165:理解阻む障害
実のところ竜昇は、昨日あれだけ明確な対立構造を演じておきながらも、誠司達が竜昇達の申し出にのってくる確率はそれなりに高いものと見ていた。
第三層で滞在することになった映画館で、そのまま通り過ぎるのではなくレベル上げを行うという、竜昇の眼から見てもかなり大胆で、かつ賢明な判断をしている誠司達ではあるが、しかしあちらのパーティーは戦力的にこそ充実している反面、情報面ではそれほど充実しているとは言い難い。
加えて言うなら、竜昇達とてこの階層にまで何の収穫もなく進んできたわけではない。
戦力という意味では、ほとんど駆け抜けるようにして進んで来てしまったがゆえにレベル上げやスキルの収集などは行っておらず、誠司たちと比べれば不十分な部分が否めない竜昇達である訳だが、その一方で情報や戦果という意味ではむしろ誠司達よりもよっぽど多くのものを獲得してきたとさえ言えてしまう。
それが果たして運に恵まれた結果だったのか、それとも不運に恵まれた結果だったのかは定かではないが、しかし恐らく竜昇達は、誠司達よりもよほどこのビルの核心へと近づいているのだ。
そういう意味では竜昇達の存在は誠司達からしてみれば、あるいは【決戦二十七士】などよりもよっぽど有用な情報源であるとさえいえるかもしれない。
そしてそれならば、例え敵対に近い状況になったとしても、誠司達が情報を求めて竜昇達の誘いに乗って来る可能性は決して低くない。
無論、彼らの警戒心を考えればそうならない可能性も十分に考えられたわけだが、結果を見れば実際に誠司たちは竜昇達の話に乗ってきた。
静の捨て身に近い姿勢に頼ることにはなってしまったが、ひとまず最初の賭けには竜昇達が勝った形である。
「――という訳で、本体の居場所は分かりませんでしたが、敵が水を支配下に置いて、水道管などを伝って暗殺まがいの攻撃ができるというのはほぼ確実かと思います。やり口からして追跡不可能な状況だったからこそやってきた仕掛けだとは思いますが、そちらもこの手の攻撃には十分に注意しておいてください」
誠司の案内を受け、彼らがアパゴを幽閉したというその場所へと向かう道すがら、竜昇は昨日アパゴの襲来と前後して起きていた水を操っての襲撃と、詩織が感じたという精神干渉の魔力について情報の共有を行っていた。
一応、これらの情報は誠司達が把握していない、交渉の際にこちらのカードとして使える情報だったわけだが、しかし誠司たちが交渉のテーブルに着いた今となっては、この情報は早めに話しておいた方がいいと、そう判断して情報開示を行った形である。
いくら敵対しているとは言っても、別に竜昇は誠司達に危険な目に合って欲しいわけではない。
むしろ竜昇達の目的を考えるなら、誠司達のパーティーが危険にさらされるのは都合が悪いともいえるし、なにより情報を秘匿した挙句誠司たちが危険な状況に陥って、それによって彼らの中に誠司達への反発感情が生まれてしまったのでは元も子もない。
そうした思惑も相まって、これらの情報は話し合いが成立したその時点で、竜昇だけでなく静や詩織の口からも、それぞれの相手に対して最初に伝えられる、そんな手はずになっていた。
とは言え、この状況で竜昇が情報の開示に踏み切ったその理由は、なにも誠司達の身の安全や心象を慮ったというだけの話でもない。
「なるほどね……。精神干渉によって骨抜きになったところを、水道管を通じた暗殺で仕留める。それがこの階層のボスの手口だって言う訳か。本体が直接出向いてくるわけではないというのが、少々厄介だな」
「敵は【隠纏】、魔力隠しの能力を使って出どころがわからないように細工をしているようですが、これに関して言えば俺が持っている【探査波動】と呼ばれる技で無力化できます。ただその場合、相手は使用している魔法だか魔技だかを解除して、魔力のラインそのものを断ち切ることで追跡を免れてしまう訳ですが……」
「そうなると、詩織の【魔聴】による探知同様、その方法でもわかるのは大体の方向だけという訳か……。いや、むしろ水道管を使っている分、迂回している可能性があるのが厄介かな……」
