影さんとの1日
朝7時。1日が始まる。
影さんはすでに起きて、朝食を作ってくれていた。
「光、トーストだよぉ」
それだけ言うと、影さんはにこりと笑った。
影さんがここに住み着いたのはいつだっけ。
何年も前だった気もするし、つい4、5日前だった気もする。
買い物から帰る途中、初めて影さんと出会った。
気に入った、とか言って、家に入ってくるのだから困ったものだ。
鍵をかけても、チェーンをかけても、すっと入ってくる。
影さんは訳わかんない説明をするけど、まあいいや。
だって、宇宙規模で考えたら大したことじゃないでしょ?
「トースト冷めちゃうよぉ」
「ん」
私はトーストにかぶりつく。ほんのりバターの香りがする。
「ねぇ、影さん」
「なぁに?光」
「いつここから出てくの?」
影さんはすねたような顔で、ため息を吐く。
「ひどいよぉ。ここに住んでいいって言ったのは、光でしょぉ?」
「そうだっけ。忘れてた」
「本当にひどいなぁ」
そんなことを言いながらも、影さんは嬉しそうだ。
「学校、遅刻しちゃう」
学校へは2人で行く。学校に通っているのは私だけなのだが、影さんは勝手に着いてきて、勝手に授業を受けている。
先生は何も言わない。…気がついていないだけかもだが。
私が教室に入ると、みんなが静まり返る。いつものこと。
ちらちらこちらを見て、何かを話している。
「人気者だねぇ」
影さんがくすくすと笑う。
「そうかな」
私が返事をすると、みんなぎょっとした顔でこちらを見る。
「――やっぱ、霊が見えるんだよ」
「はぁ?馬鹿らしくない?自作自演でしょ」
「てか、あの子が幽霊じゃない?」
「あり得るww」
「幽霊とか言われてるけど?影さん」
「ふふ、本当に幽霊だもん。大正解だよぉ」
また変なこと言ってる。こういう所が、影さんの悪いところだ。
授業中。影さんは空席に座って授業を受けることもあるが、今日は違うみたい。
踊ってる。くるくるくるくる。本当に変な子。
そう言うと、決まって影さんはこう答える。
「何が普通かなんて決まってないでしょぉ?これが私の普通」
そうか。そうだな。楽しそうだな。
「あっ」
そんな声と共に、椅子の下に転がってきたのは消しゴム。
距離的に拾えるのは、私と…影さんくらい。
落とし主の女の子は、この世の終わりみたいな、絶望に満ちた様子だ。
めんどくさいな。そう思っていると、影さんが消しゴムを拾い、女の子の席に届けてくれた。
「どうぞぉ」
影さんが親切にしてくれてるのに、女の子は礼の一つも言わないで、唖然としている。
周りの子たちも、目線を私と消しゴムに行ったり来たり。
「うぁっ…あ、ありがとう…ございます」
女の子はなぜか、私にお礼を言った。
「ふふっ。また人気者になっちゃったねぇ」
帰り道、影さんは面白そうに言った。
「そう?私何もしてないよ?」
「言ったでしょぉ。私はあなた、あなたは私。私のしたことはあなたのしたこと」
わかんない。変なの。
「でも私、壁通り抜けたくないんだけど」
「いいじゃない。少しくらい壁を通ってみてもぉ。楽しいしぃ?」
そうかな。そうだな。少しくらいいいか。
家にて。影さんは居間でテレビに夢中。私は台所でお料理。
「ははっ…ふふふ」
時折聞こえる笑い声から、影さんのご機嫌が窺える。
「影さん、お風呂沸いたから、先入って」
「ええー。一緒に入ろーよぉ。」
「私、百合じゃないんで」
「はーい」
しぶしぶといった様子で、影さんは風呂場に向かう。
「湯船で待ってるのもダメだよ。またのぼせちゃう」
「…はーい」
お夕食の時間、影さんはマナーよく料理を口に運ぶ。
「おいしいねぇ、このカレー」
食事中にしゃべるのはいいのか、と思いながら、にまにました影さんを見つめる。
「…何かついてるぅ?」
私がほっぺを指差すと、ナフキンできちんと拭う。
「やっぱり影さんって変だよ。私にとって、変」
「いいじゃない。私は毎日が楽しい。あなたもじゃない?」
「…そうかも」
「今日は一緒に寝ようよぉ」
「やだ」
「ぶぅー」
私はこんな、普通の生活を送っている。
変?変なのはあなたの方じゃない?
えと、この作品はある漫画に感化されて書きました。
分かる人には分かっちゃうかも知れませんが、目を瞑っておいてください。