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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
13.桜とツァルナ
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花⑤



「まさか赤い巫女様が泣いてるなんてね」

「そうね……何があったのかしら」

「すみませン。その話詳しく教えてくださイ」


 牧場に着くなり、レティシアの耳に驚くべき言葉が入ってきた。話していたのは男女のペアだ。恋人同士なのだろう。距離が近く、腕を組んでいる。


(リツカお姉さんが? 遭遇した瞬間に泣いてもおかしくないマリスタザリア相手に、石を投げるような勇敢な方が?)


 リツカが泣くなんて想像も出来ないのだろう。実際リツカは、()()()()()()()泣いた事がない。両親ですら、リツカの涙を見た事がないのだ。


(誰だろうこの子。迷子かな)

「さっきそこで、酪農家の人達と話してたけど、泣いてたのよ」

「どんな内容だったか聞こえましたカ?」

「聞こえなかったわね。泣いているのが見えただけ」

(何も分かってないって事ですね)


 レティシアは考え込みながら、今まさに牧場で一般依頼をこなしているであろう二人を見ている。泣いていたとは思えないくらい楽しそうに働いていた。


(泣いてたっていうのも本当なのか怪しいですね。むしろ、巫女さんと牧場で走り回るのを楽しんでるじゃないですか)


 リツカの切り替えの速さは知っているが、泣いた人間があそこまで朗らかに復帰出来るだろうかと、訝っているのだろう。


(まァ、どちらにしろ)

「その話、他言無用でお願いしまス」

「え?」

「何でそんな事をあなたに」

「あァ、私はこういう者でス」


 噂を流したくて仕方ない二人は、レティシアとは知らずに不快感を示す。そんな二人にレティシアは選任冒険者の証と、もう一つある物を見せた。


(四の五の説明するのも面倒です。そういった勘違いを誘発しそうな噂は揉み消すに限ります)

「こんなご時勢に護衛もつけずに外に出るお馬鹿は知らないでしょうけド、これは――」

「これ……」

「ああ、知ってましたカ」


 レティシアが見せた証を見た男側が、顔を真っ青にさせていく。選任の証は効力を発揮しなかったようだが、もう一つは効果覿面だった。


「い、いくぞ!」

「は? ちょっと」

「馬鹿! この人……この方はレティシア様だぞ!?」

 

 レティシアが恐れられている訳ではない。だが、どんな人間でも分かるだろう。レティシアが今怒っているという事くらいは。彼女も状況がやっと分かったのか、レティシアに必死に頭を下げ、走り去って行った。


(この手のお馬鹿は脅すくらいじゃないと口止めなんて出来ませんからね。権力を振りかざすのは好きではありませんが、使い所を見誤ったりはしません)

「話したら駄目ですヨ」

「は、はい!」

(こういう手合程、文句を言うんですよね。リツカお姉さんの噂が流れるのを止めたかっただけなんですけど、思わず怒ってしまいました)


 過去の出来事から、レティシアはこういった手合を嫌う。


 レティシアの両親の死因は公にされていない。だが、レティシアは感づいている。隠しているのは元老院で、なぜ隠しているのかも。エルヴィエールは知っていて、レティシアに話せずに居る事も。


 直接の死因はマリスタザリアだ。だが、レティシアの両親はレティシアに負けず劣らず優秀だった。そんな者が旧式のマリスタザリアに遅れを取ることはない。ならばなぜ、マリスタザリアによって殺されたのか。


 あの時レティシアの両親は、()()()の護衛をしていた。兵士でもない上に、レティシアは生まれたばかり。断りたかったが、断れないように()が働いた。


 王家と古くから関わりがあり、政治家でもないのに王女や女王と親交があったクラフトは、魔法の腕前やその優秀さからご意見番のような立ち居地だった。そんなクラフト家は、一部の者達からすれば邪魔だったのだ。


 レティシアはエルヴィエールに預けられ、両親は護衛に就いた。その後――護衛の本分を全うする事になる。ただ殲滅するのと護衛では難易度が劇的に上がる。そしてお偉方は、レティシアの両親を貶める為に依頼を出したのだから――当然のように邪魔をする。


