出る前に謝ったほうが良さそうですね」
既に厄介ごとを持ち込んだ人たちという認識になっていそうですが……元老院達のような、会話が出来ない人の方が稀なのです。誠心誠意謝る事で分かって貰えると、”人”の善性を私達は信じています。
「レイメイさんに連絡しないとね」
「時間になったら帰ってくるんじゃないですかね」
「行動の全てを縛られるのは嫌でしょうし、帰ってくるのを待ちましょう」
とりあえず、元老院の事は私の方で考えておきます。なのでリッカさまとシーアさんは、休息に努めてください。シーアさんを連れ戻す事の利点は分かりましたが――共和国が連合とどのような密約を結んだのか。それ次第では……戦争が、起きますから。
ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!




