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第十七話 ただ今、原因分析中(その1)

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魔法使いたちの憂鬱

 第十七話 ただ今、原因分析中

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/1.紅坂さん達の現状分析



 『魔法は、世界の根幹に関わっていないのではないか』



 その疑問は、過去、幾人もの魔法使い達から投げかけられてきた。断片的に残される「空白期」以前の記録。それが指し示す事柄は、かつての世界には魔法というものが存在しなかったという事実である。故にそこから「世界は「魔法」という規則に頼らなくても維持・運営されうる」という考えが導かれるのは自然なことだった。



 もっとも「空白期」のものとされる資料・記録にどれだけの信憑性があるのかはなお議論の余地がある。しかし、それらの資料の存在を無視した場合、別の問題が発生する。それは、魔法によって構築された世界のシステムの多くが魔法に頼らずとも実現しうるという事実だ。例えば、公共交通機関である電車や、通信手段である電話。それらはその文字が示す通り、本来、電波や電気のみで運営されるシステムであり、極論すれば魔法無しでも運営されうるのだ。尤も、現状の資源の発掘量では、魔法に頼ること無しにそれらのシステムを運営することは不可能ではあるが。しかし、それらの事実によって、一つの疑問が呈される。魔法を礎としているはずのこの世界で運営されているのは、実のところ、魔法を前提とせずに開発されたシステムであるのは何故か、という疑問。

 その疑問に対する明確な解は未だ存在しない。だが、いくつもの説の中には次のようなものもある。曰く、「それは人が本能的に、知っているからではないのだろうか。魔法とは、本来、あり得ないものであり……いつかは、消えて無くなってしまうものだと」。

 勿論、これは極論であり、ごく少数の意見に過ぎない。かつての世界のあり方がどうあったにせよ、今のこの世界は魔法無しには語れない。



 魔法なしで作られたシステム。それでも魔法なしには回らない社会。その中で生まれる「果たして、魔法とは何なのか」という問い掛けは、ある意味で根源的なその問いであり、それ挑むのが、魔法院の魔法使い達であり、そして紅坂の魔法使いたちだった。



 /



「魔法とは何か……ね。まあ、そんなこと考えたところで誰が得するわけでもないんだけどねえ」

「……主幹。思いっきり自分の研究の存在意義を否定しないで下さい」

 広大な敷地を有する私設紅坂魔法研究所。その一室で、白衣姿の青年が、上司である紅坂カウルに向けてため息をついた。あきれ果てた、と言わんばかりの部下の態度に、カウルは気分を害した様子もなく、その弛んだ顎に手を当てながら退屈そうに言葉を返す。



「でも、魔法使いがあんまりにも哲学寄りになるのはどうかと思うんだよね。ズブズブと思考の迷路にはまりこむのってあんまり生産的じゃないしさ。ああ、そのへん自慰行為に似てるよね。不毛だけど、気持ちいいって辺りが」

「なんで一々、言い方が下品なんですか、主席って」

「いいじゃない。男所帯なんだからさ」

「とりあえず、セクハラって同性間にも成立するって知ってます?」

「勿論、知識としてはね」

 いっこうに悪びれないカウルの返事に、まだ若い助手は手にしたコーヒーに口を付けてから、再び溜息を零した。



「大体、不毛だなんて言うんなら、なんだってずっと、そんな研究テーマを抱えてるんですか?」

「んー。若気の至りって奴かなあ」

「若いって年でもないでしょうに」

「失礼な。僕はまだ30代だよ」

「老けて見えますよね。主幹って」

「それだけ苦労してるって事だよ。しかし、最近遠慮が無くなってきたね、君」

 遠慮のない部下の台詞に、しかし、大して気分を害した様子も見せずに、カウルが肩をすくめる。それと、ほぼ同時、研究室のドアがノックされた。

 山と積まれた研究書類に、研究器具。その合間を縫うようにしてドアの方へと視線を向けて、カウルは「誰かな?」と首をかしげる。助手の方も上司に習うように首をかしげてコーヒーカップを机に戻しながら呟くように言った。



