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第十三話 閑話

レンさんの職場(神崎蓮香) 13話時点でのレンさんの状況。

「天国への門……って、遊園地のことか?」

「そうそう。佐奈ちゃんがチケット用意しろって言ってきてね」

 私の言葉に、同僚の緑園久遠みどりぞの・くおんが、ウェーブのかかった茶髪を揺らしながら笑った。名字が示す通りにわずかに緑色をした瞳は、長時間の魔術行使の疲れも滲ませることなく快活な笑みに揺れている。

「佐奈って、泉佐奈か。ああ、そう言えば彼女はお前の姪だったね」

 久遠の言葉に頷きながら私は、良と綾が友人と遊園地に遊びに行く、と話をしていたことを思い出す。なるほど、中々に人気の高いあそこのチケットを手に入れられたのは、泉の協力があったからか。

 そう納得しながら、私は胸中の不安が少し軽くなるのを感じて小さく息をつく。……泉が一緒にいるのなら、綾と良がふたりっきり、という事態にはそうそうならないだろうから。

 ……ならないよな?

「いやー。我の姪なのに一向にその手の話を聞かないから心配だったんだけどね」

 ふと脳裏をよぎった一抹の不安に、私が頭を抱えているのにもお構いなしに、久遠はなにか楽しげに佐奈の話をする。

「ちゃんとあの娘もやることやってるよね。うんうん。お姉さんとしては一安心よ」

「お姉さんじゃなくて、おばさんだろう。関係は誤魔化すな」

「あーあー、聞こえません。お姉さんったら、お姉さんなの」

 私の指摘に、久遠はわざとらしく耳を塞いで首を振る。とてもじゃないが、魔法院上級研究員の振るまいとは思えない。というか、胸に光る翡翠色のペンダントが無ければ誰も信じないだろう。

「あ、そうそう。そう言えば、良君と綾ちゃんの顔もしばらくみてないしね。一度、挨拶に来させなさい」

「寝言は寝て言え」

「ひ、ひどい! なによ、その言いぐさは!」

「ひどくない。誰が野獣の巣に、可愛い子供達を送り込むものか」

「誰が野獣なのよ。誰が」

「お前だ。野獣、猛獣、節操なし」

「ひ、ひどい……っ」

 我ながら容赦のない突っ込みに、久遠は悲壮な表情を浮かべて、蹌踉めいて見せた。が、このぐらいで久遠が傷つく訳もないし、そもそも私は事実しか口にしていないのだ。だから、肩をすくめて努めて非常に手にしたファイルを彼女に向かって放り投げた。

「傷ついている演技をしている余裕があるのなら、仕事しなさい。あるいは、節度を保った生活をしてみせなさい」

「……仕事します」

 語るに落ちるとはこのことなのか。私の生活改善要求をあっさりと受け流して久遠はファイルをめくっていく。

 ……まったく。恋愛を謳歌するのは本人の自由だが、友人の子供にまで平気で手を出そうとする性格は本気で矯正しないとなあ。

「なによ、レンの意地悪ー。いくら親友だからって言って良いことと悪いことがあるんだよ? 私だってたまには傷つくんだからねー」

「いいから仕事しろ。小坂が干からびて仕事にならないって泣きついてきたのはお前だろう」

「そうなのよねー。小坂君ももうちょっと根性見せて欲しいわよねー。まだ片手の数の相手しかいないのに」

「……久遠、自分を基準に考える癖は改めろ」

 小坂は五人目の花嫁を娶ってから、流石に魔力供給のバランスが崩れているのか、目に見えてやつれてきている。しかしながら、一人で五人の魔力をまかなっている、というのは魔法研究員の資格をもつ魔法使いでも簡単なことではないのだ。

 しかし、目の前の「魔女」は、両手の指を越える相手に魔力を分け与えて平然としている規格外。そんな久遠の基準ではかられては、魔法院のほとんどの魔法使いは「根性が足りない」ことになるだろう。

「なによ。レンはすぐそうやって、私を変人扱いするんだから。いい加減にしないと泣くよ?」

「泣け。そして自分が変人だって自覚しろ」

「……相変わらず、容赦ないよね。でも、好きだよ」

「はいはい。私も好きだよ」

「本当?」

「本当。だから、仕事するぞ」

「よーし。頑張ろう」

 私の言葉に気をよくした私の幼なじみは、元気よくファイルをめくりながら、小さく呪文を口ずさんでいく。

 その様子に私は軽く肩をすくめて、自分の手元にあるのは、先日の「世界樹の雨」の時に入手された世界樹の葉に目を落とす。本当に、こんな性格の友人がこの研究の主任だというのだから、世も末だ

 ―――世界の仕組みを解析する。

 東ユグドラシル魔法院の上位研究機関。その一室で与えられた目的のために魔法を形にしながら、私は小さな憂鬱に、少しため息を零すのだった。

 こんな性格の魔法使いたちに解析されるような世界であって欲しくないなあ、なんていうそんな思いと、そして……遊園地なんて言う場所で綾が思い切った行動に出るんじゃないかという不安に。

「まあ、大丈夫か。まさか、遊園地で兄を襲って言うこともないだろう」

 なんて、呟いた私だったけれど……その考えが甘かったことを知るまでに、それほどの時間はかからなかったのだった。

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