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267:神造の人間性

 予てから疑問に思っていたことではあったのだ。

 静自身、【神問官】なる存在と会ったことすらないのに、なぜ【神造物】たる【始祖の石刃】は突如として静の手元に現れたのか、と。


 【神造物】は試練を突破し、その適正を認めさせることで得られるもののはずなのに、静自身にその試練を受けた記憶すらないのはどういうことなのかと。


 もちろん、【始祖の石刃】はフロアボスの一体を倒した際に現れたものだったから、あるいはそれこそが試練なのかとも考えたのだが、しかしそうと断定するにはどうにも状況が不可解だ。


 無いとは言い切れないが到底そうは思えない。

 次の階層に進むためのボス戦と【神造物】を手にするための試練が一緒くたになっているなど、果たしてそんなことが本当にありうるのか、と。


 だがその疑念の答えは、【始祖の石刃】について【決戦二十七士】の者達が知っているそぶりを見せていたことでなんとなくではあるが察せられた。


 彼らが【始祖の石刃】について知っているということは、かつて静以外にこの石刃を手にして、実際に使っていた人間が他にいたと言うことだ。

 そんなものがあのタイミングでなぜ静の手元に現れたのかについてはいくつか仮説が考えられたが、かつてあのドーム球場で自身の元にこのセリザが現れた時から、静の中でどの仮説が正しいのかはなんとなく特定ができてしまっていた。


「--要するに、今の私は仮免許のようなものなのではありませんか?

 試練を突破したから【始祖の石刃】を得たのではなく、【始祖の石刃】の正規の所有者となるために、今まさに試練を受けているその真っ最中と言うこと」


「――ああ、ご名答、さね……」


 静の回答に、セリザはニヤリと笑うと酷く満足そうに手を叩く。


「お察しの通りさ。今のアンタは【始祖の石刃】の正当な所有者って訳じゃなく、あくまでもアタシの【権能】の一つによって仮初の所有者に設定されているに過ぎない。

 あんたがこれから受けることになる本来の試練、そのためのある種の準備段階として、ね」


 通常、【神造物】は【神問官】によって試練を課され、それを突破することで初めて所有者として認められ、人間の手に渡る。


 これは【真世界】における神造物所有者選定の基本原則である訳だが、しかし基本はあくまで基本であって、そこに例外が全くないというわけではない。


 否、ここまで何人かの人間から聞いての印象でいえば、例外と言える事例はいくつもあって、そのうちの一つがこの【始祖の石刃】であるというべきか。


「これはアタシの持論なんだが、【神造物】には設定された条件と言う以上に、コイツを作った神様が想定する選定の筋書きみたいなものがある。

 この石刃の場合、その筋書きは至ってたシンプルだ。

 アタシが目を付けた相手に【始祖の石刃】を貸し与え、手にした人間がその扱いに慣れてきたころに改めて本来の試練を受けさせる。

 このアタシと戦い、打ち勝つことで石刃の本当の持ち主として認められる、と言う試練をね」


(……やはり、ですか……)


 明かされた試練、その内容が予想通りのモノであったことに、静は内心で密かに嘆息する。


 こうして話すセリザの人物像や漏れ聞こえてくる話からそうなのではないかとは思っていたが、正直に言ってこの予想は静にとってはずれていてほしいものだった。


 とは言え、これについてはもはや言っても仕方がないことと割り切るしかないだろう。


「--とまあ、アタシが考える、恐らくは神様が想定しているだろう筋書きはこんなところさね」


「……随分、曖昧な言いぐさですね?」


「--ん? ああ、いいところに気付くじゃないさね」


 所々で覗く言い回しが気になり尋ねると、やはりというべきかセリザはどこか楽しそうにニヤニヤと笑ってそう応じる。


「今しがた偉そうに試練について語っちまったが、実のところアタシ自身、自分の試練がそう言うモノだと、筋書きやら達成すべき条件やらを神様から直に聞かされてるわけじゃない。

 これについてはアタシだけじゃなく、大抵の【神問官】がそうなんだけどねェ」


「……? いえ、待ってください……。それが本当なら--、ならあなた方【神問官】は何を根拠に人間に試練を課しているというのです?

