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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
4.王国
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A,C, 27/02/28



 一つの寝袋相手に、私達は二人。リッカさまが、自分は座って寝ると言って聞かなかったので、寝袋は敷布団になりました。それならばベッドで寝た時と同じです。


 私としては、寝袋に二人で入ってしまっても良かったのです。寝る前に覚悟は決めていました。この狭い寝袋に、リッカさまと密着して眠るという至極の時を過ごす為に。ですが、寝袋を敷いて布を掛けただけの就寝ですら私は……理性と戦っていました。


 リッカさまの眠りは早いのです。すぐに眠りました。その後私は少しだけ起きていましたが、リッカさまはすぐさま私に抱きついたのです。これがもし、寝袋という完全に密閉された空間だったら……何をしていたか、分かりません。


 結局、良かったのです。この敷くという行為は正解でした。いくらリッカさまが私の()()()を受け入れてくれるといっても、自分でも何をするか分からない()()()は、嫌、でしょうから。


 そんな訳で私は、一足早い起床です。眠れなかったというよりは、リッカさまに抱かれて幸せすぎて深く眠りすぎたというべきでしょうか。私の体から完全に疲労が取れるまでの時間が短かったのです。


(これからもずっと、リッカさまと一緒に眠ることが出来たなら……私は多分、リッカさまより遅く起きる事はありません、ね)


 寝顔を見たいというリッカさまのお願いを聞く事が出来そうにありません。どうしたものでしょう。


(とりあえず今日は……この天国から抜け出す為に気力を使います)


 全力を出さなければ、リッカさまの抱擁から抜け出す気になんてなれませんから。


(リッカさまの為にスープを作るのです。ですから、抜け出さなければいけないのです)


 ですが、朝食に出すのは難しいかもしれませんね。下拵えだけにしておきましょう。その代わり、夜は少し豪勢にします。


(朝食は、目玉焼きとベーコン、レタスとチーズのサンドイッチ辺りでしょうか)


 ソースはホワイトソースにペッパーを少々……味付けは薄めが良いですね。戦闘が起きない限りは今日も移動だけですし、少し早めに天幕を張る予定です。


 川が通っていないので、水汲み場がある場所で休まなければいけません。私は”水”も得意とは言えないので、雑になってしまうのです。料理のような繊細さが必要な物には使えません。



 手早く朝食を用意していきます。でも、”拒絶”の効いている就寝具の中は私達の体温で暖かかった――ですが……外は寒いので。


(リッカさまの、体温……)


 集落でも感じましたが、あの寝袋では三割り増しに感じましたね。中だったら、どんな…………明日もあの熱で……こほんっ。気温が低いので、目玉焼きとベーコンはリッカさまが起きてからにしましょう。


(そろそろですね)


 リッカさまに視線を戻します。どうやら夢を見ているようで、もぞりと動いたリッカさまは、何かを紡ごうとするかの如く唇を震わせていました。


(どんな夢を見ているので――)

『――――ダだね』


 っ……まさか、夢まで()()事が出来るなんて……。視てはいけないと思いつつも、リッカさまから視線を外せません。だって、むにゃむにゃと口を動かしながら幸せそうに笑んでいるリッカさま、可愛すぎなんです!


 どうやら、向こうの世界でリッカさまと私は、アイスクリームを食べているようです。ソーダというのは、味の一つでしょうか。清涼感のある青い、シャーベット状の食べ物みたいです。


『はい、あーん』

「っ!?」


 ゆ、夢の中で……私はリッカさまに食べさせてもらっています! 


『こちらもどう――』


 こ、今度は私がリッカさまに……!?


(リッカさま……凄い夢を、見ているのですね)


 夢の中の私、羨ましいです。


 そう考えていたからでしょう。私の手は、リッカさまの唇に伸びていました。伸ばして、何をしたかったのかなんて、知りません。ですが、伸びたのです。


(いつか私も、出来るでしょうか)


 あーん、って…………て?


