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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
2.手遅れ
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過ち⑧


 

 取り乱してしまいましたが、リッカさまにローブと核樹武器の重要性は分かってもらえたと、思います。

 近接戦闘という物はやる事が多く、精神を磨り減らす物と感じました。ですが何よりも、魔力制御に気を配って欲しいです。


「では、リッカさま。戻りましょう。もう昼食のお時間ですので」 

 

 まさかもう、昼になっていたとは……。リッカさまを見ていると、時間の進みが早すぎて、体内時計が狂ってしまいそうです。もっと一緒に居たいという想いが大きければ大きい程、進みが早くなるのでしょう。


 どんなに私の体がいつも通りの状態とは程遠くとも、リッカさまの体調だけは良く診ています。リッカさまは今、お腹が空いているようです。


(多分もう、自分の体よりもリッカさまの体に詳しくなって――) 

「アリスさんのスープまた飲みたいなぁ」

「まだありますから、暖めなおしますね」


 リッカさまが私のスープを求めてる……。作り置きしかないのが、口惜しく感じます。出来立ての、精魂込めた料理を振舞いたかったのですが……。出来合いでも、リッカさまの満足出来る物にしなければ。一工夫加えるよりも、一品追加するべきですね。


(さて、何を――)

 

 追加する一品を考えていると、『くぅ』と、リッカさまのお腹から聞こえました。


「あう……」

『あわわ……アリスさんに聞かれちゃったかな……。腹ペコキャラになっちゃうよ……。でもアリスさんのスープ、凄くおいしくて……わたし、もっとほしい……』


 きゃら、というのは……所謂個性を意味する言葉のようです。リッカさまが私の料理を楽しみにしているのは、分かっています。私の料理程美味しい物は……舌に合う物はないと、思っていてくれている事も。


 ですから、どうぞ、私の料理を楽しみにしてください。貴女さまを常に魅了し続けます。貴女さまが毎日の食事に楽しみを見出せるように、全ての技術を結集します!




 集会所横まで戻れたので、一旦リッカさまと別れます。少ない時間ですが、リッカさまの舌を満足させる一品を追加してみせますから。


「アルツィアさま」

『なんだい、アルレスィア』

「リッカさまをお願いします」

『ああ。()()()()かな』

「子供以外です」


 アルツィアさまにリッカさまの保護を頼みます。アルツィアさまと話していれば、リッカさまに不埒を働く人は居ないでしょう。ですがもしもを考えて睨みを効かせておきます。


 リッカさまは子供好きですから、子供だけで良いですね。この集落の子供は十四歳以下ですから、問題ないでしょう。何より今朝の様子から考えると、昨日同様話しかけるのはエルケさんとエカルトくんだけです。


 リッカさまならば成人男性相手でも制圧出来るでしょうけど……リッカさまは、”人”を攻撃出来ませんから……。


「それでは、よろしくお願いします」

 

 食事所に入る前に、広場に座っているリッカさまを見ました。やはりエルケさんとエカルトくんが走り寄っています。多分、感謝を告げようとしているのでしょう。


 あの二人からの感謝はきっと、リッカさまに充足感を与えてくれるでしょう。明確な命の輝き。自ら救った二人の笑顔はリッカさまを救ってくれます。


(ありがとう、エカルトくん――エルケちゃん)


 リッカさまに話しかけたきっかけは、興味と両親からのお願いだったでしょう。ですが二人は、自分の想いで貴女さまに感謝をしています。受け取って上げて下さい。



 それでは早速、作っていきましょう。スープはもう少し煮込めば甘味が増しますね。疲れた脳には甘味が良いでしょう。であれば――。


「卵焼きですね」


 コゥクルァの卵を使って作りましょう。少し砂糖を多目に、スープに使っている出汁を少々。卵を巻いていきます。


「あら、それは何?」

「卵焼きです。王都ではこれをパンに挟むそうです」


 卵サンド、というのでしたね。この集落では珍しい料理ですから、お母様も少し興味があるようです。リッカさまの世界にもあるようですし、お馴染みの料理ならば安心出来るでしょう。


