3 喧嘩しないで。
8月も半ば。お盆休みで帰省してる人たも多いだろう。けど、うちの場合、帰省した人を受け入れる側だ。
服部家の本家というのもあって、お盆と正月は、帰省した親戚が入れ代わり立ち代わりやって来るんだ。
今日も、親父の従姉妹の瞳子さんが子供さんを連れて、遊びに来てるんだ。
とはいえ、瞳子さんの場合、我が家から歩いて三十分位の場所に住んでるから、
帰省で来たというよりは、習慣だから来てるって感じだよな。
でも、こういう親戚の集まりとかって、大人達は、話で盛り上がってるけど、子供からすれば退屈だよな。
そして今の俺は、自室で三歳児の相手を申し付けられてるんだけど。これ、どうにかなりませんかねぇ。
「しずくちゃんのばか〜!ひなのみーちゃん、とっちゃ、めっなの!」
「あ〜ん。とっとらんもん。ウチにかしてぇーや!」
二人の幼児が、喧嘩してるんだ。一人は、ひな。もう一人は、瞳子さんの娘さん、俺やひなからしたら、再従姉妹の雫。ちなみにひなと同い年だ。
この二人が、ひなにあげた猫のぬいぐるみを取り合いしてるんだ。
「めー、かさん」
「やーもお、かしてぇやー!」
「んやー!」
「や〜」
「あーもう、ケンカせんの!(しないの!)」
しんとなった。ヤレヤレこれで静かになるかな。と思ったのも、つかの間だ。
「んやーかしゃんてば!」
「もうー、かして〜!」
……やっぱり駄目か。幼児って納得しないとやめないからな。さてどうしたもんかな。
猫のぬいぐるみは、引っ張られ、尻尾のあたりは、避けてしまってる。
「や~、かしゃん。言うたら、かしゃんの〜」
「いや〜、かしぇ〜。かして〜や」
「んや〜、かしゃん。かしゃんよ〜」
破けるじゃないか。せっかく作ったのに。
もう一度怒るしかないな。
「しずくもひなちゃんも、けんかしたらいけんのんよ!ほら、にゃんこいたいって」
この一言で、ひなも雫もシンっとなり、喧嘩がピタッとおさまった。
自室の入口を見ると、髪に寝癖が付きまくった男の子。雫の双子の兄の仁だ。お昼を食べたあと、お昼寝していた筈だけど、二人が喧嘩してたから起きてしまったんだろう。
仁は、猫のぬいぐるみを拾い、ぬいぐるみを観察してる。
「あーあ。二人がひっぱりゅけぇ、にゃんこのしっぽが、やぶけとる。ごえんねぇ。痛いね〜。ごめんねぇ」
仁は、ひたすらぬいぐるみに、話しかけて、ひなと雫を睨み付ける。
「ほら、二人共、にゃんこに、ごめんして!」
「ごめんちゃい」
「ごめんなさしゃい」
さっきまで、貸すだの貸さないだので揉めてたのに、ひなも雫もショボくれてしまってる。
「もう、喧嘩したら、めっ!よ!いっちゅも、保育園でせんせぇにも言われとるじゃろ!仲良くしましょうって」
「「うん」」
「じゃ、今度は、二人共ごめんして!」
「ごめんちゃい」
「ウチもごめんなしゃい」
「じゃ、今度は、三人で遊ぼ!お庭でかくれんぼしょうや」
「うん!」
「しよう!」
三人は、テテテと庭に向かって、部屋から出てってしまった。
俺が、どうしようかと悩んでたのに、「にゃんこが痛い」の一言で、仁はひな達の喧嘩を収めてしまった。
「にゃんこが痛い」かそんな事すぐに、思いつくのって、やっぱり小さい子は違うなぁ。と思いつつ、猫のぬいぐるみを直す為、裁縫箱を出したのだった。
次は、ひなさん、小学生です。
なんか、朝ドラ並みのスピードで、すみません。