お父ちゃんが帰ってきた!
「ひーちゃん、ただいま」
「お帰り、お父ちゃん」
「ほら〜ギュウ〜」
「ウチもギュ〜」
キャッキャ言い数か月ぶりの再会を喜ぶ父娘を、俺は少し冷めた目で、見ていた。
なぜかって、面白くないからだ!
この数日、勉強と家事をこなして、ひなを構う時間を作っても、肝心のひなは『ウチ忙しいけぇ、兄ちゃんの相手しとる暇ないんよ」と言って冷たいんだ。
だから、親父にべったりなのが気に入らないんだ!
自分の勝手で出て行ったくせに、ひなを占領するなんてズルイぞ。親父。
「茂、どうしたんだ?もして、高い高いしてもらいたいとか?」
と親父が言ってくるけど、何アホな事をぬかしてやがるんだ。ひなが、親父にベタベタしてるのが、気にいらないだけだっての。
「なんで、そうなるんだよ!高2もなって、高い高いしてもらって嬉しいかよ!」
「そうだよね。ひーちゃんが、僕にべったりなのが、気に入らないんでしょ」
「まぁな」
「そんなに、はぶてなくても(拗ねなくても)いいじゃない」
いちいち指摘しなくても、いいじゃないか。なんかムカつく。
子供じみてると思うが、親父から顔を背けて、部屋へ戻ろうとしたその時。
「んも〜、兄ちゃんを、イジメたらいけんのよ!兄ちゃんイジメるお父ちゃんなんか、嫌い!」
「そんな〜」
その場に親父は、崩れ落ちた。
ざまあみろ。俺をからかうからだ。
と、腹黒い事を考えてるとは、つゆ知らずのひなは、ご機嫌で俺に近付く。
「兄ちゃん、冷たくしてごめんね。はい!お誕生日、おめでとう!」
とスカートのポケットから取り出したのは、青いビーズで作られたストラップだ。
今までは、似顔絵とか折り紙で作った物だった。だけど、今年は実用的な物を作ってくれたんだ。
「んとねー。兄ちゃんの分とねー。そこで寝とるねー。おっさんの分も作るのに、忙しかったんよ。じゃけぇ、兄ちゃんに冷たくしとったん」
「あっそう。ねぇ、ひな。合間に凄く気になる言葉があったんじゃけど、そこで寝とるなんて言った?」
「ん?おっさん」
なああ。ひなが不良になったぁぁ!
なんて言葉覚えてるんだぁ!
崩れていた親父も復活してひなに問い詰めてる。
「ひーちゃん。そんな悪い言葉を、どこで覚えたんね?」
「そうじゃ、ひな。どこで覚えたんね?」
「ん〜。瞳子さんが使っとった。なんかねー、仁のとこにねー、遊びに行ったら、瞳子さんとねー優おじさんがね、ケンカしよったん。(してたの)
そん時瞳子さんがね、『この役立たずのおっさんがー』ってね言うてたよ」
「瞳子ちゃん。子供の前でなんて言葉使っとんよ」
親父がブツブツ言いながら、スーツのポッケからケータイを取り出してどころかに電話してる。
ちなみに、瞳子さんは、親父の従姉妹だ。恐らく、瞳子さんに抗議でもしてるんだろうな。
「ねーねー。兄ちゃん。『ヘタレ』ってどういう意味?この前ねー、お母ちゃんがねー、『茂は、好きな娘に告白も出来ないヘタレなんだから』って言ったよ。ヘタレの意味教えてーや」
瞳子さんだけじゃなく、母さんまでもか。出来たら教えたくない。
多分頭のいいひなの事だ。すぐに覚えて使うに違いない。
誕生日プレゼントを貰ってうれしい筈なのに、ひなが将来とんでもない性格になりそうな予感でいっぱいという複雑な気分だった。
十年後。
ひなは、女子高校生になり、どうなったかというと。
「兄さんは、ヘタレなんじゃけぇ。とっと、茜さん口説き落としてきんさいや。勘弁してよね。アラサーのおっさんが、ヘタレとかありえんけぇ」
「そりゃ悪かったのぉ。まったく可愛らしないのぉ。いっちょ前に嫌味言うようになってからに」
「うっさいハゲ!そよな(そんな)こまい事(小さい事)言うとる暇があるんなら、茜さんをデートに誘ってきんさい!」
「剥げとらんもーん」
可愛いかったひなは、今や隙きあらば
ポンポン嫌味を言う娘になってしまった。ああ。本当時間が巻き戻せたらいいのに。
とりあえず最終回です。最後は、今のひなさんになるきっかけとなった出来事です。