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025 遺跡

 イーセイ達三人は、船の上で三日間過ごし、さらについた港町で一日休んでから、一日徒歩で移動した。

 その先には草原が広がっていた。

 幸いなことに、三人ともが船酔いとは無縁で、体調を崩すこともなかった。

 今日も天気は良く、雲はあまりない。

 もうすぐ、日も暮れ出すだろう。


 しかし、通常の草原とは異なる点があった。

 円柱状の石の柱が何本、十数本、何十本、数百本、と見渡す限りに生えていた。

 石には流線型であったり幾何学的な模様が彫り込まれていて、高さは一メートルから三メートルほどと模様も高さもばらついている。

 一種の墓標のようにも見えるが、一体何なのかは判らない。

 シンプルながらにも、何処か不気味にも見える。


「何ここ? 」

「例の寄り道ってやつさ」


 イーセイとトゥエルブは格好が変わっていなかったが、クリストファーはチェーンメイルの代わりにプロテクターをつけてコートを羽織り、腰にはリボルバーとソードオフショットガンを携えていた。

 幸い、道中で使うことは無かった。

 クリストファー曰く、この辺りであれば街道沿いであれば比較的治安は良いらしい。

 とはいえ、このよくわからない場所はその街道から半日ほどの距離にある。


「さて、親がいないと子供は好き勝手に遊んでいるものだが、どんな具合だかな」


 そう言ってしばらく歩くと、少しだけ小高い小さな丘のようになっているところへ出た。

 丘には石でできた門が備えてあり、さらに門の前には大きなトラックが停車していた。


「車あるのかよ」


 車の存在は予想外であった。

 むしろ、予想しておくべきだったというか。


「あるぞ? 少しばかり古臭いデザインばかりなのと、燃料が高いのが気に入らんがな。全く、石油でも出ればいいんだが」


 さらにトラックの前には、キャンプで使うようなテーブルと椅子のセットが置かれ、一人の男がノートパソコンを見ながら、通信機を手に持っていた。

 スマホを解析したと言っていたが、よもや見慣れた、それでいて懐かしいパソコンまであるらしい。

 キーボードの言語の配置がどうなっているのかが少し気になった。


「よぉ。ようやくこっちについた。それで、どんな塩梅だ」


 クリストファーが開口一番に男に尋ねる。

 男は、真っ黒なツナギにキャップをかぶっていて、小奇麗な印象だった。

 年齢は、二十代前半ぐらいだろうか。


「久しぶりっス。昨日、やっと内部の門を開けたところっス。解読コードがめちゃくちゃ面倒だったッス。ところで、そっちが保護してきた異邦人ッスか? 中央に戻るんじゃなかったすか? 」


 どこか軽い調子で男は、イーセイを眺める。


「そうだ。こいつがペトルーキオ。キーパーズの人間で、俺の部下だ。機械関係が専門だが、器用なんで色々と任されている」

「よろしくッス」


 明るい声でペトルーキオがイーセイを見つめてくる。


「こっちが、保護対象の異邦人、タチバナ・イッセイだ。イーセイと呼ばれていたから、それでも良いそうだ。事情が変わってな、こっちに連れてきた」

「ああ、こっちこそ」


 とイーセイはペトルーキオの差し出した手に軽く握手した。


「さて、すまんが、こっちはこっちで仕事の話になる。適当に休んでいてくれ、今日中にはほかのメンツにも会えるさ」

「わかったよ」


 そういって、イーセイは、椅子に座り込んだ。

 トゥエルブもハルバードを手の届く範囲において、あぐらをかいて座り込み、ぼーっとした様子で空を眺めだした。


「で、うちのじゃじゃ馬は内部か? 」


 クリストファーは門を眺めながら言う。

 じゃじゃ馬とイーセイは何事かと思うが、口を出すことはなく、二人の様子を眺め続ける。


「今、戻ってくる途中ッス。とりあえず、今までの調査では、石柱のある範囲全体で、アトランダムに磁場異常は確認されたッス」

「そこまでは、前段階の情報通りか」

「そうっすね。それから内部の探索も進めているっすけど、磁場異常以外に異常はないっっス。重力異常なし、超音波異常なし、振動異常なし。せいぜい、崩れて入り組んでマッピングが進まない程度なんで、普段に比べれば順調ッス」

「ふむ。トラップ関係はどうだ?」

「物理的なトラップはないッスね」


 ペトルーキオが親指を立てながら言った。

 イーセイには、どんなものが普段なのかは計ることは出来ないが、その軽やかさ笑顔を見ると、実際に順調ということなのだろう。


「順調で何よりだが、本部経由で連絡があって、こっちに立ち寄ることになった」

「何かあったっすか? 」

「別口で襲撃があった。幸いにして、軍と一緒に行動していたので、直ぐさまに撤退したそうだが」

「狙いは?」

「わからん。が、保護した異邦人を狙ったのか、キーパーズ自体を狙ったのか……、いずれにしろ今は、俺達は同じ状況なのでな。幾つかのチームは分散せずに固まって行動するようにと言うことだ。さらに、軍にもさらに応援を頼んだそうだ」