 と言うより、そもそも試練の内容を知らないのでは、その試練を人間に課すことなどできないと思うのですが……」


「それについてはまあ問題ないさね。

 なにしろアタシら【神問官】はとくになんと言われなくとも試練に相当する行動をとってしまうような、そんな行動原理を最初から設定されているんだから」


「行動原理、ですか……?」


「ああそうさ。わかりにくいようなら本能や習性、あるいは欲求や衝動なんて言葉に言い換えてもいいかもしれない。

 そもそもにおいて、アタシら【神問官】の精神構造は人間のそれとは根本から異なる。不死不壊、不滅の存在であるアタシら【神問官】はそもそも死を恐れないし、代わりに試練達成やそれに通じる行動への衝動みたいなものを人間達でいうところの三大欲求に近い指針として持って生まれてくる」


 それは言われてみれば、確かに十分にあり得る話だった。


 こと【神造物】を持つにふさわしい人間を探すという目的において、試練の達成によって消滅してしまう【神問官】がその消滅を恐れているようではどう考えても目的達成の障害となりうる。


 そもそもにおいて、【神問官】は神が【神造物】の所有者を選定するために生み出したロボットのような存在なのだ。

 であるならば、そのロボットを動かす精神構造(プログラム)についても、所有者の選定と言う目的にかなう形になるよう設定していたとしても何らおかしくはない。


「アタシらが自分の試練の内容を大まかにでも特定できているのは、この自分に与えられた行動原理から逆算したからなのさ。

 優れた武人を見た時、まずその相手に【始祖の石刃】を持たせてみたいって思いが湧き上がったから、アタシの試練には【神造物】を貸し出す必要があるのだと判断した。

 そうして石刃を貸し出した後、日を追うごとにその相手と戦いたい、戦って石刃を奪い返したいって欲求が募るようになったから、貸し与えられた石刃でアタシと戦い、これに打ち勝つことが試練の筋書きなのだろうと推測が付いた」


 欲求や衝動と言った曖昧なものを根拠としている割に、やけに確信に満ちた口調でセリザは自身の試練についてそう語る。

 否、この場合曖昧な根拠による浅慮を疑うよりも、どちらかと言えばそれ以外にも判断材料があったのだと考えるべきか。


「加えて言うなら、この行動原理の他にもあたし自身にそれができる【権能】があったってのも判断材料としては大きい。

 前段階の【神造物】の貸し出しにも、本試練の戦闘にも、どちらについてもあたしにはそれに対応するような【権能】が設定されてたからね。

 結構メジャーな方法なのさね。あの世界において、自分の【権能】と行動原理から試練の内容を導き出すってのは」


「……」


 語られる試練の根拠、セリザ一人ではない、【神問官】全般に当てはまるらしいそれを語り聞かされて、静は内心で彼らの境遇になんとも言えない理不尽さのようなものを微かに覚える。


 【神問官】である彼女らにとって、試練の達成は自身の消滅と同義だ。


 そんな消滅の条件が具体的に知らされることなく、しかも自らその達成のために動くように精神性を設定されてしまっているとすれば、果たして当の本人たる【神問官】達はそのことをどのように感じているのだろうか。


