過ち⑤
私が悶えている間に、魔法の説明になったようです。
『一つずつ確認していくよ』
魔法の確認をしていきます。マナという物が大気中にあります。このマナに対し人は、”想い”を込めた魔力を使って”言葉”で力を与えるのです。
力を与えられたマナは、魔法という形で世界に発現します。燃やしたいと願えば火が出て、流したいと願えば水が出るように、”想い”と”言葉”で無限の魔法を作りだせるのです。
その確認なのですが、アルツィアさまはテレビやリモコン? 電気といった物に例えています。私には分かりませんが、リッカさまにはその方が良いみたいでした。これに関しては、アルツィアさまが説明した方が良かったのでしょう。
理解していなければ、想いを通すのは難しいのです。ですが、魔力を通すという行いに関しては、電気? やリモコンとかは必要ないと思います。リッカさまは既に……この世界の誰よりも、魔力を上手く扱えます。
あの地面を踏みつける動作。あれは、魔力を発していたように感じます。余りにも衝撃的な光景ゆえに見逃しましたが、あの攻撃の威力……確実に、魔力による物です。
発した魔力を体内に流し、剣の先端に通す。これは既に、魔法といえます。ですが魔法には成っていません。リッカさまは……魔法を使わずとも、戦えるのです。
「あの、先に聞いておきたいことが……」
『ああ、何でも聞いておくれ』
確認の前に、リッカさまが私を見ながら質問をしました。その目に私は、銀色を見た気がしたのです。
「昨夜は、見えなかったんです。盾の魔法が……。でもさっきのは見えました。銀色の壁が広がっていくように、それに、アリスさんのローブの紋様も銀色にっ!」
『銀、というより白銀だけど……これ、何だろう。何で急に見えるように……』
銀色、という事は……リッカさまも私と同様に、魔力を色で認識出来るようです。普通の人では、魔力の色を見る事は出来ません。高い感受性と強い魔力を持っている者のみに生まれた力です。
過去、この力を有した人は居ませんでした。リッカさまと私含め、世界でも三人しか居ない力、という事になりますね。
『あの銀……白銀、アリスさんの色なんだ……綺麗……。アリスさんは私を雪の名前で呼んでくれるけど、アリスさんも……雪みたいな、全てを包むような、優しい色――』
雪の性質に、音を遮断するという物があるそうです。何でも、雪の結晶が音の振動を遮断するという話です。私はその性質を、遮断ではなく包むと表現します。
雪は全てを包み込んでくれる。リッカさまが私を包み込んでくれるように、です。
だからリッカさまは。貴女さまはやはり――六花さまです。私だけの――『リッカ』さま――。
『じゃあ、実際に使ってみようか。やりながらのほうが、これからの説明はしやすい。アルレスィアお手本を見せてやっておくれ。杖がなくても軽いものなら出来るだろう?』
「―――。はい。アルツィアさま」
リッカさまの為に、”盾”を作ります。私はやる気を漲らせ、集中していきました。
『アリスさんから、荘厳な気配が……白銀色の魔力? がアリスさんの瞳とローブを包み込んで……綺麗……』
うっとりとした表情で、リッカさまが私を見詰めていました。集中を乱してしまいましたが、魔力も想いはむしろ、集中している時より昂ぶっています。リッカさまの期待に応える為に、最高の”盾”を――!
「私に盾を……!」
(完璧な”盾”だ。魔力の通りも発動の速度も、練習の時よりずっと鋭い。完璧な”盾”だけど、実際に効果をみないと意味がないな)
『じゃあリツカ、攻撃し』
「嫌です」
『……』
『私がアリスさんに攻撃なんて、する訳ないじゃないですか。私の攻撃じゃびくともしないのは分かってるけど、絶対嫌』
確かめてもらう為に叩くくらい良いのですが、リッカさまの想いを受けてしまっては、悦んでしまいます。
『魔法には個人個人で得意分野があってね。アルレスィアの場合、”拒絶””癒し””光”だ。これは余談だけど、得意魔法三つは破格だ。他には居ないよ。多くて二つその分制御が難しいから、杖がないと簡単なものしかできない』
そうです。杖が無ければ、”盾”と”治癒”くらいしか出来ません。先ほどの”盾”は、杖無しの中では良い出来でしたが……昨夜のは……っ!