「誰でしょうね。来客予定はなかったはずですけど……」

「所長だったら嫌だなあ。お説教は聞き流すから良いけど、予算カットの話だったら辛いしねぇ」

「辛いですよね。というか、お説教も聞き流さないでくださいよ」

「どうぞー。ドアは開いていますよー」

 言われた傍から助手の小言を綺麗に聞き流して、カウルは椅子に腰掛けたままドアに向かって呼びかける。その呼びかけに「失礼します」との声が返り、ドアがゆっくりと開いた。



「……紅坂主席はいらっしゃいますか?」

「おや? これは珍しいね」

 開いたドアから姿を現したのはうら若い女性。その訪問者の姿を目にしてカウルが軽い驚きの声を上げた。そして上司に負けず劣らず、というより上司より遙かに強い驚きに助手は目を開いて、声を震わせる。



「せ、セリアお嬢様……っ!」

「ごきげんよう。いつも兄がお世話になっております」

「あ、いや、お世話だなんてそんな」

 感極まった声を出す助手に対して、セリアは柔らかな笑みを湛えて軽く会釈した。そんな彼女の挨拶に、まだ若いとは言え年上のはずの助手は顔を赤くしながら、目に見えて狼狽える。

 紅坂セリア。現紅坂当主の娘であり、既に後継者としての噂もある才色兼備の才女。研究所の一研究員にとっては、ほとんど雲の上の存在であり、今まで直接話したことなどあるはずもなく、彼は感激と動揺と興奮の織り混ざった視線をセリアに向ける。

 対してセリアは、その種の羨望を向けられるのは慣れた物なのか、そんな青年に悠然と微笑で答えてから、視線をカウルの方へと差し戻す。そして笑みを顔に貼り付けたまま彼に向かって歩み寄り―――。



「お兄さんに会いに来てくれたなんて嬉しいなあ」

「黙りなさい」

「うぼあっ?!」

 カウルの呑気な挨拶を遮って、いつのまにやら手にしていた箒でカウルの額を見事なまでに一閃した。



「い、いきなり何をするんだい?!」

 流石にいきなり箒で叩かれるとは想像していなかったのか、カウルは狼狽えながらも抗議の声を上げる。そんな兄に、妹は微笑みを浮かべたまま、その実、冷たい視線を投げかけて告げた。



「決まっているでしょう。懲罰です」

「ちょ、懲罰って、何のこと? 愛情表現にしてもちょっと過激じゃないのかな?」

「反省の色が見えません」

「痛っ?!」

 再び箒がカウルの額を一閃し、ぱしーん、と小気味良い音が、雑然とした研究室に響く。セリア曰く、懲罰とのことだが、その意図が掴めないカウルは額を抑えたまま、怯えを含んだ態度で妹に抗議の声を上げる。



「だ、だから、懲罰って何? それに暴力は良くないよ? ほら、助手君だって驚いて……」

「ああ、箒の音すら、お嬢様のお手にかかると美しい……」

「美しくないよ?! 箒の音なんて、誰が叩いても同じだからね?!」

 いきなり実の兄の額を箒で叩く、なんていう「令嬢」とはほど遠い行為を目の当たりにしてもなお、助手は羨望の表情を崩していなかった。当然のごとく、痛みに頭を抱える上司のことなど眼中にはない。