どちらかが背後に立つのを避けるように並んで歩きながら、竜昇は誠司と、自身がもたらした情報をもとにボスについての意見を交わし合う。
情報を開示した目的というなら、ボスを倒すために誠司とこうして意見を交換することも目的と言えなくもなかったわけだが、どちらかと言えば竜昇にとっての本命はこの次の言葉を誠司に対して聞かせることだった。
「――それより問題なのは、精神干渉を受けた人間が狙われる危険性です。精神干渉にそこまでの効果があったのか、それとも操る水に追加の精神干渉が込められていたのかまでは定かではありませんが、水に襲われている時の城司さんは溺れかけているにもかかわらずまるで抵抗できていませんでした。
水の攻撃そのものの脅威度はそこまで高いとは言えませんが、精神干渉を受けている人間が一人でいる時にあれに襲われたら本人ではどうにもできません。かなり行動を制限されることにはなりますが、やはり二人には最低でも一人、護衛の役を担う人間を付けておく必要があります」
と、竜昇がそこまで言葉を口にした時、誠司の表情の中に微かに、何かを考えるような微かな動きがよぎって消える。
中崎誠司とて馬鹿ではない。ここまで話を聞けば、どうしても二人を護衛する人間がその行動を制限されてしまうことが、そして昨日の竜昇自身が、まさにその行動を制限された状態であったことにも気づいたはずだ。
そしてもしもそのことに気付くことができたならば、あるいはその竜昇が行動を制限されていたタイミングが、静を【決戦二十七士】の一味と告発するメールが届いたのと同時刻であったことと結びつけて考えることもできるかもしれない。
今にして思うなら、昨日城司が襲われたタイミングと、問題のメッセージが届いたタイミングはあまりにもできすぎていた。
証明する手段がある訳ではないが、恐らくあの城司への襲撃は、竜昇を城司のそばから離れられないようにすることで、静の元へ救援に向かう、そのタイミングを遅らせる意図があったと見て間違いない
そしてもしもそれらを結び付けて考えることができたなら、それはゲームマスターへの、そしてそのゲームマスターが送ってくるメッセージへの、疑念を抱くきっかけになるはずだ。
今回の会談に置いて、竜昇達が目指しているところも実を言えばそれだ。
こちらから積極的に情報を提供することで、誠司達に足りていない判断材料を知らしめる。
それこそが今回竜昇たち三人が、それぞれの相手に対してとろうとしている作戦の第一段階だった。
現在まんまと対立させられてしまった二つのパーティーだが、その根本的な原因は、情報不足による誤解とそれによる相互不理解だ。
そして情報不足が原因であるならば、それを解消することで対立関係にも変化が見込めるというのは単純ながらも非常に的確な考え方であるはずだ。
むろん対立の理由はそれだけとは言えないため、情報格差が解消されれば即座に誤解が解けて和解に至るという、そんな流れになるとは流石に思っていない訳だが、それでもいくつかある対立の理由のうち、大きな一つが解消されるというのはやはり大きな前進である。
とは言え、いくら情報を伝達することが目的であると言っても、ならば竜昇達が知っていることを全て話してぶちまけてしまえばいいかと言えば、そうとも言い切れないのがこの話の少々ややこしいところだ。
というのも、いかに竜昇達が真実を告げたとしても、それを受け取る誠司たちの側がそれを信じようとしなければいくら伝えたところでなんの意味もないのである。
特に厄介なのは誠司たちが静の言葉を全く信用しなくなっているという点で、仮に竜昇達が真実を語っていたとしても、その内容が静の立場を擁護するものだった場合、誠司達は間違いなくその情報に疑いの目を向けることだろう。
たとえ【観察スキル】によって竜昇達が嘘をついていないと看破できたとしても、そのときは嘘をついていない竜昇達自身が、静によって騙されているのだと、そう判断されてしまうのは予想できる展開だ。
情報を伝えるにしても、その伝え方はある程度竜昇達の方で調節する必要があった。
――それ故に。現在竜昇は、自分の中で伝える情報とその順番を徹底的に精査しながら、相手の様子に合わせて開示する手札を選択するという頭の痛くなりそうな方法を選択することとなっていた。
