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014 襲撃

 場所は襲撃を受けた 野営地から離れた草原である。

 時刻はすでに日も落ちて、薄暗かった。

 傭兵達が、各々の武器を確かめたり、小声で雑談をしている。


 イーセイとマリアが、それぞれのリンクアーマーの前に立っていた。

 リンクアーマーはどちらも片膝を突いて、手には武器や盾を持っている。

 イーセイの扱う機体が持っているのは、相も変わらず長剣と大盾である。

 盾はそうそう壊れることも無いが、長剣は最近、対リンクアーマー戦が多かったせいか消耗が激しく、あちこちに刃こぼれが生じている。

 それでも、今持っている武器の中では一番状態が良いので、これ以外に選択肢が無いわけであるが。


 長剣は、非常にシンプルな造りだ。

 分厚い刃の部分に、柄が生えているだけで、鍔は無い。

 この大陸南部に入ってくるリンクアーマー用の武器は、大半がこのようなシンプルな造りだ。

 ただ、問題点として、あまりに巨大な故に、研ぎ直したりたたき直したりする補修が不可能ということだろう。


 この大陸南部では、それだけの技術が存在しないのである。

 そのことから考えるに、リンクアーマー用の武器も大陸中央でしか作られていないのだろう。

 補修と言えば、リンクアーマー自体の補修も彼等には出来ることは少ない。

 せいぜいが、油を塗った布で磨く程度という装甲のメンテナンスしか出来ていない。


「本当に、なんであるんだろう」


 思わず、イーセイは小さな声で呟いた。

 日本の歴史で例えれば、戦国時代に戦車や戦闘機が紛れ込んでいるようなものだろう。

 現代地球よりも、科学技術が遅れていると思われるこの世界に、地球以上の技術が存在し、実用されている。

 その根本的な原因が、魔術と呼ばれるものが存在するからであるが、では魔術とは一体何なのか。

 この世界に来てから、釈然としないことばかりであるが、そういうものと思うしか無いのだろうか。


「イーセイ?」


 横のマリアが、声をかけてきた。


「別に」

「……そうかい」


 と言いながら、マリアはイーセイの横にまで歩いてきた。


「……気をつけなよ?」


 トマスの言葉をずっと考えているのか、そう声をかけてきた。


「……ああ。……リンクアーマーに異常は?」

「無い。あんたは?」

「大丈夫……。もしもだけど、見張りを……対処したのに、リンクアーマーは無事だったのは変じゃないか?」


 周囲に気を遣いながら、イーセイが小声で疑問を口にする。


「言われるとね……。でも、あたし達以外に使える奴もいないから、放っておいただけかもね。そう考えると、暗殺者が忍び込んだ可能性もある」

「……そうか。優先はあくまでも、見張りで、それに暗殺者か……」


 確かに、理にはかなっているだろう。

 真実は何も分からないままであるが。

 これから、真実が分かることが来るのだろうか。

 新たな疑問が頭の中に渦巻くが、団長のグレンがみんなの前に進み出た。

 その横にトマスも立っている。

 その姿に気がつき、徐々に雑談が途絶えて、静まりかえった。


「手短に済ませる。今回、思わぬ奇襲を受けた。そのこともあって、村の襲撃まではこなすが、今回はそれだけで街に戻る。そして計画の前倒しをする。傭兵団の規模を百人は確保し、最新鋭のマスケットを導入するつもりだ。そして、さらに、さらに」


 グレンが言葉を一度止め、彼を見つめる傭兵達を眺めた。


「さらに巨大な兵団にするつもりだ。大陸でも最大規模を目指す! そして、国を興す! お前達はその幹部候補生だ。いいか、つまらない死に方はするな。成り上がるんだ!」


 グレンは自慢のミスリルの長剣を引き抜き、天にかざす。

 国を興すという言葉に、皆がざわついた。

 たった、そう、たった五十人にも満たない傭兵団が国を興す。

 だが、どこか、グレンに言葉には妙に説得力がある。

 このカリスマ故に、彼は腕利きを何人も集めて、少数精鋭の傭兵団を作り上げたのだ。

 心酔している者達も多い。

 本当に国を興してしまえるのではないかと思わせた。


「国……」


 イーセイが呟く。

 そういったことに興味は無いが、恩人に報いることは出来るだけしたい。

 ガルに拾われなかったら、グレンがそれを認めなかったら、彼は傭兵団の一員にすらなることはできなかった。

 なら、生きていることを感謝するためにも、今日の依頼もいつも通りにこなすだけである。


 各々が、準備を始め、イーセイとマリアもリンクアーマーに乗り込んだ。


「進撃!」


 グレンが長剣で、村のある方向を示した。

 いつものように、二機のリンクアーマーが同時に走り出し、イーセイがより早く先行していく。


 半里も離れていたというのに、すぐさまに村が見えてきた。

 村は、木と石で出来た建物が幾つも建っている。

 村は丸太を組んだ柵で囲われており、簡単には入り込めない作りになっている。

 さらに村の外側には収穫の終わった麦畑が広がっている。

 麦畑には二機のリンクアーマーの足跡が残り、砂煙と小さな石を巻き上げながら駆けていく。


 イーセイが先に柵にまでたどり着き、スピードを緩めることもなく盾を突き出してそのまま柵に体当たりをかます。

 丸太の柵は爆音ともにあっけないほどに吹き飛んで、丸太の一本が近くの家へと突き刺さった。

 

 さらに、右手の剣を払って柵を吹き飛ばす。長剣は切れ味は鈍く、斬ると言うよりは割くようにして柵を払った。

 そこからさらにマリアが到着し、槍を柵に突き立てて大振りに振り回して、柵を取り払ってしまう。

 後方にはやや離れて、馬と馬車に乗った傭兵、さらに後ろには馬にも馬車も使えない者たちが続いていた。

 傭兵達は各々に叫び声を上げながら、麦畑を横断してくる。


 その様子を確認後に、村の中からたいまつを持って出てくる村人達の姿をとらえた。

 たいまつの他には槍や棍棒、刀剣を持った姿も見えるが、今度はマリアが先に駆けだした。

 何かを喚いている村人達に向かって槍を大きく振り払う。

 槍の切っ先は、三人の村人を千切れさせ、柄に当たった者はうめき声を上げる余裕もなく吹き飛んでいく。

 当然のことながら、リンクアーマーに人間が太刀打ち出来るはずもなかった。


『この一番槍はもらったよ』


 マリアのリンクアーマーから、自慢げに聞こえてくる。聞こえてくる間にも、村人は家の外に表れてくる。

 武器を携える者、逃げていく者、村人を逃がそうとする者、その反応は様々であるが、すでに二つのリンクアーマーを敵と認識していることは相違ないようである。


 突然に、家の陰から二人が飛び出してきて、槍をイーセイに突き立てにかかる。

 だが、村人の死角を狙ったと思われる攻撃も、イーセイの回転しながらの斬り込みに槍を吹き飛ばされる。

 一瞬ひるんだ隙に、返すように剣を振り払われて、二人の村人は胴体から二つに千切れ、大量の血と肉片と臓物がまき散らされた。

 イーセイの鈍い銀色のリンクアーマーも血で染まっていく。


 イーセイは手応えすら無かった二振りに小さな後悔と懺悔を感じ取るが、当たり前になりつつある現実に、それはすぐに消えていった。


 これから始まるのは、血と狂気の宴。

 一方的な略奪。

 一方的な殺戮。

 一方的な蹂躙。

 一方的な破壊。

 一方的な攻撃。

 ただ、村人達はなされるがままに。

 今夜、村が一つ消える。

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