009 処刑
群衆をかき分けて進んだ先には、教会の兵士が立っていて、広場の中心を取り囲んでいた。
取り囲まれた先にあるのは、薪の山と磔にされた三人の男女だ。
男女は年齢は二十代から三十代といったところで、一人の男は褐色の肌をしていた。
三人ともに、体中に生傷だらけで、疲れ切った顔をして、眼には絶望で溢れていることを悟る。
「――者達は、災厄をもたらそうとした異邦人である。死すら生ぬるく、故に火あぶりとなる!」
広場の中央で、一人の老人が声高らかに叫ぶ。
その瞬間、群衆が歓喜に沸き、はやし立てた。
イーセイは、嫌な現場に出くわしてしまったと後悔するが、周囲は、エリカもダンも処刑に好奇の目を向けている。
地球の歴史でも、時代と地域によっては処刑が見世物になっていたことは辛うじて知っているが、そんな現場に出くわすとは思ってもいなかったし、人が死ぬ現場を見て楽しむつもりもない。
最も、この広場で一番人を殺してきたのは、彼であることは間違いない。
リンクアーマーに乗って戦場を駆けてきた彼は、桁からして違う。
それにしても同じ異邦人、つまり自分と同じように地球から来た人間が処刑されようとしている。
ようやく出会えた仲間……と言って良いか分からないが、そんな人間を助ける手は無いだろうか。
いや、無い。
最早こうなってはどうしようも無い。
この世界にも、キリスト教に似た宗教があり、それが大きな権力を持っている。
それが処刑しようとしているのは、どうあがいても止められない。
もしも、こうなる前に出会えたらと願うばかりだ。
「火をくべよ!」
老人の言葉に、兵士が火の付いた松明を放り投げた。
ジワジワと薪に火が移り、死刑囚を足下から少しずつ焦がし始めた。
既にあきらめていたはずの三人は、暑さに苦しみ、身をもだえさせながら、体を振り回すように動かす。
それでも、硬く締め付けられた体は、木の棒から逃れることを許さない。
「なにをした?」
横で、火あぶりを眺める恰幅の良い男に問いかけた。
「なんでも、農夫達を騙したそうだ。奴らが持ってきた種とやり方でやってみたら、作物が全部枯れちまって、村が三つ干上がっちまったそうだ」
「……そんな」
恐らく、それは、この世界ではまだ成立していないことを広めようとしたのでは無いかと推測する。
だが、失敗した。
やり方が悪かったのかどうかまで分からないが、恐らく、何かしらの問題があったのだろうか。
何故、村も彼等を信じたのだろうかと疑問は残る。
もしくは、妨害されて、罪をなすりつけられたか。
憶測の域を出ないが、事実は分からないが、あの異邦人は失敗したのだ。
その罪を着せられ、焼かれていく。
村が干上がって滅ぶなど、この大陸南部ではそう珍しいことでもないが、珍しくも無いことを罪にされてた。
「失敗は罪、不運は罪」
思わず呟いた。
それは、周囲の喧噪にかき消えていった。
周囲の群衆も、エリカもダンも、興味津々とばかりに炎に飲み込まれていく三人を見つめている。
炎が大きく三人の異邦人を飲み込んでいく。
きっと、こんな未来を想像なんてしていなかったに違いない。
未知の世界で、自分だけは成功できると信じていたに違いない。
いずれは地球に戻れると希望を持っていたに違いない。
それもなにもかも、異邦人の絶叫とともに炎が飲み込んでいく。
自分もああなっていたのかもしれないと、嫌でも頭の中にイメージがわいてくる。
いや、本来なら、傭兵団に拾われなければ、リンクアーマーの適性が無ければ、とうの昔に死んでいたはず。
ひたすら運が良くて、生きながらえているに過ぎない。
「大丈夫?」
顔色でも悪く見えたのか、エリカがイーセイに尋ねてきた。
「……行こう」
「うん」
同じ異邦人として、イーセイがあまり良い気分では無いと判断したのか、エリカは素直に頷いた。
興味津々に興奮するダンを引きずるようにして、三人は広場から去っていたのだった。