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アキバのギルド会館から、まずは大聖堂を目印に。五分ほど歩いたところで、垂れ下がる大樹の根を潜り抜けて、その先にある陸橋下のアーケード街へ。色とりどりのチラシが貼り散らされたコンクリートの通路を道なりに、突き当たりまで歩くこと80メートル。高さも幅も3メートルはある大きなスモークガラスの自動ドアには直接、粗雑な刷毛で引いたような掠れた、けれども中々見事な筆字で『七草』と銘されている。
扉の前には先客がいた。
腕を組んだまま首を傾げた人影は、少し見上げるように、扉の脇に据えられた立て札を吟味していた。くたびれた忍び装束をまとっていても、不意に浮かせた片方の爪先で地面を突きだしても、その凛とした佇まいは崩れない。
胸元に流れる高く括った黒髪を軽く払い、近づく足音へ顔を向ける。無表情な、大の大人をたじろがせるに十分な鋭い眼光が、その人影の後ろを見やり、ひょいと片方の眉を吊り上げた。
「五十鈴ひとりか? こういう怪しげなところにこそ、番犬は連れてくるべきだと思うぞ」
「アカツキさん……」
腕を組んだまま人差し指を立てる、小柄な黒装束の少女の嗜めるような口調に、五十鈴と呼ばれた少女は膝を崩しかねないほど脱力し、思わず肩に担いでいた槍を地面に突いて、それにすがった。
追い打ちをかけるように、背中からずり落ちたリュートが、その胴から二度三度とうつろな音を鳴らす。
「なんだ? サプライズな何かなのか?」
「えと。違う……訳でもないか。うん、もうそれでいいです」
五十鈴がリュートを背負い直し、ショルダートートを肩に掛けなおすまで待ってから、アカツキはじっと見つめていた視線を高札に戻す。
「ここには良く来るから大丈夫、ということなら。いろいろ聞きたいのだが」
削りたての桧が香る高札には、これまた達筆な筆字が認められている。文字が小さいだけで意外と読みやすいが、最初の方にある「一見さんお断り」というフレーズにどうしても目が引き寄せられる。
「七草のことですか? 元から倉庫っていうには変なところだったんですけど、妙なところに凝ってるんですよね。高札とか割り符とか」
ウェストポーチを探りかけた五十鈴が動きを止めたが、それより速く、アカツキが懐から木の板を取り出した。
「フリーマーケットみたいな荷物置き場、とは聞いている。紹介というか、登録関係は三日前に済んでいるから心配はいらない」
シェアウェアハウス〈七草〉というロゴと、小さな顔写真のような似顔絵と名前。そして紹介者として〈円卓〉のサインが入っているかまぼこ板ほどの大きさの板は、その大きさ以外はどこからどう見てもレンタルビデオの会員証のようだった。
「そういうことなら、とりあえず入ってみましょうか。実物見ながらの方が、説明もしやすいですし」
中空を睨んで指で何かを操作した五十鈴が小さくうなずくと、3メートルもある扉を軽々と押し開いて、その奥に広がるゲートをくぐった。




