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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
12.因縁
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譲れないモノ④



 馬鹿騒ぎ……主に私とシーアさんとで牽制し合っていただけですが、マリスタザリアが近づいて来たようです。


「アリスさん」

「はい、リッカさま」


 リッカさまが”強化”を纏いました。報告より手前に居ました、ね。どうやら一人、先行班が足止めしているようです。


(ん? そろそろでしょうか。まだ目視出来てませんけど――準備しますか)


 ”悪意”からして、一体居るようです。三体という事でしたが、一体だけ逸れた? もしくは先行班が一体を誘い出した、といったところでしょうか。前者の気がしますが、魔力を練り準備しましょう。


 リッカさまは今から――槍になるのですから。


「兄弟子さん。私の合図で船止めてください」

「だから弟子じゃねぇ」


 一々反応するつもりでしょうか。リッカさまの言うとおり動いてくれそうなので、文句はありませんが……。


「――今です!」

「ととっ!?」

(何だ、あの速度……アイツ本当に人間か?)


 船が止まる際に起きた慣性よりも――リッカさまが船首を蹴った衝撃の方が大きかったです。それだけの力で船を蹴れば、止まった際の慣性も相まって――リッカさまは一本の槍のように射出されます。


光陽よ(【フラス・サンテ】)拒絶を纏(=【ルフュ)う矢となり(・フレシュ】)貫け(イグナス)――!」


 まだ遠い上に、リッカさまの速度に追いつかなければいけません。最長最速の”矢”を選択します。正直、威力は心許ないのですが……何処かに、刺さって下さいよ。


(杖、ですか。リツカお姉さんの木刀と一緒みたいですね。杖で照準を定め、動きを入れる事で想いを上げる。流石は巫女さんです。この距離で届く”矢”を撃ち出せるとは)


 高速で滑空するリッカさまの後ろに着いていくように、”矢”を飛ばします。


「そのまま動かないで!」

「!?」


 リッカさまがマリスタザリア――インパスと対峙している先行班に声を掛けました。急に後ろから声を掛けられた事で、体が硬直したようです。リッカさまの計画通りですね。


 先行班の後ろから突然現れたリッカさまに、インパスは後方への回避を選択しました。初撃を避けた後、鋭利に変質し、前方へと捻じれるように伸びた角で突き刺すつもりでしょう。


 その計画通り、インパスはリッカさまの初撃を避けました、が――リッカさまは突撃の勢いを殺す事無く着地し、流れるように回転をしました。それは次の攻撃をする為でもあり――私の”矢”の通り道を作る為でもあります。


「ッ!」


 ”矢”が当たった感触はありましたが……刺さって、いない?


(いえ、二本は刺さっているはず、です)

「シッ――!」


 まだまだ遠く、輪郭しか見えないリッカさまですが――空気の爆ぜる、止めの音はしっかりと聞こえました。どうやらインパスは沈黙したようです。


「一体の討伐を確認しました。残りの二体も近場に居ます。船をこの辺りで止めて、徒歩でリッカさまの下に向かいましょう」

「分かりましタ」


 船を壊されるのを避けるという目的もありますが、一番は強襲された際に戦い辛いという問題があります。リッカさまが警戒しているので強襲される心配はありませんが、こちらでも注意しない理由にはなりません。


「しかし……速いですネ」

(何て速度なんでしょう。豆粒のような距離ですが、しっかり見えてました。無駄な動きに見えて、全てが攻撃に繋がっているような動きでしたね。巫女さんの”矢”も、距離、速さ共に最上級。話に聞いていたよりずっと――いえ、正直甘く見すぎていました。強すぎます。その辺のマリスタザリアなら、兎を狩るよりも簡単にやれるでしょう)

「……」


 三者三様の反応ですね。シーアさんはしきりに感心し、リッカさまへの評価を上方修正しています。兄弟子さんは――形容し難い表情です。怒りか妬みか、敵意か。何にしても、”悪意”になってもおかしくない感情です。


