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彼女、って……。
彼女、って? つきあうって意味の?
いや、小島が、私をスキとか、そういうんじゃないだろうし。
いきなり、それはナイよね。
……とすると。牽制、とか。
髪を切らないで済むように、私が動揺して、コンクールメンバー選抜で滑るように?
いや、でも、小島って、そんなことする性質じゃないような……。
うーん……。
考えても、わからない。
あの賭けに、こういう出方で、返されるとは……。
……。
帰りのバスの中、私の中はぐるぐるで。
でも。
小島の思惑はともかく、ずっとコンクールメンバーになるために頑張ってきたんだし。私は、私の精一杯で選抜に臨むんだから。
そうして。
なんとか気を引き締めて、選考会では、自分なりに出来るだけのことをした。
コンクールメンバーは、顧問の先生と三年生が相談して決める。後は結果待ちだ。
「楓は、入れるね」
クラリネットの手入れをしている楓に、声をかけると、
「こっちは倍率低いから」
と返された。確かにクラリネットは、人数がいるので、選ばれる確率は高いんだけど。
「楓の音が良かったからだよ」
友だちとしてじゃなく、そう言うと、楓は照れくさそうに笑って、
「柚葉もレベル上げてきたね」
と嬉しくなることを言ってくれた。
「この夏は、お盆休みも頑張ったからね」
「……なんか、いいことあった?」
「え」
楓は、フルートを持つ手の止まった私に意味ありげな笑いを見せた。
「なんで?」
「んー、なんとなく、かな。柚葉の音が、そんな感じに聞こえた」
「そんな感じ?」
いいことあったような?
「うん」
楓の感想はともかく、レベルが上がっているなら嬉しい。今は、ただ、メンバーに入りたい。
メンバーの発表は、明日。
出来るだけのことは、した。
選考会の余韻を残しつつ、帰り支度も済み、何人かでおしゃべりしながら校舎を出た時、
「ね、あれ、小島じゃない?」
他の子と話していた私の鞄の肩ひもを引っ張って、割り込むように楓が言った。
正門にもたれて、鬱陶しい前髪の私服の男子がいた。
なんで、小島?
彼は、私たちに気づくと、何か言いたげなそぶりをした。
「ごめん、ちょっと、いい?」
部活仲間に断りを入れて、少し早足で小島のそばに行った。
「どしたの?」
「連絡先も何も聞いてなかったから」
なんだか小島の声が不機嫌。ああもう、表情が読めない前髪をなんとかしてほしい。
「連絡先?」
「だから、選考会の結果とか、聞けないだろ?」
そう言えば、お互いに電話番号もメルアドも何にも知らない。夏休み中の小島と私の接点は、小島のバイト先のカラオケボックスだけだった。
いまさら、そんなことに思い当たる私をよそに、
「結果、いつわかるの?」
と、小島。それを聞くためにわざわざ、ここで部活が終わるの待っててくれた……?
「明日」
「ケータイ、出して」
「え」
「ほら早く。俺、今からバイトだから」
急いでいる様子の小島に押し切られて、連絡先を交換する。
「じゃ、結果わかったら教えて」
「あ、うん」
「あの賭け、有効だから」
「え?」
冗談じゃなくて?
それだけ言うと、小島はバイトに行くと去っていった。
残された私には、楓の含み笑いに太刀打ちするすべもない。近くのドーナツ屋に引っ張っていかれ、これまでの小島との経緯を白状させられたのだった。