一番重要とも言える、静の立場を擁護するような情報はあえて口にせず、できうる限り物的証拠や否定しにくい根拠のある情報、客観的な事実のみを選んで伝えて、それらをヒントとして積み重ねることで根幹となる事実に思い至れるよう誠司たちの思考を誘導する。
竜昇達が直接伝えるのではなく、このビルの真実へと他ならぬ誠司たち自身にたどり着かせる。
人間というのは、他人から伝えられた事実は疑っても、自身でたどり着いた真実というものはなかなか疑わない生き物だ。
ゲームマスターが明らかに静を陥れようとしているという事実、彼女に対する悪印象の原因となっている、【決戦二十七士】に対する敵意の植え付けなど、直接伝えられれば疑ってかかりそうなことでも、自分自身で気づくことができたならばそれは格段に強い信憑性を彼ら自身が抱くことになる。
無論、こんな方法では真実に気付かない可能性もあるし、仮に気付いたとしても気付いてしまったその事実から目をそらしてしまう展開もありうるため、いつかどこかで竜昇達の口から話す必要はあるのかもしれないが、そこは相手の様子を見つつタイミングを計って情報を開示していくほかない。
まるで綱渡りのような、常に微妙なバランス感覚と匙加減を求められる誠司達への説得工作。
焦って行うわけにはいかない、けれどいつまた横やりが入るかわからない関係上、迅速に済ませなければいけない、そんな戦いを、それでも竜昇は完遂すると心に決めてここに来ていた。
この先に待ち受けているだろう、予想される困難を乗り越えるために。
そして自分の考えに乗ってくれた、静かや詩織の尽力に報いるために。
(まったく、【観察スキル】なんてものがあるなら、それこそこっちが習得して使いたいくらいだ)
相手の表情などから感情などを読み取るという、駆け引きに特化したスキルが今あればどれだけいいかと、思考を巡らすその一方で竜昇はふとそんなことを考える。
とは言え、今はそんなない物ねだりをしてもまったくもって意味がない。
竜昇にできるのは、せいぜい先口理香が味方に付いた時に、彼女の持つこのスキルに頼る機会もあるかもしれないという、そんな現状ではあまりにも都合のいい妄想だけだ。
「着いたよ、ここだ」
と、そんな風にいろいろと考え事をしていた竜昇の耳に、誠司の声が鍵を開ける音と共に飛び込んで来る。
ホテルを出てプールを横切り、施設内に何か所かある関係者以外立ち入り禁止の扉を先に進んで、従業員用の通路を歩いたその先の一室こそが誠司達がアパゴ・ジョルイーニを収監するのに使っている仮の監獄らしかった。
予想していたことだが、どうやら自分たちが泊まるホテルのスイートルームからは相当離れた場所にアパゴを閉じ込めていたらしく、そして同時に彼のような敵を閉じ込めるにあたり、ホテルの客室のような上等な部屋を使うような真似を誠司たちはしなかったらしい。
案内されたそこはどう見ても客を通せる場所ではない倉庫の一室で、敵である、もっと言うならば憎むべき敵であるアパゴの扱いは、やはり端的に監禁という言葉を使うに相応しいものだった。
「一応言っておくけど、拘束は外さないでほしいかな。こちらでもいろいろと仕掛けはしてあるんだけど、逃げられるとさすがにいろいろ面倒だからね」
「……ええ」
「それと、なにかを欲しがっても物を与えるのは原則禁止だ。魔法が使える相手にどこまで効果があるかはわからないけど、脱走の材料を与える展開は僕らとしてはできる限り避けたい」
「わかりました」
事前に誠司から注意を受けながら、竜昇は意を決してその部屋の中へと一歩足を踏み入れる。
暗い室内。部屋の壁面近くを幾本ものパイプが走っていて、そのうちの一本に一人の男が、先ほどの静と同じように後ろ手に手錠で拘束された状態で座り込んでいた。
薄暗い中でもわかる大柄で筋肉質なその体。どうやら監禁するにあたって装備品はあらかた没収するという選択をしたらしく、アパゴが身に着けているのはズボンだけで、上半身は裸になってその浅黒い肌と顔にまで及ぶ入れ墨を薄明かりの元に晒している。