「私にもっと……力があればっ! あの時、リッカさまに無茶なんてっ」
杖を置いてきた事以上に、杖に頼らなければいけない制御力を嘆いてしまいます。簡単な”拒絶の盾”さえ作る事が出来たなら……吹き飛ばされたりしなかったのに、と……。
『アリスさんの所為じゃない……魔法があったのなら、私が余計な事をしなかったらもっと簡単に事が終わってたかもしれない……アリスさんが前に出る必要も、なかったはず……』
「……っ」
あのマリスタザリアを倒せるのは……リッカさまだけでした。仮にオルテさんが万全だったとして、私が”拒絶の矢”や”拒絶の槍”を使えたとして、倒せたかどうか……。リッカさまの鋭い攻撃だからこそ、と思えます。
リッカさまの後悔は、魔法を知った今だから出てくる物です。そしてそれは、当たりでもあり外れでもあります。
リッカさま……魔法で人を殺すのは簡単ですが、マリスタザリアを前に殺意を維持出来る人は多くありません。
人は脆い生き物です。殺すつもりがなくとも、想いが届いていなくても殺してしまう場合があります。ですがマリスタザリアを相手にするなら、本物の殺意が必要です。
リッカさま……この集落でそれを持っているのは、オルテさんとお父様くらいの物です……。あの時オルテさんが敗北した時点で、集落の者達は折れていました。
あの場で戦意を維持出来ていたのは――私と、貴女さまだけ。
だからこそ貴女さまは、皆からの敬意を浴びているのです。
リッカさまが秘めている以上、私もこの想いは秘めます。その変わり私も……貴女さまを抱かせてください。
リッカさまをぎゅっと抱き締めると、リッカさまも私を抱き返してくれます。また私が力を込めると、リッカさまも。まるで、睦み合うように――はぅ……。
(まるで、ね。アルレスィア、それはもう、喩えじゃなくなってるよ。気付くまでもう少し掛かりそうだが)
『得意分野だけの魔法しか使えないってわけじゃないんだ。一応全部使えるよ。威力や規模に大きな差が出るけどね』
アルツィアさまが止めるきっかけをくれました。止めたく無いのが本音ですが、これ以上は理性が蒸発してしまいます。
リッカさまも名残惜しそうですが、説明はまだ中途半端です。何しろリッカさまはまだ、自身の魔法を知りません。
最初に”光”の説明をしていきます。
”光”で人を傷つける事は出来ず、悪意にのみ効果を発揮するのです。
リッカさまは私が攻撃魔法を持たないという事で、決意を新にしていました。
ですが私の”拒絶”は攻撃に転用する事も可能です。私がそんな想いを抱けないので、出来ない事に変わりないのですが……それに、マリスタザリアには効かないと思います、し。
『一つだけ最強の”拒絶”があるけれど、あとでアルレスィアと話しておくれ』
一日一度しか使えないくらい魔力を使います。使ってしまうと他の魔法をまともに扱えなくなる程の……。
あくまで、リッカさまが危険な時の切り札、と思って欲しいです。普段はなるべく、リッカさまを守り、治す魔法だけを使っていこうと思っております。
リッカさまが自身の魔法を教えてもらっている間、私も自分の魔法をどう使うかの確認をしておきましょう。
”拒絶の盾”でリッカさまを守りながら、リッカさまが牽制している間に”拒絶の光”を打ち込むのを主な戦法にするべきでしょう。リッカさまにはなるべく、私の後ろから機会を窺って欲しいと思っています。敵から悪意を剥離させると同時に切り込むのが最良です。
怪我をすれば、完璧に治します。ですが怪我をさせないのが一番なのは言うまでもありません。
(そして、強敵にのみアレを使います。守る力を最優先に――)
『”抱擁”についてだけどね。教えられないというか、私にも詳しくわからない』
「ふぇ?」
「んんっ」
きょとんとした表情で首をこてんと傾げたリッカさまが余りにも天真だったものですから、不意打ちを受けてしまいました。
(可愛い、可愛い、可愛い……っ)
大人びているリッカさまと、天真爛漫なリッカさま。どちらも可愛い。
(と……いけません)
リッカさまの愛らしさを堪能していましたが、”抱擁”が気になります。
”抱擁”は、言葉通りならば抱き締めるといった意味合いです。リッカさまの魔力が体を覆うようになっていたので、それが”抱擁”なのかと思いました。
ですがアルツィアさまが解らないという以上、違うのでしょう。つまりあれは、もう一つの魔法である”強化”による物です。
凄烈な魔法でした。今でも、あの赤い魔力を感じています。聖火すらも飲み込める程の清麗さでした。
凄い魔法でしたが、その分リッカさまへの反動が気になります。自分自身への魔法だけでも異例だというのに、”強化”や”抱擁”という前例の無い魔法。大丈夫なんですか? 本当に? 私はそれが一番気になっているから、アルツィアさまに説明を任せたのですよ?
『私にも、それだけは分からないね。ちょっと困ってるけど』
『問題がないなら……大丈夫かな……ちゃんと知っておきたいけど、知らないなら仕方ないよ、ね……』
理解して欲しいと言っておきながら、リッカさまの魔法は何も分かっていません。分かっているのは、自身を強くするという事だけです。
知らない、理解出来ないというのは、”恐怖”へと繋がります。リッカさまを蝕むのです……。何とかすぐにでも解明したいですが……。
『自分自身のことだから、イメージしやすいし。すぐ使えるようになるはずさ』
「……」
『ちょっと、アルレスィア。大丈夫だよ、何も問題はないって』
「分かってますね?」
『分かってる。私としても、リツカは大切だ。お役目とか関係なくね』
使ってみない事には解りません。危険であればすぐに止めます。それと、アルツィアさまよりずっと、ずーっと私の方がリッカさまを大切にしてますからね!
『さて、早速使ってみてくれ』
「……?」
リッカさまは魔法の使い方が分かっていないようでした。思えば、詠唱なしで魔法を無理矢理発動させたのです。詠唱を思い浮かべるのは今日が初めてとなります。
『”言葉”を発して、想うだけさ。イメージしなさい。きみが魔法を発揮したい場面を。どうして魔法が必要なのかを』
「想い……」
リッカさまが目を閉じ、想いを重ねています。
『アリスさんを失いたくない。アリスさんを守りたい。アリスさんと一緒に―――生きたい』
想いを重ねれば重ねる程、魔力が……どくん、どくんと、魔力が全身を巡っていっています。凄い……この世界の者でも、あそこまで丁寧に力強く魔力を練るなんて……出来ません。
練られた魔力がリッカさまから溢れました。そして――。
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