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緑の中の  作者: 千砂
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郷愁

 その夜、ティーナは眠れずにいた。アンティアとクスターも既にそれぞれ自室に下がり、寝室にはティーナひとり。この状態はもう眠るだけなのだから当たり前なのだが、最近はあまり感じなくなっていた寂しさがティーナの心をじわりじわりと染めていく。

 仲の良い家族の姿を見てしまい、知らず知らずここ最近にない郷愁にかられていたのだ。


 仲の良い祖父母と孫達。

 イェオリとビルギット、孫のターヴェッティとトゥオマスの関係はとても良好なものに見えた。彼らの会話に聞き耳を立てながら、実に素敵だなと素直に感じていた一方で、連絡手段のないところにいる自身の家族のことに思いを馳せていた。


 人が居る間は良かった。


 話しかけ、話しかけられることにより、心の奥深くにあるものに触れることは無かったから。

 だが、ひとたび自分だけの空間になると考えずにはいられなくなる。似ても似つかないターヴェッティとトゥオマスの兄弟をレーヴィとオルヴォに重ね合わせてしまうくらいティーナの心は彼らを恋しがっていた。


 (みんな元気かな・・・)


 窓枠に腰掛け夜空を見上げると、自然と涙が頬を伝う。

 タブレットに入れている家族の写真や動画を見てとめどなく涙が滴り落ちる。今は誰もいないから、気兼ねすること無く、涙の落ちるに任せている。


 マシンに乗り込む前の、オルヴォのビッグハグを思い出したくて自身を抱きしめてみるが力強いオルヴォの腕とは全く違う。レーヴィも線は細いがそれでもティーナが腕力で敵うことはない。マティアスが子煩悩でスキンシップ過多な家庭環境だったためか、彼らの腕に抱かれると無条件に安心感を覚えていたのを思い出す。

 そしてレーヴィとオルヴォは体の小さな自分をいつも大事に、気にかけてくれていた。そんな幸せだった思い出ばかりが脳裏をよぎる。


 (アーヴォもアヴィーノも身内同然に優しくして、大事にしてくれるからひとりじゃないって思えるけど、でも、やっぱり・・・さみしいよ)


 以前夢で見たマティアスとパウリーナの姿を思い出すと涙があとからあとから流れ落ちる。


 (父さん、母さん、こんなことになってごめんなさい。・・・会いたいよ、みんなに会いたい)


 救難用の発信機の様子は毎日欠かさず確認している。確実に一日一回は発信されているのは確認しているが、ティーナの家族のいるエルヴァスティに届いているのかどうかを知る術はない。受信はこれまで一件も無く、その状態を見慣れている自分に少々驚きを隠せない。いつかきっとという期待感が薄れてしまっていた。期待し過ぎてしまうと心が疲れてしまうのだ。日常の現実の生活に比重を置くことにシフトしてしまったのはいつの頃だったか・・・。


 バッグの中身も、全て出しては点検し、また元の状態に戻す、という手順を何度繰り返したことか。それらは一度も使われることも無くきっちり同じ場所に仕舞われる。もう目を瞑ってでもできてしまうだろう。




 タブレットをいじりながら、立体映像に切り替えた。触れることは叶わないが、それでも全身もしくは胸像の家族の映像が浮かび上がり、彼らは微笑みながらティーナの名前を呼んでくれる。


 特大級の里心がつきそうで今まで封印していたのだが、今日だけはカルナ国の言葉で呼んで欲しかった。


 「ティーナ、こっち」と言いながらオルヴォが変な顔をする。それを見ながらティーナはキャッキャと笑っている。これを撮影したのはパウリーナだったかなと、当時を思い出していると画面がパーンして登場人物が入れ替わる。


 「オルヴォはティーナを笑顔にする天才だな」そう言ってレーヴィがティーナの頭を撫でてくれている。一緒に映っている自分はとっても幸せそうな笑顔をレーヴィに向けているが、ふとあれは本当に自分だったのかと疑念が浮かんでくる。記憶もあり、同じ顔なのにまるで今の自分とは違う誰かがレーヴィに微笑んでいるように見えるのだ。