 リッカさまの唇が開き、はむっと……私の指を、リッカさまの唇に触れようとしていた私の指を、口に含んでいました。何が起きたのか、私は理解出来ずにいます。


「んっ……ちゅ……あむ……」

「リ、リ、リ……」


 リッカさまの舌が、私の指を舐めています。歯が触れ、ゆっくりと、ゆっくりと奥へと入って行くのです。私の意思では、ないはずです。リッカさまが私の指をどんどん、奥へと受け入れていっているのです。


「ぁ……は、ぁう……」


 舌の熱、柔らかさ、唾液の艶……舌で、指が撫でられています。ゾクゾクと、背筋が震えます。


「おいしい、ですか? リッカさま……」

『おい、しい』


 少しだけ、口内の温度が上がりました。舌の動きももっと激しく……ああ、ダメ、ダメですリッカさま。そんなに舐めては、いけません。


「んっ……ぁ……?」


 リッカさまの目が、薄っすらと開きました。私ははっとして、指を引き抜きます。てらてらと濡れた指が、艶かしい……。私は大切な物を持つように、その指を守るように胸に抱きリッカさまの目覚めを待ちます。


「おはよう、アリスさん」

「は、はい。リッカさまっおはようございます」


 声が裏返ってしまいますが、許して下さい。リッカさまが私の指を舐める姿の、なんと官能的な感覚……。良く、耐えられたと思います。危うく、リッカさまの口内をもっと深く……。


「しょ、食事にしましょうっ」


 明日の朝も…………いえ、夢を覗くなど、暴挙にも程があります。でも――偶々見てしまったら、もう一度……。


(まだ、感触が、あります)

 

 向こうの世界では、口に含むのは治療行為でもあるんでしたね。リッカさまの”恐怖心”の中には、友人の怪我も含まれていました。ですから、一応視ています。リッカさまは一度も、この治療行為をした事がありません。


(私以外で、この多幸感を得た人は居ません)


 その事に私は――喜悦を感じていたのです。




 食事を終えた私達は、再び旅路を行きます。今日は移動しながら、王都の情報を話すつもりです。ですがその前に、昨夜の確認作業をしましょう。


「んと、私が使えるのは……”強化”、”抱擁”、”光”、”精錬”、”疾風”、かな?」

「はい。”抱擁”はまだ私にも分かりませんが……」

「使えるので、やっていくしかないね。私にはこの()()()()()()訳だから」

『もっと色々使ってみたかったけど、下級の一段階なら仕方ないよね。”お役目”が終わって、時間があったら練習してみよっかな』


 そうだったのです。リッカさまは何故か、”疾風”と”精錬”以外が下級だったのです。こんな事があるとは、初めて知りました。

 ですがリッカさまの好奇心と向上心があれば、下級からでも時間をかければ中級以上に出来るかもしれません。


「世間では、下級から中級へ上げる事は不可能という事になっています。魔法を研究する者達も、出来ないという結論に至っています」

「だよ、ね。下級でも役に立たないって事はないんだろうけど……」

「そうですね。下級であっても、役に立つ事は多いです。ですがリッカさま。それはあくまで、世間一般の話です。そして、魔法の研究は近年行われたものなのです」

「近年?」

「はい。まだ五十年も経っていません。ですから、伸び代が何処かにあるかもしれないのです。リッカさまならば、その道を見つけられるかもしれません」


 貴女さまは、良い意味でこの世界の者達とは違います。共感性と向上心、好奇心、俯瞰出来る視野の広さがあります。そして、魔法を無詠唱で行えるだけの、大きな想い。貴女さまは、この世界に変革を齎す者です。


『私、なら。アリスさんの期待に応える為に、魔法の練習頑張るぞっ』


 戦闘に使う魔法ではなく、日常で使える魔法に目を輝かせたリッカさま。貴女さまならきっと、良い方向に導けます。貴女さまの恩恵を真っ先に受けられる事が、私の至上の喜びです。