 殺すつもりはなかったのかもしれない。保護対象が怪我をするという失態によって、クラフトの名を地に落とそうとしただけだ。だが結果は、レティシアを孤独にした。


 エルヴィエールがその事実を知るよりも早く、元老院は名誉の死と公表した。悲しみと、英雄を崇める熱気。それがもし、元老院の所業を知ったらどうなるか。強大な”悪意”が生まれただろう。元老院への不満は国を割るだろう。エルヴィエールは敬愛する友人家族の仇も取れず、歯噛みするしかなかった。


 くだらない大人の事情に巻き込まれ、一時は孤独になってしまったレティシアだが――歪んでいない。


 両親は護衛を()()している。悪行の犠牲になろうとも、自身の正義を全うした両親は誇りだ。そんな両親に涙を流して悔やみ、両親に負けないくらいの愛をくれているエルヴィエールを笑顔にしたいという強い想いが、今のレティシアを形作っている。


「牧場の方に聞こうにも、そんな雰囲気ではありませんね。戻りますか」

(リツカお姉さんが泣いたなんて、最高のお土産になったでしょうけど、一線は分かってますよ)


 ただ少しばかり――悪戯好きに育ってしまった。そんなレティシアだが、向こうの世界の言葉を使うのなら――空気が読める子だ。()声をかけるべきではないと、王都へと足を向けた。


「それにしても、王都はかなり徹底されていると思っていたのですが。元老院のような邪魔者が居ないのにこれでは、意識改革が必要ですね。少々平和ボケしすぎです」


 悪戯好きで毒舌。言いたい事はズバズバという子だが、人を貶す事は殆どない。とはいえ、人のいう事を聞かず、他者に迷惑をかけるだけのような者は大嫌いだ。


 現在の元老院がその最たる例だろう。才能の塊であり、クラフト家唯一の生き残りであるレティシアは、元老院にとって面白い存在ではないのだ。人目も憚らず、良く口論になっている。


「ここでマリスタザリアが出たところで、あのお二人なら問題なく討伐出来る――と、言いたいところですが、先日のクマさんみたいなのも居ますしね。用心にこした事は無いでしょう。アンネさんに報告だけはしておきますか」


 少しでも犠牲を減らす為にと王都が推奨している事はなにも、遵守しなかった人間を助ける為だけの物ではない。


 今でこそ、単独でマリスタザリアを討伐出来る者が数名居るが、昔はライゼルトだけだった。そんな中で勝手に外出され、マリスタザリアが生まれてしまえば、何れそのマリスタザリアは強大な敵となってしまう。人在るところにマリスタザリア在り、だ。


 マリスタザリア出現はある程度管理出来る。だからアルレスィア達は、動物型より人型のマリスタザリアの方が問題と、王都に来る前は思っていた。だがそれが計画段階で終わってしまったのは、勝手に外を出歩く者が後を絶たないからだ。すぐに通報してくれるのなら問題はないが――レティシアはあの手の者達が通報義務を怠る事を知っている。


(貸し一つですよ。巫女さん、リツカお姉さん)

 

 伝言しながらレティシアはクふふふと笑う。どこか斜に構えているが、本質はリツカに近い。表面だけで判断は付きにくい子だが――レティシアの周りに、人を外面だけで判断する者は居ない。


「ぶえぇーっくしょい!!」

「ン?」


 門を通るなり、外まで聞こえるくしゃみが聞こえた。それは聞き覚えのあるものだ。


「またお師匠さんがくしゃみしてますね。巫女さん達が噂をしてるのでしょうか」


 レティシアは肩を竦め、本屋に入って行く。前所持者が書き込んだ中古や古書、個人出版等を好むレティシアだが、新書も読む時はある。今回訪れたのは、博識なアルレスィアを見て本屋にも噂があるだろうと考えたからだが。


