私の番は 首のない騎士です。
初めまして、私の名前は海藤菫。私がこの世界に来たとき、一番始めに出会ったのは山賊の方々でした。彼らの拠点である廃墟に連れて行かれ、商品として牢屋に入れられました。ええ、そうです。奴隷として売れると判断されたんです。牢屋の中でどうしてこうなっちゃったんだろうって、ずっと嘆いていました。でも、しばらくしたら何だか騒がしくなって。何だろうって思っていたら、山賊さん達の声が聞こえてきて。
「首無し騎士が出た!」
「何があってもぶっ殺せ!じゃねえと皆殺しにされるぞ!」
よりにもよって、そんな言葉が聞こえちゃったんですね。その時は本当に怖くて、これからどうなるんだろう。私も首無し騎士っていうのに殺されるの?って、牢屋の中で怯えてました。そのうちに怒鳴り声も悲鳴も聞こえなくなって、代わりにカシャッ・・・ガシャッ・・・っていう音が牢屋の方に近づいてきました。怖くて体が動かなくて、どうしようって思っている内に、扉の向こうから姿を現したのは黒い鎧を身につけた首無し騎士でした。情けないことに血まみれの剣を見た瞬間、私は気を失ってしまったんです。そして、次に目を覚ましたら、何故か豪華なベッドに寝かされてました。
山賊の拠点とは明らかに違う場所に混乱しましたね。死んだのかなって思いもしました。でも、お腹がすいてるから生きてるのかなって迷いましたね。あの時は本当に状況が分からなくて、部屋から出るのも考えられませんでした。そのうちに、またあの音が聞こえてきたんです。ええ、そうです。鎧の音です。やっぱりここで死ぬの!?って思いましたね、あの時は。
扉が開いて、現れたのはあの時と同じ首のない騎士でした。ただ違ったのは、手に持っているのが血まみれの剣ではなく、私と同じ名前の花だったんですけどね。・・・ああ、はい。そんな顔もしますよね。わかります。私も見たときはそんな顔をしていたでしょうし、こっちの常識を知ったときも驚きました・・・。しかもですよ?私に傅いて手に持ってる花を渡してきたんですよ?いわゆるポカン顔にもなりますよね?
その日からはまあ、訳の分からない日々でした。首無しさんは私に毎日花をくれたり、城から出ようとするとどこからともなく現れて連れ戻されたり、私の話し相手をどこからか拉致してきたり・・・。拉致だと分かったときは首無しさんが怖かったことも忘れて叱りましたけどね。度胸を出せばなんとかなるものです。本当に。
拉致されてきたお姉さんのお陰で、こっちの常識を知れたのは良かったですね。あ、お姉さんは首無しさんの知り合いであるケット・シーと結婚して、時たま遊びに来てますよ。旦那様の毛並み最高!とか言ってますね。ええ、幸せそうで何よりです。
それでお姉さんに教えてもらったことのなかに、『番』と『ギフト』のこともあったんです。何らかの方法でこの世界に来てしまった異世界人が、この世界に順応するために魔物と契約して『番』になり、こっちの世界の住人になったことの証として『ギフト』を得る。私が聞いたのはそういうお話でしたね。
それで、契約して番になったら首無しさんの言いたいことが分かるようになるかなぁと思ったんです。首無しさんが私に好意を持ってくれているのは分かっているんですけど、やっぱりジェスチャーだけじゃ限界があって・・・。え?首無しさんが怖くないのかって?そうですね・・・。お仕事で本来の寿命よりも長く生きた人たちを殺しに回る姿は、とっても怖いです。でも、首無しさんは、私に優しくしてくれます。私を怖い人たちから護ってくれる、素敵な騎士様なんです。
「だから私、あの人の番になれて後悔なんてしていません。とっても幸せなんです」
なのに、何で周辺の方々からは「首無し騎士に攫われた可哀想な王女様」になっているんでしょうね??
異世界人:海藤 菫
ギフト:○※×~の加護(文字化けで一部読めない)
職業:主婦
称号:囚われの王女(笑)
死神騎士の妻
(・・・・・・) スッ
(あ、今日のお花ですね!ありがとうございます!)
(・・・・・・?) ガチャ ガチャ
(え?人間の騎士達にお姉さんの旦那様のことを言わなくていいのかって?)
(・・・) カチャ
(猫妖精の王様ですから、身分は釣り合っていると思います。・・・え?そういうことじゃない?)