 「っ・・・」


 優しいレーヴィやオルヴォが自分と似た誰かと仲良くしているようで切なくなる。

 しかし久々に聞くカルナ国の発音での呼びかけにティーナはとうとう声を上げて泣き始めた。枕に顔を押し付けなるべく泣き声が響かないように気をつけながら。


 どのくらい経ったのだろう。


 自分の周りが明るいことに気がついた。眩しいわけではなく、目に優しい淡い淡い光の粒が周囲を取り囲んでいる。


 「珠光(ペーロデルーモ)ね」


 これまでも時々見かけていた光の玉だ。それが数え切れないほど沢山の数がティーナの周囲で飛び跳ねている。


 一見楽しそうに見えるが、その様子は一生懸命ティーナの気を惹ことしているように感じる。そっと手を差し出せば十個ほどの珠光達(ペーロデルーモ)がポポポンと手の上で飛び跳ねてみせてくれた。


 「ありがとね」


 ティーナの気を惹くことに成功した珠光(ペーロデルーモ)は小さな粒が互いにぶつかり始めた。そのたびに少しずつ大きな光の玉になっていく。


 「キレイネ」


 淡い色の光の玉が数えられるまでに減り、また大きくなった時、おしくらまんじゅうをするようにティーナを取り囲みその姿を包み込んだ。


 淡い光の洪水の中で人影を見た気がした。顔や姿形はぼやけてハッキリとはわからないけれど、その人(達)が頬や頭を撫でてくれるととっても安心することだけはわかった。


 (誰、ですか?)


 心地良い微睡みに誘われながらも、正体を知りたいと思い必死に抗おうとしたが、光の人に抱きしめられ『眠りなさい』と囁かれると、もう抵抗する気力すら失ってしまった。

 意識を手放す直前、その人が微笑んだ気がした。







 「なんてこと!」


 朝からアンティアが騒いでいた。普段の彼女からはそんな一面があったとは、にわかには信じられない様子に、一足遅れてティーナの居室に入ったクスターはいつもは決して覗くことのない寝室にまで顔を出した。

 すると惨状が目に飛び込んできた。シーツはもとより、ありとあらゆる場所がひっくり返り、もしくは開け放たれ「いない、ここも違う」などと言いながら鬼気迫る形相でアンティアが暴れているのを目にした。

 あまりの異常な様子に、クスターは慌てて行動を止めようと力任せにアンティアを担ぎ上げて隣の居間に戻った。ほんの僅かな移動距離だったがその間もアンティアは離せと騒いでいる。


 クスターは少々乱暴にアンティアをソファに投げ下ろした。


 「アンティア落ち着け! 騒いでたって何も好転しないだろう。何があったんだ。ティーナ様はどこだ」


 クスターの呼びかけにようやく正気に戻ったアンティアは、クスターに掴みかかるとポロポロ涙を流し始めた。


 「ティーナ様が、どこにもいらっしゃらないの」


 ようやく状況を掴んだクスターは、ポットの水を汲みアンティアに渡すとイェオリとビルギットに報告すべく部屋を飛び出した。





 イェオリとビルギットの居室を朝早くからノックする者など限られている。


 「クスターか、どうした」


 ガウンのままのイェオリとビルギットが揃ってクスターを招き入れた。クスターが事実をありのまま報告すると、二人の表情がにわかに曇った。


 「あなたがここを訪れる直前にこれが。部屋の前においてあったらしいのよ」

 

 そういって見せてくれたのは、シャーフォの主食でもある果穂のついたひと枝だった。


 「なぜそれが置いてあるのかイェオリと話していたのだけれど、ひょっとするとティーナがいなくなったことと関係があるのかも」


 クスターが「まさか、あそこに?」と窓から見える筈の尖り屋根のある建物の方へ顔を向けると途端に口ごもった。

 同じ方向を見ていたイェオリが黙ってガウンのまま庭へと通じるベランダへと向かう。慌ててクスターも付いていこうとすると「お前はティーナの部屋に戻り、何か羽織るものを持ってこい」と手短に指示を出し、イェオリはひとりで庭へと出ていった。


