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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
13.桜とツァルナ
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花⑪



「はぁ……先に進めましょう」


 頬を染めていたアンネリスだが、こほん、と一つ咳払いを入れて場の空気を変える。どんなにふざけていようとも、咳払い一つで気持ちを切り替えられる猛者達ばかりだ。


「リツカ様のことについてです」


 それに、”巫女”の話題となれば気を引き締めるしかないだろう。


「本当はアルレスィア様もお呼びしたいんだが」

「それは無理でス」

「でしょうね」

「だろうな」


 コルメンスは殆ど報告でしか”巫女”二人を知らないから、呼べるならとアンネリスを見た。しかし、ライゼルトもレティシアも、アンネリスさえも無理と告げる。


《あらあら、シーアまで一緒に。どうして無理なのかしら》


 エルヴィエールしか知りえない事だが、レティシアがエルヴィエール以外に肩入れする事はない。そんなレティシアが肩入れする所か、ほんの数日で人柄をここまで理解している。そんな事今までなかった。


「巫女さんが一人でここに来ることはできませン」

《どういうことかしら?》

(必要な事だったとはいえ、こんなにも短時間で。妬けちゃうわ)


 元々エルヴィエールは好奇心旺盛。最愛の妹がご執心の”巫女”が気になるらしい。


 レティシアは必要に応じて情報を集めるが、それは必要最小限だ。そんなレティシアが余談を話せるくらい情報を集めるのは、本当に興味が向いた時だけ、という事はエルヴィエールしか知らない。


「リツカお姉さんを呼べない以上、ここには呼べませン。リツカお姉さんが巫女さんを一人で送り出すなんてありえないでス」

《え?》

(過保護って訳ではなさそう何ですよね。むしろもっと――過保護って言葉では説明出来ませんね)

「巫女っ娘が言い含めれば許すだろうが、巫女っ娘がそれをせん」

「そうですね。リツカ様が不安がってしまうでしょうから、そんなことをアルレスィア様が行うことはありません」


 三人が思っているよりは離れる事もあるのだが、普通の者達からすれば少なすぎる。最近ではもはや、朝の鍛錬時くらいしか離れない。


《巫女様たちって噂とすごく違うんだけど、どういうことなの? シーア》

「リツカお姉さんは巫女さんヲ、巫女さんはリツカお姉さんヲ、想いあってるだけでス。それもお姉ちゃんや国王さン、お師匠さんとアンネさんが可愛く思えるほド」


 あえて自分とエルヴィエールを例に出さないのは、恥ゆえかそれとも――。


《お二人って同性よね。えっと》

(私達と比べるって事は、そうなのよね)

「私から見ると、愛は愛でも家族愛のように見えるのですけど」


 実際()()()なのか、本人達にも分かっていない。ここで答えは出ないだろう。


「巫女様方の噂話をするために呼んだわけではないのですが」

《あ。ごめんなさい、コルメンス陛下。ちょっと気になってしまって》

「い、いえ。そういった話は、()()()()落ちついた時にでも」

《ええ》


 エルヴィエールとコルメンスが意味深な話をしている。これが後の予定に関わってくるのだが――アルレスィアとリツカの関係が気になっていたレティシアは、聞き逃してしまったようだ。


「も、申し訳ございません。私まで」


 そしてアンネリスは、自分から空気を変えたというのに、率先して脱線してしまった事を詫びている。落ち込んでいるアンネリスをライゼルトが慰めようとしているが、何と声を掛ければよいのか分からない。その、余りにも情けない姿に、流石のコルメンスも顔が引き攣っていた。


「いや……気になるのも無理はないよ」

「つまリ、王様も気になっているト」

「え!?」

《まぁ……。お二人は美人って話ですしね》

「あ、いや……違っ!」


 ”伝言”越しだというのに、頬に手を当てて残念がっている姿が想像出来る声音でエルヴィエールがため息を吐いた。それがエルヴィエールお得意の()()なのは分かるのだが、コルメンスはみるみる焦っていく。その姿は、レティシアが抱腹絶倒し兼ねない面白さだ。


(やっぱりお姉ちゃんが一番、王様の扱いを知ってますね。二年前もそうでしたし)

