花⑧
浄化を終えたので、お手伝いへと移行します。しかし、日に日に減っていますね。良い事ではあるのですが……”悪意”が少なすぎると感じるのは気のせいではないでしょう。マリスタザリアの出現数に比べて、王都内の”悪意”が少ないのです。
(いえ……リッカさまに倣って、前向きに考えましょう。一人一人の診察時間を増やせると考えるのです)
”悪意”を知るなら、一人一人に質問する事が出来る今の方が断然良いはずです。もしここから一気に”悪意”が増えたとしても問題無いように、『感染』を診るだけで判断出来るようにしなければいけません。
(気持ちを切り替えましょう)
さて。これから厨房で料理を作っていきますが、そろそろお店のレシピではなく、自分のレシピも入れていきましょう。まずはセットメニューの中にある、小鉢を変える程度にしておきます。それが好評だったなら、一品か二品、私の料理を出すのも良いかもしれません。
「リッカさま、次のオムライスです」
「はぁい」
受け取ったオムライスを、リッカさまがじぃっと見ています。
『アリスさんの料理』
「ロクハナ様」
「な、なんでしょう」
本当にじっと見続けていたものですから、支配人に窘められてしまいました。私が止めるべきだったのですが――私の料理という事でお腹を空かせてしまったリッカさまが可愛くて、つい。
「いえ、先にまかないでも食べますか?」
「だ、大丈夫です。最後まで出来ます」
「そうですか、ではお願いします」
「はい」
『私って、集中力もないのかなぁ……。戦う以外の能が無いんじゃ……?』
戦うときに限らず、リッカさまの集中力はずば抜けています。今回は程好く緊張感が解けていたので、普段のリッカさまが強調されていただけなのです。どうかそのままで居て欲しいのですが――お客さんが増えてきてから、どんどん……いつものリッカさまに、戻ってしまいました。やはり、自室以外は難しいでしょうか……。
(お花屋さんでは、警戒心の是非はともかくリッカさまは安らげていましたし……後は自室でしっかりと休めるように私が頑張るだけ、ですね……っ)
「こんにちハ」
「来てくれたんだ……ですね」
「敬語じゃなくていいですヨ?」
少しだけ機嫌が良さそうに見えるシーアさんが、ついにこのお店にやってきました。一波乱ありそうですね。
「お客様だから、敬語じゃないとダメかと思って」
「そんなこと気にしなくていいですヨ。……リツカお姉さんには謝らないといけませんシ」
「ん?」
シーアさん……何をしたのでしょう。シーアさんに限って、リッカさまに害する行動をするとは思えません。仲間内での出来事は分かりませんが……まさか、ライゼさんでしょうか。
「実はですネ。……まァ、何れ分かることなので、今はいいですネ」
『逆に気になったり』
この感じ……ライゼさんで間違いないのかもしれません。
「それよリ、早速注文でス! 巫女さんの料理はおいしいと評判ですかラ」
「うん。期待してて? アリスさんの料理おいしいから」
「でハ、手始めにホルスターンスープ、チャーハン、卵サンド、カレー・パンセットを一つずツ。チョコレートアイス、ショートケーキ、アイスソーダは先にお願いしまス」
『こんなに……?』
「もう少ししたらお師匠さんが休憩にくるそうですヨ」
ライゼさんの分も含まれているのでしょうか。何にしても、少し急いだ方が良さそうです。
「いつの間にそんなに仲良く。アンネさんに言いつけちゃお」
「お師匠さんとリツカお姉さんの防御無しの殴り合いですカ。見ものですネ」
『不穏な言葉が聞こえたような。凄く嫌な予感がする……。それにしても、ライゼさんも食べるとはいえ多い。私よりずっと腹ペコキャラだと思う!』
リッカさまとライゼさんの……? 防御なしの殴り合い、というのは比喩表現でしょうから……舌戦が繰り広げられるのでしょうか。
(気になりますが、シーアさんの注文を考えないと)
量は多いですが、すぐに出せる物は多いです。ちょうど良い機会ですから、ホルスターンスープは私の味付けにしてみましょう。シーアさんに好評なら、そのまま他の方に出して大丈夫だと思いますし。
「アリスさぁん。注文ちょっと多いけど、お願い」
「はいっお任せください!」
リッカさまから注文を口頭で受け、作り始めます。アイス等のデザートは既に出来ていますので、すぐに出せます。問題は、チャーハンですね。お米を炒める料理なのですが、今は数に限りがあります。お米が余っていれば作れますが。