 その頃、盛大なくしゃみをしたライゼルトは――。


「……そんなに出ていきてぇのか?」

「俺は構わんが、作っとるのは剣士娘の刀だぞ」

「はぁ……分かったよ。赤の巫女様のっていうならしかたねぇ」


 武器屋から追い出されそうになっていた。二度目の大くしゃみは我慢ならなかったらしい。


「なんだ、剣士娘が始めて来た時と偉い違いだな。カカカッ! あん日は小娘が生言いやがって、つってたろ」


 力強く槌を振り下ろし、ライゼルトは刀作りを続けながら会話をする。結構余裕に見えるが、神経一本まで力を入れ、全身全霊で行っていると、付き合いの長い武器屋の主人は唾を飲み込んだ。


「しかたねぇだろ……。誰があんな子が剣士なんて思うかよ。お前じゃねぇんだから分からねーよ……。斬れるのが欲しいとか、良く分からない事言うし……」


 店主に限らず、その場に居た誰もが首を傾げた。唯一あの場で理解を示し、笑ったのはライゼルトだけだ。他の者はリツカが剣士とすら思っていなかったのだから、無理もない。


「実際、化けもん相手に普通の剣じゃ二,三回も斬りつけりゃ折れる。あの剣士娘はうまいことやっとる方だ。だがな、あいつが持ってるのは確かに中々のもんだが、ここの剣の延長だ」

(このことを剣士娘に言ったら渋い顔はしたが、否定せんかったな。あん時の顔は……理解はしとるが、そういう問題じゃねぇ、といった感じだった)


 ライゼルトの言っている事は正しい。リツカも理解している。しかし、あの剣にはアルレスィアを守るという想いが篭っている。一緒と言われるのは違うと、表情に出てしまったのだろう。アルレスィアを守るというのは、リツカの()()なのだから。


「あれで満足できないのか。お前が作ってるそのカタナってヤツもわけわかんねーし」

「俺もよくわかってねぇ」


 魔法が絶対の力であるこちらの世界において、リツカの齎す技術や思考は理解出来ない部分が多い。理解を示し、深く読み解けるアルレスィアが特別といえる。根底にリツカへの信頼と愛があるのは、言うまでもない。


「俺の元々の剣が刀に似とるっていうが、アイツが言うには刀身に波紋が浮かぶらしい。使った材料の特徴とかじゃなく、職人が造る人工的な波紋がな」


 国宝と呼ばれる刀鍛冶が作る刀は、芸術品としての価値も高い。ただ浮かび上がるのではなく、刃紋が生きているように見えるのだ。その美しさに心を奪われる者も多い。


「剣士娘に絵を描いてもらった。ほれ」

「これが……?」

「でけぇ爪楊枝みてぇだろ。カカカッ」

「いや、流石にそこまでは……だが、まぁ……ちょい、丸っこい、な?」

(まぁ読めば分かるからな。問題ねぇ)


 ライゼルトが言ったとおり、大きい爪楊枝に矢印が向き、説明文のような物が書かれている。爪楊枝と言ったが、どこかファンシーさの残る、可愛らしい絵だ。


「この世界の字がわからんから、と。巫女っ娘に言葉と体で一生懸命説明して書いてもらっとった」


 その頃を思い出すと――ライゼルトは笑いを殺して肩を震わせた。



「――……そんで? どんな風に作りゃ良いんだ?」

「そうですね。紙とペンありますか」


 リツカがライゼルトから紙とペンを受け取り、さらさらと書いていく。その様子をリツカの肩口からそっと見るアルレスィアの表情は、まるで母親の如く慈愛に満ちている。


「見た目はこんな感じです」

「……でけぇ爪楊枝か?」

「爪っ……違いますよ」

「ここが刃で、ここが取っ手ですね。ここの、刃と取っ手の間にある丸いのは何でしょう」

(視線だけじゃねぇのか。こいつらが言葉なしに繋がんのは。言われりゃ見えん事ぁねぇが……)


