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少女と蛞蝓

作者: イカ

とある星の生物が、宇宙船に乗って宇宙を散歩していた。長い時間ふらふら移動していると、青と緑に囲まれた綺麗な星を見つけた。望遠鏡でその星を観察したところ、どうやら生物もたくさん住んでいる。その中でも、星の至る所に住む二本足の生物は、なんだかとても面白そうである。宇宙船に取り付けられた端末を使って調べたところ、ニンゲンという生物であることが分かった。宇宙船に乗る生物は、この青と緑の星に遊びに行くことにした。


青と緑の星に着陸する前に、彼は急いでニンゲンの言葉を勉強した。ニンゲンより高度な知能を持ったその生物は、ニンゲンの言葉などすぐに全部覚ることができた。さらに彼は、彼の星の最先端の技術を使って、ニンゲンの姿に変身した。しかし、もともと目玉を一つしか持たなかった彼は、目玉が一つだけのニンゲンの姿になってしまった。彼の星の最先端の技術を使っても、これが精一杯なのである。他の部分はニンゲンそのものなので、目玉が一つしか無いことくらい、あまり注目はされないに違いない。端末の画面に表示された情報によると、ニンゲンには一人一人に名前が付いているらしい。彼は自分に、なめくじという名前を付けた。


青と緑の星に静かに降り立ったなめくじは、その自然の豊かさに驚いた。どこを見てもたくさんの植物に覆われており、少し離れたところには大きな川も流れている。なめくじはしばらく景色に見とれた後で、ニンゲンを探すために歩き始めた。


少し歩くと、建物がいくつか並んでいるのを見つけた。きっとあそこには、ニンゲンたちが住んでいるに違いない。そう思っていると向こうの方から、青色の布を巻いたニンゲンが歩いて来る。なめくじはそのニンゲンが近くに来ると、

「こんにちは」

と声をかけた。なめくじを見た青色のニンゲンは困ったような顔をして、足を縺れさせながら走ってどこかへ行ってしまった。言葉がうまく伝わらなかったのだろうか。そう考えたなめくじは、次は大きな声ではっきりと喋ることに決めた。


そのまま建物の方へと歩いて行くと、たくさんのニンゲンがいる開けた場所に出た。赤色の布を巻いたニンゲンが椅子に座っていたので、なめくじはそのニンゲンに話しかけることにする。なめくじはニンゲンに駆け寄ると、今度は大きな声ではっきりと、

「こんにちは」

と言った。赤色のニンゲンは顔を上げてなめくじを見ると、座っていた椅子から落ちそうになった。

「なによあなた、気持ちが悪い」

赤色のニンゲンはそう言うと、なめくじをちらちらと振り返りながら、早足でどこかへ行ってしまった。周りを見ると、いつの間に集まったのだろうか、たくさんのニンゲンたちがなめくじの顔を指差して、なにやらこそこそと言い合っている。なめくじはようやく理解した。他のニンゲンと違って目玉が一つしか無いので、ニンゲンたちはなめくじのことを気持ち悪がっているのである。こんなことになるなど考えもしなかったなめくじは、すっかりしょげてしまった。


自分の星に帰ろう。そう思って宇宙船の方へと歩いていると、前の方に桃色の布を巻いた子供のニンゲンが見えた。なめくじは顔を見られないように地面を向いて、ニンゲンの前を小走りで通り過ぎようとする。その時、

「こんにちは」

と高い声が言うのが聞こえた。なめくじは話しかけられたことに驚いて、すぐに返事をすることができなかった。恐る恐る顔を上げると、桃色のニンゲンがぴょんぴょんと跳ねるように、なめくじに近づいて来た。