「私が出た後に出来たのかしら」

「最近の流行と、新聞に書かれていました」


 大きな農場があり、ブタやホルスターン、コゥクルァを育てているそうです。ですが最近は、ホルスターンやブタよりもコゥクルァの製品が人気みたいです。


 どうやら健康志向が高まったようで、低カロリーで栄養価の高い物が選ばれているのです。


「リツカさんが居た世界にもあるのかしら」

「リッカさまの世界では、コゥクルァはニワトリと呼ばれるそうです」

「似たような動物が居るのね」

「アルツィアさまが言うには、基本的には名前が違うだけで、生態系は大体同じだそうです」


 偶然同じ名前だったり、環境の違いで食味に差が出ているそうですが、アルツィアさまが作った生き物達ですからね。世界は違っても()()同じなのです。


「調理法や味付けで、リッカさまの口に合うか不安でしたが……」

「リツカさん、貴女の料理が本当に好きみたいよ?」

「そ、そうでしょうか」


 確かに、本当に美味しそうに食べていましたが……まだリッカさまは、私の料理しか食べていない訳で……。比較出来ない以上、確信にはまだ至っていません。リッカさまが、「私のが一番」と想ってくれているのは、知っていますが……。


「それなら、明日の朝食は私が作ってみるわね」

「それは…………」


 明日はもう出発です。朝食はここで食べますが、暫くは帰って来ません。確かに、お母様に作ってもらうのも悪くはないと、思います。

 ですが……むぅ……。


「もし私が起きれなかったら、お願いします」

「あら。そうなると、私が作れそうにないわね。ふふ」


 私は早起きですから、お母様が作るのは無理かもしれません。ですが、リッカさまの食事事情は明確にしなければいけない優先事項の一つです。お母様の料理も合えば、この世界の料理は問題ないと明確化出来ますが……。


「リツカさんに甘々ねぇ。私ももっとリツカさんの事知りたいわ」

()()()()()()()()、いくらでも話せます」

「アリス、それって――」

「さぁ、食事にしましょう。リッカさまを呼んできますね」


 食事事情という話なら、一番の問題は主食ですね。リッカさまはお米を主食にしています。王都も集落も、主食はパンです。買おうと思えばお米もありますが……。


 良い物があれば、味を確かめていきましょう。ストレスとなるのは排除していきます。




 予定通りリッカさまは、アルツィアさまと話しています。周囲の反応を見るに、畏敬の念が強いですね。居心地が悪い状況だったはずですが、アルツィアさまが上手い事やっていたようで、リッカさまには笑顔が見えます。

 複雑ですが、リッカさまが笑顔を見せている事に安堵します。


「リッカさまー! ご飯の準備が出来ましたので、こちらへっ」

『あ、アリスさん戻って来た。笑顔で、私に向かって手を振って――可愛い』

「はや……」


 リッカさまに手を振って呼んでいましたが、リッカさまの思考が届いて手が縮こまってしまいました。

 お淑やかにしないといけないと思っていたのですが、リッカさまの笑顔を見ていると、つい……跳ね回るようにしてしまったのです。


「今行くよー!」


 アルツィアさまに頭を下げ、リッカさまはこちらに走って来ています。リッカさまは私がぴょんぴょん跳ねて可愛いと表現しましたが、今こちらに向かっているリッカさまも跳ねるように走っていて、可愛いです。


 そのまま私と抱き合って止まる――とはなりませんでした。感動の再会をする程離れていた訳ではありませんし、なる訳ないですよね。たった二十分程度でしたが、気が遠くなる程長く感じました……。


(憧れではありますが、一番の夢はもう叶っていますから――)