「あ、アンネ!」

「で、では――本日のアルレスィア様とリツカ様の行動です」


 コルメンスに急かされる形でアンネリスが話を再開させる。話題はアルレスィア達の依頼についてだ。この報告会は、”巫女”二人が依頼をこなす度に行っていた。


「解決した依頼は三件。遺失物の捜索、牧場の手伝い、花屋の手伝い。その後宿にて給仕です」

《給仕もやっているの?》

「はい。息抜きに、と」


 アンネリスの顔が曇る。給仕が息抜きというのは知っていたが、その本当の意味を知ったのは、アルレスィアから花屋の依頼をお願いされた時だ。それまでは、そんなに深い意味があると思っていなかった。


「まずは給仕のことで報告がございます。三件目の依頼である花屋の手伝いも関係することです」


 アンネリスとコルメンスの表情から、先程までの余裕が消える。


「ライゼ様と相談し、一般人の巫女様方の理解者を増やそうと思っていた矢先、アルレスィア様からお願いがありました。それが花屋のお手伝いです」

「リツカお姉さんのあの豹変っぷりを考えるト、楽しんでたんでしょうカ」

「……楽しんではいたろうがな」


 今日ライゼルトが休憩所に言った理由は、レティシアから誘われたからだが、誘われずとも行っていた。リツカの様子を見る為に。


「では報告を」


 アンネリスがレティシアとエルヴィエールに話す。エルヴィエールからすれば、噂しか知らない少女の裏側だが――エルヴィエールなら()()()()()()()


 何故休憩所の息抜きが必要だったのか。花屋を変わりにしなければいけなかったのか。その真意を、アンネリス達なりの解釈で伝えていく。


 リツカの”秘密”は知らずとも、見えてくることがある。いや――知っていたはずの事実を、思い知らされたという話か。


 リツカは結局、どんなに強くとも――ただの少女なのだ。


「国民への理解をと御触れを出したが……巫女様方のほうが上手だった。国民の意識を確認してみたが、どうにもリツカ様の実力が伝わりきれてない」

「それは剣士娘たちが望んだことだ。下手に不安を煽るより、よっぽど街のためになるからな。ただの街娘のほうが国民も日常を感じやすい。ただでさえ注目を浴びとるからな、”巫女”たちは」


 実力もそうだが、リツカという人間がどういった者なのか伝わっていない。これが原因と考えているようだ。


「二人が意識的にやってるかどうかは微妙なところだが、問題なのは普通に見えすぎとることだ」

「それでいいト、お師匠さんが言ったのですヨ?」

「あぁ、言ったがな。それは今までの話だ。犠牲ゼロの”奇跡の巫女”のな」


 マリスタザリアが出て、犠牲が出ない。それ自体は珍しい事ではない。ライゼルトやレティシアも何度か達成している。しかし、アルレスィア達は無名の状態で達成した訳ではない。最初から世界の救世主としてやって来たのだ。初めは半信半疑だった者達も、犠牲ゼロの”奇跡の巫女”となれば、信じ始める。だがそれは、犠牲ゼロのままだったらという儚い物なのだ。


「これからは分からん。剣士娘の攻撃が通らん敵が出た以上はな」

(そういえば、剣が通らないって落ち込んでました。リツカお姉さんは剣術という物を駆使する訳ですから、確かに何が起きるか分かりませんね)


 もっとゆっくり対応しても間に合うはずだったと、ライゼルトは頭を掻く。


「犠牲がこれからは出るかもしれん。今までゼロだから何も思っとらんかったろうが。もし犠牲が出れば、剣士娘たちの普通すぎる態度が仇に成る」

「どういうことです?」

「全員がそうとは思わねぇが、きっと犠牲が出たら、こういうのが出てくる――なんで犠牲が出たのに、あいつらは普通なんだ。巫女ならもっとしっかりしろよ。ってな」

「それハ、身勝手すぎでハ?」


 今日噂集めをして、様々な”巫女”への非難を聞いたレティシアからすれば、その反応は身勝手すぎると感じる。それは想像でしかなく、少々現実味がない。しかしそうなりそうと思えるのもまた、噂を集め回った結果だ。人の心は容易に負へと落ちる。


