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第二話 出会いは突然に


 異世界から亡命者が来る四か月前。

 雪が降りそうなほど寒い季節。そして最も寒い深夜に大和は女性に出会った。

 細身で高い身長に長い髪。髪の先から指の先まで、誰かが理想を描いたかのように一切の無駄がなく美しい。どこか神秘性を感じさせる外国人の女性に。

 残念ながら大和に深夜に会う約束をするような女性はいない。コンビニに行った帰りに偶然出会ってしまった。

 これがもしも、普通の出会いならば会釈してすれ違って終わりだ。相手が美しい女性だろうと、深夜だろうと関係ない。

 問題はその女性がこの季節に薄着で、裸足で歩き、まるで迷子のようにおろおろとしながら大和を見つけると聞いたことない言葉で話しかけてきたのだ。

 日本語でも英語でもない。今まで耳にしたようなこともない言語。そして焦った様子の女性。

 我が身を大事に考えるなら関わらない方が良い。深夜に、美人な外国人女性が、一人で焦り困惑している状況。関われば良くて警察、悪ければ闇へと葬り去られそうな危険な案件だ。

 だから無視する。大和はそうするつもりだった。


 女性が寒さで肩を震わせていなければ。

 

「……着ろ」


 唯一の冬用上着を女性に渡す。言葉は分かっていないようだが行動から察したようで、驚いた顔から嬉しそうな顔になって上着を受け取る。

関わってしまった以上、ある程度は世話をしなければ考えるも良案が浮かばない。

 警察に頼る、も考えたがすでに深夜。ここで通報し保護してもらおうとすれば事情聴取などで時間を取られ、解放されるのは朝日が上がる頃。見ず知らずの人のためにそこまでするほど大和は親切ではない。

 なので、一旦保護して明日に警察に向かおうと考える。それに今ならインターネットで色々と調べられる。簡単な意思疎通は出来るかもしれない。最悪、警察に疑われても擁護してもらえる程度には信用してもらおうと思っていた。




 だが現実は甘くなかった。




 ネットで調べても女性が何を言っているのか分からず、何とか意志疎通だけでも出来ないかと世界地図を見せたり、世界各地の画像を適当見せたりしたがどれも珍しいものを見るような反応で、馴染みあるものを見つけた反応はなかった。

 さて困った、と大和は頭を抱える。最低限の意思疎通が出来ないと保護ではなく誘拐と勘違いされかねない。通報されれば人生が終わってしまう。それを避けるにはどうするのか。必至に考えを巡らす。

 追い出す。今更? それに最悪この女性が警察のお世話になった際にここでのことを話すかもしれない。いきなり連れていかれて追い出された。この選択肢は駄目だ。未来にとてつもない爆弾を抱えることになる。


 このままでは見知らぬ外国人女性を部屋に連れ込んだと通報される。警察は外国人女性を保護し、大和は別の意味で警察のお世話になることになる。


 自主的に出て行ってもらうか、ここに居させるかしかない。

 自主的に出て行ってもらうには女性の行き先を知る必要がある。しかし言葉が通じず、文化が違うのか何をしても物珍しい反応ばかり。こちらは期待できない。

 となればここに居させる? 朝まで居させればいい。その後に交番を頼るように仕向ければ良い。

 なら今することは何か。僅かでも好印象を与えて、もし警察に話しても何らかの疑いを掛けられないようにする。

 考えをまとめた大和の行動は単純だった。


「食え」


 インスタント食品を与えた。女性との交友がまるでなかった大和は好感を抱いて貰う方法として餌付けしか思いつかなかった。

 女性は目の前に出されたインスタント焼きそばに首を傾げながらも、大和の口に運ぶ仕草から食べ物だとは理解して、箸を両手で持ち巻き取って食べた。

 外国人の味覚だ。もしかしたらインスタント食品は口に合わないのでは、と大和は心配していたが。


「ん~」


 気に入ってくれたようで箸で巻き取っては口へと運んでいく。

 本日の大和の夜食が目の前で消えて行く。しかしこの程度で女性から好感を得られるのであれば安いもの。しかしそれでもと、何とも言えない感情を胸に大和は女性が食べ終わるのを待っていた。

 しばらくして、女性は全てを食べ終えて箸と空の容器を大和へと返した。

 まさかおかわりではないだろう、そこまで図々しいとは思わずそれを受け取って流しに持っていき、容器を捨てて箸を洗い終わり振り返れば。


 そこには誰も居なかった。


 女性が勝手に帰った?

 扉が開いた気配はなかった。誰かが動いた音もしなかった。しかし女性はいなくなっていた。

 理解は出来ないが、部屋に女性はいない。それだけは分かった大和は。


「あっ」


 すぐに財布を確認。ついでに中身を確認。通帳など貴重品も確認し、全ての無事にほっと安堵した。

 どうやら物盗りではなかったようだ。

 女性は満腹になったので勝手に帰った。自分なりの答えを見出して明日に備えて寝ようと準備を始めた時にふと、ある物がないことに気付いた。

 大和が冬と言う厳しい季節を生き抜くための必須アイテム。


 唯一の冬用上着。

 

「持っていかれた」


 懐が冷たい今、新しく買う余裕はない。

 今年の大和は寒い冬を過ごすことが確定した。


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