「リッカさまが使える、不得手の魔法ですが」

「うん。”精錬”と”疾風”だね」

「はい。”光”は明日教えますが、まずは”疾風”について話しておきましょう」


 リッカさまが覚える事が出来た”疾風”ですが……正直、リッカさまに必要なのか、という疑問があります。


「”疾風”は、”風の道”に入る事で瞬間的に移動出来る魔法です。下級では一メートル先に移動出来る程度のものですが、中級から一気に距離を伸ばせます」

「中級だと、十数メートル、だったよね」

「はい。着地に負担があるので十数メートルですが、移動しようと思えばもっと伸ばせます。最長距離としてアルツィアさまに記録されているのは、百七十メートルだそうです」

「それをした人って……」

「はい……亡くなっております」


 移動の慣性を制御出来ず、地面で体を削っていってしまったと、聞いています。死体も残らなかった、とも……。


「リッカさまの”強化”ならば、十数メートルは余裕だと思います。もしかしたら、百七十メートルも夢ではないかもしれません」


 かも、と言いましたが、リッカさまの身体能力ならば可能だと、確信しています。本来であれば体が千切れているかもしれない程の動きを、顔色一つ変えずに連続で行えるのです。人の身で行える最上級を、リッカさまは軽々と超えて行きます。


「上級だとどうなるんだろ?」

「距離自体は、特級にでもならない限りは十数メートルから数十メートルといったところです。上級では、回数制限が解放されます」

「回数制限?」

「下級から中級に上がると、距離が伸びます。そして中級から上級になると、連続で使える回数が増えます」

「そういえば、連続で使えなかったね」


 私も、一回しか使えません。一回使ってしまうと、数歩歩かなければ再び使う事が出来ません。ですけど、それが上級になると、連続で使えるようになります。”特級”になると、自由自在です。体が耐えられるのなら、何処までも移動出来ます。


「長距離の移動は、”特級”でも出来ないのかな」

「一応、”転移”で出来ます。ですがこれも、距離を開けすぎると死の危険があります」


 魔法にリスクはありません。ですがそれは、正しく使えばの話です。他者を殺す魔法だって、見方によってはリスクなのですから。


「一回でも使えれば、戦術は大きく変わります」

「そうだね。空中で方向を変えられるって、凄く便利だね」


 空中、ですか? リッカさまは飛ぶ事が――いえ、リッカさまの身体能力なら、跳躍力も桁外れですね。場合によっては空に避ける事もあるのでしょう。その際、空中で方向転換が出来るというのは確かに、便利です。


(確かに、リッカさまにも”疾風”は必要です。必要ないなんて事はありませんでした)


 それは、”疾風”以外で移動出来る術を持っているリッカさまだからこその考え方ですね。魔法の新たな可能性、リッカさまならば見つけられそうです。もっとリッカさまと、魔法の話をしたいですね。


「リッカさまが使っている、あの移動法は一体何なのでしょう。”疾風”と同等の移動法に見えましたが……」

「活歩の事、かな。あれはね、震脚で作り出した力を使って、地面を滑るように移動するんだ。震脚っていうのは、地面を強く踏みつける、あれだね」

「活歩に、震脚、ですか」


 それが、あの技なのですね。


「本来は気っていうのを使うんだけど、魔力がある世界だから、凄く効果的になってるんだ。使って、吃驚しちゃった」


 えへへ、とリッカさまが嬉しそうにしています。可愛い。


(多分、リッカさまだけが出来るものです。体内で爆発しそうな程の魔力が脚から全身に巡って行っていました。吃驚というのであれば、私も)


 魔力を扱えるというのは誰にでも当て嵌まります。あの力を制御出来る技術もあるにはあります。ですが、体が耐え切れません。”強化”と、リッカさまのしなやかな筋肉を使った技術があって初めて出来るのです。


(調節すれば、出来るでしょうけど……)


 その調節が、難しいです、ね。


「リッカさまには、驚かされてばかりです」

「ふふ。アリスさんにも驚かされてるよ。多分、これからもずっと――」

「ええ、リッカさま。私も貴女さまに、これからもずっと――」

『ドキドキ』

(させられるでしょう、ね)


 私達の心臓は、まるでダンスのように跳ね回っています。始めはズレていた音が、次第に同じ音を奏でていくのです。

 それはそれは本当に――心地の良い物でした。



ブクマありがとうございます!

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