 目の前にいるセリザなどは、特に不満もなくどこか割り切っているようにも思えるが。


 あるいは【神問官】の中に自分達のそうした境遇に不満を持ったものがいたとすれば。

 今回の騒動の首謀者。自らを【神造人】と名乗る彼らは、あるいは――。


「アタシがあんたを次の試練の受験者に選んだのも、実際のところはこの行動原理にしたがった結果ってのが大きい。

 --まあ、行動原理って言ってもただの直感、それも観測できる人間の数を制限された中での、一度も当たったことのない直感だったんだが」


 そんな静の内心を知ってか知らずか、当のセリザは自身の境遇について何ら機にした様子もなく、先ほどまでと同じようにそう語り続ける。

 とは言え、語られた内容そのものは、静にとっても少々気になるものだった。


「観測を、制限された……?」


「--ん? ああ……。

 厳密には制限じゃなく禁止だったんだが、アタシの場合ちょっとのぞき見する手段があってね」


 疑問を呈する静に対し、当のセリザはどこかいたずらを告白するようにそんな答えを返してくる。

 だが重要なのはのぞき見云々の話ではない。

 ほとんどの人間と敵対する形となっていた【神問官】が、その敵たる人間そのものの観測を制限していたという、その点だ。

 そしてそんな静の疑念に遅れて気づいたのか、セリザもニヤリと笑ってその疑念についても種明かしをしてくる。


「さっきも言ったが、アタシら【神問官】は課された条件に合う人間を認識することで、その人間を【神造物】の持ち主として選定し、消滅する。

 これについて、アタシみたいな普通の【神問官】はそもそも消滅そのものを恐れていないもんだからあんまり問題とも思っていない訳だが、試練の達成以外の目的を持って行動している、あの連中については事情が変わって来る。

 なんせ試練を課していなくても、条件に合致する人間を認識してしまえば自動的に選定が行われてしまう訳だからね」


 もしただの偶然であったとしても、ほんの一瞬人間を認識しただけでその相手を選定して消滅してしまう危険があるのが【神問官】と言う存在だ。

 故に不用意に人間を認識できる状況に身を置き続ければ、確かに彼ら【神問官】はある種の事故のように、ある日突然消滅してしまうという危険性が理論上確かに存在している。


「不意の消滅を防ぐための一手……。なるほど、それで人間そのものを認識しないようにしている、と」


「そう言うことさね。とは言え、このやり方は人間でいうなら禁欲生活(・・・・)に近い。

 何せアタシら【神問官】は本能的に試練を達成する行動をとりたがるもの、当然人間について知りたいという衝動はアタシらにとっちゃ本能的欲求のレベルで存在している。

 連中が情報を頭に入れることのメリットをわかっていてなお、極力このビル内にいる人間について観測することを避けていたのには、そう言った本能や欲求の存在によるところが大きい」


「禁欲生活、ですか……」


「そう。要するに、あいつらは一度でも人間に興味を持ってしまうことで、自分達の中のタガが外れるのを恐れていたのさ。

 だから、システムだけ用意した後はその運用を知能の足りない擬人共に任せて、多少対応が雑になることにも目を瞑って、自分達は極力人間を認識せずに、接点も持たないように過ごしていた……」


『禁欲生活』を送っていた仲間たちの事情について、ただ一人その禁を破っていたらしい【神問官】はそう語る。


 とは言え、そうと聞かされればビルの中を監視していると思しき明確な監視システムがありながら、静達への対応が妙にずさんでお粗末だった理由にも納得が行く。


「――まあ、結局はアンタ達みたいな想定外の出現や、その想定外が最大の危険だったあの魔女に接触する事態になったことで、自分達が直接干渉せざるを得なくなったんだがね……。

 --はっは……。案外今頃、【神造人】達の誰かが前回観測した人間の誰かに接触しているころかも知れないね。

 生まれ持った試練への欲求、人間への興味を抑えきれなくなって、この塔内にいる誰かの元へ会いに行っちまってる頃合いかも……」


 セリザは知らない。

 知っていてその予想を口にしているわけではない。


 今まさにその【神造人】の一人が、よりにもよって静と縁のある一人の少年の元へと現れ、興味などと言う言葉では到底言い表しきれない絶大な関心の元、その少年を勧誘していようなどとは。