「どんなに犠牲を出そうとも、悲痛な顔で絶望を写してはならない。”巫女”の絶望は周りの絶望だ」

「巫女の笑顔に救われる人も居ますから」

「だからあいつらは傷つこうとも、今のままで居るだろう」


 だからこそ”巫女”は、光で在り続けるのだ。それが、アルレスィアとリツカが見つけ、選んだ道。それは、不条理な死が平然と起きる世界で難しい。


「そんな時に必要なのが、守られる者たちの理解者だ」

「誰でもいいのです。巫女様方のことを正しく知っている方が必要なのです」


 休憩所で話した、”巫女”達を支えるという言葉。それがここに繋がる。


「私たちでハ、ダメなんですカ? 私たちがリツカお姉さんたちを見捨てることはありませン」


 理解者という意味では、レティシア達もそうだ。それなりに信頼関係を築けたという自負が生まれてきているレティシアにしてみれば、わざわざそんな事をする必要があるのか? という疑問がある。


「はい。我々も同じです。ですが、私たちはどうしても……仲間になってしまいます」

(仲間なら――)

「私たちは、守られる側ではありません。同じく守る側の仲間です」

「……私たちでハ、浴びせられている非難からお二人を庇うことしかできない上ニ、慰めしかできないってことですネ」


 ”巫女”はすでに選任冒険者だ。二人の不祥事は冒険者の不祥事になりえる。”巫女”二人もそれを理解しているからこそ、行動には気をつけている。しかし、どんな理由で非難されるか分からないのだ。レティシアにはそれが我慢出来ない。何か出来ないかと模索している。


「だがな、俺たちは庇うことも出来ん。庇えば、そこで負の感情が吹き荒れる。あの二人は俺たちを止めるだろう。庇うなってな」

「そんな理不尽ヲ、容認しろト?」

「謝罪はするだろう。頭も下げるだろう。だがな、二人は絶望することも、止まることも許されん。非難の目に足を止めることはない」


 言い訳すらせず、ただ只管に謝り続けるだろう。普段通り振舞うだろう。どんな理不尽が襲い掛かろうとも、必要ならば甘んじてうけるだろう。そんな覚悟を、”巫女”二人に見ている。


「だから、一人でもいいから。理解者が居るのです。そのようなことになっても、お二人に普段どおり接することができる理解者が」


 これは気休めだ。どちらにしろ”巫女”への非難を止める事は出来ない。せめて王都で、普段通り生活出来るようにと。”巫女”への理解がある普通の人が居る事で変わる事もあるはずだ。


(巫女が神林に居る間は何も言わなかった者達が、降って湧いた希望に目が眩んだと、ライゼさん達は思っているようです。私もそうだと思いますが)


 本来ありえない”巫女”の登場。そしてその”巫女”は世界を救うと言うのだ。振って湧いたというが、自分達が始めた戦いなのだから当然と、アルレスィアとリツカは言うだろう。しかし、期待するのも希望するのも自由だ。実際、最初の頃は信じられていなかった。振って湧いたというのなら、その”巫女”が本当に強かったという予想外の事だろう。


(この妥協案に替わる案を提示出来れば良いのですけど、巫女二人の意志を尊重しつつ国民の感情を逆撫でさせない方法となると、お二人の案を強固にする為に動くべき、という結論に至ってしまうのです)


 レティシアはもっとあるのではないかと考えるが、今より良い案が浮かばずに断念する。しかしそれは、今静かに聴いているエルヴィエールも同様だった。想像に想像を重ねている以上、何が起きても対応出来るように現状から進むのが最良なのだろう。


「私の友人にそれが出来る方が居たので、お願いしました。それが花屋の主です」

「巫女さんモ、そういう意図があったんですかネ」

「お二人が理解者を作ることはありません。理解してもらうには、全て話す必要があるからです。友人、ロミルダには全て話していました。その時の為に」


 アルレスィアが考えていたのは、リツカの安息だけだ。理解者どうこうの話はアンネリスの考え。しかもそれは、アルレスィアに伝えられていない。


「この国に安全な場所がないと言いふらすようなものです。巫女様がそんなことをすることはありません。ですから、今回のアルレスィア様のお願いは、純粋にリツカ様の息抜きです」

