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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
13.桜とツァルナ
123/952

記入日 A,C, 27/03/08



 肉体的な疲労は無し。怪我の影響も殆どない。内功と呼ばれる彼女の技術は、体調を整えたり攻撃に使ったりするだけでなく、怪我からの復帰を早くさせる効果があるのかもしれない。そう思ってしまうくらい、彼女の回復は早い。


 ただ、精神的な部分は別だ。彼女は完全に、疲れてしまっている。慣れない環境や生活だけが理由では、ない。初の旅で困る物。料理、言葉、そして――人との付き合い。


 彼女は”秘密”故に、人との関わりを最小限にしていた。人と関わる事で起こる様々な『恐怖』を減らす為だ。彼女が友人と呼べる程仲良くなったのは、椿さんのみ。


 彼女は椿さんくらいしか友人を作らず、深く人と関わりを持とうとしなかった。そんな彼女がこちらの世界では、人との交流を増やしている。だから、兄弟子さんも気に掛ける。


 なのにあの兄弟子さん、彼女にあんな敵意を……。


 人との交流で起きる心労というのなら、私やライゼさん、シーアさんもだが、私達が彼女の心労になっている様子はない。言ってしまえば椿さんの延長だからだ。私は……いや、今は必要ない事だ。


 兎にも角にも……彼女は、今まで感じた事のない程の心労を受けている。不良達が発する、不埒な感情が混ざった視線ではなく――純度の高い殺意を、兄弟子さんに向けられた。”人”からそんな感情をぶつけられるなんて、彼女にとっては初めての経験だったのだ。


 向こうの世界で彼女は、私よりも広い範囲を動けていた。だが、”神の森”の範囲内でしかない。そしてその町は、”巫女”の為に調整されているらしい。


 自然に見えるように、人の出入りは制限していない。だから不良達が入れる。ただでさえその町には女性が多い。しかもその町にある学校は、全てお嬢様学校。正に秘密の花園といった町だ。そこに、彼女まで居る。一目見たいと殺到するだろう。


 しかし彼女が自身の容姿を自覚していなかったという事は、ある程度は制限していたのだろう。問題を起こした者、起こそうとする者を止める一団が居たとか。


 そうやって広い範囲を動けたといっても、彼女は守られていた。私とは別の理由で、別の方法で守られていた。警戒も殆ど必要なかっただろう。彼女は自分の『恐怖心』に集中出来たはず。だから対処が間に合っていた。


 そこに、私が現れた。自分で自分の日記に書くのは、何度書いても慣れないが……彼女は自分自身よりも私を大切にする。だから、警戒心を強くする必要があった。


 湖で私と出会った時点からの計測でしかないが……集落に着いた瞬間から高まったのを感じ取っている。だけど、そこまでは普通だった。恐らく向こうの世界と大差ない。制御も出来ていた。でも――マリスタザリアを知ってからはもう、ダメだった。


 彼女の警戒心は完全に、崩壊した。そんな状態で、王都で本当の『人波』を見て……彼女は、警戒心の制御を手放してしまった。敵意を感じ取れば視線、もしくは気配を飛ばし機先を制す。最初は質が低い物を無視していたが、最近では全てに対応してしまっている。


 だから、作った。警戒心を少しでも解せる場所を。その第一弾が、宿の休憩所だった。


 しかし宿の休憩所は失敗……いや、失敗というのは間違いか。宿の休憩所は、長い目で見れば私達にとって最も大切な経験となるはずだ。だけど、休憩所では心が休まる事はない。


 だから、花屋を選んだ。彼女が大好きな、花に囲まれる場所だ。


 彼女は凄く喜んでくれた。久しぶりに、周りの事を一瞬忘れる程、楽しんでくれた。それだけで、満足している。


 でも、彼女の心労は明日からも続くだろう。


 牧場の一件で、彼女はまた一つ、約束をした。彼女の約束は、誓いだ。必ず履行される。そして彼女がする約束の全ては……魔王討伐が前提という、過酷な物だ。


 だから彼女は貯め続ける。毎回の戦闘を全力で行う。優れた戦士は、状況によって力を抜くが……彼女にそれはない。最短最速で討伐出来た今までなら、問題はなかったが……もし、もし今後、それが出来ない敵が居たら……。


 剣が通らない敵が出た以上これは、想像ではなくなった。早く刀を作って欲しいと……願っている。こればっかりは、私から急かす事は出来ない。願うしかない。一日でも早く、彼女が深く傷つく前に、彼女に刀を……。



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