「よぉ、腹ペコ血まみれ怪力泣き虫巫女馬鹿剣士娘」
ライゼさんが来たようです。しかし、泣き虫とは。やはりシーアさんからライゼさんに話がいき、その事でシーアさんが謝っていたようです。謝ったという事は、シーアさんはこの事を話すつもりはなかったのでしょう。
シーアさんの事はまだまだ分からない事が多いですが、少なくともリッカさまを貶めようという意思は最初から感じられませんでした。ですから、信用はしておりますが……少々、無用心です。
(さて、ケーキを持って行きましょう)
「お師匠様きてたんですか。アンネさんに内緒で美人さん引っ掛けて」
ライゼさんは明らかに、リッカさまを弄る為にやって来たようです。そのまま受け入れるリッカさまではありませんから、反撃に出たようです。お互い防御を捨てての殴り合い、ですか。言いえて妙ですね……。
「いやぁ、まさか剣士娘が泣くとはな。どんな理由だったんだ?」
「女性慣れしてない割には手が早いですね」
昨晩リッカさまから聞いた事ですが、ライゼさんは女性慣れしていないようです。そういえば違和感があったなぁと、その時漸くすとんと落ち着きました。通りでアンネさんとの仲が進展しないはずです。ライゼさんだけでなく、アンネさんもきっと男性慣れしていませんでしょうから、お互い踏み込めずに居るのでしょう。
「そのケーキ私のですよネ。もらいますネ」
「はい。シーアさん……」
「いやァ、申し訳ございませン。まさかお師匠さんが共和国語の単語を少しでも知っていたとは思いませんでしタ」
独り言を共和国語で話していたのでしょうか。それをライゼさんが聞いて、たまたま知っている単語が引っ掛ったと。例えば『泣いていた』とか。
相手が挑発してきた時こそ、余裕を見せ闘気を纏うのです。そうする事で逆に相手を苛立たせ、有利に事を運べると、リッカさまはライゼさんの言動を分析していました。なので、他国の挑発的な言葉だけは知っているのかもしれませんね。言葉が分からないからと、好き勝手言っている相手を調子付かせない為に。
「話す気がなかったなら、責めません。ですが気をつけてくださいよ?」
「はイ。一応口止めはしてまス。牧場でお二人を見たっていう人達含めテ」
「ありがとうございます」
どうやら直接見られた訳ではないようです。あの場に、酪農家さん達以外が居たのでしょうか。このご時勢に散歩をする方が居るとは思いたくありませんが……牧場までならと気が緩んでも、仕方ないですね。壁に囲まれた街にずっと居ると、少なからずストレスを感じるでしょう。外に出たくなる気持ちは理解出来ます。
(とりあえず、シーアさんがその方達の口止めもしてくれたようです。人の口に戸は立てられないと言いますが……どうやって止めたのでしょう)
「また巫女っ娘を困らせたんか。馬鹿娘」
シーアさんの口止め方法が気になっていましたが――ライゼさんの発言はダメです。それを言ってしまっては終わりです。
「はぁ……。で、なんでそれ知ってるんです」
「あぁ、魔女娘が噂で聞いたらしいぞ」
介入しようと思ったのですが、リッカさまが手を上げて降参の意を示しました。
リッカさまは気にしておらず、ただのじゃれ合いでしかありませんが、余り港の件を蒸し返さないでください。その件はもう、今日の牧場で完結しました。リッカさまの心の成長と、私とのちょっと深めの交流によって。リッカさまはもう大丈夫です。
(次はアイスですね。一旦下がりましょう。こちらも気になるのですが……他のスタッフだけに任せるのは気が引けます)
アイスを盛り付けてから再び席に戻ると、リッカさまが何やら考えていました。
「知ってるのは、お二人だけですか」
「あぁ」
「はイ」
『記憶を消すツボとかあったかな』
(背筋が……寒……?)
(やりすぎたか。やべぇ)
シーアさんとライゼさんが、何かやったようです。かなり真剣に、記憶消去を検討していますから。
「それも私のアイスでス」
シーアさんは……寒気より食い気のようですね。終わってしまった事を嘆いていても仕方ありません。ライゼさんにはしっかりと釘を刺しておかなければ。
「じゃあ俺も頼むか」
ライゼさんがメニュー表を手に取りました。どういう事でしょう。シーアさんが頼んでいたのは――もしかして?
