ありがとう。大好きだった人。
ある意味、王道作品。
ある日、僕に好きな人ができた。
その人とはいつも一緒。だから、この気持ちに気付くのも時間の問題だったのかもしれない。
その人はいつも遊んでくれた。晴れの日も、雨の日も。雪の日は僕が外に出たくなかったので家の中で遊んだ。
でもその人は、嫌な顔せず、いつも遊んでくれた。
もちろんこの気持ちを知るのは僕だけ。誰も知らない僕だけの秘密。
この気持ちを伝えたい。年をまたぐ度、その気持ちはどんどん強くなっていった。
でも……多分、口に出しても伝わらない。これは絶対に叶わない恋だから。
──伝えてみないと分からないじゃないか。
いつだったかテレビの中で、イケメンがそんな事を言っていた。もしそいつが目の前にいたら、大声で叫んでやりたい。
──絶対に無理なんだ!と。
この気持ちに気付いてから、どのくらい経ったのだろうか。
年を重ねる度、あの人と遊ぶ機会は徐々に減っていったのは分かる。それも仕方ないのかもしれない。お互いに、昔みたいに元気よく外を走り回る年ではない。
もちろん体力や身体の作り具合い的には、お互いに今が一番絶頂期だと思う。でも、何と言うか。大人になったって事なんだと思う。
あの人は今年、大学受験だとか言っていた。僕と顔を合わす時間も減り、部屋に閉じこもる時間が増えていった。
それだけ本気なんだろう。
僕にはどの大学がどう凄いのかよく分からないけど、頑張っている姿を見てると、やっぱり応援したくなってしまう。
──頑張って。
恥ずかしいから、口には出さないけど。
年を重ねると、1日1日が早く感じる。いつだったか、誰かがそんな事を言っていた。
まさにその通りだと思う。
あの人が無事に大学に合格して喜んでいると、気が付いたら、あと1年でその大学も卒業だそうだ。
さすがにちょっと大袈裟かもしれないけど、そう感じるぐらいに1日1日が早い。
ある日、男の人と楽しそうに喋ってる姿を見た。
その光景を見た僕の心は……痛かった。その2人の邪魔をしたい。あの男を追い払いたい。そんな邪な気持ちが僕の心いっぱいに広がった。
でもその傍ら。あの男の人なら任せてもいいかもしれない、と思う気持ちもあった。
ずっと、あの人と一緒にいたい。でも、それは僕の我が儘。分かってる。
あの人だって、僕がずっと一緒にいたい──と言えば、喜んでくれると思う。でも、それはきっと、恋愛から来るものじゃない。僕は恋愛の対象にはならない。
分かってる……分かってるさ。
男の人を見かけるようになってから、そろそろ2年ぐらいが経つと思う。
色々話しを聞くと、男の人は、あの人の同僚だとか。僕があの男の人と一対一で話す機会がないから、どんな人かは分からない。
けど、あの人の笑顔を見てれば分かる。
──あぁ……幸せそうだ。
僕が絶対にさせてあげられない事。それが、あの男の人には出来る。ならもう、僕が心配する必要はないんじゃないか。
そう思えると、心に余裕が出来た。それと同時に、身体が急に重くなってくる。
分かってる。自分の限界は自分が一番分かってる。
僕があの人と出会ってたから、何年が経っただろう。
最初に出会った頃は、赤いランドセルを背負って、僕と一緒に走り回ったっけ。
ランドセルを背負わなくなってからは、僕と遊ぶ機会も減って、少し寂しかったけどしょうがない。分かってたから。別に忘れられたわけじゃないってことは。
そう思うと、出会ってから13年は経った気がする。
その間、ずっと片想い。叶わない恋だと分かってたから、辛くはなかった……けど、やっぱり痛かった。
でもそれも終わったこと。
今日はあの人の結婚式。心の底から祝福をしなくては。
「新郎新婦のご入場です」
あの人が入ってきた。あぁ、なんて綺麗なんだろう。
僕が好きになるだけはある!なんて、言ったら怒られるかな。それはそれで楽しそうだからいいかも。
「それでは……誓いのキスを」
ベールの下の、あの人の顔は笑顔だった。
ずっと一緒だった人。でも僕じゃ幸せに出来ない人。だから、届かないと分かってても言わせて下さい。
──おめでとう。
「ねぇ!起きてよ!ねぇってば!」
ねぇ……これから私、幸せになるんだよ?
でも、そこには君が一緒じゃないと!
「ねぇ……お願い……まだ一緒にいてよ……」
嫌だよ……ずっと一緒だったのに……これからだって時に……結婚式の前日まで、あんなに元気だったのに……。
「きっと、あんた幸せそうな顔を見て安心したんだよ」
「お母さん……」
「本当はね……お医者さんには、もって3ヶ月って言われてたの。でも、気が付いたら1年も経ってたのよ」
「え……私聞いてない、そんなこと」
「私があんたに言おうとすると、この子いつも怒るんですもの。まるで、あんたに知られたくないみたいな感じだったのよ。本当に賢い子なんだから」
「……」
心配させたくなかったの?甘えん坊のあんたが?
いつも私の後ろを付いてきて、いつだって私と一緒にいたあんたが?
なんで……なんでよ……こんな時だけずるいよ。
「いつまでも泣いてたら、この子が安心して行けないわよ」
「分かってる……分かってるけど……」
「そろそろ……ね?お別れを言ってあげなさい」
「……うん」
いつかこんな日が来る事は分かってた。私含め、生き物には寿命があるから。
ただ私とあんたとじゃ、生きれる時間が違っただけ。分かってる。
でも、こんな風にずっとグチグチしてちゃダメ。それは、この子に失礼。
だから……言わせて下さい。
生まれて来て、そして家に来てくれてありがとう。
嫌な事があって、やつ当たりしても、私の事を嫌いにならないでくれでありがとう。
私と遊んでくれてありがとう。
そして──
「ずっと一緒にいてくれて……ありがとう」
「……クゥ〜ン」
──ご主人様のペットとして生まれて……僕は世界で一番の幸せ者でした。
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