 仮初の死に満ちた廃墟の中央で予想だにしない評価が曝される。


 【真世界の申し子】というあまりにも大げさな、しかし一概に否定もしきれない高すぎる評価が。


 あまりにも予想外のその賞賛に、半ば反射的に、悪あがきのような言葉が竜昇の口を突いて出る。


「さすがに、大げさだろ……。いくらなんでも……。

 元の世界にだって、俺みたいな判断をする奴くらいたはずだ」


「確かにいなかったとは言い切れません。

 ですが一度や二度ではなく、ああも一貫してあなたのようなスタンスを貫いていた人間は相当稀だったと思いますよ。

 なにしろ【旧世界】においては、そもそもそう言った人間は大抵長くは生きられませんでしたから」


「……」


「それに【旧世界】の変わり者の行動では意味がないんです。

 【新世界】で生まれた人間たちが重んじる、けれど実践するとなればとても難しいそんな行動、それを取り続けたあなただからこそ【新世界の申し子】足る意味があるんですから」


「――決断したのだって、別に全部が全部俺一人で決めた訳じゃ、ない……」


「ええ。ですが決断の中心には常に貴方がいた。

 そう言う意味でも、貴方と言う人間は特別なんです。単に我を通せたというだけでなく、己の決断を周囲に納得させられたというその点が。

 特にあなたの場合は、単純な主義信条と言うだけでなく先を見据えた生存戦略と両立していた。

 他者のために侵す危険を必要経費と割り切って、他者の弱さを負担として受け止めてでも他者とうまくやっていくことの必要性を、あなたは理解していた。

 だからこそ……。あなたの判断に周囲の人たちも、あのオハラの血族すらも危険を承知で、それでも従う価値ありと見て納得した」


「……お前は、いったい俺に何を求めているんだ……?」


「言ったはずですよ。あなたに、あの世界のために戦ってほしい、と」


 だんだんと、サリアンの求めるものを理解し始めている事実を己の中に感じながら、竜昇は求められている決断の、その漠然とした大きさを予感して息を呑む。


 その予感を肯定するように語られるのは、竜昇に大きな決断を求めるサリアンの情報の開示。


「参考までにこれからの予定をお話しておきましょう。

 僕達はこれから、【決戦二十七士】の戦士達との最後の戦いを迎えるつもりです。

 その結果としてだれが生き残って誰が死ぬかまではわかりませんが、少なくとも僕達は彼らを完全に鎮圧するつもりで準備を整えています」


 言外に【決戦二十七士】の戦士共々、静や華夜と言った竜昇にとって重要な二人が死ぬ可能性をちらつかせながら、同時にサリアンは鎮圧さえできれば彼らの生死にはそれほどこだわりがないことも示して見せる。


 それこそまるで、竜昇に対して追加の目的と妥協の余地を示すかのように。


「その後の対応については生き残った者達の出方次第ですが、彼らの選択によっては生き残った戦士たちやビル内にいるプレイヤー達、あの拠点の人員や【旧世界】に残る人々など、全員まとめて【新世界】に迎え入れてもいいと思っています。

 もちろん、記憶の操作は受けていただきますし、その場合残った【旧世界】はほどなく消滅の運命をたどる訳ですが……」


 それは敵対者に対する寛容な対応でありながら、事実上全面降伏を求めると言っているに等しい意思の表明だった。


 自分達が勝った場合生存の場は与えてやるが、その代わり今までの人生も生きてきた世界も捨ててもらうと、この少年は何ら悪びれることなくそう言っているのだ。


 恐らくその根底に、元あった世界で暮らすよりも自分の作った世界で生きる方が幸せだという、そんな傲慢さを伴った圧倒的自負がある故に。


「なんにせよ、世界は元あった【旧世界】からあなたの知る【新世界】へと、今度こそ完全な移行を果たすことになるでしょう。

 問題はその移行に際してどの程度取りこぼしを防げるか、と言う話になるのですが――」


「けど、そうして移行した世界も結局は二百年、いやもうあと百八十年くらいで滅亡することになるんだろう……!?」


「……そうですね。その点は否定できません。

 僕自身、今回の一件が片付いたら本格的にその百八十年後の滅亡の回避を目指して動くつもりではいますが、実際に滅亡を回避できるような具体案がある訳でもありませんし……」


