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007 宿舎

イーセイを拾った傭兵団の名前は、グレンの傭兵団。

 その団長は、グレンというそのままである。

 そのグレンがイーセイ達の前に立っている。

 歳は三十代といったところだろうか。

 髭は綺麗に剃って、首元まで伸びる髪も綺麗にクシが入って整えられている。

 普段なら、自慢のミスリル製の剣とフルプレートアーマーを身につけているが、今は街の中の宿屋ということもあって、麻の簡素な服を着ているだけだった。


「これがお前達の分」


 そういって、グレンが布の袋を差し出した。

 イーセイが受け取る。

 イーセイの横には、エリカとダンが立っていて、覗き込むように袋を見た。

 戦後の報酬の受け渡しである。

 傭兵団も約五十人いるものだから、何組かに分けて順番にグレンが手渡している。

 イーセイに渡されたのは、彼等三人分の報酬金だ。

 普段の三食と必要経費は団がまかなっている上で、こういった報酬が渡されるわけであるので、ありがたいことはありがたい。

 しかし、正直言えば、その大きさを見て、少なく感じられた。


「えっと」


 ダンが、少し戸惑った様子で布袋を見る。


「もうからなかったの?」


 それに対して、エリカはハッキリと問いかけた。

 グレンは苦笑しながら、横にある椅子に座り込んだ。


「そうか、お前達には言ってなかったかな? もう少し、団の蓄えを増やしていくことに決めてね」

「なんかあるの?」

「マスケットだ」


 そうグレンが断言する。

 マスケット。

 先込め方式と呼ばれる銃口から火薬と弾を込める方式で、銃身にライフリングが施されていない銃である。

 この大陸南部では生産はされていない。

 しかし、大陸の中央部とされるエリアから輸入されている。

 ただ、イーセイが見る限り、マッチロック式であったりフリントロック式であったり、銃身の長さ、口径がまちまちであり、なにやら技術の発展が入り交じっているかのような印象を受ける。


「いっぱい仕入れるの?」


 エリカが今更という様子で問いかける。


「これからはどうしても、マスケットが必要だ。ミスリス製の鎧には通用しないが、鋼鉄の鎧相手なら貫ける。それに、弓矢よりも習得は早いと聞くしね」

「ふーん。命中率悪いって聞くけど」

「それを踏まえて、もっと良いマスケットを手に入れる当てがあってね。そのための蓄えがいる。分かって欲しい」

「まぁ、そういうことなら」


 エリカはあっさりと食い下がった。


「なんでも、飛距離は三倍、命中率も良くて、装填の手間も半分以下になっている造りだそうだ。それに信頼性も抜群。この話を逃す手は無い」

「なんだが、話がうますぎない?」

「はは。そうかもしれないが、信用できる商人からの話だ。いいか? この大陸での戦い方はマスケットで変わる。これからは大量のマスケットを主体にした部隊が必要になるはずだ。剣と鎧の時代は終わるだろうね。まぁ、リンクアーマーは別だけど」


 地球での大まかな歴史を知っているイーセイとしては、それはそうだろうなと思える。

 この世界は、世界で、歴史を紡いでいるのだろう。

 最も、リンクアーマーという地球から見ても規格外の兵器の存在が、やはり異質ではある。

 戦国時代に戦車と戦闘ヘリを持ち込んでいるようなものだろう。

 いや、それ以上かもしれない。

 だが、鋼鉄でできた程度の兵器であれば、現代兵器で破壊することも可能だろうかとも思う。


 軍事に詳しいわけでも無いが、戦車は複合装甲と呼ばれるものであるし、その戦車砲にならリンクアーマーは流石に耐えきれないように思える。

 そう考えると、リンクアーマーというのは、果たして、どの程度意味のある兵器と言えるのだろうか。


「どうかしたか?」

「いや、リンクアーマーは増やさないのかと」


 今の状況を考えると、単純にそうしたほうが良いのでは無いかと思えた。


「増やしたところで、乗れる奴がな」

「俺、乗れるようになる!」


 ダンがここぞとばかりに一歩前に出て、名乗り上げた。

 しかし、グレンの反応は落ち着いていた。


「お前にか? 到底乗れるとは思えないな」

「ぐっ」


 この名乗り出た態度を見るに、イーセイへの対抗意識の問題だろうか。

 イーセイは自身が乗れるのは恐らく、偶然だろうと思っている。

 たまたま適性があった。

 それだけだろう。

 それに、乗れば一騎当千とも言われるが、それだけ殺戮者として君臨することになる。

 それでも、構わないのだろうか。


「まぁ、とりあえず、羽を伸ばしておけ。またすぐに次の仕事の交渉をすることになる」


 その言葉を背後に受けて、三人は街へと繰り出した。

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