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難攻不落の不問ビル ~チートな彼女とダンジョン攻略~  作者: 数札霜月
第五層 安寧強授のウォーターパーク
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133:盗人の処遇

「【盗人スキル】、ですか……?」


「はい。こちらでドロップしたスキルですし、あまり使い道のあるとは言えないスキルですが、一応話を通しておいた方がいいかと思いまして」


 誠司と理香、相手方の代表者二人を前にして、静はしれっとそう言って、部屋から持ってきた【盗人スキル】、そのカードをテーブルの上に提示する。


 現在、両パーティーの代表者四人が向かい合っているのは、ホテル内にある食堂の一画だった。

 静としては、なんとなく会談はどこかの個室を使って行うのだろうと思っていたのだが、実際に会談場所として案内されたのは宿泊客全員が食事できそうな広い食堂だった。あるいは、誠司たちもそうした密室で会議を行うことで、秘密会談のような雰囲気になることを避けたのかもしれない。


 何はともあれ、そうして会談が始まり、そんな中で真っ先に静が持ちかけたのが、問題の【盗人スキル】についての処遇の問題だったのである。


 当然、この話を誠司たちにしたのにはそれ相応の理由がある。

 これは竜昇たち他のメンバーにも話したことだが、新たに発見されたスキルカードについて、習得してしまう前に一度誠司たちに話を通しておいた方がいいだろう判断した、というのがその理由の一つだ。


 もちろん、このスキルカードを手に入れたのはこちらのパーティーの城司である以上、当然その所有権はこちらのパーティー、より厳密にいうならばそれを手に入れた城司にある。この点について、城司本人は遠慮して権利を主張したがらないかもしれないが、そもそも城司が命がけの戦いの末に手に入れたスキルである以上、そのあたりの権利は軽々に譲っていいものではない。


 ただ、いかに自分達のものであるとは言っても、その存在をまったく知らせることなく習得してしまうのと、事前に相手に知らせたうえで、了解を取って習得するのでは相手に与える印象が全く違う。


 仮に誠司たちのパーティーに知らせることなく習得してしまい、そのうえでさらに誠司たちがこの【盗人スキル】を必要としていた場合、こちらは相手が欲しているスキルを特に必要もないのに無為に消費してしまった形になる。

 もちろん、それだけで両パーティーの間に何かが起きるとは静も思っていないが、それでも良好であることに越したことがない相手からの心象が、多少なりとも悪化することは流石に避けられないだろう。


 例えそうならなかったとしても、二つのパーティーはこの先協力体制を築いていかなければならないのだ。

 それを考えれば、たとえ相手が欲しがるようなスキルでなくとも事前に話を通しておくことは、この先ともに活動していく上で間違いなくプラスに働くし、もしも必要としているなら提供することによってこちらにも何らかのメリットが得られる可能性もある。

 なにより、こうした前例を作ることで、後々同じように不要なドロップアイテムが生じた際に、相手とそれを融通し合う、そんな習慣を作ることができるかもしれないと、静は竜昇達にそう主張してこの場にまでカードを持ち込んだのである。


 もっとも、それはあくまでも表向きの話。実際にはそうした理由以外にも、他のメンバーに隠している全く別の理由もあった訳だが。


「それで、いかがでしょう。そちらのパーティーの方々の中に、このスキルを活用できそうな方はいらっしゃいますか?」


 そう問いかけながら、静は提示したスキルカードの内容を確認する二人の様子をつぶさに観察する。

 とは言え、現在のところ目の前の二人に、手にしたスキルカードに対して過度に魅力を感じた様子は見られない。

 これは事前の話し合いの中でも言われていたことだが、【盗人スキル】は戦略的に見てそれほど重要なスキルというわけではない。

自身が怪我を負いながら、それでもスキルカードをもぎ取ってきてくれた城司には悪いが、スキルの性質上、今後戦闘向けの術技をそれほど習得するとも思えないし、かと言って相手から物を盗む技術がこの【不問ビル】の中で役に立つ場面などそうそう想定できるものではないのだ。

 誠司たちにこんな話を持ちかけはしているものの、それは言ってしまえば関係性樹立のための足掛かり程度の意味でしかなく、実際にこのスキルを誠司たちが欲しがることはないだろうというのは、静だけではない、彼らの手の内を知る詩織も含めた、ほぼ全員の大方の予想だった。


 というか、欲しがられても困る。

 そもそも静にはこのスキルを、実際に彼らに渡すつもりなど微塵もないのだから。


 特定の技術体系を丸ごと習得できるスキルの存在は、この【不問ビル】の中で生き残るにあたって最重要とも言える要素だが、しかしその裏に洗脳という危険が潜んでいることが判明した今、その判明したデメリットはスキル習得のメリットを容易に上回る。

 いかにスキルを習得することでできることが増え、危険の中での生存率が上昇したとしても、その代償としてより大きな危険へと向けてノコノコと近づくように仕向けられたのでは元も子もないのだ。