「軍まで動くッスか」

「追い出された古巣は懐かしいか?」

「やめてくれッス」


 本当に嫌そうに声を出すペトルーキオを尻目に、クリストファーは傍らのポットからコーヒーを入れて飲み始める。

 追い出されたとはどういう事だろうかと思ったが、それにも口を出さずにいた。


「久しぶりのコーヒーだが」とほんの少しだけ口をつけて、やけに苦々しい顔をして「やっぱりまずいな」


 と苦言を呈する。


「俺のブレンドに文句付けねーでくれっす」


 とペトルーキオは自分のカップに入った冷えたコーヒーを一口飲んだ。


「まずいものはまずい。南部にまともにコーヒーもたばこもないんだが、俺はいつになったら旨いコーヒーを飲めるんだ? ブレンドなんかせずに適当に買ってきて適当に煎れたほうがましだろうに」


 そう言ってクリストファーはタクティカルベストからたばこを取り出して、火をつける。

 船に乗るまでは、紙たばこは珍しがられるために控えていたらしい。

 イーセイにすると、銃が駄目で、ミスリル装備がOKとなったりとその辺りの判断基準が判らないが、クリストファー曰く、キーパーズの七面倒くさいルールと臨機応変な対応を迫る上層部に問題有りらしい。


 それ以上は愚痴になりそうだからか、クリストファーは説明しなかったし、イーセイも聞く気は無かった。

 そうして、とりとめのない雑談をしていると、特有の足音が遺跡の内部から聞こえてきた。

 重く、カチャカチャとした金属音が混ざった振動、リンクアーマーだとイーセイは悟る。それも、足音の重なり方から、二機はいるはずだ。


 予想通りに、遺跡内部から二機のリンクアーマーが出てきた。

 一機は全体的に丸みを帯びたフォルムで真っ赤だ。

 両肩に丸い肩盾を装備し、剣と言うよりは巨大な包丁に見えなくもない得物と小口径のガトリングガンをもった一機だ。

 それに対して全体的にシャープな形状で銀色のもう一機は、両腰に片刃のブレードを差し、右側の背には大型のライフル、左肩にはリンクアーマーの背ほどある巨大なブレードを装備して、両肩には長方形の肩盾を装備している。


 イーセイがかつて乗っていたリンクアーマーには肩盾など無かったが、途中の戦場で見た機体や、目の前のリンクアーマーは当たり前のように装備している。

 もしかすると、高級機は全部こうなのかもしれない。


 二機のリンクアーマーは、トラック近くで片膝をつくと、

 二つのリンクアーマーの胸部装甲がほぼ同時に跳ね上がった。

 丸みを帯びたリンクアーマーからは、一人の小柄な女性が出てくる。

 肩まで金髪が伸び、ゴーグルを付けて顔はハッキリと見えないが、イーセイと同じか少し上程度の若そうな人物だ。

 着ているワンピース風のレザーで出来たパイロットスーツは、見とれるほど見事な深紅であった。

 胴体部にはプロテクターをつけているが、それも真っ赤である。

 女性はタオルで頭をゴシゴシと拭きながら、


「いやー、疲れたー。やっぱり大広間は開けたらアンデッドが出てきたけど、全部粉々に撃ち抜いてきたよー。明日から、大広間に仮拠点作って探索しよーね。例の開けてない扉もいい加減にあけちゃお」


 と流暢でやや早口の大陸共通語で、イーセイ達に向かってくる。

 もう一機のリンクアーマーからは、鉛色の軽鎧を身につけた男が降りてきたが、イーセイの意識は女性に集中していた。

 どちらがどういった立場なのかは知らないが、剣呑な雰囲気を持つクリストファーの部下と聞いていて、同様に剣呑で屈強な男のイメージが勝手にあったので、小柄でのんびりそうな女性というのは意外に思えた。

 この女性には戦場というものが似合わない。

 かといって、何処なら似合うかと言えば、すぐに思いつくわけでもないのだが。


「カタリーナ、お疲れッス」

「うんうん、労い褒めて称えて冷たいビールを進呈するのだ。っとクリストファー戻ったんだ。あれ? そっち誰? 中央に戻らずにそのまま来たの? 」

「事情があってな。こっちは、タチバナ・イッセイだ。日本人だ」

「どうも」


 とイーセイは椅子から立ち上がりながらカタリーナと呼ばれた女性に向かう。

 カタリーナは、ズカズカとイーセイに近づいてきた。

 彼女はイーセイよりも、いや、女性としても小柄な方で、イーセイを値踏みするように無遠慮に見上げる。

 ゴーグルを外すと、べっ甲のフレームの眼鏡をつけていて両目は見事なほどの碧眼であった。


「タチバナ・イッセイ君か。初めまして、私は、カタリーナ・ミノーラでっす。よろしくね」


 そこでイーセイは硬直した。

 なぜならば、カタリーナの口から出たのは流暢な日本語だったからだ。

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