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「今日、何処行こっか?」
彼氏、話も上手で、歌も上手。ルックスもセンスもいいし。
前の彼氏なんか比べ物に…
「どうしたの?」
上の空の私に彼が声を掛けてくる。
コーヒーを持つ手、背景のカフェ、絵になるなぁ。
「ううん、何でもないよ。遊園地行こっか。私ジェットコースター乗りたい‼︎」
今は楽しい時間なんだから、楽しまなきゃ。
「いや、ここ遊園地なんだけど…まぁいっか、ジェットコースターだね、行こっか。」
そうだった。遊園地内のカフェで一息ついてたんだった。
今日は、どうも頭が回ってないなぁ。
机の上に置かれた伝票を取り、レジへと向かう彼の姿に、私は何故か何もかも違う元カノの事を重ねていた。
「どうしたの?行こう?」
払い終わって帰ってきたらしい彼が一向に席を離れない私に、声を掛ける。
立ち姿も魅力的で、周りにいたOLの視線が釘付けになっているのが分かった。
「うん、行こっか。」
「どうしたの?なんかあった?泣いてるけど。」
「へ?」
気の抜けた返事をして、目元を擦る。
確かに水気を帯びていた。
何でだか原因は全く分からないのに。
「うん、ちょっと前に飼ってた猫が居なくなってね。外にいる猫見て思い出しちゃった。」
「え、そうだったんだ…ごめんね…」
あぁ、優しいなぁ。
ごめんね、嘘だけど。
そんなところも好きだよ。
「何で謝るの、さっ、コースターに行きましょ。」
涙で化粧が崩れていないかを、携帯のカメラ機能でざっと確認し、席を立った。
店員のありがとうございました、何なら彼氏置いてけみたいな作り笑顔と声を受け、彼に手を引かれ店を後にする。
見せつけてるみたいね。
私にそんなつもりはないよ。
あなたたちがどう思うは分からないけど。
「着いたよ、意外と近いね乗り場。」
もう着いたらしい。
歩いていた道順すら思い出せないくらいには、ぼーっ、としているのかも。
どちらから来たかくらいは覚えてないかなと、周りを見渡すと、相変わらず人目がこっちに向けられてた。
何ヶ月か一緒にいるけど慣れないなぁ。
「うん、乗ろっか。」
「うん。足元、気を付けてね、美玖。」
阿奈原美玖、それが私の名前。




