046 尋問
その部屋はやけに広かった。
そして、薄暗い。
漂う空気は何処か重苦しくて、冷たい。
部屋の真ん中辺りに木の椅子が置かれ、椅子は床にボルトで固定されている。
その椅子を取り囲むように机と椅子が置かれている。
それでも、部屋にいたのは数人だけだった。
部屋の真ん中にいるのは、アーミーコートにワイシャツにスラックスといった出で立ちで、肌が白い男。
それを取り囲む机に向かっているのは、二十代から老人と言えるほどの齢の男女達である。
「襲撃してきたのは、ウィリアム商会の末端組織といったところです。出来損ないのキメラの処分でもしたかったのか、あの程度を売り込みたかったのか、いずれにしろ商売下手な連中かと」
クリストファーが、足を組んで椅子に座って、淡々とした調子で話していく。
「うむ。遺跡そのものだが、どうだ?」
老人と言える風貌の、眼鏡をかけた男性が問いかける。
「相変わらず、どこの飲んだくれが作ったのか判らずじまいです。ですが、外れかと思いきや地球への転移者を確認できましたので、地球へのゲートととしての可能性はあります」
「実際に転移者が確認されたか」
「ええ、それが何よりの証拠です」
そう答えると、老人はふむとつぶやき黙った。
何かを机の上の書類に書き記していく。
やや長い間、沈黙が流れる。
「コードネーム、クリストファー・フライ。報告書の内容に関しては以上で問題は?」
再び老人が口を開いて問いかける。
「報告書を書いていたときにはビールしか飲んでいませんので、問題ないはずです。確か、ウォッカを飲んだのは、書いた後です。ええ、順番も間違いない」
と飄々とそれでいて、どこか皮肉めいた様子で答えた。。
「報告書と飲む順番を間違えていないようなら、よろしい」
「では、帰ってウォッカを飲んでもいいですかね。他にもウィスキーやブランデーなど、飲みたい酒が色々と寂しそうに私を待っているので」
冗談とも本気ともわかりにくかった。
「君が自分が王様だと信じ込むほど飲んでしまう前に、2点確認したい」
「それは残念。なんでしょうか? 」
「今回の保護対象タチバナ・イッセイだが、瞬間移動の異能を持ち、なおかつ一度地球に転移してまた戻ってきているが、これは、世界間を行き来できる異能に関係はなく、異なると判断するのだね? 」
「専門家に聞くのが一番かと思いますが、アル中の素人の私見でよろしいですか? 」
「君の意見が聞きたい。専門家もなにも、我々全員が専門家であり素人のようなものだ」
「ふむ……」
クリストファーは少しだけ天井を見上げてから、座り直した。
「イーセイ、いえ、タチバナ・イッセイの異能はあくまでも、瞬間移動、過去のケースに当てはめるなら瞬間移動系異能ケース3『ペネレイト』に非常に類似しています。おそらくは彼の異能は、ペネレイトです。今回の地球への転移は、あくまでも偶発的な事故でしかなく、また、再転移したのも事故かと。いずれも過去に少数ながら事例がありますが、結局原因や理由は不明です。ええ、わからない事だらけですな」
「確かに、しかし、特筆すべき点であることから、当面の間は観測対象とするべきと提案する」
「いつものやり方ですね」
「いつものやり方しかできんさ。同じ事しかできないから、この席を手に入れたのだよ。同じ事ばかりやるだけの簡単でつまらない仕事さ」
老人は、少しばかり自嘲気味に笑った。
「いずれにしろ、本人は今後の身の振り方として、調査官を希望しました。今回転移してきたクスノキ・トモシビを地球に戻すために転移手段を探したいと」
「本人は? 戻りたがらないのか? 」
老人が意外そうに聞き返す。
「いまのところ、こちらの世界の方が気性に合っているようで、戻る意志はないようです。家族はいるようですが、説得も何も実際に戻る手段が見つかるか不明な以上、諭す必要自体が無いかと」
「なるほど。まだ若いが、こちらの世界に魅入られたか」
「若くして転移すると、どうしてもこちら側に引き込まれがちになるのは多感なティーンエイジャーでは仕方ない面もあるかと? どちらにしろ、私の下で調査官見習いをさせる予定ですので、まとめて保護観察もしてしまいます」
「よろしい。私からも人事については相談をしておこう。それともう一点だが、今回見つかったゲートポイントの調査結果が出た。今回は地場異常と重力異常。地元の統治者にかけあって、保護地にするよう交渉中だ」
「了解です」
キーパーズの用語で、ゲートポイントとは、転移が起きた場所を指し示す言葉だ。
場所は大抵が何らかの異常性を持ち合わせていることが多い。
そして、保護地は再度の転移が起きることを予見して厳重な監視下に置くことだ。
もし、地球とこの世界を自在に行き来できるようになれば、それは莫大な利益をもたらす。
同時に大きな混乱と、戦乱さえも巻き起こしかねない。
故に、キーパーズは土地の所有者と共同で、保護地の監視もしている。
しかしながら、大抵の保護地では、再度の転移が観測されることは滅多にない。
それでも、僅かな可能性にかけて、観測し続けるし、土地の所有者は、いずれは掘り起こせるかもしれない金の鉱脈として、厳重に守ろうとする。
「さて、これでよろしいですかな? 旨い蜂蜜酒を土産として持って帰ったので、いずれ飲みましょうか? 」
「それはいいね。お互い、忙しいが、たまには酒を飲むのもいいだろう」
「では、いずれ」
「ああ、いずれ」
そうして、報告会は終わったのだった。




