全てが沈む時
少し前に爆発的に人気だったアレを題材に話は進みます。
「異世界転生、転移には飽きてきたところだろ?」
おっと、だれかの声がした気がしましたが、前置きは以上です。
高校2年の夏休み、茫々と広がる草原に横になり空を見上げる。特にやりたい事などはなく、ただぼんやりと。目的意識もなく毎日ただひたすらに学校へ行き、同じようなことを続けるだけの日々に嫌気がさしていた俺は、今日のような日が楽しくてしょうがないのである。自分の思うまま、気の向くままに、普段することのできないような体験をすることができるのだから。
でもまさか、非日常的な体験をすることになるとは思ってもいなかった。
草原に来てから数時間が経った。緩やかに吹き抜ける心地のいい風と、太陽を雲が覆っている状況が相まって、無性に眠くなってしまった。時刻は昼の12時、軽く眠ってもいい時間だろう。そう思った俺は、昼食もとらずゆっくりと目を閉じた。
それからしばらくして、背中に違和感を覚えた。寝る前まで感じていた柔らかな感覚とは違い、妙に固く痛いのである。それに加え一切の風を感じない。戸惑いながら恐る恐る目を開けると、本来視界に入るはずである空とは違い、見覚えのない天井が映った。
「どこだよここ! どうなってるんだ」
急な出来事に頭の整理が追いつかず狼狽する。確実に草原にいたはずなのに、寝転んでいたはずなのに、明らかに違う場所である。つと思いついたように起き上がり辺りを見渡すと、壁際に無尽蔵に椅子と机が積み上げられ、真ん中には無数のパソコンが置かれていた。さしずめここは学校のコンピュータ室なのだろう。壁に貼られている紙にチャイムのなる時間が記されているため、ほぼ間違い無いと思う。けれど、この空間に見覚えがないことから知らない学校であることが分かる。
「拉致されたのか?」
絶対に人は来ないだろうと思い寝てしまったのは愚行だったか。仮にも外なのだからある程度は警戒をしておくべきだったと、今更ながらに悔いる。と同時に、疑問が脳裏をよぎった。手足を縛られたような跡はないし、万一縛られていたとしても流石に途中で覚醒していたはずである。詰まる所、俺が目覚めない訳がないのだ。
考えれば考えるほどに、未だ落ち着かぬ頭は更に落ち着きをなくしていく。そして気づくのだ。こんな状態で冷静に考えられるわけがない。
俺はおもむろに立ち上がり、景色を見るべく窓へと近づいた。そこで見えたものは、とても奇妙なものだった。
「もう訳がわからない。なんなんだよ」
景色よりも先に、窓ガラスが鏡のように反射して映す自分の顔が目に入った。そこに映る俺の顔は、俺ではなかった。全く見覚えのない顔である。
ありがとうございました。
需要があれば文字数も増やしつつ書いていこうと思います。