「回避、できるのか……?」






「――どうだろうね? あたしとしちゃ、そんなにうまい話があるとも思えないんだが」


 一時期手を結んでいた【神造人】、その一人であるというサリアンと言う少年の方針について、セリザはやや辛らつにそう語る。


 否、その評価は辛らつと言うよりも。

 実際には公平で、むしろ客観的であると見るべきか。


「勘違いしないでほしいんだけどね。別にあたしだって技術的に不可能だとか、明確に成功しない理由の心当たりがあって言ってるわけじゃないんだ。

 なにせそのあたりの話は実際に世界創造をやったことがある神様とサリアンくらいにしかわからない話だから、やってみたら案外あっさりと滅亡の要因が解消されて、世界は新しくなって末永く幸せに暮らしました、なんて結末もありうるっちゃありうる」


「けれど、実際のところ貴方はそんな風にうまくいくとは思っていない、と?」


「まあねェ……。単純にそんなうまい話がある訳ないって先入観みたいなものと言ってしまえばそれまでなんだが……。

 実際にそれをやる【神造人】連中のスタンスがちょっとね……」


「スタンス、ですか……?」


「ああ……。こいつは当の本人達、特にサリアン坊やなんかは多分自覚してないだろう話なんだけどね……。

 確かにあの三人の方針は【新世界】存続を目指すってことで一致しているが、その目的まで三人の中で一致しているわけじゃない。

 サリアン坊やにとっては、あの世界の維持と存続は目的みたいなもんだからそこについちゃ問題ないんだが、他の二人にとってあの世界の存続はあくまで手段でしかないから、どうしてもそこにかける熱量みたいなものに温度差があるのさ」


 つい先日まで手を組んでいた三人について、セリザは確信に満ちた口調ではっきりとそう断言する。

 恐らくそれは、三人の様子を一番近くで観察できていたが故に。


「無論残る二人にしたところで、あえてあの世界の存続を阻もうって気はないんだろう。けどあいつらのスタンスってのは、言ってしまえば【新世界】が滅ぼうが存続しようがどちらであっても構わないから、そこんところは存続を望んでいるサリアンに義理立てして譲って、ただの仲間意識でサリアンに合わせてやってるってのが実情としては近い」


「……なるほど」


 セリザの言葉に、静の方も彼女が懸念していることをある程度ではあるが理解する。


 確かに世界の存続と言う重大な仕事を任せるにあたり、それを担う当事者たちが熱意に欠けるというのは大きな不安要素だ。

 無論熱意の有無だけで結果が決まるとは思っていないが、極論世界の命運を一人が壁にぶち当たっただけであっさりと断念されたらそれこそ目も当てられない。


 そんなことを考えながら、同時に新たに浮かんでくるのは、これまであまり考えてこなかった根本的な疑問。


「――ですが、それならそもそもあの方たち、【神問官】ではなく【神造人】を名乗っている彼らの目的は何なのですか?

 単純に世界を滅ぼしたいというならいざ知らず、どちらでも構わないというのはどういうことなのでしょう?」


 仮にどんな目的を持っていたとしても、普通に考えて世界そのものが滅びてしまえばその目的すらも台無しになってしまうはずだ。


 あるいは願いが叶う前に目的は達成できると考えているのかもしれないが、そうなって来るといよいよ静では【神造人】であるあの二人の目的が絞り込めない。


 なんとなく、彼らの在り方が先ほど聞いた【神問官】の行動原理、試練の達成を目指す一般的な【神問官】の生き方から外れようとするものであるのは読み取れるが。


「さて、ね……。実のところアタシもそれについてはよくわからない。

――気付いてるとは思うけど、四人の中でアタシだけはゲームマスターの一人ではあっても【神造人】じゃないんだよ。

 ゲームマスターとして加わったのも四人の中で一番最後、しかも加わった理由も他の三人と違って、この世界の存亡をかけた決戦の場で、自分の試練を行いたかったからって理由だしね」