「浄化した方が良いでしょうか」

「あ゛?」

「それっテ、あれですよネ。”光”による浄化で悪意を追い出すっていウ」

「はい。シーアさんも一応受けておきますか?」


 先程シーアさんから悪戯されたとはいえ、兄弟子さんがリッカさまに敵意のような物を向けているとはいえ、私怨はありません。魔法研究者として”光”を受けてみたいという欲求があるでしょうし、兄弟子さんは『感染者』候補なのですから。


「そうですネ。受けておきましょウ。ほラ、兄弟子さんも受けるんですヨ」

「何で俺まで。ふざけんな。つぅか俺はお前等の兄弟子じゃ――」

私に光(【フラス・ラン)の槍を(ツ】・イグナス)!」


 元々、”悪意”があるかもしれない兄弟子さんの為に撃つのです。話が終わる前にやってしまいます。


「ふむ。衝撃はありますけド、痛みはありませんネ。これも情報通りでス。私に悪意はなかったのでしょうカ」

「お二人共、ありませんね」


 正直兄弟子さんの事は疑っていたのですが、一切ありませんでした。やはり理性的な部分は生きていたようです。そうなると、本質からして気性が荒いとなってしまいます。精神修行を語っていたライゼさんが、この性格を矯正しないはずはないのですが……。


「悪意があるとどうなるんでス?」

「黒い靄のような魔力が出ます。魔力色が見えるリッカさまと私しか確認出来なかったので、シーアさんなら見る事が出来るかもしれませんね」

「魔力色が見えるっテ、バレていましたカ」

「論文にも、見えていないと書けないような物がありましたし、リッカさまの赤い魔力、見えていたでしょう?」

「ですネ。あんなに綺麗な魔力、見た事ないですヨ」

(まァ、綺麗というのなら巫女さんもですけど)

 

 隠す事ではありませんが、普通は見えない物です。きっと訝られます。変な疑惑を生むよりは、親しい者以外に話さないのも選択肢です。


「次浄化する時は呼んで下さイ。この目で悪意入りの魔力を見ておきたいでス」

「分かりました」

「てめぇ……ふざけ」

「船止めましタ。私達の為にしてくれた事なのですかラ、さっさと行きますヨ」

「……覚えとけよ」


 シーアさんは、兄弟子さんの調子を崩すのが上手ですね。私も見習いたいですが、人との交流に、未だ慣れていない自分が居ます。役目故に強行しましたが、もう少し話しておいた方が良かったですね。


「申し訳ございません。ですが、”悪意”への対処は時間との勝負です。冒険者のままで居たいのなら、ご理解下さい」

「……チッ」


 罪を率先して犯す人は少なからず居ます。ですが、冒険者となった兄弟子さんがそうとは思えません。色々と思う所はありますが、選任に選ばれている事を疑ってはいないのです。ここは理解してください。

 



 リッカさまが周囲の警戒をしながら、残り二体が居るであろう方向を見ていました。いつもであれば、私の接近に気付くと笑顔で近づいて来てくれるのですが――ここは戦場。リッカさまに緩みはありません。笑顔を見る事が出来ないのを、少々残念と思ってしまう辺り……私は緩みすぎです、ね。


「リッカさま。防衛班の方も、お怪我はありませんか」

「私は大丈夫」

「私も、怪我はありません。巫女様」


 先行班――防衛班所属の男性も無事ですね。アンネさんが手配したとおり、防衛に適した方達のようです。


「良かった。……リッカさま、魔法の手ごたえが……。何が起きたのですか?」


 状況が終わった訳ではありませんが、確認しておきたい事です。


「六本中二本が刺さらずに砕けた……。敵の硬さに関わらず貫くはずの光の矢が……敵の悪意も強くなってる」


 私の”光”を込めた魔法が弾かれる場合は、たった一つです。相手の”悪意”が想定よりずっと強かった場合。いつもの事ですが、調整が難しいです。

 

