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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
前日譚、待ち続けるということ
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アルレスィアはおちる A,C, 27/02/23



『それじゃ、アルレスィア。オステ語で自己紹介してみようか』


 オステ語、東の海を渡った先にあるオステ皇国の言葉でしたね。


「では、一先ず文字に起こします」


 今の私が話せるのは、フランジール共和国、オステ皇国、グルレル連合の言葉です。とりあえず、王国周辺の言葉さえ分かっていればある程度は対応出来るはずですから。


 早速ノートに、オステ語で自己紹介を書いていきます。


 私は、”巫女”アルレスィア・ソレ・クレイドル。ソレとは”巫女”を現す言葉で、”巫女”を継いだ時に継承されます。

 あくまで王国が決めた事で、アルツィアさまは関与しておりません。


 家族構成は父と母のみ。祖父母はどちらも、マリスタザリアにより……。

 母の名はエルタナスィア、父はゲルハルトと申します。集落の長とその妻です。父は元守護長、母は元修道師です。


 先代の守護長を父が担っていましたが、私の所為で良い扱いはされませんでした。

 母もまた、私と瓜二つと言われる程に似ている所為で、先代は母を見るだけで顔を顰めていたのです。母も、集落を歩く事が殆ど……。


 そういった経緯から、私の身勝手ゆえに少々……関係が崩れた事も、あります。

 しかし今は何とか、ぎこちないながらもやれている、はずです。


 趣味は、日記と森通い、とでも言うのでしょうか。


 私は”神林”に、五歳の頃より入っています。しかし七歳になるまでは……アルツィアさまの付き添い、という面が強かったのです。

 それが一変したのは、”森の歓迎”から――私は”森の歓迎”が起きている”神林”に居られるだけで……満たされるのです。


 最近は少し物足りませんが……それでも、自分を変えようと思えるくらい、前向きになれるのです。力湧き出て、明日への活力が――。


『アルレスィア、日記っぽくなっていってるよ』

「も、申し訳ございません」

『アルレスィアの事が良く分かる良い自己紹介だけどね。そのままあの子に見せて上げたいくらいだ』

「流石に、恥ずかしいです……」


 何代と受け継がれてきた”巫女”ですけど、私以上に特異な者は居ません。だからこんな、”森”に懸想しているかのような趣味は余り……知られたく、ないのです。


 ……アルツィアさまが生暖かい視線を向けているので、本日の勉強を終えます。

 そろそろ良い時間ですし、”神林”へ入る準備を始めました。

 一人静かに、”森の歓迎”を楽しむとしましょう。



 

 この時期になると、”森の歓迎”が不安定になります。時間が疎らになるのです。

 基本は変わりませんし、ズレが激しくなるという程度の物ですけど、気になるのは事実です。


(毎日歓迎してくれますから、気になる程度で済んでいますが……いつか歓迎してくれなくなるのかも、なんて考えてしまうと……)

 少し、怖いです。


 集落での生活も軌道に乗ってきたところです。もう昔の様に”神林”だけが居場所という訳でもありません。

 しかし、それはそれという言葉があるように……この”森の歓迎”は別なのです。


 全身を包み込んでくれる羽毛のような、私の心を照らしてくれる火のような、そんな暖かさ……。

 ただ最近は、締め付けるような痛みが胸に走ることがあります。その痛みは私の息を荒げさせますが、痛みが引くと……その痛みが恋しくなるのです。


 ずっと感じていたいと思ってしまう痛み。そんな物があるなんて知らなかったです。


『きみが”巫女”の間は、歓迎してくれるさ。きっとね』

「そうでしたら、嬉しいのですが……」


 アルツィアさまに慰めてもらえると、本当にそうなんだと思えます。少し不安は残りますけど……きっとこれからも、私を導いてくれるのでしょう。私も多分、アルツィアさまと共に生きるのです。


 その未来を目指す為に、”巫女”さまを呼ぶのは正直、憚られます。こちらの世界なのですから、私だけでやりたいと……。


(でも、それが無理なのは自分が良く分かっています)


 私に攻撃魔法は殆どありません。マリスタザリアを殺せる攻撃は、一日に一度撃てる、()()のみなのですから。


(その為に、支えるのです)


