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027 武器

 遺跡に着いてから夜が明けた。

 全員が、トラックで寝た。


 夜明けを待って、全員で遺跡内部へと入っていく。

 二機のリンクアーマーが先導して進んでいく。

 遺跡の内部は加工された石を組み合わせて作られており、石の一つ一つに幾何学的な模様が刻まれている。

 内部は暗く、何人かに警棒にもなる懐中電灯が渡されて使っている。


 五分も進むと、大広間にたどり着いた。

 うす暗くて判りにくいが、天井まで十メートル近くあり、バスケットコート三つ分の広さはあるだろうか。

 学校の体育館よりも十分すぎるほどに広かった。不思議と虫や小動物の姿は見えない。

 それでも、独特の冷たくかび臭い空気が漂っているのがわかる。


「で、これなのよね。出来れば壊さずに開けたいから後回しにしてたのね。見える範囲じゃ、仕掛けもなくてさ」


 カタリーナがリンクアーマーの親指を立てて指し示す。

 広間からは幾つもの通路が延びていたが、その内の一つは石の扉で閉ざされていた。


「たぶん機械的な仕組みで開閉していると思うんだけど、どうかな? 途中の経路に細工して開けられない? コードが必要ならすぐに考えるから」

「任せるッスよ」


 とペトルーキオが石の扉を調べ始める。

 幾らか見て回ってから、石扉の柱に蹲ってなにやら作業を始める。


「時間かかりそうだね。コード一発で開くなら楽なのにな」

「そのようですな」


 カタリーナともう一人の男がリンクアーマーから降りながらやりとりをする。

 もう一人のリンクアーマーに乗っていた男は、アンドルーという小柄な老人だった。

 昨日の夕食の席にも居たのだが、イーセイはカタリーナと話すのに専念していたため、まだ言葉をほとんど交わしていない。


 ただ、彼に関してはキーパーズの人間ではなく、ソードギルドに所属する傭兵だという。

 クリストファー達とは何度も仕事をしており、信用できる、らしい。

 イーセイが見る限り、穏やかそうで控えめで、あまり兵士というよりは清貧な農民か何かに見える。

それでも、彼が見る限りは一級品と思えるリンクアーマーに乗っているのを見る限り、本物の傭兵なのだろう。

 イーセイは興味本位から、彼らのリンクアーマーに近づいて眺める。

 昨日から何度も見ているが、それでも、何度見ても飽きなかった。

 かつて乗っていたリンクアーマーを失って、それ以来乗っていないのもあるのか、かつての愛機への愛着と懐かしさがあった。

 今の本心としては、リンクアーマーに再び乗りたい気持ちがあるのだろうか。

 それとも、生身で戦場に立つことを本能から拒否しているのだろうか。


「リンクアーマーは珍しいですかね? 」


 アンドルーが穏やかにイーセイに言った。


「珍しいというか、これ、ミスリル製ですよね? 」


 人差し指で指しながら問う。


「ええ」

「なら、うん、ミスリル製のリンクアーマーはあまり見たことはない」

「大陸南部から来たのでしたな。あちらは、リンクアーマー自体が多くありませんからな」

「まぁ、乗ってはいたけど」

「そうですか、乗っておられましたか。少しばかりリンカーの先輩ですから、何かあれば聞いてください」

「ああ。失礼かもしれないけど、これって性能としてはどうなの? 」


 少し考え込んでから、イーセイは尋ねる。

 アンドルーは相変わらず、にこやかな様子で口を開いた。


「綾瀬工房作、銘は松風でございますな。少しばかり古臭いのですが、つくりはしっかりとしていますので、量産型に比べればよいかと」


 アンドルーの言葉は大陸共通語であるのだが、松風の部分だけマツカゼと聞こえた。

 日本語の影響を受けた言葉なのだろうか。


「量産型? 」

「型で鋳造して、ミスリル化しているようなリンクアーマーですな。これは、一応は一品ものでございます。もっとも、人工筋肉部分については、共通規格のものを流用し、微調整していますがね」

「ふーん、昔から思っていたけど、リンクアーマーって作るの随分と大変そうだね」

「一度工房を見学されるといいでしょう。リンクアーマーを作るにも職人がリンクアーマーを使っているのでごさいますよ」

「なるほど」


 到底、一人では持ち上がらないほどのパーツをどうやって作っているのかと思っていたが、なんてことはない、リンクアーマーを作るにもリンクアーマーを使って作業しているらしい。