「うう、ひどいなあ、助手君。家庭内暴力と職場内暴力の現場を見過ごすなんて……」

「あなたは言葉で諭しても聞き流すでしょう。だから懲罰が暴力的な物になるんです。嫌なら自戒してください」

「そうです! その通りですよ! 主幹!」

「聞き流すのは、長生きする秘訣なんだけどなあ……痛!」

 再三の「懲罰」に額をさすりながら痛みを訴えるものの、実際には、あまり態度が変わっていない兄に、妹は呆れた様子で息をついた。



「相変わらずですね、あなたは。そんなことより、一体どういう事ですか?」

「どういう事って……何が?」

「天国への門での事故のことです。あなた、ちゃんと被害者に事情説明していないようですね」

「う」

 今まで箒で叩かれた事の理由がようやく飲み込めたカウルは、妹の非難の眼差しに、言い訳の言葉を探し始める。

 カウルとセリア。親と子ほども年の離れた兄妹ではあるが、妹の責める視線に身を竦めるカウルに兄としての威厳はほとんど見えなかった。



「いや、それはね……えーと、その、手紙で事情は説明したんだよ?」

「一歩間違えれば命に関わる事故だったです。ちゃんと出向いて謝罪すべきでしょう? 非常に認めがたいことですが、あなたはあそこの技術責任者なんですから」

「それはそうなんだけどね」

 正論で諭す妹に、兄の方はと言えば気まずげに表情を曇らせて、口籠もる。煮え切らない兄の態度に、セリアは訝しむように軽く眉をしかめた。



「あなたがいい加減で気分屋なのは知っていますけど、こういう事柄にまでいい加減な態度を取る人ではないでしょう。何か出向けない理由があるんですか?」

「理由というか、その……うう、僕だってきちんとお詫びに行こうと思ってたんだよ? でもね、ほら、彼の保護者って「悪い方の神崎」なんだよ?」

「……なんですって?」

「あれ? 知らないかな。ボクが学生の頃は有名だったんだよ。ユグドラシルの聖女と魔女。勿論、魔女の方が神崎蓮香なんだけどね」

「神崎先生が……魔女?」

 神崎蓮香は魔法院の教師陣の中でも、セリアが一目を置いている魔法使いだ。その彼女を評する言葉として「魔女」という単語が使われているのを、セリアは聞いたことがなかった。しかし、それを問い質す前に、兄の方は更に言い訳の言葉を言い募る。



「だからね、お互いの幸せのために……というか、僕の生命維持のために出来れば、会わずに済ましたいなあとお兄さんは思うんだけどね?」

「そういう態度を、誠意がない、と言うんです。それに神崎先生を魔女だなんて、失礼にも程があります。とりあえず、神崎先生には私から謝っておきます。あなたも早急にしかるべき態度で謝罪して下さい」

「……はい」

 妹の叱責に、素直に兄は頷いて項垂れた。基本的にいい加減な彼ではあるが、やはり事故の責任者としてはお詫びに出向くのが誠実だとは思っては居たのである。トラウマに近い記憶が神崎蓮香にはつきまとってはいるが、なんとか頑張ってみよう、と妹の言葉に頷きながら、カウルは頭を上げた。



「まあ、うん、なんとか頑張ってみるよ。セリアちゃんも協力してくれるみたいだしね。いや、助かるよ。元々、セリアちゃんに代理訪問を頼もうと思ってたし」

「……あなたって人は」

「ところで、それより用件はそれだけじゃないよね。きっと」

 更に叱責を続けようとする妹の雰囲気を感じ取って、カウルは強引に話題を変える。その意図はセリアには見え透いていたが、元々、ここに長居する気のない彼女は兄の差し向けた方向に話題を乗せた。



「その事故のことですけれど、事件の原因は特定できたんですか?」

「うん。一応ね」

 セリアの問いかけに、カウルの声に張りが戻る。飄々とした表情の中に研究者としての顔を覗かせながら、彼は口を開いた。



「『神崎良の偶発的な魔法消去能力の発現が、羽型飛行装置の魔力構造に異常な負荷を与えた結果、内部機関の暴走を招いたものと思われる』が公式見解になりそうだね。つまりは原因は内部機関の暴走、ということ」

「公式見解、ですか」

 殊更にその言葉を使うと言うことは、本当の原因は別にある、という事だろう。そう了解してセリアは兄に問い掛ける。



「本当の原因は?」

「残念ながらまだ不明。まあ、役所のお偉いさん方は、魔力構造の切断にあまり関心を払っていないからね。今言った見解で問題なく捜査終了になると思うよ。実を言えば、所員の大多数も今の見解で納得している。魔力構造の壊れ方については疑問が残るけれど、内部機関の暴走でもああいう壊れ方をする可能性は、まあ、ゼロじゃないからね」

