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緑の中の  作者: 千砂
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真実に触れる2

 「ティ、ティーナ、これは乱暴なんかじゃないよ。じゃれてただけ。いつもの事なんだよ。コミュニケーションさ。なぁヴェルネリ。僕らは仲良しだよねぇこれまでもこれからも」


 半透明の翼が霧散するように消えると同時に焦った様子で取り繕うようにヴィンツェンツが笑顔を向けるが、ティーナは半眼でヴィンツェンツを見ている。

 一方でヴェルネリは、片眉を器用に上げて二人の様子を興味深げに眺めており、面白いものでも見つけたように口角が微妙に上がっていた。ヴィンツェンツに同意を求められるとまたたく間に元の険しい表情に戻ったが、ヴィンツェンツを見る目だけは表情豊かにヴェルネリの内心を表しているようだ。

 ヴィンツェンツの熱心な視線に、ヴェルネリはひとつ息をこぼすと


 「ええ、まぁそうですね。こんなことは日常茶飯事。お互い古い付き合いですから、色んなコミュニケーション方法を持っております。ティーナ様がご心配されるような事にはなりませんのでご安心ください。・・・ヴィンツェンツ様、貸しひとつですな」


 これでいいんだろうとばかりにヴェルネリはヴィンツェンツに視線を返すとヴィンツェンツは口を尖らせてみせる。


 ティーナはそんな二人をキョロキョロと見比べつつ、何かしら思うところがあるようだが黙って聞いていた。やがて「ふぅ、そういうことにしておきます」と小さくため息をついたティーナは、この話はもうこれでお終いとばかりに、腕を広げてみせた。




 「でも、なぜアーヴォやアヴィーノは教えてくれなかったんですか。ううんそれよりも、居なくなったのは赤ちゃんの頃なのになぜ私が孫だって分かるんですか? それと両親と離れ離れになったのはなぜ?」


 これまでずっと我慢をして口にしないでいた疑問が次々にティーナの口からあふれ出る。思考を言葉にするのに口の動きが追いつかないくらいだ。

 マティアスからも詳しい話は聞いたことはなかった。本当の両親の話を聞いてみたいと思わなかったのは嘘だが、マティアスやパウリーナを始め家族から慈しみ愛されていて、満足していたからそれを壊したくなくて、聞かなくてもいいかもなんて思っていた。

 それこそ転職するまで全く別の世界が存在していることも知らなかったくらいだ。


 イェオリやビルギットは何を根拠にティーナの事を孫だと確定したのか最大の疑問だ。意識のないときにでも検査されたのだろうか。


 思い起こせば最初から不思議だった。

 見ず知らずの人間(ティーナ)にこうまで親身になって献身的に看病してくれるなんて、過剰だと思っていた。かつてカルナで医療に従事していたティーナだからこそイェオリとビルギットの行動が一般的な介抱の範疇を超えていると感じていた。まるで、本当の家族のようだと勘違いしてしまいそうになるくらいに、二人からの愛情を一身に受けていた自覚はある。だから、マリアンヌの件でティーナが屋敷を出ようと心に決めた時、張り裂けんばかりの胸の痛みを感じ、苦しんだ。でもその時、ビルギットが無茶苦茶な理由だけど、引き止めてくれたことがとても嬉しかった。

