4 お化けこわい!
すいません。前回、小学生編に移ると予告してましたが、もう一話3歳編をやります。
夜の8時前。茶の間では、追いかけっこが繰り広げられていた。
「兄ちゃん、ここまでおいで〜♪」
「こら、ひな。待ちんさい!髪乾かさんと、いけんでしょうが!」
「うきゃきゃ〜、兄ちゃんこあい〜♪」
ちょこちょこと、茶の間を逃げまくるひなを俺は、バスタオルを持って追いかける。
いつもひなを風呂に入れて、パジャマを着せるのは、ばあちゃん。髪を乾かして、寝かせつけるのは、俺の仕事だ。いつもの事とはいえ、ハイテンションだな。
「ほら、捕まえた」
「捕まっちゃた」
ひなをどうにか捕まえ、バスタオルで髪を拭き、ドライヤーで乾かしてやる。
「兄ちゃん。ありがとの〜」
「はいはい。いいえの(どういたしまして)」
ドライヤーで乾かし終え、ひなを俺の部屋に連れて行く。
この頃、ひなが寝る頃に、母さんが居ない事が多いから、一緒に寝るようになったのだ。
「兄ちゃん。絵本読んでぇ」
「分かっとるよ。その前に、ころんして下さい」
「はーい」
と、ひなは、コロリと布団に横になり、キラキラした目で俺を見てる。
「今日は、「猫オバケのにゃかにゃん」ね」
「わーい。にゃかにゃん」
にゃかにゃんは、子ども達に大人気のキャラクター。おばけ界から呼び出されたにゃかにゃんを相棒に、主人公の男の子が、人間界で悪さをするお化け達と勝負し、最終的には、仲間にしていくというストーリーだ。
「こうして、にゃかにゃん達は、花子さんを仲間にしたのでした」
読み終えた所で、ひながウトウトしだした。
「はぁ、やっと寝た」
風呂に入ろうかと、部屋を出たら親父が、帰ってきたところだった。
「ただいま。疲れたな〜。茂、それ『にゃかにゃん』の絵本?」
「うん、ほうじゃけど。どしたん?」
と俺が返事したら、親父がニンマリと微笑んだ。ハッキリ言ってキモい笑顔だ。
大概、何かたくらんでやがるんだよ。
でもまぁほっとこ。
しかし、この選択に俺は 後悔するのだった、
翌日の夕方。
「 おばちぇ~♪おばちぇ~ ♪」
茶の間のこたつ机で宿題をしてる俺の側で、ひなは、さっきから、おばちぇ~♪と自作の歌を歌いながらお絵かき中。
チラッと見る限り何を描いてるのか、さっぱりわからない。
まあ絵が出来たら、見せてくるだろ。
そう思って、俺は宿題へと思考を戻した。
宿題も終わり、夕飯までの時間をテレビを見て過ごしていたら、お絵かきをしてたひなに呼ばれた。
「 ねっねっ! 兄ちゃん見て! ウチが描いたんよ!」
ご機嫌MAXのひなが、落書き帳を見してくる。クレヨンで描かれたグシャグシャの二つの丸。何の物体だろう。
頭をひねってたら、描いた本人が答えてくれる。
「 おばちぇ! ぶりかわいいじゃろ?(すごくかわいいでしょ?)」
「 うん可愛いね」
おばちぇ?ああお化けか。て事は、黒い線で描かれたグシャグシャの丸、お化けの体で、赤い丸はお化けのベロかな。
それにしてもひな。お化けを可愛いって言う発想。俺は、お前が将来大物になりそうである意味怖いよ。
俺の膝の上に乗って、「 おばちぇ~♪おばちぇ~♪」と歌ってるひなを見ながら俺はそう思った。
それにしても、お化けを絵に書く程気に、にゃかにゃんシリーズ気に入ってるのか。
また図書館に借りに行かなきゃ駄目かなぁ。いやもしかしたら、古本屋にあるかもな。そしたら、また出費だな。お小遣い貯金いくらあったかな?と、思考してると、夕飯の準備が出来たと、お祖母ちゃんが呼んできたので、ひなを連れて台所へ向かった。
―――
真夜中。ごそごそとひなが動く音で目が覚めた。
「 どしたんな?」
「 おしっこ」
「 兄ちゃんが、ついていっちゃろか?」
「 ううん。みーちゃんつれてくけぇ、らいじょうぶ」
「 ほうか」
ひなは、寝ぼけ眼のまま、お気に入りのみーちゃんを抱っこしたままトイレに向かった。
眠い中、トイレについて行かなくてもいいのはありがたいが、兄ちゃんはみーちゃん以下なのか? ちょっと寂しいぞ。
まぁいいか。お化けを怖がらないし、三歳児にしちゃ肝座ってるし、ひなが戻ってくるのを無理して起きて待ってなくていいだろ。
だけど、数分後。
「 ふやや〜。こあい~」
うとうとしてた俺の耳にひなの鳴き声が飛び込んできた。
「 にいちゃあ。おばちぇこあい~」
あわてて自室から出てきてみれば、ふやふや泣くひなの前には、190センチ近くある白い物体。
俺は即座に物体の正体に気づいた。
「 親父!何なんしょうるんや!(してるんだよ!)ええ歳したおっさんが、実の娘脅かしてからに!ふざけなや!ひなが泣きよるじゃろうが!」
ふやふや泣くひなを抱っこし、頭からかぶったシーツを取る親父を怒鳴りつけた。
「 まさか泣くとは思わんかったんよ。ひーちゃん、喜ぶかなーって思ったんじゃもん」
「 ……普通、誰でも驚くわい」
なんて親だ。真っ暗な中シーツかぶった人を見て喜ぶやついるか? ましてや三歳児だぞ。怖がるに決まってる。
多分、俺でもびっくりして大声出しるぞ。
「だって、猫お化けのにゃかにゃん。好きじゃろ?」
「あのな。にゃかにゃんと一緒にすなや(するなよ) クソ親父!にゃかにゃんは、良い子のお友だちなんでよ。親父のは、ただの肝だめしのお化けじゃろうが!ふざけんな!まったく。この事は、母さんに報告しとくけぇの、じゃおやすみ」
「ええ、ミキちゃんに報告するのだけは、やめて!お願い」
知るか!自業自得だろ!
そう思い、ひなを抱っこしたまま、部屋へ戻り、母さんのケータイにこの事をメールしてやった。
翌朝。親父は、恐い笑顔で、母さんに根掘り葉掘り尋問された挙句、罰を与えられたのだったマル。