 「あらあら、いつの間に」


 ひとり残ったビルギットはいつも見える筈の屋根が蔓に覆われ、小花が咲き乱れている様子を見て安堵とともに小さくため息をもらした。







 「なぁターヴェッティ、いつからここはこんな風になったんだ?」


 トゥオマスとターヴェッティの兄弟は日課にしている早朝のランニングをしつつ、昔よく遊んだ休憩所までやって来ていた。

 しかし建物は侵入を阻むように蔓で覆われ、小花が咲き乱れており、幼い頃の記憶とまるで印象が違いすぐには見つけられなかった。何度か行ったり来たりしつつ、ようやくデッキ部分の隙間を見つけて蔓をかき分けながら中へ入った。


 「な、なんだこれは!」


 蔓の絡んだ様子から中もきっと似たようなことになっているのだろうと覚悟していたが、そこは全く違う様相だった。中は至極清潔で埃など全く被っていないし、あれほど葉が生い茂っているのに、落ち葉の一枚も落ちていない。家具類はピカピカで非常に心地良い。

 ただ唯一違和感を覚えるのは緑色の塊がいくつか転がっていることだ。苔生した岩のようだなと話しつつ、それらには触れないように通り過ぎながら、奥の部屋へと足を踏み入れようとした。


 入れなかった。


 二人とも背後から何かにのし掛かられ倒されてしまったのだ。


 自分の様子はわからないが、相手の様子は顔を上げて見ることができた。


 「トゥオマス無事か!?」


 緑色の動物がトゥオマスの背中に乗っているのが見て取れた。かなり大きいからおそらく重さは相当だろう。手足合わせて四本の動物だ。緑色だが。

 ターヴェッティは少し冷静になったところでさっきの苔の塊かもしれないとようやく思い至った。


 「痛えぇ。なんだよこれは」


 トゥオマスはターヴェッティに遅れることしばし、ようやく顔をぐるりと持ち上げターヴェッティを見れば、緑の塊が乗っている。兄弟は視線で合い互いが無事なことを確認した。


 「痛みはないか?」


 ターヴェッティがトゥオマスに問い掛ければ、不意をつかれて驚いただけと答えがあった。


 「ともかくこの状況をなんとかしなければな」


 「ここはいつから動物の家になったんだよ」


 ジタバタと恥も外聞もなくもがいてみるが、緑の塊はビクリともしない。


 「わかった! 俺達の負けだ。俺達はこの家の主のイェオリの孫で久しぶりにこっちへ来て、ただ懐かしくて立ち寄っただけだ。お前達が住みたければ邪魔はしない。だから降りてくれ」


 降参だと二人同時に示せば、すこしの間の後、緑の動物たちはのっそりと二人から降りた。ようやく開放された二人は今まで自分たちの上に乗っていた動物と改めて対峙した。

 サラサラの毛で全身が緑、でかい上に、どうやらこちらの言葉を理解するらしい。眠そうな顔は闘争心等とはかけ離れているように見えるが、見た目で判断すればいざという時、痛い思いをするかもしれない。


 「寝ていたんだろう? 起こして済まなかった。私はターヴェッティ、こっちは弟のトゥオマスだ。幼い頃、よくここで遊んでてな、懐かしく思い、立ち寄っただけだ。さっきも言ったがお前たちの邪魔はしない。恐らく祖父や祖母が了承しているから居るんだろうしな。ただ、帰る前に少しだけ見せてくれないか」


 ターヴェッティが丁寧に話しかけると緑の動物たちは顔を突き合わせ何やらヒソヒソ話をしているようだ。


 「なぁターヴェッティ、こいつら普通の動物じゃなさそうだ」


 緑の動物たちの様子を見てトゥオマスがこっそりターヴェッティに耳打ちをした。


 話し合いが終わったのか似たような顔が一斉に兄弟を見た。

 相変わらず見分けがつかないが、眠そうな目にはこちらに対する敵愾心は無さそうに見えるが、なぜかピリッと緊張を強いられる。デキル武人と対峙しているようだとはトゥオマスの感想だ。