 実際彼女の言う通り、消滅を恐れることなく、本来の目的である試練の達成に向かうセリザの精神性は、確かに【神問官】ではあっても【神造人】のものではなかったのだろう。

 聞いていれば、【神造人】と言うのは【神問官】としての生き方を拒絶した者達が名乗っている名であるようだし、それを考えるならセリザと他の面々の考え方はいっそ相いれないとすら言っていい。


「軽く聞いた感じじゃ、もともとルーシェウスとアーシアが一緒に行動していて、その二人が【神杖塔】の攻略を成功させたことで塔の【神問官】だったサリアンが加わり、そこに最後にルーシェウスに目を付けてたアタシが追加されたって形らしい。

 まあそんな事情だから四人の中じゃあたしが一番の新参者でね……。しかも目的や生き方も一人だけ違って、ただ利害の一致だけで協力してたような立場だから、連中についてそんなに詳しいわけじゃないのさね」


 『ルーシェウスについても会って見たら試練の対象としてピンと来なくて、それ以上興味もなくなってたしね』と、どこまでも【神問官】としての基準に照らした物言いで、セリザはかつての同胞たちについてそう証言する。


 彼女にしてみれば、試練を、あるいは使命を放棄した同類のその動機についてなど、さしたる興味もなかったということなのだろう。

 あるいは、ついでで探れるならば彼女も探りを入れていたのかもしれないが、スタンスも目的も明らかに違う彼女に対して、他のメンバーも迂闊に本音を明かすようなことはしなかったのかもしれない。


「まあなんにせよ、連中の目的が試練以外の何かであり、そのためにこれまでのモノとは違う、新しい世界を作る必要があったってのは間違いないさね。

 そしてそれ以上のことは、生憎とアタシにはわからない。一応の想像ならできなくはないが、それについてはアンタだって同じだろうしねぇ?

 --そしてなんにせよ、連中の目的が二十七士の連中やあんた達と相いれないのは確かだよ。

 なにしろ【新世界】がこのまま残るってことは、すなわち古い世界が滅ぼされてそのまま後が無くなるってことなんだから」


「……」


――そう、あの二人の目的がなんであったところで、結局のところ今のこの状況は変わらない。

 【旧世界】を消し去ろうとする【神造人】と、【新世界】の解体を目指す【決戦二十七士】の衝突は避けられない。


 どんな理由があったところで、その一点だけは揺るがない。


 だから――。





「――だから、守ってください」


 天使のような少年の言葉と共に、周囲の景色が砂のように舞い上がり、崩れ去る。


「--貴方のその手で、守ってください」


 否、先ほどまでの各階層を再現した景色はこの砂のような粒子を固めてその形に見せていただけだったのかもしれない。

 景色が崩れて消えるとともに先ほどまでの廃墟が姿を見せて、その廃墟すらも大地が割れるとともに地盤ごと彼方へ向けて遠ざかって、直後に竜昇の足元と周囲に変わりの地面と、そして新たな光景が形作られる。


「貴方が生まれ育ったこの(・・)世界(こきょう)を、他ならぬ、あなた自身の手で」


「――ここ、は……。この場所は……!!」


 そうして、竜昇の周囲に先ほどまでの景色以上に見覚えのある光景が現れる。


 足元の地面もいつのまにかアスファルトの道路に変わり、周囲一帯に次々と見覚えのある建物が形成される。

 見間違えるはずもない。ビルに踏み込む前までずっと暮らしていた故郷とも言うべき街並みが、本物と見分けがつかないほど精巧に竜昇の周囲に再現されていた。


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