流石に誠司達も死なれては困ると思ったのか、それとも負傷したアパゴ本人が自分で手当てしいたのか、腹部に巻かれた包帯だけはアパゴの上半身を唯一隠すことを許されていた。
ただし、手当としてはそれだけでは決して十分とは言い難い。
なにしろ今のアパゴの体には一目見て分かっただけでも三か所ほど、青黒く変色した痣のようなものが浮かんでいるのだから。
否、あるいはこれらの痣は、手当てをしたその後に付けられたものとみるべきなのか。
(……どうやら、一つ前の階層が監獄だったからって、誠司さんたちは【拷問スキル】や【尋問スキル】みたいなものは手に入れてなかったらしいな……)
効果的に痛みを与えて情報を吐かせようとしたというよりも、苛立ったあげくぶん殴ったようなその痕跡を見て、内心で竜昇は一応そう判断しておく。
竜昇とてその手の知識がある訳ではないが、しかし知識のない素人が素人目に見てもわかるくらい、それは素人の振るった暴力の痕跡だった。
(ああ、まったく、酷く不愉快な気分だ……)
アパゴの様子を一通り確かめて、その後竜昇は吐息と共に内心でそう独り言ちる。
ただしその感想は、痛ましい暴力を振るわれたアパゴの姿を見たから、ではない。
むしろその逆、本来なら痛ましいと、忌避してしかるべき暴力の痕跡を見たというのに、竜昇自身がそんなアパゴの様子を『いい気味だ』とそう思ってしまったからだ。
否、名誉のために言うならば、やはりここは『そう思わされた』が正しいのだろうか。
(まったく、気付いてしまえばここまで不可解な感情もないって言うのに、実際にはそうと知っていなければこの感情のおかしさに気づかないなんてな……)
他人の不幸は蜜の味という言葉はあるが、実際には他人の不幸を無条件に快感に思えるほど人間が醜悪な生き物だとは竜昇は思わない。
むしろ人間が他人の不幸を喜ぶためには、その不幸を当然と思えるような、そんな明確な理由を必要とするのが人間という生き物だ。
その性質の是非に関してはともかくとして、その論理で言うならこの場で竜昇がアパゴの身の惨状を見てそれを良しとできるというのはどう考えても不可解だ。
少なくとも竜昇は、なんの因縁もない相手がここまでひどい目に合っている状態を見て、それを笑えるほど性格の悪い人間になった覚えはない。
別に自分を清廉潔白な善人だと誇るつもりもないが、しかしそこまで人の道を踏み外した価値観を持った覚えもまたないのだ。
(この感覚を、どうにかこの人たちにも伝えられたら……、いや……)
そう思いながらも、しかし竜昇はこの場では敵意の移植についての情報はいったん伏せたままにしておくことにする。
今ここで物的な証拠を示すことができない以上、たとえ伝えたとしてもこの事実を彼らに信じさせることは困難だ。
ある程度のヒントを提示することくらいはできるかもしれないが、やはり核心となる真実には誠司たち自身にたどり着いてもらう必要がある。
「この人、気絶しているんですか? それとも寝ている……?」
「多分寝てるんだと思うよ、呑気にね。まあ要するに君たちの大方の予想通りなのさ。昨晩目を覚ましたんで軽く尋問してみたんだが、どんなに話しかけても脅かしても、終始呑気な様子でとぼけたことを言うばかりでね。どうやら自分が【決戦二十七士】であることはおろか、どんな状況に陥っているのかもわかっていないらしい」
「なるほど……」
半ば予想していたことではあるが、やはり昨日アパゴがこの階層に現れた直後、詩織が聞いたという魔力の音は、やはりアパゴを精神干渉の影響下に置くために放たれた魔力の音だったらしい。
【不問ビル】と敵対している彼らならばあるいはとも思っていたのだが、しかしどうやらこの【決戦二十七士】なる者達も精神干渉に対して無条件に耐えられる耐性のようなものは持っていなかったらしい。
もっとも、逆に言えばそんな明らかな戦士と思しき者達ですら持っていない耐性を持っている竜昇達プレイヤーというのは、いったいどういう存在なのだという問題も浮上してくるわけだが、それはともかくとして……。
「――あれ、でも今の話……。とぼけたことばかり言ってたって、中崎さんたちはこの男の言っていることがわかったんですか?」
「――ん? ああ、そうだ。そこを確認しておかなくてはと思っていたんだ。