「シーアさんが先に頼んだんじゃ?」
「ん? 頼んどらんぞ。そんなこと」
「ん?」
「全部私のですヨ?」
炭水化物系が多いように感じます。脂っこいものも多いですし、これを一人で……? これがシーアさんの普段の食事なのでしょうか。もしそれで、その体型なら……少しばかり、気になります。診せて頂きたいくらいです。消化器系が活発なのでしょうか。
「……ライゼさん。腹ペコのあだ名は返上します」
「あんさんも十分腹ペコ娘だよ」
リッカさまは人並みにしか食べませんから、ね。私の料理にしても、少し多目に食べているってくらいのものですから。ただ――私の料理をじっと見ているので、ライゼさんに対しては説得力に欠けてしまっています……。
「少し落ち着いてきましたから、休憩がてらライゼ様達とお話してはどうでしょう」
「よろしいのですか?」
「少しなら問題ないでしょう。それに、お二人がロビーに居た方が集客力は上がりますからな」
本音なのか建前なのかは分かりませんが、お言葉に甘えさせていただきましょう。少しだけ休ませていただきます。シーアさんの料理も、出し終えてしまいましたし。
量にも驚きましたが、食べる速度も吃驚でした。ちゃんと噛んでいますか? 噛まずに食べるのは胃に悪いですよ?
「リッカさ――」
「リツカお姉さんは森好きって聞きましタ」
リッカさまに休憩を伝えようと思ったのですが、シーアさんと被ってしまいました。しかも、その話題で被ってしまうとは……。
「実際どんな感じなんですカ。”神林”というのハ」
「”神林”に興味があるの?」
「俺も気になるな。あそこには巫女しか入れんからな」
リッカさまの表情は、前髪に隠れてしまって見えませんが――喜んでいるようです。”神林”にしろ”神の森”にしろ、私以外と話す事はありませんでしたから、興味をもってくれるだけで嬉しいのです。
「そんなに気になるのなら――」
嬉しさの余り、リッカさまの頭からすっぽりと……ここが休憩所である事が抜け落ちてしまいました。
「まず木々が違います。外輪部の幹の太さから考えるに外側は約二百~三百年です。内側に行けば行くほど太く、逞しく育っています。中心部である湖では千年を遥かに超える大木一本が悠然と存在しています。圧倒的な存在感と、千年をゆうに超えても未だに衰えることのない生命力。湖は深く、全てを飲み込むようです。けれど、そこに恐怖はなく、全てを受け入れてくれるように在ります。森を一歩歩けば風が私を包み込み、草花がささやくように揺れ、匂い立ちます。酔うように激しく香ってくるにも関わらず、不快感はありません。自然な呼吸で森を全身に吸収できるのです。木々は密集している場所もあります。ですが全ての木が栄養を得られるように丁寧に密集しています。密集することで生まれる圧迫感は欠片もなく。私をその場で木々が迎えてくれているようです。時に開けた場所にでることもあります。急に開けたことによる解放感はすさまじく、空に浮いたと錯覚するほどです。かといって圧迫感が不快だったとはなりません。また戻ってもそこに深みがあるのです。時に暗く茂っているところがあります。足を入れることすら普通ならためらう場所であっても、あの森は受け入れて――」
「ちょ、ちょっと待て」
何故止めるのか、とは言いません。本当はもっと見ていたいですが、場所が場所です。出来るなら私の前でだけ、私の為だけに舞って欲しいと思います。
「なんですか。まださわりの部分ですよ」
『これでもまだまだ序の口なのに。”神林”はもっと凄いから、それを表現させて欲しい』
「……」
目の前でリッカさまとライゼさんが言い争っていても、寒気を感じても、どんなに視線が集まろうとも食事を止めなかったシーアさんが、固まってしまっています。
「リッカさまは森のことになると我を忘れますから、気をつけたほうがいいですよ」
「それを言うのがちょっと遅かったな、巫女っ娘。今、剣士娘は森娘となった」
話し始め、リッカさまが一歩を踏み出した瞬間。空気が一変したと錯覚しました。弛緩していたカフェの空気が引き締まり、舞台になったような――そんな、美しき踊りが始まったのです。それはもう、私が止めるなんて無理です。この場で一番リッカさまに見惚れていたのは、私なのですから。