「もっと、洗練させる必要があるようですね」


 今回は速度と距離に特化させたので、威力に想いを割ききれませんでした。もっと素早く、”光”に込められるようにしないといけません。


「一体は倒せましたネ」

『シーアさんだからっていうのもあるんだろうけど、子供があの死体を見て眉一つ動かさないっていうのはやっぱり……色々と、痛感しちゃう、な』


 インパスの絶命を一応確認しているシーアさんの経験値に、再度驚嘆します。ただリッカさまの想う通り、喜ばしい光景とはなりません。子供が子供らしく。そういった世界が、リッカさまの求める世界なのです。子供扱いをする訳ではありませんが、シーアさんでいえば――戦闘ではなく人の為に魔法の研究を出来るような世界、といった所でしょうか。


 大人ですら顔を顰めるような死体を前に動揺一つ見せない程、シーアさんは女王陛下の為に戦って来たのです。それはリッカさまにとって、尊敬出来るものであり――哀しい事なのです。


「で、残りは」

「はい、あちらです」


 兄弟子さんは次を求めているようです。ただそれは、早く仕事を終わらせたいというのではなく、早く戦いたいといった様子なのが気になります。


「三体同時に襲ってきましたが、一体が群を外れたのを確認し、私が足止めを行っておりました。残りを皆で止めております」

「でハ、急ぎましょウ」


 ”悪意”の固着が進んでいるようです。目の前の獲物から離れるという行為がすでに……マリスタザリアの行動ではありません。統率の取れた、計画的な離脱。防衛班の分断と各個撃破を狙った行動でしょうか。それと、後続による強襲を手前の一体で止める? 三体同時に強襲される最悪の事態を回避したのでしょうか。


『少し、嫌な予感がする』


 リッカさまの第六感が、警鐘を鳴らしています。気を引き締める必要がありますね。敵は中々に、考えているようです。


「それにしても、赤いのが軽々倒せるんだからよ。防衛のやつらでも倒せるんじゃねぇか」

「あれは、アリスさんの”光”で一時的に浄化したから簡単にいけたんです。浄化出来なかったらもっと苦戦します。防衛班の方は村の守りを優先しているのでしょう」


 インパスのマリスタザリア、確かに”悪意”は強かったようですが、リッカさまならばそのままいけたでしょう。慢心しないからこその危機感です。


 防衛班は村から離れ、足止めを行っている最中でしょう。三体という時点で、選任到着まで討伐を諦めているはずです。


「私たちがやるべきことは討伐です。かもしれないで足を止めることはできません。安全を確認できるまで気を抜くべきではありません」

(さっきまで阿呆みてぇに騒いでたろうが)


 戦場に到着するまでは、緊張する必要はありません。問題は着いてからどれだけ迅速に最適な行動を取れるか、です。焦りは普段とは違う行動を誘発します。リッカさまですら、その経験があるのです。


(その経験があるから、今回のリッカさまは間違えません)


 インパス討伐後、一人で突撃するのではなくチームを待ってくれました。確実に成長しています。だから――私はそれに、応えましょう。


「年下のリツカお姉さんに完全論破された気分はどうですカ?」

「うっせぇ。てめぇはなんでそんなに挑発的なんだよ」

「リツカお姉さんは根に持つって、私は評価しましたけどネ。それよりもずっと私はもっと根に持ちまス」


 そういえば、ギルドで喧嘩してましたね。あの後すぐ、私達と普通に会話をしていましたが、ずっと兄弟子さんの謝罪を待っていたようです。一向に謝罪してこないから、シーアさんの中では喧嘩は続けていたのでしょう。


「ハッ。これだから餓鬼は」

「お三方。先に行ってくださイ。この野蛮人を教育しまス」


 本気にかなり近い冗談でもって、シーアさんが立ち止まりました。餓鬼と侮られるのだけは我慢出来ないようです。


(リッカさまも言っていました)


 想いを遂げる為に研ぎ澄ました覚悟と技を馬鹿にされるのだけは許せない、と。シーアさんもそうなのです。エルヴィエール陛下の為に戦士となった日から、子供である事を止めたのでしょう。