 昔、アルツィアさまに話した事があります。王子様が私を……孤独から救ってくれないかな、と……。


「卵焼きを作ってみました。是非、食べてみてください」

「わぁっ! アリスさんの味付け、凄く美味しいから楽しみっ」


 特異な能力と体質ともいえる、アルツィアさまとの完璧な交流……どれも、私を孤立させました。自分の態度が一番の原因だったのですが……とにかく、孤独だったのです。


「少し甘めに作りましたから、お口に合うかどうか」

「私、甘い卵焼き好きです――だよ!」

「良かった、ですっ」

(す……す、き)


 願えば、叶う……アルツィアさまの言うとおりでした。ですから今度は、私が叶えましょう。アルツィアさまと――リッカさまの願いを。


 敬語が抜けておらず言い直したリッカさまの、ぽやぽや? 木陰に差す陽光のような笑みの可愛らしさに――卵焼きが好きの「好き」という言葉に、私は強く、反応してしまうのでした。


 

 祈りを捧げた後、昼食を始めます。いつもは昼食時に集まる事などないのですが、今日だけは特別です。

 お母様にそれとなく明日出発する事は告げていますし、集落の者達もリッカさまへの感謝を告げたいからと、全員集まっています。


『ほんのり、甘い? お野菜もお肉もほろほろ。型崩れさせずに、どうやってここまで煮込めたんだろ。どろどろにならずに、とろみで抑えられてるスープも凄いや。何より甘さがまた、私の舌にぴったり』


 スープを飲み、少し甘味が増している事にリッカさまは頬を綻ばせました。「んく」と可愛らしく嚥下し、胃から広がる暖かさに頬を染めたのです。その表情のまま私を見て、凄く美味しいと褒めてくれました。


「おいしいですか? リッカさま」

「昨日より甘みが増しておいしいよ。アリスさん。本当に毎日でも食べていられそう」

(本当に、毎日。それは、あれですよね。昨夜の……「良い奥さん」に、繋がっているのですよ、ね)


 自分の食事を疎かにして私はずっとリッカさまを眺めてしまいます。私の回りだけ花が咲いたような光景はまさに、スープのように甘かった事でしょう。


「卵焼き、どうですか?」


 リッカさまが卵焼きを食べ、もぐもぐと咀嚼しています。咀嚼中リッカさまは話さないので、私に返事を急ぐように一生懸命口を動かしていました。


「ふふ。急がなくて大丈夫ですよ」

「んく。ひゃ、うん」

『がっついてるように、見えたかな……は、はずかしい』

 

 急いで食べている様が、私の料理にがっついているように見えてしまったのではないか、と頬を更に染めています。実際リッカさまは、私の料理を少しでお多く食べようと、昨夜より箸の進みが速いようでした。


「えと、卵焼き凄く美味しいよ。ほんのり甘くて、出汁も効いているのかな。卵自体の味も感じられて、絶品だよっ」

「良かった。リッカさまのお口に合うようで安心しました。本当はお米の方が良いのでしょうけど」

「んーん。向こうでは、お米が出てきたから食べてたって感じだから。パンも美味しいですよ。ライ麦、で良いのかな。このチーズ? に合ってて」


 向こうと食品の名前が違いますから、リッカさまは慎重に言葉を繋げています。私には通じますが、他の方はその限りではないでしょう。もし違う物があればその都度お教えしますっ。

 

「お米、王都にはあると思いますから。見つけたらそちらを作りますねっ」

「ありがとう、アリスさん。でも私、アリスさんの料理ならご飯でもパンでも――」

『こういう時って、どっちでも良いって方が困るんだっけ。お母さんとか椿が言ってたような』

「えと、その時は一緒に決めよう?」

「は、はいっ」


 椿……たぶん、向こうの()()()、ですよね。視てしまったリッカさまの過去に、何度も出て来ていました。

 リッカさまに沢山、物事を教えていたようです。羨ま――出逢ったのは向こうが先なのですから、当然です。何を私は、胸に棘を差しているのでしょう。


 リッカさまが私を慮ってくれた事を喜びましょう。私としてはリッカさまの好きな方を選び続けたいのですが、それはそれでリッカさまが気にしそうですから。

 


ブクマ評価ありがとうございます!

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