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047 真実

クリストファーが通路を歩いて行く。

 片側には壁と時折、扉、反対側はガラス張りになって中庭が見える。

 ここはキーパーズ本部施設だ。

 巨大都市ジルバートの特別行政区に広大な敷地を有しており、警備員も巡回を欠かさず、厳重な警備が敷かれている。


 キーパーズは、多数の異邦人つまり転移者を保護し、その者からもたらされた技術を独占し、莫大な富を築いている。

 そういった面から、単なる利権組織と揶揄されることもある。

 実際、その莫大な利権目当てに近づく者、出世を目指す者も多い。

 だが、あくまでも最大の目的は転移者の保護ともたらされる技術のコントロール、そして世界の調和を守ることにある。


 最も、クリストファーは、あまり気にせず仕事をしている人間の一人であるが。

 出世はほどほどにしているし、功績も残している。

 あとは、自分の力を活かせる環境があれば満足だ。

 歩いて行った先に、二人の男がいた。

 イーセイとペトルーキオだ。

 ペトルーキオが水筒で何やら飲んでいるのは、自慢のブレンドコーヒーだろうか。

 彼はこんな場所でも、作業用のツナギを着ていた。

 対するイーセイは、とりあえず与えられたジーンズとティーシャツにジャンパーを着ていた。

 ただ、腰にはそういった服装とは不釣り合いにも、愛用の小剣を差している。


 とはいえ、この地球にも迫る勢いで発展した都市には、外部から入ってきた甲冑姿の剣士なども往来していることも珍しくない。

 文明の発達に差がありすぎて、ツギハギな光景を作り出しているのだ。

 二人は、クリストファーに気がつくと、軽く手を挙げてきた。

 それに答えるように、クリストファーもポケットに突っ込んだ手を軽く挙げて見せた。


「待たせたな」

「いいよ。仕事だろ」


 イーセイが答える。


「ったく、どいつもこいつも仕事仕事って言いやがって。俺は酒を飲むために、酒代を稼ぐためにしか働いていないんだからな。仕事なんて酒のためだぞ」

「なんて言いぐさだよ」


 キーパーズ本部のホールにある椅子にイーセイは座って待っていた。

 彼も本部に到着してから何度も尋問を受けていた。

 異能について、転移してからの生活について、地球での立場について、地球に転移した時の状況について、異世界に転移した時の状況について、橘灯の素性と関係について、根掘り葉掘りである。

 何となくしつこさにぐったりとしつつグロッキー寸前である。

 まだ、リンクアーマーを撃破した時の方が楽だったような気さえした。


「とりあえず、ティーンエイジャー、お前さんの希望の調査官だが、当分は訓練をして、その後に見習いとなる。面倒だが俺が保護観察と訓練をすることにもなるだろう。正式採用はその後だ。そのときに適正なしと判断すれば、容赦なく切る。覚悟しておけ」


 イーセイは、遺跡から都市への向かうときに、調査官について根掘り葉掘り聞いて、調査官になりたいと意志を伝えていた。


「変に別の人になるよりはましかな」

「そうかな? 俺は元々教官としてスペツナグ仕込みの訓練で、この世界に特殊部隊を育て上げた実績があるからな? 楽だと思わんことだ」


 クリストファーがどこか挑戦的な笑みを浮かべた。

 彼こそ、この世界に現代的な特殊部隊の概念と技術を伝えた第一人者に他ならない。


「……まじか」

「今は教官はやめたがね。俺をただの飲んだくれだと思わないことだ」

「それは最初から思ってないけども」

「筋金入りの飲んだくれさ」

「……」


 イーセイが押し黙る。


「流石の飲んだくれっす。ちなみにコーヒー飲むっすか?」

「要らん」


 ペトルーキオの勧めを容赦なく断った。


「ところで、この世界、転移者が多いって聞いたけど、どれぐらいいるわけ?」


 同じくコーヒーを断っているイーセイが疑問を口にする。


「転移者とその子孫を対象とするなら、恐らく全てだ」

「はい?」


 イーセイが聞き返す。


「全てだ。キーパーズの長年の調査から推測だが、この世界の人間と言える種族は、恐らく、その全てが地球由来だってことだ」

「そんな、まさか」

「恐らく、何百年、何千年前から、地球から転移し続けていると推測される。地域、歴史に関係なく、満遍なくな」


 それが、キーパーズの公式の見解でもある。


「俺のじーさんも転移者っすよ。面倒見ているうちに、恋に落ちたって何度もばーちゃんから聞かされたっす。ちなみに、おれのじーちゃんが、こっちの世界にコーヒーと栽培法を持ち込んだっす」