くるくると回り、身振り手振りで”神林”を賛美する姿はまさに、天使の降臨です。高級宿の休憩所とはいえ、日常の一風景でしかないこの場所が、聖域の如き神々しさに包まれたのです。
『森好きなのは間違いじゃないし、剣士娘よりずっとしっくりくるから、森娘の方が良いかも』
「なんでこいつはこんなにも得意げなんだ?」
リッカさまの愛らしさが凝縮した一時でした。ですがそろそろ、リッカさまには落ち着いて貰いましょう。リッカさまの印象が柔らかいものとなるのは嬉しいですが、ファンが増えるのは避けたいです。何よりライゼさんの笑い声がうるさいです。
「これは、忘れちゃってますね……。得意げな顔も可愛いですけれど」
ドヤ顔、というそうです。”神林”に居た頃、リッカさまは”森の歓迎”に歓喜し、先ほどの状態に近しい動きをしていました。バレないように隠していましたが、足はしっかりとステップを踏み、体が揺れていたのです。
「今日は服着替えた後、そこそこ長かったですし。今は来客も落ち着きだしたところですから……」
恐らく、昨日までのリッカさまならば、熱く語る事はあっても踊る事はありませんでした。ですが今日は、心踊る出来事が多くありました。そして大好きな”神林”の話題。リッカさまは最高潮だったのです。
「リッカさま。ここ、休憩所です」
「……そうだった」
正直私も、リッカさまがここまで盛り上がるとは思いませんでした。ですが私は、嬉しいと思っています。今日くらいはと思っていたのですが、休憩所では警戒心が高まっていましたから。こうやってリッカさまが楽しめただけで、嬉しいのです。
(完全に忘れとったんか)
(リツカお姉さん、ぽんこつすぎませんか。まさか私が撮るのを忘れて見惚れてしまうとは。ですが、しかし。面白すぎるでしょう。また見れませんかね。森の話題を出せば良いのでしょうか)
『ここ、休憩所。私メイド服。凄く視線刺さって、ライゼさんとシーアさんに見られ――ああ、アリスさんにもしっかりと見られちゃった。私どんな動きしてたんだろ――』
「あぁ――っ」
羞恥に、一気に顔を紅潮させたリッカさまは、顔を押さえて部屋の隅に行き、膝を抱えて丸まってしまいました。ライゼさん達が端の席で良かったです。あの場所なら、ライゼさんに隠れるでしょうから。
「剣士娘、いや……森娘は森馬鹿だったのか」
「リツカお姉さんってあんなに興奮して喋る事あるんですネ。巫女さん以外で興奮しないって思ってましタ」
「こっ……」
シーアさん。言い方を考えてください。リッカさまは、その……興奮ではなく、歓喜しているのです。決して、シーアさんの思っているようなものではありません。
確かにリッカさまは、落ち着いて話をします。あんなにも喜びに身を任せて話す事は殆どありません。それこそ、私の前でだけ見せていた姿です。
「勘違いなさらないようにお願いします。本当に久しぶりに森のことをしゃべることが出来たので、たがが外れてしまっただけです」
『アリスさん……。フォローしてくれてるけど、それはフォローになってないよぅ……』
あ、あれ? 違いました、かね……。
「たが外れるってもんじゃなかったぞ」
「リツカお姉さんってポンコツさんだったんですネ」
「森娘はなんでも出来るって思われとるが、不器用だからな」
「はぁ……。ですから、我を忘れるようなことがなければ普段通りのリッカさまですよ」
リッカさまが完全に丸まってしまって、耳を塞いでしまいました。私達だけならまだしも、周りが――。
「赤の巫女様、何してたんだ?」
「思わず見惚れてしまったよ」
「早速噂を流そう」
「森好きじゃないと巫女とか出来ないよな」
等々話していたら、そうなってしまっても仕方ありません。とりあえず、ヒソヒソ話をしている方達には、凍るような笑みを投げかけておきます。口外しないよう、願います。
(やっぱ、巫女っ娘の方がやべぇな。前は過保護なだけだったが、最近は抑えが効いてねぇように思えるんだが)
「それにしてモ、気を抜けるようになったんですカ」
「ん? 気とか抜いとらんぞ」
先ほどまで大爆笑していたライゼさんが、呼吸を整えながらシーアさんの疑問に答えています。いつの間にか、シーアさんには伝わっていたようですね。シーアさんなら、大丈夫でしょう。大丈夫ですよね?