「あなた、見たことない顔だわ。名前はなんていうの」

「えっと、なめくじっていいます」

「変な名前ね」

そう言って桃色のニンゲンは、けらけらと笑う。

「私の名前はみみよ。ねえ、一緒に遊びましょうよ」

「あの、あなたは、僕のことを気持ちが悪いと思わないのですか」

「どうして気持ちが悪いの」

「目玉が、一つしか無いからです」

「そう言えばそうね。どうして、目玉が一つしか無いの」

「生まれた時からこうなんです」

「あらそう。そんなことより、はやく一緒に遊びましょうよ」

みみはなめくじの手を掴むと、その手を引っ張ってとことこと歩き出した。


なめくじとみみは、暗くなるまで遊んだ。

「とっても楽しいわ」

「僕も、すごく楽しいです」

「私たち、もう友達ね」


二人が話をしながら川の近くに座っていると、そこに大人のニンゲンたちが集まってきた。

「本当にいやがった。なんだあれは、気持ちが悪い」

「目玉が一つしか無いなんて、きっと悪い化け物に違いない」

そう言うと大人のニンゲンたちは、なめくじに向かって石を投げ始めた。

「ちょっとみんな、やめてよ」

みみが大きな声で言ったが、大人のニンゲンたちは構わずに石を投げ続ける。遠くから飛んできた石の一つが、みみの額にぶつかった。

「痛い」

みみが額に手を当てて、蹲る。額から離した手には、真っ赤な血が付いていた。

「大丈夫ですか。向こうに逃げましょう」

なめくじとみみは、そこから走って逃げた。


二人は森の中に逃げ込み、大きな木の陰に隠れた。大人のニンゲンたちも、どうやらここまでは追って来ないようである。なめくじとみみは、そこでしばらく時間を潰すことにした。


気が付くと、辺りは真っ暗になっていた。

「もう夜ね。家に帰らないと」

みみはそう言って立ち上がる。

「あなたも、私の家にいらっしゃいよ」

みみの家族であれば、きっとみみのように優しいニンゲンたちに違いない。なめくじはそう思って、ついていくことにした。


木製の三角と四角がくっついたような小さな家は、少し歩くと着いた。みみは入り口の扉の前まで行くと、鉄の持ち手を引っ張る。なめくじは心臓をどきどきさせながら、みみの少し後ろで立っていた。

「鍵がかかっているわ」

どうやら扉は開かないようである。

「お母さん、私よ、みみよ。開けてちょうだい」

みみは木の扉を手で叩きながら、大きな声を出した。しかし、返事は無い。もう一度みみが大きな声で叫ぶと、右手の壁の小さな窓が、がらがらと音を立てて開いた。

「化け物と一緒にどこかへ消えてしまいなさい」

大人のニンゲンの声とともに、窓から大きな石が飛んできた。


みみは、帰るところが無くなってしまったようだった。二人はどこへ行くでもなく、暗い夜の道を歩いている。なめくじの体の中は、みみに対しての申し訳ないという気持ちでいっぱいになっていた。

「ごめんなさい、僕のせいで、みみの帰るところが無くなってしまいました」

「なめくじのせいじゃないわ」

そう言いながらも、みみは泣き出しそうな顔で下を向いてしまった。見ていられなくなったなめくじは、思い切ってみみに言った。

「良い考えがあります。僕の星で、一緒に暮らしましょう」

「あなたの星って、なあに」

「僕は宇宙船に乗って、遠い星からここまで来ました。僕の星には優しい友達がたくさんいるし、きっとみみも、楽しく暮らせます」

「それは本当なの」

「きっと、大丈夫です」

みみは、なめくじの星で暮らすと言ってくれた。


宇宙船に乗り込み、二人はなめくじの星へ向けて出発した。飛び立つ時でも、宇宙船は揺れたりはしない。

「僕は、この機械でニンゲンに変身したんです」

宇宙船の中に取り付けられた、卵のような形の機械を指差しながら、なめくじは言った。

「そうだったのね。本当は、どんな体なの」

「少しだけ、待っていてください」

そう言うとなめくじは、その機械の中に入っていく。機械の隙間からぴかぴかと光が漏れたかと思うと、ちん、という音とともに機械の扉が開いた。扉からは、目玉が一つの、どろどろとした大きなナメクジが出てきた。