「シーアさん、帰ってからお願いします。マリスタザリアはまだニ体居ます」


 でしたら、止めましょう。ただのじゃれ合いならシーアさんは冗談としてすぐに止めたでしょうけど、兄弟子さんがこれ以上言葉を重ねると始めてしまいます。

 

「巫女さんに感謝するんですネ」

『シーアさん、大人びて、達観してるけど……意地っ張りで負けず嫌いな、子供っぽいところもあってちょっと安心かも』


 不本意といった表情ながらも、魔力を収めてシーアさんは歩き出しました。そんな拗ねたような姿が面白かったのでしょう。リッカさまが感慨深そうに見ています。


 私はというと――リッカさまとシーアさんの類似点をもう一つ挙げた後すぐだったので、ちょっとだけ俯いてしまいます。申し訳ございません、リッカさま。意地っ張りで負けず嫌いなのは……リッカさまも、です。


「いつもこのような感じなのですか。リツカ様」

「えぇ、気を張りすぎても仕方ありませんから。ご安心ください、皆様の防衛を無駄には、絶対にしません」


 気を張りすぎても仕方ない。というリッカさまの言葉に、微笑んでしまいます。先程の、自爆的な思考にくすりとしてしまったのもありますが、リッカさまの精神的成長が嬉しくもあるのです。


 それに――コルメンス陛下に近しい方という事もあるのでしょうけど、防衛班の方が「リツカ様」と呼んでくれた事も、少し。


 リッカさまの、王都での印象も好転しつつあります。この良い流れを物にする為に、残りの二体、しっかりと倒しましょう。

 



 抗戦中だった防衛班には下がって貰い、二体の様子を見ます。マリスタザリアならば追いかけてきますが――止まっています。相手の出方を窺っているようです。


(このままこちらに来てくれたら、奇襲で討伐出来たかもしれませんが……)


 相手の思考力が上がっています。ただでさえ人よりも強いマリスタザリア。それ等を討伐出来ていたのは一重に、マリスタザリアが単純だからです。そんなマリスタザリアが人と同等の思考を有してしまったら――危険度は跳ね上がります。


(魔法の有無も確認しなければ。もし使えたら、あのマリスタザリアは確実に殺さなければいけません。逃せば、魔王の前にあの者達が人類の脅威となるでしょうから)

「アリスさん。シーアさん、兄弟子さん。私が熊の注意を引きます。その間にドルラームの討伐を」


 そういうとリッカさまは、石を持ちました。その姿は――あの夜を思い出させます。


「どれくらいもちますカ」

「回避に専念すれば、いくらでも。ですけど、注意を引けるのは二分から四分です。私を倒せないとなると、相手は目標を変えるかもしれません」

「十分でス。その作戦に私は賛成しまス」


 二体同時に相手をするより、片方に集中して各個撃破が理想です。相手の気を惹き付けるのであれば私が”盾”で防御に徹するのが一番……と、言いたい所ですが、マリスタザリア相手だとそうではありません。リッカさまがすでに言っています。私を倒せないとなると、後ろからリッカさま達を襲うかもしれません。


(それに、”拒絶の光”がある私が攻撃側に入った方が、討伐速度が上がります。ドルラームの討伐というのなら、特に)

「リッカさま……。わかり、ました」

「異論はねぇ」 

「――では、お願いします」


 リッカさまが私達から高速で離れ――石を投げました。あの日のように……。ただ魔法で注意を引くよりずっと、効果的です。攻撃でも何でもない、ただの石ころ。そんな物を当てられたマリスタザリアは当然……。