「少なくとも、効果はあったようだな。給仕のときの剣士娘みたろ。あの豹変っぷりだ。しっかり息抜きはできたみたいだ」


 緊張の緩まりと共に、ライゼルトとレティシアが肩を震わせている。アルレスィアが言うように、美しい舞ではあった。だが、普段のリツカとのギャップが凄すぎたのだ。


《何があったの? シーア》

「私も気になります。そのことは聞いていませんから」

「はぁ……ほどほどにしなさい」


 アンネリスとエルヴィエールの食いつきに対し、コルメンスは冷静だ。興味はあるようで、耳だけは傾けているが。


「あの剣士娘。巫女っ娘だけじゃなく、”神林”のことでも豹変する」

「”神林”、ですか?」


 もはやアルレスィアの件で豹変するのは前提だ。そこに一つ加わるという出来事だけに注目が集まっている。


《アルレスィア様の居た森ですよね。リツカ様もそこから来たと聞きましたけど》

「”神林”のことを私たちが聞いたラ、リツカお姉さン。身振り手振りを交え踊るようにくるくる回りながら”神林”の素晴らしさを語りましタ」

「普段のアイツとの違いに思わず固まった。俺が止めんかったら日をまたいでいたかもしれん」

「そ、そんなにですか?」


 美しさという点ではアルレスィア同様見惚れた。それはアンネリス一筋のライゼルトですら、だ。しかしどうしても普段とのギャップがある。驚愕に固まった後、笑いがこみ上げてしまうのだろう。


《普段はどんな方なの?》

「落ち着いていテ、優しくテ、人当たりのよク、人の気持ちを読むのが得意デ、頭の回転が早ク、敵に情けをかけることなく迅速に狩れる素敵な人ですヨ。落ち着きの点は巫女さんより上の印象でス」


 アルレスィアとリツカならば、アルレスィアの方が落ち着いているのだが、どうしてもリツカ関係での印象が強い。そしてレティシア達だからこそ、その印象を抱けていると言える。リツカにしろアルレスィアにしろ、他人の前であそこまで自分を見せないのだから。


《まぁ。シーアが()評価を。ますます興味が出てきたわ。アルレスィア様と一緒にお茶でも交えながら話を聞きたいわね。異世界の話も気になるし》


 レティシアの評価は、エルヴィエールが聞く限り最高の物だった。簡単に他人を褒めないレティシアがここまで褒めるのは、エルヴィエールを除けばアルレスィアとリツカだけだろう。


「魔女娘はまだ日が浅いからな。俺たちから見れば、まだ巫女っ娘のほうが落ち着いとるぞ」


 ライゼルトはこの中で一番、二人との関わりがある。リツカの幼い部分も見ている為、アルレスィアの方が落ち着いているという印象が残ってはいるのだ。ただ、もし一線を越えた時――アルレスィアの方が確実に、キレるという事も、知っているが。


「あの森をそこまで愛していたのか。リツカ様とならいい酒を、いや、彼女はまだ飲めないんだったな」


 ”神林”に対して敬意を抱いているコルメンスにとって、リツカの新情報は耳寄りだった。出会いの時期で見れば一番最初だったが、国王という立場とアルレスィア達のスタンスの所為で接点が殆どない。お互い感謝や敬意を抱いてはいるが、直接話せたのは王宮で会った一回のみだ。だから――リツカの新情報は、交流の第一歩になるのではないか? と思っている。


 ”伝言”越しにむくれている子が居る事に気付けたのは、レティシアだけだったが。


「あれは愛してるなんてものじゃありませんヨ。溺愛でス。あの時のリツカお姉さんの顔は蕩けきってましたかラ」


 仕方なく話題を変えてあげる辺り、レティシアはそれなりにコルメンスを信じているのだろう。


(あのお二人をいじるのは覚悟がいりますね。二人同時に相手なんて無理です。この場に居るちょろい四人とは違いますからね)

「魔女娘、ちょろいとはなんだ」

(あァ、剣士って本当に恐ろしいですね)

「リツカ様の森好きは直接見てみたいですが、続きを始めましょう」


 ライゼルトとレティシアの牽制が始まりそうになった為、アンネリスが進行する。少しばかり本音が見えてしまうのもまた、アンネリスの愛嬌だ。


(アンネさんの素直さって恐ろしいですね。私も気をつけないと。お師匠さんのように首を絞めます)

「おい……」

「ダメですヨ、続きが始まるんですかラ。婚約者さン」

「くっ……」


 やはり言葉は魔法だ。このような場面で再認識するのは、苦笑いが出てしまうが。



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