「あなたも、それで納得するんですか?」

「納得はしていないけれど、一応、公式な調査は止めるよ。これ以上は、薮を突く可能性がなきにしもあらず―――」

 と、ぺらぺらと内部情報を漏らすカウルの口が不意に止まった。そこで初めて気がついたように、不思議そうに妹の顔を見つめて問い掛ける。



「……って、そう言えば、なんでセリアちゃんが事情を知ってるの? 当事者に連絡していないとか。僕、そこまで詳しくは話しては居ないよね?」

「彼は私と同じ魔法院に在学中ですから」

「ああ、なるほど。彼とわざわざ会ってくれたんだ。いやあ、やっぱりセリアちゃんはお兄ちゃん想い……痛っ」

「あなたの為に会った訳じゃありません」

「じゃあ、どうして?」

「彼とは元々面識がありましたから。事故のことを聞いて気にかかっただけです」

「ああ、そうなんだ……へえ?」

 セリアと頷いてから、ふと、カウルはふと不思議そうな声をあげた。そして腕を組むと一人考え込むように、中空に視線をさまよわせる。



「彼とセリアちゃんが知り合い、か。ふんふん、ほうほう、なるほど―――って、イタ」

「私、勿体ぶられるのは嫌いなんです。言いたいことがあるのならはっきりと言って下さい」

「ぼ、暴力は良くないと思うなあ」

 既に何度叩かれたのか分からない額を抑えながら、恨めしげに呟くカウルだが、それ以上の抗議は伏せて話を続けた。痛みより妹への恐怖が、そしてそれ以上に彼女の話への好奇がカウルの中では高まっていた。



「彼と知り合ったのってどんな切っ掛け?」

「そんなこと、あなたに話す理由はありません」

 カウルの問い掛けを、セリアはぴしゃりと切って捨てる。彼女からすれば「一人の生徒を取り合って負けた」苦い記憶を、このお調子者の兄に話す気にはなれなかったのだ。一方のカウルはそんな妹の連れない態度を気にした様子もなく、質問を続ける。



「じゃあ、彼との馴れ初めはともかく、セリアちゃん。彼と魔力交換はしてる?」

「していません」

「どうして?」

「どうしてって……」

 カウルの問いに、セリアが鼻白む。それは「どうして彼と友人じゃないのか」と同様に、はっきりとした理由を返せる類の問いかけではないからだ。



「どうしてもなにもありません。私は彼とそこまで親しい訳じゃありませんから」

「あれ? そうなんだ」

 妹の返事に、カウルは意外そうな声を上げて、首を傾げた。



「セリアちゃんが彼と面識あったんなら、彼に興味を持っていると思ったんだけどなあ」

「勿体ぶられるのは嫌いだと言ったでしょう? 次は肉塊に変えますからね」

「さ、さらりと怖い言葉を言わないで欲しいなあ……ほら、助手君も怖がってるよ?」

 剣呑さを増す妹の言葉と目つきに、カウルは助けを求めるように傍らの助手に視線を向ける。だが、しかし、そこにいるのは未だ恍惚の感情にとらわれたままの青年だった。



「大丈夫です、セリアお嬢様。主席を肉塊にお換えになるのなら、不肖この私、喜んでお手伝いさせて頂きます!」

「助手君? 一応、僕は君の上司なんだからね? 今期の査定はそれなりに覚悟しておいてね」

「ふふふ、大丈夫ですよ、主席。肉塊に査定は出来ませんから……ふふふ」

「じょ、助手君?! 目が笑ってないよ?!」

 これが狂信者の目のなのかなあ、なんていう感想を現実逃避気味に脳裏に浮かべつつ、彼は教祖……もとい、妹の機嫌を損ねないように彼女に彼の考えを告げた。



「あのね、セリアちゃん。事故の原因については正直、はっきりとした考えが僕にもあるわけじゃないんだ。神崎良君になにか要因があるんじゃないかと睨んではいたけれど、事故当日の検査では何も異常はなかったし、特別な才能があるような見解も未だ得られていない。だから、これはあくまで僕の直感で、確証は持てないんだけど……彼ってもしかしたらセリアちゃんと同類じゃないのかなあ、って、そう思うんだ」

「……同類」

 カウルの説明に、セリアは呟きを零し、そして目を細める。訝しむように。それでいて期待するように。



「それ……本当なんですか?」

「だから、全然、確証なんてないんだって。でも、「もしそうなら」ある程度、事故の原因に道筋がつくからね。「そうだったらいいなあ」っていうぐらいのアイデアだよ。それより、セリアちゃん自身は彼について、何か気付いたことはあるんだよね?」

