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■三■

■三■


「そういえば、聞いてませんでしたけど。アカツキさんの探し物って、楽器とか関係あります?」

 先ほど抜き取った目録カードから五十鈴が顔を上げた。手を止めたアカツキは、五十鈴をじっと見つめてから口を開く。

「いや、流石に楽器はないな。見繕っておきたいのは礼服とか礼装とか、そういう類のものになるから」

 小さくうなずいてから手元に視線を戻すと、アカツキはれいれい、と呟きながら目録を手繰る。

「また〈円卓〉絡みのイベントですか。貴族様とか格式ある衣装とか、私なんか気後れしちゃって護衛どころじゃなくなるんだろうな」

「そんなことはないだろう。あれだけ見事に観客の機微を掴んでライブを盛り上げるんだ、賊の気配くらい簡単に読めるだろう」

 しかも楽器を弾きながら、歌まで歌うとか。続けてそう呟きながら、アカツキが手を止めた。ふむふむ、と一人で合点する。

「あはは、私なんてまだまだですよー。部隊の指揮を執りながら、スキルに合わせた歌と踊りで士気の鼓舞までこなす人とか結構いますもん。でもそんなお墨付き貰ったら、今度募集があったら応募するしかないっていうか。……いやいやいや、嘘です。ちょっと調子に乗りました」

 冗談めかして笑う五十鈴を、アカツキはじっと見つめていた。慌てて姿勢を正す五十鈴に、口の端を上げて応える。

「ええと。……あの? 私、アカツキさんと張り合うつもりとかないですからね?」

「いや、別に気にしないでくれ。優秀な護衛が増えるのは喜ばしいことだし、それで主君のリスクが下がるというのなら願ってもない。そうではなくて。……その楽器、ルンデルハウスへの贈り物候補だったんだな、と思っただけだ」

 他意はない、というアカツキの頷きに、五十鈴が悲鳴のように喉を鳴らした。

「な! な、ななな?!」

「何故かと問われたら、ライブに使うのならリュートとかドラムとかもっと楽器を絞るだろう。武器としてならスピアのほうが慣れている分、効果的だろうと。うん、我ながらシンプルな消去法だったんだが」

 またしてもアカツキは動きを止めるが、五十鈴は明後日の方の向いたまま真っ赤な顔を両手で挟み込んでいた。そのまま咳ばらいをして、続けて喉の調子を確かめるようにこそりと小声を出し、静かな気配に急かされるように、意を決したように息を吸った。

「楽器の練習をしていると、ルディはすごいって言ってくれるし、とっても楽しそうに聞いていてくれるんです。だからその、セッションまで行かなくても、一緒に音を出せたらうれしいな、もっと楽しいんじゃないかって思って」

 我に返った五十鈴が、あまりに静かな間と、押さえていた顔の熱さにびくりと体を震わせた。そっと体の向きを変えると、やはり五十鈴をじっと見ていたアカツキが、またも小さく頷いた。

「や、今のなしで! 聞かなかったことにしてください、武士の情けというやつでひとつ!」

「うん、場所とか時間を改めて聞いてほしいというなら、いくらでも付き合う用意はあるのだが」

 違います、と絶叫する五十鈴に、ぴたりと指を指し示して鋭く問う。

「そこのところも後で詳しく聞かせてもらうとしてだな。この目録に登録できるキーワードに、何か禁止されている文言というのはあるのだろうか。例えば人名とか、特定のブランド名とか」

 突き付けられた指先に思わずのけぞったまま、五十鈴はゆっくりと視線をさまよわせた。

「キーワードの追加には申請が必要ですけど、特に却下されたとかは聞いたことないです。あ、工房の名前なら見たことありますけど、物を売るための宣伝というよりは、所有権の主張が目的みたいでした。えっと、月一でしか使わない、何かの精製に使う機材とかなんとか」

「所有権か…… ならやはり、これはサプライズが目的なのだろうか」

 差し出された目録を受け取り、五十鈴は何げなくそれを読み上げた。

「いしょう、れいふく、いすず。……あれ? 私、延滞でもしてる?」

 目を瞬かせつぶやき、そのままの姿勢でしばらくカードを凝視し、こてんと首を傾けた。

「これといって身に覚えはない、と思うんですけど」

「次のライブに使う衣装を予約しているとかはどうだ? あるいは以前使ったやつとか」

「衣装はいつも自前で、全部自分の部屋にあります。クローゼットは十分余裕あるし、第一人に貸すとか、質屋に預けるみたいな特殊な服なんか持ってないです」

 ふむ、とアカツキは呑気に呟いたが、残りの手元の目録を眺めながら、ほんのしばらく、爪先で床を突いた。

「どちらにしろ、私が探しているものかもしれないことに違いはない訳だから。一緒に見に行くくらい、付き合ってみないか?」

「別に急いでませんから、構いませんけど。……どちらにしろ、ですか?」

 いつのまにか眉間に寄っていたしわをさすりながら、五十鈴は目録をアカツキに返す。

「ただの偶然なのか、違うのか。行けば分かるだろうが、行かなければ絶対分からないということだ」

 それだけ言って残りの目録をワゴンに戻すと、目的のラックへ向けて歩き出した。



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