 そもそもすでに危険性の存在が判明しているスキルを、そうと知っていながらそれを知らせず他人に修得させたとあっては、今後この事実を表明した際に、その相手との深刻な亀裂を生みかねないという問題もある。


 こんな場にこそ持ってきてはいるものの、静には最初からこのスキルカードを誠司たちに渡し、押し付けるつもりなど欠片もなかったのである。


 にもかかわらず、ではなぜ静が、竜昇達同じパーティーのメンバーを説き伏せてまでこの場にカードを持ち込んだのかと言えば、それは実にバカバカしい、しかし必要不可欠なごまかしのためだった。


「うーん、やはり、そうだね……。こう言っては何だけど、やっぱりこのスキル、こっちの誰かに是非とも習得させたいスキル、って言う訳じゃなさそうだ」


 やがて結論が出たのか、どこか申し訳なさそうな表情でそう言いつつ、誠司が手にしていたカードを静の方へと手渡してくる。

 予想通りの回答に内心で安堵しながら、しかし静はその表情をおくびにも出さずに『そうですか』という言葉とともに淡々とそれを受け取って見せる。

 そんな静の様子をどのように思ったのか、対する誠司は少しだけ慌てたように、どこかこちらに対してフォローするような言葉を口にしてきた。


「ああ、でも、もちろんスキルである以上、習得しておいて無駄になることはないと思う。これからレベルが上がることで役に立つ術技を習得できるかもしれないから、習得しておいて損になることはないと思うしね。僕らが断ったのも、単純にこのスキルとシナジーしそうなスキルや武器に心当たりがないからって言うだけの理由だし」


「ああ、いえ、どうかお気になさらずに。実を言えば私共の方でも、恐らくそちらが必要とすることもないだろうと予想して、すでに誰が習得するかを決めていたくらいですので」


 どこか申し訳なさそうに助言してくれる誠司に対して、静もやんわりと笑みを浮かべてそう答えると、そのまま手の中のカードを、ごくごく自然な動作で羽織ったパーカーのポケットの中へしまい込んだ。


 同時にチラリと隣の竜昇の反応を確認する。

 案の定、特に彼の方からも静の行動を気にした様子は見られない。


 それはそうだろう。なにしろ誠司たちに話したこちらのパーティーで【盗人スキル】を習得する人間というのは、他ならぬ静本人のことなのだから。


 これ以上スキルを習得させないように他のメンバーからスキルカードを遠ざける、その目的のために今回静が選んだ方法は、実にバカバカしい子供だましのような方法だった。


 同じパーティーのメンバーとは自分がスキルを習得するということで了解を取り、そのうえで誠司たちにもカードの存在を知らせて彼らが必要としていないかを確認すると言ってその場での習得を回避する。

 そのうえで、誠司たちにスキルについて断りを入れた後で、さもこの後誰かが習得するのだとそう錯覚させて、そのままスキルカードそのものは静の懐へとしまい込む。


 他のパーティーメンバーに対しても誠司たちのパーティーに対しても、さも静が【盗人スキル】を習得したのだろうと思い込ませて、しかし実際には静はスキルを習得することなくカードを隠匿する。

 そんなトリックとも言えないバカバカしい誤魔化しこそが、今回静が誰にもスキルを習得させないために選んだ方法だった。


 幸い、【盗人スキル】自体はさほど重要なスキルではない上に、スマートフォンを破壊されてスキル習得自体ができないという詩織の事情や、男性陣の戦闘スタイルとのミスマッチさと言った事情も相まって、ほとんど何の働きかけもしないうちに静の手元に転がり込んできた。


 唯一の問題として両方の会議に出席する竜昇に怪しまれる危険性は残ったが、今のところ彼も静の行動を怪しんでいる様子はないし、そもそも竜昇は静がスキルの持つ危険性の事情を真っ先に話そうとチャンスをうかがっている相手である。

 そもそもこんなごまかしは、静が他のメンバーにスキルシステムの秘密を開示する、その瞬間までの時間稼ぎができればいいのである。

 いずれはバレても構わないというのなら、そのための嘘は別に隙の無い物でなくとも、時間と共に露呈する物であったとしても特に問題はない。


 そうして、まんまとスキルカードを他のメンバーから遠ざけることに成功した静は、しかし一方でこの時気付くことができなかった。

 自身の目の前に、静自身と同じようにポーカーフェイスを保ちながら、彼女を観察する人物がいたことに。

 静が持つ天性のものではない、確かな知識と技術を持って己が心中を隠し、それでもその眼鏡の向こうの瞳で静の様子をつぶさに観察していた対面の少女の存在に。

 そのことに誰も気づかないまま、しかしそれでも話は進む。


「さて、それじゃあそろそろ本題、情報交換を始めようか」


 誠司のそんな言葉と共に、竜昇達四人がこの場に集まったその目的の話し合いが始まりを告げる。

 処理したはずの問題の種火の、その微かな火の粉をその場に残して。

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