「それと、肩に盾ついているけど、動作が制限されない? 」


 昨日から疑問に思っていたことを口に出す。

 南部の大戦場で見たリンクアーマーにも盾がついていた。

 白兵戦が主体となる以上、腕と頭部の保護には有効だとは思えたが、見る限りは動かしづらくも思える。


「確かに動作は制限されますが、見た目ほどでもありませんね。盾自体の可動範囲も広いですからな」

「へぇ」

「両肩に盾をつけて、防御力の上昇と盾の内側に武器等を仕込んで対応力の上昇は十年ほど前から流行初めましてな。このリンクアーマーも後から盾を追加しております。こちらは小刀を仕込んでいますな」


 アンドルーが盾の裏を指さすので、イーセイが覗き見ると、確かに、三本の小刀が盾の裏側に取り付けられている。

 小刀といっても、人間のサイズから見れば長剣と変わらない大きさであるが。


「バランスとか問題ない? 」

「慣れでございますな。リンクアーマーは乗って覚えろとは昔から言われておりますな」

「そりゃそうか」


 大陸共通語もろくに使えない時から、乗って練習するだけしていた身からすれば、とても納得のいく言葉だ。

 理論よりも実践のほうが、イーセイとしても性に合う。


「ちなみに、もう一つ聞きたいのだけど。ミスリル製のリンクアーマー相手にするなら、どうやったら勝てる? 」


 最近の敗北を思い起こす。

 あれは、双方、鋼鉄製のリンクアーマーであったが、ミスリル製の武器を使われた所為で敗北している。

 アンドルーは少し考えた様子で口を開く。


「勝負に絶対はございませんが、それでも、ミスリル相手にはミスリルが定石でございますな。ミスリル鋼の武器があれば、言うことはありませんな」

「ミスリル鋼って?」

「ミスリルを、刀の製法で鍛え上げた代物でございますな。腕とセットですが、ミスリルを切り裂くことができ、ミスリルキラーとも称されます。あたしの腰の二振りもミスリル鋼製でございますな」

「なるほど。知らないこといっぱいあるわけだ」


 知らないことが敗北につながるのなら、今後も敗北続きかもしれない。


「アンドルー! カタリーナ! そろそろ開ける、準備しろ!」

「アイアイさー。ちゃっちゃか片づけておビール様だ!」

「了解でございます」


 銃を構えたクリストファーの言葉に、二人の操手が返事をする。

 イーセイはそこから離れて、クリストファーのもとに向かう。


「わざわざ連れてくることもどうかと思うが、何が潜んでいるかわからんからな、一応クロスボウを構えておけ」

「わかった」

「一応な、エリアによっては不死者が出ている。その場合は、まずは頭を撃ちぬけよ?」

「わかってる。南部にもアンデッドは時々でていたから」


 アンデッドには、死んだばかりの死体であればゾンビ、肉が腐り落ちて骨だけになるとスケルトンと称され、特に古戦場などで見かけることが多い。

 その行動は様々でただ突っ立っていたり、うろついているだけの存在も居れば、明確な敵意を見せて襲いかかってくるものもいる。


「アンデッドが魔術もしくは異能で動かされた死体だとは知っているか? 」


 クリストファーが、全てのアンデッドは魔術、異能によって動いている事を説明する。

 決して、自然発生するものではなく、術者が存在するのが当然であると。


「ああ。話は聞いたことあるけど、マジなんだ」


 雑談をしながら、クロスボウを取り出しながら、ボルトをセットし、扉を眺める。

 扉は、右側に幾何学的な模様、左の扉に流線型の模様が施されている。

 ちぐはぐなようで、調和もしているように見えるから、不思議な図形に思えてくる。

 地球にも似たような遺跡が存在していたりするのだろうかと思案にふけるが、別段詳しくもないものだから、特に思いついてこない。

 扉の横では、ペトルーキオが胡坐をかいて座りながら、作業している。ノートパソコンとバッテリーをコードでつないでおり、さらに遺跡の石をずらした個所から何本ものコードを取り出しては接続している。


「もしかして、電気で開くのか? 」

「案外、この手の誰が作ったのかわからない遺跡は、妙なところで妙な技術が使われていることも珍しくない」


古めかしい遺跡だと思っていたのだから、意外な事実だ。もしかすると、思っているよりも古くないのかもしれない。


「あくっすよ! 」


 ペトルーキオがエンターらしきキーを叩くと、扉がゆっくりと、ゆっくりと開いた。

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