 せめてこの世界での生活を、普通に送れるように。マリスタザリアとの戦いに巻き込む以上、最大限の支援をしなければいけません。

 

(”巫女”さまの世界は魔法もなければ、戦いに参加する事も殆どないと聞いております)


 そんな世界の方に頼むのか、と……その事実を知った時に訝ったものです。ですが、アルツィアさまは言いました。こちらに来れば魔法が生まれると。

 今はそれを信じて、待つしかないのです。


 戦いに巻き込みたくないという気持ちはありますが……こちらも、綺麗事を言える段階ではないものですから……。


「ただの正当化……言い訳でしかありませんね……」

『…………それでも、頼むしかないんだ』

「はい。分かっております……」


 最低、ですね。かの世界で平和に生きている”巫女”さまを戦いに巻き込もうとしているのです。

 でも私は……この世界の”巫女”として……アルツィアさまの愛を守る役目が、あります。


 どんなに正当化でしかないと自覚していようと、立ち止まる事はしません。それが私の――世界の真実を知ってから変わらない、覚悟です。




『向こうに魔法という戦う力は無い。じゃあ、戦う力がなければ争いが起こらないと思うかい?』

「いいえ。過去の出来事が否定しています」

『そうだね。大虐殺が証明している。魔法がなかった者達も抗っていた』


 遥か昔、魔法を持つ者と持たざる者の()()が起きたと聞いています。戦い……もしそうなら、大戦争とでも言えば良いのです。でも、大虐殺と、呼称されています。


 現在の世界に、魔法を持たない者は一人も居ません。これから先生まれる可能性はありますが、今は居ないと、アルツィアさまは断言しました。

 度重なる調整により、この世界から魔法を持たない者は……生まれなくなりました。


 全ての者が、生まれながらに魔法を持つ世界。それがこちら側なのです。

 ”想い、言葉を発する”。これが魔法を発現させる工程となっております。誰でも簡単に、人を殺傷できる魔法を行えると言えるのです。


 そんな魔法がない、かの世界。でも、争いは起こると思っております。きっかけは魔法があるかないかの大虐殺。ですがそこに在ったのは、人の感情なのです。


 人である以上、争いは避けられないのかもしれません……。


『では、向こうの世界ではどうやって戦っているんだろうね』

「それが今日の分ですか?」

『そうだね』

(きみが、あの子に戦う力がないのに、と心を痛めている。少しでも緩和出来ればと想うが……実物を見るまで想像出来ないだろうし、実物を見ても――。何より、私もあの子を戦わせるのは……。いや、傲慢がすぎる。私も覚悟しているのだから――)


 石を投げる? 殴ったり蹴ったり、でしょうか。偶に集落でも起きるのですが、喧嘩をする際には殴る蹴るといった物をします。魔法を使えば死人が出るかもしれないので、禁じております。

 その結果が殴る蹴るなのですが……あれも危険な物です。


『確かに、殴ったり蹴ったりの時代もあった』

「時代、ですか。では剣でしょうか。オルテさんが持っている、鉄の」


 あれで指を斬った人を治した事があります。抉れるような傷でしたが、思い切り振れば断つ事が出来そうでした。


『その時代もあったね』

「まだ先があるのですね……」


 私が考えたのは、近づいて戦う方法です。

 大虐殺の詳細は知っていますが、そこでどのような抗戦があったのかまでは知りません。ですが、想像は出来るでしょう。魔法という、遠距離から撃つ敵に対して、魔法を持たない者達も遠くから応戦する必要があったはずなのです。


「では、弓ですか?」


 遊び程度の物とはいえ、人に向ければ殺傷武器になりえます。射程距離や速度、連射性能や威力に難がありますが、詠唱という工程を踏む魔法よりは素早く、音もなく攻撃出来そうです。


『ふむ。それもまた、時代があった、だね』

「そうですか……」


 まだ先……。魔法の世界では想像出来ない、何かがあるのですね。


『宿題にしよう。あの子が来るまで、のね』

「分かりました」


 ”巫女”さまは、それを使って戦うのでしょうか。

 全く戦えないという訳ではないようで、少し安心します。もしその力と魔法が合わせられるのなら、怨敵への対抗手段になりえそうです。



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