アルレスィアはおちる A,C, 27/02/21
六花立花巫女日記の外伝です。暇がありましたら、本編から読んでもらえると嬉しいです。
リンク等は不安を感じる方が居られるかもしれないので、お手数では在りますが、小説情報からお願いします。
今作は本編をヒロイン視点から描いた物から始まり、各登場人物の詳細や裏話などを組み込んでいきます。
本編の後日談もありますので、まったりとお付き合い頂ければ幸いです。
平日12時前後に更新予定。一日に一部上げられるように頑張ってみますが、上げられなかった場合は申し訳ございません!
記入日 A,C, 2■/■/■
出会いは深い森の中。神により創られた湖での事。
私は湖の中に居る彼女を、『リッカ』を眺めていた。
彼女の目には、驚愕とほんの少しの……恍惚? があったと思う。
何故曖昧なのかというと、私はこのとき彼女に……見惚れてしまっていたから。
A,C, 27/02/21
「今日は、夕刻からですね」
”森の歓迎”。私が勝手に名付けた、秘密の時間です。一週間の内五日は夕刻から、二日は昼から、”森”は強く、私を歓迎してくれるのです。偶に当てが外れますが……基本は変わりません。
何故時間制なのか、私には分かりません。
アルツィアさまに聞いても、「私にも分からない事があるんだよ」と、苦笑いで諭された事は記憶に新しいです。
ただあの時のアルツィアさまは、隠し事をしていたというのは分かっています。無理に聞こうとは思いません。あの方が隠すという事はつまり――私の為になる事が多いからです。
「おはよう、ございます。お母様、お父様」
「うむ」
「おはよう、アリス」
まだ少し、ぎこちなさが出てしまう。私が勝手にやっていた事とはいえ……。
もう少し私も、努力しなければいけないのだと痛感してしまいます。
私が準備をしている間に、両親は一足先に食事所へと向かいました。私の起床を『集落』に伝え、食事の準備をしなければいけないからです。
この集落では食事を皆で摂ります。食事前に祈りを捧げる必要があるのです。
ここは”神林”集落。”神住まう森”と”巫女”を守る役目を持った方達が住む集落なのですから。
「おはようございます。アルレスィア様」
「おはようございます」
両親に近しい方達とは、挨拶を出来る程度にまで関係は良好となりました。このオルテさんも、その一人です。
集落の掟に従い王都に出ていましたが、最近戻ってきました。何故か戻って来た時から私に好意的だったのですが、父から何か聞かされていたのだろうと、深くは考えないようにしています。
あの”能力”を封じていますし、率先して読もうとは思いませんから。
食事所に集落の全員が集まったので、祈りを捧げます。
「―――我らが神、アルツィア様。御名、御身の威光をもって我らを救いたまえ。我らの罪を、赦したまえ。我らに贖罪の機会を、与えたまえ。
我ら、祈りを捧げる者。天にまします、我らが母アルツィア様よ。願わくは、御名を崇めさせたまえ。御身によって世界の安寧を。
我……御身の供物なり。拝」
暫しの沈黙の後、食事を始めます。会話はそこそこ、家族や近所の方と雑談する方も居れば、今日の予定を話す方、様々です。
私は朝食を手早く済ませ、集落の中を歩きます。この集落を、隠れずに歩けるようになって三年経ちました。
お父様とお母様に”あの事”を話して九年程です。
「本日は、午後からでしたか」
「はい。それまでは集会場に居ようと思っております」
「畏まりました。警備をそのように配置いたします」
短い業務連絡の後、オルテさんは行動を開始しました。
王都の事や情勢をもう少し聞きたかったのですが、守護職であるオルテさんにはオルテさんの仕事があります。
二日遅れではありますけれど、新聞は届きます。少し読んでおきましょう。
多分、西と北の事と冒険者募集、『マリスタザリア』への警戒が主の――いつもの新聞でしょうけれど。
集落の中央、集会所の前にある広場の椅子に、撫子色の髪をした女性――かの世界ではモモ色と言うそうですが、その女性は、ぼうっと空を眺めて座っていました。
『おはよう、アルレスィア』
「おはようございます。アルツィアさま」
私が頭を下げると、朝の日常を送ろうとしていた集落の方達も頭を下げ、祈りを捧げ始めました。
『今日は午後からだったね』
「はい」
軽く手を振って祈りを受けたアルツィアさまも、今日の確認を私にしています。
アルツィアさま。この世界、かの世界の創造主――つまり、神さまです。アルツィアさまの姿と声を認識出来るのは、私だけです。
私はこの世界の”巫女”。”人”と”神”を繋ぐ役目を持った”者”です。
未婚で処女の乙女の中から一人、”神”により選ばれる存在が”巫女”です。数多くの制約が課せられますが、主な業務は集落から出ずに、”森”に通う事です。
『さて、じゃあ集会所に行こうか。勉強するんだろう?』