 ペトルーキオがそう言って、コーヒーを飲んだ。


「全く、それなのに、お前のコーヒーが不味いのはどういうことだ」


 コーヒーを飲んでも無いのに、クリストファーが苦々しく言った。


「不味く無いっす。至高の味は理解されにくいだけっす」


 ペトルーキオは、否定されても、へこたれることなく、どこか自慢げだった。


「……転移者が受け入れられていて、誰でも知っているっていうのは、珍しくないからなのか?」


 イーセイが言った。


「一応な。まぁ、キーパーズそのものは表に出てこない組織であるから、他の表に出ている組織に保護を求めさせているがね。キーパーズのことを知らない転移者も少なくないだろうな。だが、お前さんのように、僻地に転移されるとなかなか発見しづらくてね」


 発見が遅れたことそのものには、さほど憤りといった感情はない。

 そういうものだと受け入れている。

 発見されて保護されただけでも十分だと思っている。


「だろうね。ちなみに、転移者だけなら、どれぐらい?」

「ジルバートだけで、人口は約三百万人を超えるが、周辺の衛星都市を含めると一千万人を超えるが、そのうちの約一パーセント程度だと推測されている。転移者ということを隠している人間も相当数いるだろうし、地球での記憶を失っていたり、物心つく前に転移した孤児なんかの自覚の無い転移者を含めて、恐らくその程度とされている」

「それでも、十万人か。なんで、地球で騒ぎになってないんだろう」

「地球は今は、六十億だか七十億もいるんだろう? その程度では騒ぎにならんさ」

「そういうものかな」


 イーセイは少し釈然としない様子であったが、小さく頷いた。

 日本と言った先進国でも、毎年多数の行方不明者が出ることだし、そのうちの何割かが転移者としてこちらの異世界に紛れ込んでいるのかもしれない。

 自分は、その多くの一人に過ぎない。


「さて、まぁ、少ないと言いつつも、絶対数で言えば無視できない数だからな。キーパーズとその後援組織で保護し、生活基盤を与えているというわけだ。貴重な技術を持っていれば、提供してもらい、十分な謝礼も出している。この世界の都市が、これだけ発展しているのも、転移者から数々の技術、学問を提供して貰った結果というわけだ。今は、せいぜい、地球から十数年遅れといったところだな」


 クリストファーが言った。

 だが、本当はそれだけでは無い。

 キーパーズでも、ごく一部にしか知らない真実がある。

 キーパーズ本部の何処か、そこに直径約十五センチのゲートが存在する。


 地球とつながっているゲートだ。

 当然、その大きさ故に、人の行き来はできない。

 そのゲートを通じて、地球側の協力者から数多の情報を得ている。

 地球で使われている技術、学問を得ている。


 キーパーズの圧倒的な財力と権力を築いた礎が正に、ゲートであり、キーパーズの名前の由来でもある。

 そう、門の番人が本来の由来である。

 クリストファーは知っている事実であるが、いま、口にするわけにはいかない。

 楠灯を地球に戻せるわけでも無いし、イーセイはまだキーパーズの正式なメンバーでも無い。

 いつかは話せるだろし、見せることも出来るだろう。

 キーパーズが、実際は地球の最新鋭の情報を握っているということをだ。


「一つ言っておくが」


 色々と思うことがあるクリストファーが人差し指を立てた。


「何?」

「調査官の仕事は、三つ。異邦人の保護。アーティファクトの回収。ゲートの発見だ。しかし、比率としては前者二つが多いし、ゲートの発見も大抵は遺跡や、転移が起きたとされる箇所の捜索だ。お前さんが望む、ゲートの発見ばかりするわけにもいかんが、それでも構わないな?」

「ああ。少しでも可能性が上がるなら。それに、情報も欲しいから、それは構わない」


 イーセイが意志の強い目で返してきた。

 いい目だし、信用できると、クリストファーは小さく頷いた。


「なら、早速、訓練と行こうか? どうだ、ペトルーキオ、お前も混ざるか?」

「勘弁してくれっす……」


 苦々しい顔をしたペトルーキオはその場において、二人は歩き出していった。

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