 今でもそうだ。

 いまだ何も仕事はせず、居候のままだというのに二人はそのままでいいと言って、二人の保護の下に置いて衣食住に全く困らず大事にしてもらっている。


 いま様々な感情が綯い交ぜになってティーナの心を揺らしている。


 そんなティーナの心情を知ってか知らずか、ヴィンツェンツはちょこっと肩を竦めると


 「あー、君の両親は特別でね、この世界にいれば君のことはなんでもわかるんだ。あー、その目、全然信用してないな」


 半眼のティーナにもめげずにヴィンツェンツは続ける。


 「まぁ一般的じゃないから分かりやすくはないけど、本当だからね。そうだなー、分かりやすさで言えば、その腕輪(バングル)かな」


 言われて、改めて自分の腕にあるほぼ肌身はなさずに着けている腕輪みれば、マティアスから渡された時のことを思い出す。


 「本当の両親からって言われて養父から渡されたの」


 「そうか、彼はちゃんと伝えてくれていたんだな」


 まるでヴィンツェンツはマティアスを知っているような口調だ。何か言いたそうなティーナにヴィンツェンツは満足げに頷いてみせた。


「その通り、それは君の両親からの最初の贈り物だ。産まれたばかりの君を守ってくれるようにあらゆるまじない(・・・・)がかけてある。君がここへ来た当初ひどい怪我を負っていたよね。でもある意味その程度で済んだともいうんだよ。その腕輪が君をここに導いた。でなければ、今頃界の狭間で意識を保ちながら『無』同然の状態に陥り消滅まで漂い続けていたかもしれない」


 ティーナは改めて腕につけている腕輪を見た。そしてブルリと震える。


 「ああ、言っておくけど、君の両親は君を手放したくて手放したわけじゃない。当たり前だけどね。だけどあの時はそうするしか方法が無かったんだ。最善の策だったんだよ。君の命を守るためにとった方法だったとはいえ、彼らは身を引き裂かれたほうがマシだと思うほどに打ちひしがれていたよ。

 想像してみて、生まれたばかりの赤ん坊を守るために、他人に頼るしかない状況を」


 ティーナに子どもはいないけれど、そんな状況の心境は簡単に想像できる。立場は違えど離れ離れになったマティアスやパウリーナのことを思えば、胸の奥にある苦しさが嫌でも増す。


 そんなティーナの気持ちを知ってか知らずかヴィンツェンツが逆に問いかけてきた。


 「君が逆の立場だったら?」


 その言葉にティーナは、ハッと意識を戻される。


 「君がアーヴォとアヴィーノの立場だったら? そう、君の命以上に大事な人だと思っていたら、君はどうする」


 「私は、、、」


 果たして最初から名乗るだろうか。互いにどこまで情報を持っているのか判らない上に、相手は自分を初めましてと思っている。ましてや家に帰りたいと願う相手だ。

 ティーナは思考から復活すると、泣きそうな顔で言った。


 「言いたいけど、言えません。何も知らない相手に本当はあなたはうちの子なのよって言うのは、正直言って怖いです。信頼関係を失うかもって思うと怖くて言えない。・・・でも、赤ちゃんの時に居なくなった子が、やっと自分の腕の中に戻ってきたら、、、二度と手放したくないと思います」


 ティーナはようやくイェオリとビルギットの葛藤が理解できたようだ。ティーナの表情が和らいだのを見てヴィンツェンツとヴェルネリも自然と笑みを浮かべる。


 これまでの彼らの言動がすべてストンとティーナの心の中に落ちてきた。


 「アーヴォとアヴィーノに会いたいです」


 自然とこぼれたその言葉に、ティーナ自身も納得し、無条件に愛情を注いでくれた人達にハグをしたい、そう思うといても立ってもいられないとティーナは行動を起こそうとする。それをヴェルネリが遮った。


 「お待ちください。アンティアとクスターを置いて我々だけまいるわけには行きませんよ」


 そうだったと思いだした。自分からアンティアの誕生日に同伴すると言っておきながら目の前のことにすっかり気を取られてしまっていた。


 「いけない、私の悪い癖ね。大丈夫です、ちゃんと二人を待ちます。そしてちゃんとアンティアをお祝いします」


 この世界の人たちが最も大切にしている日を自分のせいで滅茶苦茶にしてしまう所だったと、ティーナは反省しきりだ。


 「ヴェルネリさん、私の痛みはもうありません。クスターはこの場所知ってますか? お迎えに行った方がいいですか?」


 今まで自分のことでいっぱいで二人の状況にようやく心を配る余裕ができたようで、ヴェルネリはそんな素振りを見せるティーナにカウチへ座るようにすすめる。


 「この場所を見つけられなければ連絡が来ますよ、座ってお待ちください。ヴィンツェンツ様はどうなさいますか?」


 「んー、まだ居るよ。まだまだティーナと一緒に居たいし」


 ヴィンツェンツはパチンとウインクをしてみせる。


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