2お出かけ
夏休みが始まった。で明日は日曜日。俺は、家族と一緒に出かける事になった。
行き先は、広島市内の繁華街 本通り商店街だ。俺的には、府中町のショッピングモールへ行きたかったが、ひなが、「しろしまに行きたい」と言ったから仕方ない。
翌日。電車と路面電車を乗り継いで、本通りまでやって来た。
予想はしてたけど、わんさか人がいる。
広島最大の繁華街だからな。家族連れや俺くらいの年齢の子が、カップルや友人同士で歩いてる。
ちょっと羨ましくなるけどな。俺と手を繋いで、チョコチョコ歩くひなの可愛い姿は、友達や彼女と一緒だと、絶対見られない。
今日のひなは、白のTシャツにピンクのフリフリとしたスカート。背中には、ウサギさんのリュック。ちょんまげに結った髪の毛を止めるヘアゴムには、ピンクのポンポンが付いてる。
うん、うちの妹は、世界一可愛い。あと十年くらいしたら、男の子にモテモテの美少女になるに違いない。
と、俺は、くだらぬ事を考えてたら、親父が、要らぬ茶々を入れてくる。
「ひーちゃんお父さんとお手て繋いで歩く?」
「やっ!お父ちゃんのお手て、ベタベタしゅるけぇ、お手て繋がん!兄ちゃんと繋ぐ!」
とひなが言った瞬間、親父は、ガーンてショック受けてるけど、手汗拭いとけよな。母さんや俺が何度も言ってるのに。
「まったく。いつも言ってる事を守らないからよ。なら、ひーちゃん。お母さんと、手繋ぐ?」
「お母ちゃんも、やっ!兄ちゃんがいい!」
「なんで?」
「だって、お母ちゃんは、いっちゅも、ひなと寝んねしょうるじゃろ。じゃけ、兄ちゃんと手繋ぐの!」
と、母さんも親父同様、ショックを受けてる。しかも、夫婦して路上に座りこんでるし。……放っておこう。あの二人ああなると、暫く動かない。あとから、居場所だけメールしとこう。
俺は、そう思いひなを連れて、行く予定のお店へと足を向けた。
―――
「ねっ!兄ちゃん、見て!おにゃんこしゃん!」
「ホンマじゃ」
ひなが欲しがっていた絵本を見つけ、本屋さんから出て来たら、幼い子供達に、人気の猫のキャラクター「おにゃんこさん」のキグルミが本通りを練り歩いていた。
何かのイベントか何からしく、数名のスタッフさんらしき人に、誘導されながらグレーのぽっちゃりボディを揺らし、子供達に愛想を振りまいてる。暑いのに、大変だなぁ。
ひなをおにゃんこさんの所に連れて行きたいけど、無理だ。さっき、親父からケータイに『紙屋町の地下街で合流しよう』ってメールが入ったんだよな。
「ねぇ、兄ちゃん!おにゃんこしゃんの所に行きたい!ダメぇ?」
「おにゃんこさんの所に?」
困ったなぁ。ひなの言う事聞いてやりたいけどな。可愛そうだけど、早く連れて行かなきゃ。
「ひな。おにゃんこさんは、また今度にしよう」
「いや!おにゃんこしゃんの所行くの〜」
ひながバタバタと癇癪を起こし始めた。
「ひな。早く行かんと、お父さんとお母さん心配するじゃろ」
「いや〜、おにゃんこしゃん〜ふや〜」
とうとう泣き出してしまった。正直俺も泣きたい。
抱っこしようにも、座り込んでしまって、
どうにもならない。手を差し出しても、
「いや〜、おにゃんこしゃん〜」
と泣くだけだし、ふやや〜というひなの泣き声が、あたりに響いてる。
しかも、まわりの視線も痛い。
どっから見ても、俺がイジメて泣かしたようにしか見えないだろうな。
『意地悪なお兄さんね』と言われてる気がする。まじで助けて下さい。
その時
「お嬢ちゃん、おにゃんこさんだよ〜、おにゃんこさんが、泣かないでって言ってるよ」
と笑顔と笑顔のお兄さんと、おにゃんこさんが、俺らの前まで来ていた。
「わあ、おにゃんこしゃん、おにゃんこしゃん!」
泣いてたひなは、おにゃんこさんに纏わりついて、キャキャっ喜んでる。
お兄さんがこっそり俺に耳打ちしてくる。
「いやぁ、見るに見かねてねぇ。俺も歳の離れた弟や妹がいるからさ、ついね」
「ありがとうございます」
本当に助かった。多分こういう事は、ルール違反なんだろうけど、お兄さんの気づかいは、嬉しかった。
後日談。
部活を終えて帰ってきた俺は、小学生の頃、家庭科で使っていた裁縫箱を引っ張り出し、ある物を作る為に、慣れない縫い物にせいを出していたんだ。
「茂、裁縫箱引っ張り出してどしたんな?」
「うん、いや。ひなに、にゃんこちゃん作ってくれって、言われたんよ」
実は、あの日以来、おにゃんこさんにどハマリしたひなに、おにゃんこさんのぬいぐるみをせがまれたんだけど、うちのルールで、誕生日以外おもちゃを買いませんというルールがあるんだ。だから、こればかしは、仕方ないので、ひなにどうにか諦めてもらったが、代わりに「にゃんこちゃん作って」とおねだりされてしまい、こうやって作ってるんだ。
「ほうなんね。でも、家庭科以外で、縫い物やっと事なかろう?(ないでしょう) どれ、ばあちゃんが、教えちゃろう」
「お願いします」
とばあちゃんに、教わりながら、どうにかなるさにゃんこのぬいぐるみを作り上げた。
ちなみに、にゃんこのぬいぐるみは、「みーちゃん」と名付けられ、長い間、ひなに愛用される事なるのだった。