「グル゛ッ」


 怒ります。


 お互い死角をカバーするように立っていた二体ですが、クマがズレたのでドルラームが孤立しました。


「グルァア゛!!」

「メェ゛?」


 リッカさまが戦闘を始めます。相手の体毛の硬さ、攻撃の質、どれも今までのマリスタザリアを凌駕しています。ですが、回避に専念したリッカさまに当てる事は出来ません。


「こちらも急ぎましょう」

「えェ、巫女さんは”光”をどうゾ。足止めは私がやりましょウ。兄弟子さン、サクッとやっちゃってくださイ」

「揃いもそろって命令しやがって」


 リッカさまを危険に曝し続けるような真似はしません。ドルラームが作った一瞬の困惑。ここを狙い一気に攻めます。


私の敵に(【フィアマ・セルク)業炎の棺ヲ(ュ】・オルイグナス)――」


 ”炎の棺”……拘束系の魔法です。ですがシーアさんのオリジナルのようです。本来熱よりも拘束に想いが割かれる為に、温度が上がらない魔法。ですがシーアさんのこれは――土が、燃えています。


(この熱で尚、焦げるだけの体毛……。それも驚きですが、簡単な言葉でこれだけの熱を出せるのですか。特級の五段階までしか階位がないから、五段階と言っているような物ですね。もし上があれば確実に上がります)


 本来ドルラームの体毛は、布団等に使われるくらい柔らかいです。しかしマリスタザリア化する事で、力を入れると硬質化する体毛となるのですが……そんな暇もなく拘束されたのに、すでに岩のように硬いようです。こちらも、強力な”悪意”という事ですね。


光炎よ、(【フラス・フラム】)強き剣となりて(=【シュヴェト・)悪意を打(マリス】・)ち滅ぼせ(オルイグナス)!!」


 シーアさんの”炎”の邪魔にならぬよう、”火”を纏わせます。”拒絶”によりシーアさんの魔力だけを弾き、炎という現象を残しつつ”光の剣”を――。


(撃ち込むっ!)


 私の”火”がシーアさんの作りだした”炎”を受け少しだけ大きくなります。副次的な効果でしかありませんが、威力は上がりました。問題なく、刺さります。


(まさか、私の”炎”に干渉しないように”拒絶”を? 厳密には違いますが、簡易的な大魔法のようになりましたね。本来喧嘩するはずの、他人の魔法に合わせるなんて……これが”拒絶”ですか)

「流石、キャスヴァル領で随一と噂される方ですネ」

「もういいな、斬るぞ」


 シーアさんが捕らえた段階で近づいていた兄弟子さんは、ドルラームに止めを差しました。首ではなく肩甲骨辺りですが――絶命したようです。


「ここまでお膳立てされてたら、戦ってる感じがねぇな。楽しくねぇ」

「野蛮人すぎでス。リツカお姉さんと同じ剣士とは思えませン」


 リッカさまは、戦いに楽しみを抱きません。戦っているときは常に、眉間に皺を寄せ……噛み締めます。救う為とはいえ、命を奪う行為を……楽しむと形容しないのです。


「ライゼさんとも、違う感じですね」

「今なんつった、巫女。ライゼが何だ――」


 単純に、何の気なしに呟いた言葉でした。そこで会話を終え、すぐにでもリッカさまの方に行こうという意味でしかなかったのです。とはいえ、ライゼさんと違う種類の愉悦と思ったのは本当です。


 ですがそれは、兄弟子さんの一線だったのでしょう。完全な殺意を向けて、私に歩み寄って来ていました。


「!?」

「あ゛?」


 ただ――その足が二歩目を踏み出す事はありません。足元に何かが突き刺さり、兄弟子さんは歩き出す事が出来なかったのです。


 私は、驚きました。兄弟子さんが攻撃されたからとか、”何か”とは一体何なのか判らなかったからではありません。それが分かりすぎて、驚き止ってしまったのです。


「――結構余裕あるじゃねぇか、赤いの」


 私への怒りを忘れた兄弟子さんの視線の先で、リッカさまは……核樹で出来た木刀を――こちらに投げていたのです。落ち着いた雰囲気など一切なく、クマの攻撃を避けながらも兄弟子さんを睨み続けています。


 その瞳には、純度の高い――殺気が込められて、いました。



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