まず改めて聞きたいんだけど、君達が出会った【決戦二十七士】という輩は、基本的にこちらの言葉が通じなかったんだよね?」
「……はい。少なくとも向こうがこちらの言葉を理解している節はありませんでしたし、相手の使う言葉も、俺達が知らない未知の言語でした」
「……ふむ。だとしたらこれはどういうことなんだろう? この男、昨日尋問したときにはちゃんと僕らと同じ日本語をしゃべってて、会話もちゃんと成立したんだけどね」
「なんですって――?」
唐突にもたらされたその情報に、竜昇は態度を取り繕うことも忘れてほとんど反射的に誠司に対してそう問いかける。
竜昇達が【決戦二十七士】を捕らえて話を聞き出すと決めた時点で、すでにそれに際して障害となるいくつもの問題を予想していた訳ではあるが、しかしその中でも最も厄介なものとして考えていたのが『そもそも言葉が通じない』といういわば言語の壁の問題だ。
いかに竜昇達が【決戦二十七士】と出会うことができ、そこからさらに強敵である彼らを生け捕りにするという困難な条件を達成できたとしても、そもそも言葉が通じないのであれば話など聞きだしようがない。
だというのに、今誠司はアパゴについて、日本語をしゃべっていたと確かにそう証言している。
もしそれが事実だとするならば、それはいったい何を意味する、どういうことなのか?
(――初めから、日本語を知っている人間だった? 確かに言語なんて、習得している人間としていない人間がそれぞれ存在していてもおかしくはない……。これまでの二人がたまたま運悪く日本語を話せない人間だったというだけで、このアパゴは俺達の言語も操れるバイリンガルだったってことなのか……? いや、それとも――)
そこまで考えて思い至ったのは、アパゴに影響を与えているだろう昨日の精神干渉の存在だ。
詳細こそ不明だが、この階層で使用されている精神干渉の魔力には、ビルに閉じ込められて戦わされているプレイヤーを、このウォーターパークに遊びに来た一般客であるという認識にすり替える効果がある。
そしてその客としてのパーソナリティが、あくまでも日本人を想定したものであったのならば、元から日本人出ない相手を日本人にして、その使用言語までも日本語に合わせてしまう効果があってもおかしくないのではないだろうか。
(……いやいや、それは、その考えはやっぱり無理があるか……。そもそもせっかく俺達とこの人たちで言葉が通じない状態なのにわざわざ言葉が通じるようにするなんてどう考えても不自然だ……。プレイヤーと【決戦二十七士】を対決させるのがビルの目的なら、両者の間で相互理解が可能になるような仕掛けを、わざわざ用意するなんてどう考えてもおかしい……)
だがだとすれば、いったいなぜアパゴは日本語を話すことができたのか?
いくら考えてもわからないその疑問に思考を絡めとられそうになって、しかし途中で竜昇は思いなおして一度その思考を棚上げにしておくことにする。
確かになぜ言語が通じたのかは重大な問題だが、それは今考えるべきことではない。
むしろ言語が通じるとわかった以上、多少予定を変更してでも今はアパゴに直接話を聞いてみることを優先するべきだろう。
幸い、竜昇は元々その名目でこの場所にまでやってきている。
「――中崎さん。言葉が通じるというのなら、なおのこと直接この男からいろいろと聞きだしてみたいのですが、起こしてしまっても大丈夫ですか?」
「……ああ。とは言え、有益な話がどれだけ聞けるかはあまり期待できないと思うけどね……。さっきも言ったけど、この男は自分が僕らの敵であることも、自分が敵に掴まった状態であることも認識できていない。でなければこんな手錠程度で、魔法が使える人間をいつまでも拘束しておけるわけがないしね」
「……そうですね。でも、とにかく話を聞いてみましょう」
誠司の物言いにひとまず同意して、竜昇はアパゴを揺り起こすべく意を決して男の体に手を伸ばす。
なにが聞き出せるか、あるいは本当に何も聞き出せないのか、それらの期待と恐れが入り混じった感情を胸の内に秘めながら、まるで中身のわからない箱を開けるような気分で、竜昇は男の方へと己の手を触れさせた。