 緑の動物達は二人の周りをぐるりと取り囲むと、ついて来いとばかりに集団で移動を開始した。とはいえ、それほど大きな建物でもないから、すぐに扉の前についた。


 ターヴェッティが扉に手をかけようとした時、ドンと床を踏み鳴らされた。音のした方を見ると、眠そうな目に、警告とも見える険しさが見て取れる。下手な事をするなと言いたいのかもしれない。


 先程倒され乗られていたとき、手も足も出なかったことからも緑の動物達に歯向かうのは賢明ではない。


 「わかった。中で何があっても下手なことはしないよ」


 ターヴェッティはそう言うと扉を押した。





 小さい緑のやつがいる。


 頭を突き出し、仁王立ちして二人を睨みつけているがいかんせん大きさがーーー


 「おおおおおおかわいいなー」


 ターヴェッティが止める間もなく、あっという間にトゥオマスに抱え上げられてしまった。


 「なぁ見てみろよ。こいつふがふが言ってるぞ」


 ターヴェッティがトゥオマスの腕の中にいる小さなやつを覗き込めば、非常に鼻息が荒い。一応威嚇しているつもりかもしれないが、トゥオマスの手管に半ば落ちそうになっている。


 「可愛いなぁお前」


 グリグリスリスリしながらトゥオマスは小さなやつに夢中だ。


 「トゥオマス、誰かいる」


 そう大して広くもない部屋のほぼ中央に置かれたカウチに誰かが横になっているのに気がついた。二人して顔を見合わせると、先程、動物たちが警戒していたのはこの事かと思い当たる。


 「あの」


 トゥオマスが一歩踏み出し近づこうとするのとほぼ同時に顎に衝撃が走った。


 「うわあああ、いてぇ」


 おもわず小さなヤツを取り落とし、というかそれは自らジャンプし、トゥオマスの腕から逃れ出た。一方でトゥオマスはうずくまって顎の痛みに堪えている。その間に小さなヤツはカウチに飛び乗ると、最初と同じように仁王立ちになり二人をしっかと睨みつけた。ただし、残念ながら迫力はない。

 だがあっちへ行けと言わんばかりに何度も後ろ脚で立ち上がって頭を突き出すように威嚇をして見せている。


 あっちへ行けと、何度もぽふぽふと動く度にカウチも揺れる。


 「ん・・・」


 寝ている人が身じろぎした。すると慌てて小さなヤツは寝ている人に駆け寄り顔を覗き込んでいる。「ルサ?」と微かに女性の声が聞こえたような気がし、さすがの兄弟も一歩後ろに下がった。


 すぅっと持ち上がった細い腕が小さなヤツの頭を撫でている。腕には腕輪が見えた。その腕の先に相当にでかい体を持つヤツが起き上がりカウチに頭を乗せた。続いて兄弟を押しのけるように他の奴らもカウチの周りに集まってきた。


 「ターヴェッティ、この状況をどうしたらいいんだろうか、あの人を、助ける必要はあると思う?」


 大中小様々、一番小さいのはカウチに乗っかっているが、女性が眠るカウチに顔を乗せ、ぐるりと取り囲んでいる状況は一種異様とも言える。


 「いや、襲っている訳じゃないらしい。むしろ、これは・・・そうだな、強いて言うならば“崇拝”しているとでも言っていいのかもしれない」


 「崇拝・・・確かに」


 大の男二人が何も出来ず、ただただ昏々と眠る女性とそれを取り囲む全身緑色の動物達の顔を眺めてた。






 「ここで、何をしている」


 ふいに背後から低い低い聞き慣れた声が聞こえた。ターヴェッティとトゥオマスは考えるよりも先に背筋がスクッと伸びるのを感じた。すかさず体を反転させ声の主に向き合うと、果たして思った通りの人がいた。

 瞬時に応答できたのはターヴェッティだった。トゥオマスは顔を引き攣らせ、平静を保つのがやっとだった。


 「おはようございます、お祖父様。私達は毎朝の日課であるジョギングをしつつ、昔、よく遊んだ休憩所(ここ)までやって来たところだったのです。ところでお祖父様はなぜこちらへ?」