「どうしてそう思うんですか?」

「セリアちゃんがわざわざここまで足を運んでくれたのは「聞きに来ただけじゃない」と思うからだよ」

「……そういう所だけは察しが良いんですから」

 ため息混じりに兄の言葉を肯定しながら、セリアは今日の出来事を彼に告げた。



「私の魔法の支配領域に、彼の魔法が割り込みました。しかも、余計なノイズを発生させずに、です」

「へえ。それは凄いね」

 セリアが法則を書き換えていた大地に、彼の落とし穴の魔法が割り込んだ。今日の午後に起きたその出来事は、別段不可能、という訳ではない。ただ、通常、それは強い魔力が必要だし、多少なりとも軋轢を現象として起こす。例えば、音や振動、熱や光といった形で。

 しかし、今回、そう言った軋轢は発生していない。少なくともセリアにはそんな兆候は知覚できなかった。そのセリアの説明に顎に手を当ててカウルは首をひねる。



「……うーん。やっぱりよくわからないなあ」

「主幹。それって、つまり「魔法の消去」が部分的に行われていたんじゃないんですか」

 上司の態度に釣られてか、助手もようやく恍惚の表情から醒めて、研究者としての意見を兄妹の会話に差し挟んだ。



「そうかも知れないし、違うかも知れない。いくつかの仮説は用意できない訳じゃないけどね。絞り込むには材料が……」

 と、そこまで言って、カウルは助手の顔をのぞき込んだ。



「なんですか。いきなり、人の顔を凝視して」

「助手君ってさ、結婚していた? お子さんっている?」

「独身です。彼女も現在おりません。絶賛、募集中です」

 なぜか、セリアを横目で意識しつつ答えてしまう助手にカウルは満足げに頷く。



「じゃあ、この世に未練ってあまりないのかな」

「あるに決まってるでしょう!」

 何を言い出すのか、と目を剥く助手に、カウルは惚けた表情のまま言葉を続けた。



「いやー、神崎家に玉砕覚悟で突撃取材を敢行して欲しいなあって」

「神崎家の取材に行くと命に関わるっていうんですか?!」

「場合によってはね。少なくとも僕が行くと寿命が縮むね。恐怖で」

「……いったい、神崎先生にどんな恨みを買ってるんですか。あなたは」

 兄と助手の会話に、セリアはあきれ果てた、といった様子で肩をすくめる。「悪い方の神崎」だの「魔女」だの、よほど学生自体に神崎蓮香にひどい目に遭わされていたのだろうが……正直、その原因の9割方はこの兄の方にあるのだろうと、妹は確信していた。



「わかりました。調査が必要なら私が行っても構いません」

「セリアちゃんが?」

 妹の台詞に、今度はカウルが軽く目を剥いた。



「どうしたの? 珍しく、というか、かつて無いほど協力的だね? 同類かも、っていうのは本当に思いつきレベルに過ぎないんだよ? あ、もしかして、そんなに彼が気にかかる?」

「おかしな言い回しは止めなさい。分からないことを分からないまま放置されるのが気持ち悪いだけです」

「ふんふん。なるほど、それはセリアちゃんらしいけどね。じゃあ、セリアちゃんにお願いしようかな。是非、やって欲しいこともあることだし」

「やって欲しいこと?」

 兄の声に潜む好奇の色に、セリアは嫌や予感を覚えつつ、「それは?」と先を促した。



「うん。是非、彼と……神崎良君と魔力交換してみて欲しいんだ」

「……意味が分かりません」

「あれ? 彼のこと嫌い?」

「そういう問題じゃありません。魔力交換なんて誰かに言われてするものじゃないでしょう」

 魔力交換は心の交換に例えられることもある。少なくとも嫌いな相手とする行為ではないし、そもそもそういう相手との魔力交換は双方にとって有害なのだ。



「無理にとは言わない。相性の問題もきっとあるだろうしね。でも、きっと、ひょっとしたら、何かこう運命的なものを感じ取れるかもしれないよ?」

 戸惑いの表情を僅かに覗かせる妹に、兄は相変わらず飄々とした声のまま、告げた。



「もし、本当に彼が、セリアちゃんと同じように……世界樹に連なる魔法使いなら、ね」



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