 ライゼルトにはさっぱりらしいが、アルレスィアにはしっかりと伝わっている。


「これは鍔っていって、剣にもある、ここの部分だよ」

「ここにも模様があるのですか?」

「うん。斬る道具としても評価が高いけど、こういった細部にまで拘った意匠とかが、人気なんだって」


 私にはちょっと分からないけど、とリツカは肩を竦めた。斬る為の道具と割り切っているリツカにしてみれば、極力持ちたくないものなのだ。


「あー、まぁ。何だ。他は?」

「えっとですね。ここはこう……折り畳まれてて、叩いて伸ばすらしいんですけど。柄の部分はこう、尖ってて、穴が空いてて、木で挟むんです。穴に木を通して留めるんですけど」


 絵を指差したり、手で空に描いたり、身振り手振りで表現してみたり、一生懸命伝えようとしている。そんなリツカを見るアルレスィアの表情は、恍惚だ。恍惚の表情で、リツカの絵に文字を書き込んでいく。



 ……――そうやって出来たのが、この絵図だ。


(全く。面白い娘っ子共だ)

「長い時間をかけて研究してぇが、今は時間がねぇ。刀身自体は俺の知っとる限りのことしかできん、と言ったらそれでいいと。とりあえず切れ味重視。そして形はそれがいいってな。なんでも柄って部分にあの娘っ子の木刀を使うらしい」

「へぇ」

「刀が欲しいというより、使い慣れた形のよく斬れるモノ。ただ斬れるのが欲しいのですっつってな」

「お、お前にそんな事言ったのか!? 良く受けたな……」


 剣に誇りを持つライゼルトに向かって、技術どうこうよりもただ斬れれば良いという発言はかなり命知らずだ。

 

(馬鹿野郎どもに言われたら絶対に造ってやらんが、剣士娘は別だ。あの目を見て断れるやつはいねぇ)

「細けぇことは、どうでもいい。俺は俺の出来る事を全てやる。剣士娘の本気もみてぇしな」


 リツカ以外が言っても、ライゼルトは聞かなかっただろう。腕もあり、剣に対しての造脂が深いリツカだが、戦いを好まない性格だ。そんなリツカがあんなにも本気の闘気を纏い懇願したから、許した。


(あいつはただの剣じゃ魔法を全力発動できねぇ。これの完成が本当に、あいつの希望だ)

「全く。馬鹿娘共だ」

(それに付き合ってるお前も大馬鹿なんじゃねぇか?)

「とか思ってんだろ」

「だから、人の心を勝手に読むんじゃねぇよ!!」

「カカカッ。俺のなんざ児戯だぞ。巫女っ娘なんざもっと――」


 武器屋を覗く少女が居る事に気付きいているライゼルトは、休憩の為に片付けを始めた。


「真面目な雰囲気ですね。領収書を渡す空気ではないです」


 気付かれているとは夢にも思っていないレティシアは、武器屋から離れていく。当然の事ながら――その後ろから、ライゼルトが尾行しているとは思うまい。


(リツカお姉さんが牧場で泣いていた、という噂話をネタにもう一枚領収書を受け取ってもらおうと思ったのですがね)


 本屋で新に仕入れた”巫女”二人の噂。その一つが、アルレスィアの裏の顔だ。


(リツカお姉さんの事となると、人が変わるですか)


 裏の顔といった言い方をしたが、物騒なものではない。ただ単に、リツカが関わるとアルレスィアは、普通の少女のようになるという、眉唾物の噂だ。


 噂の中でも信憑性に欠けるものとして、この王都でさえも広がりきれずにいる。それだけアルレスィアの気配擬態は完璧という事だ。リツカ以外に、アルレスィアの表情、気配の変化を見る事は出来ない。


(あの二人、自分はしっかり周りを見ているという雰囲気纏ってますし、実際よく見てますが、自分の事はてんでお粗末です)

「巫女っていうのは自分に無頓着になってしまうんですかネ」

(私には最初から、普通の仲の良い二人にしか見えませんでしたが)


 レティシアにはそう見えているらしい。人によって見え方が変わる”巫女”二人だが、レティシアからすればお茶目なお姉さんといったところか。


 だが、大半の人はこう思っているだろう。あの二人は――天使だと。容姿とかいう単純な話ではなく、存在感が、だ。


(気配とか感情とか、そういうの読めるとあんな風になるんですかね)