「そうですね……。気は抜いてませんね」
「ここが休憩所って忘れるくらいには抜けてましたよネ?」
「いや、俺が変わりに警戒しだしたからな。自然体になっただけだ」
「ですね……」
ここに至るまで、遠かったです。大爆笑したりと、ライゼさんには怒りたい事が多々ありますが、ライゼさんのお陰でリッカさまは少しだけ元に戻れたのですから。
(集落の時は、常時警戒なんてしていませんでした)
私に向く負の感情を感じ取ると、一気に臨戦態勢になるだけだったのです。その速度たるや、音が届く速度と同等と思える程でした。
ですが、それでは足りないと……どんどんと、常時警戒態勢となっていったのです。ライゼさんが信頼出来る強者だから、警戒の一部をライゼさんに任せる事で、なんとか自然体に戻る事が出来るようになっているだけなのです。
(だからといって、警戒していない訳ではありません)
この世界に来てから、リッカさまの警戒心は限界を突破しました。その結果……壊れて、しまったのです。もうリッカさま自身に、警戒心の制御は出来ません。私が人目に晒された瞬間から無条件に、警戒心が高まります。
「周りに気づかんかったのも、あの森娘はここの場に脅威はないからと意識してなかっただけだ。周りが見えなくなってはいたが、視えてはいた。この場で悪意が発生すりゃ、誰よりも先に対応するだろうよ。意識せずに警戒しとる」
だから、意識させるようにしました。自室に入った瞬間が安全圏だと、体に刻み込む必要があったのです。もはや条件反射でしか、リッカさまの警戒心を解く事が適いません。
「はっきり言って厄介極まりない。意識できてないことを矯正なんかできんからな」
もしここに”悪意”が生まれれば、リッカさまは誰よりも早く対応します。マリスタザリアなんて発生しようものなら、瞬きする間もなく首を刎ねるでしょう。それだけリッカさまは……常に心を削っている、のです。
「まったく、本当に難儀なもんだよ」
ライゼさんの呟きは、リッカさまに対してだったのでしょうか。それとも――それでもリッカさまに頼らなければいけない、自分に対してだったのでしょうか。分かりませんが、ライゼさんに感謝しています。リッカさまも、私も。
(ですがそれとこれとは話が別です。しっかりと噂の件、問い質し――)
「暗い話は止めだ。部屋に戻れば休めるだろうよ。それで、森娘も森好きすぎ問題だがな」
私の気配に気付き、逃げましたね。個人的に楽しむのであれば、もはや止めません。リッカさまも、ライゼさんとシーアさんになら問題ないと自身を納得させていたようですから。
「はぁ……ほどほどにお願いしますよ」
私はすぐにでもリッカさまの元に行きたいので、ここで失礼します。休憩をそろそろ終わりにして欲しいと、支配人さんが見ていますから。
「ところで巫女さン」
早く行きたいのですが、シーアさんに止められてしまいました。何かしら悪戯を思いついたみたいですね。
「”神林”と巫女さン、どっちがリツカお姉さんにとって一番、大切なんですかネ」
簡単に受け流すつもりでしたが、その質問だけはしっかりと応えるしかありません。先程の姿を見れば、リッカさまにとって”神林”は私と同等の価値があると分かるでしょう。そして気になるのは、どちらが上なのか、という事も。
ですがもう、その手の質問で私は揺らがないと、お教えしましょう。
「……一昔前の私であれば、そのことが気になったことでしょう。何しろ、”神林”を感じているときのリッカさまは本当に幸せそうでしたから」
あの日、リッカさまと兄弟子さんが喧嘩した日まで、表には出しませんでしたが……ずっと疑問でした。リッカさまにとってどちらが、と。比べる事に意味はない。相手は”森”。”神の森”を含めれば、付き合いはずっと”森”の方が上。そうやって自身を納得させては居ましたが、やはり気になっていたのです。
「ですけど、今は気にしていません」
これが結論です。もう私には、一切の迷いはありません。リッカさまが愛しているのは――。
「私に”神林”を感じると言っていましたし、何より……先日北で、ウィンツェッツさんから詰め寄られた際、木刀を投擲してまで止めてくださいましたから」
とはいえ、私の口から全てを話すのは憚られます。恥ずかしいです。どうせライゼさんなら、この言葉だけで伝わるでしょう。ライゼさんに聞いて下さいね。
「どういうことでス?」
「まぁ、あいつが持ってる木刀は”神林”の核である大木から作られたそうだ。つまり、”神林”の分身だ。そこまで言や、あんさんもわかるだろ」
聞いて欲しいと思いましたが、即断即決すぎではないでしょうか。せめて私が離れるのを待ってからにして欲しいものです。
「あァ、そういうことですカ。本当に巫女馬鹿ですネ。リツカお姉さんハ」
その巫女馬鹿。本当にリッカさまなのでしょうか。私からすれば――私の方がずっと、巫女馬鹿です。
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