 ターヴェッティの質問にはイェオリは無言だった。ちなみに緑の動物達はイェオリが入って来ても、ターヴェッティ達に対して見せた警戒は見せない。相変わらずカウチを取り囲んでいる。

 イェオリの表情を伺いながら、祖父と緑の動物たちの関係は昨日今日のものではないと推測した。


 「用がないならお前たちは外へ」


 険しさは取れたが、有無を言わさない命令を受けた。が、トゥオマスがおもわず「あ、まさか」とこの場に不釣り合いな声を上げる。その声にイェオリはジロリとトゥオマスを見たが、ふっと息を吐くとこう言った。


 「お前の下衆な勘繰りは的外れだ」


 ターヴェッティはトゥオマスを引きずって部屋の外へと連れ出した。トゥオマスはイェオリの人睨みで固まっているようだ。


 彼らが部屋を出た時、入れ違いでクスターが建物に入ってきた。手には何か布らしきものを持っている。クスターは兄弟がいることに目を見開いたが、軽く会釈をしただけでそそくさと奥の部屋へと入っていった。


 「トゥオマス、お祖父様はお祖母様を裏切るようなことはなさらない。クスターも絡んでいることからお祖母様もご存知のはずだ」


 その言葉を裏付けるように少し遅れてアンティアもやってきた。彼女もクスターと同じく二人がここにいることに瞠目していたが、会釈をするとクスターを追って中へと入って行く。


 「ターヴェッティ、どうする? 先に引き上げるか?」


 「いや、待っていよう。恐らく先程の女性はティーナだろう」


 それならば祖父が、らしくなく、慌てて着の身着のままで来ていることも納得するし、昨日挨拶をしたとき、ティーナの後ろに控えていたクスターとアンティアが揃ったとなればもう決定的だ。


 「お祖父様に何を言われようと、ここは引かない」


 兄弟は互いに頷くとデッキで彼らが出てくるのを待った。


 ドカドカと複数の足音が聞こえた。中で何か揉めているのだろうか。


 扉が開くと緑色の動物達と、恐らくティーナだろうーーーを抱えたイェオリが出てきた。ティーナは全身を(くる)まれていて確認することはできないが、イェオリが大事そうに抱えている姿は宝物を扱うようだ。


 兄弟がまだいたことに驚く様子もなく、黙って二人の前を過ぎようとする。その後を「シャーフォたちまたね」と声をかけながらアンティアとクスターも出てきた。


 小さなヤツはあのひと際大きなヤツの背中に乗って、イェオリの抱えるティーナを心配そうに見ているようだが、連れて行かれようとしていることに嫌がっている様子は無い。


 そんなことよりもーーー


 「おい、いまシャーフォって言ったか?」


 トゥオマスはアンティアの腕を捕まえて、射抜くような目で見ている。口先では騙されないからなという意思が見て取れる。


 「シャーフォってこの緑のやつらのことか?」


 アンティアが答えに窮していると、代わりに「そうだ」とイェオリが答えた。


 「この緑色の動物たちはシャーフォだ」


 イェオリがくだらない嘘を言うはずはない。絶対的な信頼をイェオリに置いているターヴェッティとトゥオマスは余計な事は言わず素直に頷いた。そんな兄弟にイェオリも満足そうだ。


 「では、ひとつだけ教えて下さい。なぜティーナがここに?」


 「・・・わからん。履物は履いてはおらぬし、どこも汚れたところはない。きっと、儂らの預かり知れない力が作用したのだろう」


 それ以上の質問は答えるつもりはなさそうで、イェオリはティーナを優しく抱え直すと、建物を出るべく体の向きを変えた。やや乱暴な答えにも聞こえるが兄弟にとっては十分だった。


 「お祖父様、帰りましょう、運動してお腹が空きました」


 イェオリを中心に、前後左右をターヴェッティ、トゥオマス、クスター、アンティアで囲み、屋敷へと戻って行った。


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