「新聞を軽く読んだ後、王都の事を復習しようと思っております」
『じゃあ今日は、共和国の教科書で学びなさい」
「分かりました」
何れ来る”お役目”の為に、他国の言葉も学ばなければいけません。何処に居るか分からない、怨敵を目指すために――。
新聞にはやはり、多くは書かれていません。長らく行われていた、罪状不明の元貴族、名前すらも不明な者の裁判が終わったというのが一面です。何一つ分からない一面ですけれど、分かる事はあります。
「お金を積んだのですか」
『まぁ、お金も力だからね。人の世において、明確な力の一つさ』
「そう、ですね。人を変えるだけの力がありますから」
思い出されるのは、先代です。そしてその隣に居た、あの人。金銭問題は好きではありません。
新聞の残りは、冒険者の活躍やマリスタザリアの討伐報告、その被害状況ですか。政治や町の情報は少ないですね。
『今日は何体出現だったのかな』
「八体、ですね。小型含めてですけれど……死者が十六名……」
行商の一団が襲われたと、凄惨な現場写真と共に書かれています。どうやら、家畜に紛れていた鼠等の小動物がマリスタザリア化したようです。その余波で、家畜数体も変質したのでしょう。
討伐した人の名前は、ライゼルト・レイメイ。良く見る名前と顔です。覚えておくべきでしょう。王都に行った際、会う必要があるかもしれません。
『ほう。一人で八体を』
「凄まじい戦闘力です。”光”もなく、一人で八体を討伐出来るなんて」
マリスタザリアへの対処は難しいです。一体だけでも厄介なのに、それを八体討伐出来るなんて……世界中探しても、数名しか居ないと思われます。
「この方が居なければ、もっと犠牲が出ていたでしょう。放置すれば『悪意』も深く固着され、更なる力を身に着けていたはずです」
『そうだね。王都はライゼルトで保てているようなものだ」
「…………」
『もう少しだよ、アルレスィア』
「分かって、おります」
このライゼルトという方は間違いなく、『英雄』なのでしょう。私……いえ、私達も何れは……。
(集落という狭い場所ですら、ぎこちない私が……ちゃんと、出来るでしょうか)
私はまだ、”人”を信じきれていないのではないのか。そう、思う時があるのです。
何しろ私は、犠牲者が出ているという事に心を痛める一方で――何れくる”巫女”さまに、想いを馳せているのですから……。
『それで良いよ』
「良いのでしょうか……」
『きみはまだ何も知らない蕾だ。どんな花を咲かせるか、それは今後の成長次第さ』
「……」
蕾、そして……花……。そう、ですね。結論を出すのはまだ、早いです。
私はまだ何も始めていないのですから、今出来る事をする。それが、未来に繋がると信じています。
「ところで、アルツィアさま」
『うん?』
「偶に植物で例えますけれど……どうしてですか?」
昔は、そんな事無かったと思うのですけれど。
『ふふふ。それも、お楽しみさ』
「もしかして、それが今日の?」
『ああ、そうなるね』
全く……私をからかうのが、お好きなんですから……。ですけど、アルツィアさまとの語らいはやはり……楽しいですね。
午後になりましたので、復習を終え”森”へと入ります。
「今回の教科書は少し、コルメンス陛下への批判が強めに書かれていましたね」
共和国で売られていた教科書とはいえ、王国にも出版されているはずの本です。なのに王位を簒奪する為に戦争を起こした犯罪者とまで書かれていました。
コルメンス陛下は、この国……キャスヴァル王国を代表する『英雄』です。コルメンス陛下が王となったのは、国民から望まれてと記憶しております。
この教科書では戦争という表現をしています。しかしその実、王都でのみの戦闘。しかも攻め入る前に、王都内の協力者によって国民の避難は済んでいたと歴史書には書かれていました。
簒奪という言葉は当て嵌まらないと思います。
『あの教科書は貴重品だよ。何しろ出版後すぐに販売停止になった物だ』
「王都では出版されなかったのですね。しかし何故それが、ここにあるのでしょう」
『イェルクが置いて行った。コルメンスとイェルクは少し喧嘩をしていたからね。その当て付けだ』
あの人の……そういう事なら、話題を変えましょう。丁度湖の前まで来た事ですから。
『どうかな?』
「まだ、始まりません」
”森の歓迎”を感じられるのは、私だけのようです。アルツィアさまですら感じないというのですから、私の”拒絶”が関わっているのかもしれません。
”能力”の事もありますし、私という存在は生い立ち含め、規格外のようですから。
「今日の分はもう、ダメなのでしょうか」
『ダメだよ、アルレスィア。一日一回の約束じゃないか』
はぁ……さらりと教えて貰えましたけれど、今回のは特に意味が分からないものでしたね……。
えっと、何故か例えが植物になる、ですか。一体これは、何を意味しているのでしょう。
それも含めて……楽しみ、なのでしょうね。