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022 夕食

「煮立ってきたら、こっちの粉入れて」

「何の粉? 量は? 」


イーセイの質問にトゥエルブは、チキンスープの粉、さじ三杯と素っ気なく答えた。

 彼らがいる場所は、街道沿いにある広場だった。

 広場と言っても、だだっ広いだけで、これと言って何かがあるわけでもない。

 時刻は夕暮れごろだった。


 石を組んで小さめの飯ごうを火に掛けていた。

 飯ごうの中には、水から戻した干し肉と干し野菜、干しキノコと乾物が入っている。

 まだ煮立つほどには火に掛けて時間はたっていない。


 結局、草原での戦闘がひと段落してきた頃に、少しだけ遠回りして進んだが、予想通りに、次の村にたどり着く前に日が暮れていた。

 相も変わらずに、トゥエルブという数字で呼ばれる女性は、イーセイには素っ気ない。否、誰にでも素っ気ない。

 そのトゥエルブにおっさん呼ばわりされているクリストファーも、誰にでもああだから、あまり気にするなと言われている。

 そのおっさんは、薪が少ないと、見回りもかねてこの場から離れていた。


 数日間、行動をともにしているが、このトゥエルブに関してはあまり判っていない。

 判っていることと言えば、戦闘になれば、前衛を担当し、ひるむこともなくハルバードを振りかざして突っ込んでいく。


 あと、食事を作らせると、見る限りは適当である。

 適当に煮込んでおしまいなのだから、男料理といった様子だ。

 最も、自分が料理しても同じような物になるだろうから文句もないのだが。


 イーセイは飯ごうを混ぜながら、そっとトゥエルブに目をやる。

 亜麻色の髪は綺麗なストレートであるし、やせ気味で長身だから、モデルみたいに見える。

 肌もシミ一つ無く、黒い目は何処か気怠い様子に映るが、それも妙にアンニョイな雰囲気を醸しだし、黙ってさえいればクールビューティーである。

 黙っていればだ。

 まさか、こんな少女の口から男のようなしゃべりだとは思えないだろう。


「トゥエルブさんも」

「さんはいらない。俺はただのトゥエルブだ」


 トゥエルブの素っ気ない訂正に、本当に誰にでもこのような態度なのだろうかと疑問に思いつつも、質問を続けながら、飯ごうの中をそっとかき回す。


「キーパーズに所属していることになるわけ? クリストファーさんと同じ調査官? 」

「違う。おっさんと違って、俺はキーパーズの所有物だ」


 所有物。

 人間にして、所有物というのは、妙にきな臭い話に思える。

 だが、奴隷という立場なら、物扱いになるために、所有物と表現するのが正しいのかもしれないが。


「それってどういう」

「所有物は所有物だ。おれは人間じゃない、化け物だ。人間扱いされなくていい」

「本当にどういう意味」


 トゥエルブは見る限りは人間だ。

 化け物。

 確かに、思い当たる節はある。

 リンクアーマーの攻撃を受け止めて、全身鎧を着ながらにして軽業師のように素速く動くほどの身体能力。

 魔術を使ったとしか説明できないようなことだらけだ。

 それでも、それ以上深く聞くべきかは躊躇われた。


「いや、なんでもない」

「ふーん」


 トゥエルブはとくに気にした様子もなく、薪をくべた。


「ところで、大陸中央ってどういう場所? 城があって城下町があったりとか? 」


 この世界で発達していると聞いたところで、ファンタジーなイメージしか湧かなかった。

 実際に王制かどうかも判らないのであるが。

 しかし、トゥエルブからは意外な言葉が出てきた。


「んー島にビルがいっぱいあって、ゴチャゴチャしている」

「ビル? 」

「うん。箱の形をしたコンクリートとか煉瓦の建物」

「それは、ちょっと予想外かも。えっと、政治? 誰が治めているの? 」

「誰って誰だっけな。なんとかなんとかっていうおっさんが市長やってる」

「市長? 」


 どうやら、政治体制自体も中世ヨーロッパな雰囲気からは離れているらしい。


「大陸中央は、結構発達しているのか。現代に近いって言うか」

「? そうなんじゃねーの? 俺にはどこも同じように見えるからよくわからん」


 ふと思いついて、イーセイは傍らからスマートホンを取り出す。

 電源を押しっぱなしにして数秒後に画面が起動し、防水のためにカバーが閉まっていることを確認する案内が出てくる。

 面倒な案内を飛ばして、メモリーから写真を呼び出していく。

 映っていたのは、中学の修学旅行でスカイツリーの展望台から撮影した街の風景だ。


「もしかして、こんな感じにビルがあるとか? 」

「何これ? 空でも飛んで撮ったのか? んーなんとなくだけど、ここまでゴミゴミともしてない。でも、そういう四角い建物は隙間無くいっぱいある」

「へぇ。意外だよ」

「つーか、それ、何? 」

「え? 」


 そういえば、スマホが珍しいのだろうか。

 文明のレベルがどうもしっくりと判らないのだが、クリストファーは解析したと言っていた。

 でも、トゥエルブは知らないと言うことは、一般に広まっているほどではないということだろうか。


「スマートホン。わかるか? 携帯電話。電話したりメールとかLINEしたり、ゲームしたりガチャしたりできるの。LINEは……そっか、そりゃ、判らないか」

「LINE? 糸? 判らん。携帯電話なら知っているけど、ボタンがゴチャゴチャついている奴じゃないないのか? 」

「ケータイは、ガラケなのか。いや、ガラケよりも古くさい機種レベルか? 」

「ガラケ? 」


 新たな単語にトゥエルブは首をかしげながらも、煮だってきた飯ごうを指さした。


「ごめんごめん。三杯だよな」


 とイーセイは茶色の粉を飯ごうに入れていく。

 言われたとおりに三杯溶かし、軽くかき混ぜると辺りにチキンスープの香りが漂ってくる。

 しかし、それは何処かで、かいだことのあるような香りだ。


「つーか、これってインスタントか? なんか当たり前のように使ったけど、こんなのこっちの大陸で見たことない」

「んー、次の街でなら輸入品として売ってる。ミスリルと違って規制されてない品だけど」


 トゥエルブが相も変わらずに、素っ気なく興味なさげに言った。


「なんでも規制しているわけじゃないのか。どこまでセーフなんだか」


 やがてクリストファーも戻って、乾パンとスープの質素な夕食が始まった。

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