「これが、本当の僕の姿です」

「宇宙人って、本当にいたのね」

みみは少しだけ、驚いていた声で言った。

「僕たちの星で暮らすために、みみもこの姿になってくれませんか」

みみはしばらく悩んでいたが、分かったと言って頷いた。

「かわいくしてよね」

そう言ってみみは、丸い機械の中に入っていく。ぴかぴかと光った後で扉から出てきたみみは、小さなナメクジになっていた。しかしなめくじとは違って、目玉は二つのままであった。

「僕の星の技術では、目玉を一つにすることはできませんでした」

「そんなこと、大丈夫よ」

みみはそう言った。


なめくじの星に到着するまでに時間が掛かったので、みみはなめくじの星の言葉を教えてもらった。しかしなめくじの星の言葉はとても難しく、みみには到底覚えられそうもなかった。みみが宇宙船の窓から外を覗くと、赤と黄色の星が見えた。

「なんだか綺麗な、星があるわ」

「あれが僕たちの星です。もうすぐ到着します」

宇宙船は、赤と黄色の星に静かに着陸した。


そこはみみが住んでいた星とは全然違っていた。見渡す限りに高い建物が立っており、どれもぴかぴかと色とりどりに光っている。空ではたくさんの銀色の乗り物が、あちらへこちらへとものすごいスピードで飛び交っていた。

「なめくじの星は、すごいのね」

「みみの星より、少し発達しています」

二人はなめくじの友達のところへ向かうため、どろどろと歩き出した。


なめくじは、空飛ぶ乗り物で移動しようと言った。しかしみみがいくら待っても、なめくじは空飛ぶ乗り物に乗せてもらうことができないようであった。仕方がないので、二人は歩くことにした。みみは歩きながら、すれ違うナメクジたちが、なにやらこそこそと話をしていることに気が付いた。しかしこの星の言葉を知らないみみには、彼らがなんと言っているのかは分からない。

「ねえなめくじ、周りのみんなは、なんて言ってるの」

「なんでもありませんよ」

なめくじは、そう答えた。


なめくじの友達がいるという建物に到着した。入り口まで行くと、なめくじが急に壁に向かって話し始めた。どうやら壁に取り付けられた機械で、建物の中の友達と話をしているらしかった。少し離れたところに立っていたみみは、しばらくするとなめくじに呼ばれた。

「ちょっとこっちに来てもらえますか」

「どうしたの」

「ここに立ってください。友達にみみのことを紹介します」

どうやら壁の機械を使うと、建物の中から外の景色を見ることもできるらしい。

「ありがとうございます。向こうでもう少しだけ、待っていてください」

みみはさっきのところで、再び待つことにする。なめくじはいつの間にか、機械に向かって大きな声を出していた。またしばらくすると、ようやくなめくじがみみのところへやって来た。

「友達は都合が悪いみたいです」

「あらそう、残念ね」

なめくじは、悲しそうな顔をしていた。


これからどうしようかと歩いていると、うー、と大きな音を立てて、空飛ぶ乗り物が近づいて来た。乗り物は赤くぴかぴかと光っており、みみは見ているだけで目が痛くなってしまった。運転手のナメクジが窓から顔を出し、みみとなめくじに向かってなにやら大きな声を出した。それを聞いたなめくじは、こちらもなにやら大きな声で言い返している。みみには、二人がなんと言っているのか分からない。二人の声がますます大きくなったとき、運転手のナメクジの手元から、ぴかっ、と光線が出た。光線はなめくじの足に当たり、なめくじが大きな悲鳴をあげる。なめくじの足からは、黒色の血がぼたぼたと流れていた。みみとなめくじは、走って逃げた。


「さっきは、なにを話していたの」

変な匂いのする建物の隙間に隠れた後で、みみが尋ねた。

「「目玉が二つある化け物を連れて、早くこの星から立ち去れ」と、彼は言っていました」

なめくじは、とても悲しそうな声で教えてくれた。そしてなめくじも、帰るところが無くなってしまったらしかった。

「ごめんなさい、わたしのせいで」

「みみのせいではないですよ」


とても悲しそうな顔をしながら、二人は宇宙船まで歩いた。仕方がないので、二人は他の生物のいない、綺麗な星を探すことにした。

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