 最大限気をつけている二人だが、気配を薄められるライゼルトや、無表情を作り出せるレティシア達が隙を縫って見れば『普通』という部分が強調されてしまうのだろう。


(まァ、そんなおっちょこちょいなお二人が良いと感じてますけど)


 レティシアは噂集めを楽しんでいる。中には苛立ちを覚えるようなものもあるが、それでも二人を知るのは楽しいと感じている。こうやって他者に対して興味を持つ事自体珍しいのだが、ここまで好意的に捉える事が出来る相手が居るとは思わなかったようだ。


 共和国を守る為だけの王都滞在のつもりが、少し事情が変わってきたのだろう。レティシアの表情は当初よりもずっと柔らかい。常にジト目になっているような表情だったのだが、今ではエルヴィエールの前で見せるような笑顔なのだから。

 

「リツカお姉さんが泣いていたことは、黙っておいてあげますかね」

(その変わりこの領収書はリツカお姉さんに受け取ってもらいましょう。あのお馬鹿カップルの口止め料含めて)

「おい、魔女娘。何の話だ? 剣士娘が泣いてたっつーのは」

(ああ。リツカお姉さん、ごめんなさい。領収書はお師匠さんが払ってくれるようです)


 本気で謝っているようだが、リツカとアルレスィアがどんな反応をするか、純粋に楽しみにしているようだ。


 これがレティシアの愛情表現の一種という事は、エルヴィエールしか知らない。素直になれないから、少し悪戯をする。その中で信頼や親愛を語り、謝罪をするのだ。


 そんな所が可愛いのよ、と。エルヴィエールは惚気る。まるでリツカを褒めるアルレスィアのように。だからきっとレティシアは――アルレスィアを姉と呼べなかったのだろう。姉と呼べば、今以上に意識していまうだろうから。


「他言無用ですヨ」

「俺を何だと思っとる」

「口の軽イ、強引な人ですかネ」

「強引……?」

「まァ、渾名でリツカお姉さんの印象を和らげようとしたノ、早急すぎたって話でス」

「……そうか?」


 レティシアのジト目がライゼルトを直撃した。ライゼルトのやっている事が間違いだったと捨てる事はないが、タイミングは考えろと表情が言っている。


「今くらいの時期になラ、少しくらいは笑い話になったでしょうけド」

「つってもなぁ……。牧場で投げたっつぅ話は勝手に広がっとったからな」

「まァ、運が無かったのは否定しませんけド。とりあえズ、私はもう行きまス。リツカお姉さんが泣いたっていうのハ、私も又聞きなので詳しくは知りませン」

「それだけ分かりゃ良い。一つくれぇは反撃用のネタが要るからな」

(お師匠さんも結構子供っぽいですよね。まァ、ずっと肩肘張ったままというのは疲れるでしょうし、悪いとは思いませんけど)


 一つため息を吐き、レティシアは再び王都の奥へと進む。一体何を張り合っているのか分からないが、リツカへの反撃材料にしようとしているライゼルトに呆れたような視線を向けていた。


「あ。おい、魔女娘。金額の話――って、また居ねぇ……」


 もう一度言うが、レティシアは空気が読める。自身の食費を他者に払わせるほどケチではないが――払ってくれるという言葉を無碍にする無礼は働かない。何より今回は自身の為よりも、話を聞きやすくする為の経費としている。極力負担を減らしたいのだろう。


(お師匠さんも知りたいでしょうし、構いませんよね)

「そろそろ酒場に行きますか。昼間から飲んだくれている人は何処にでも居る物ですからね」


 レティシアの噂探しはまだ続く。次は酒場。そこに居るかもしれない、アルレスィアとリツカを知る冒険者か兵士を狙う。二人から口止めされていようとも、酒が入れば口が緩くなるだろう。


 それにレティシアは――”巫女”二人と違って、自身の容姿が優れている事を正しく自覚している。どんなに年齢が低くとも、美少女からの酌に気分を良くしない男はいないという事だ。



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