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小島が言うのも、わかるような……。
桜橋高校の体育祭は、盛り上がることで近隣でも有名だ。実際のメインイベントは、体育祭終了後に行われる裏体育祭「玉三郎コンテスト」。クラス対抗の女装(仮装?)大会。
小島の素顔がバレたら、きっと玉三郎役に推されちゃうだろうな。
「でも、キレイ過ぎて無理かも……」
「は?」
まずい、心の声が漏れてた。
「あ、私としては、とゆーか。小島の女装なんて、予想しただけで、そこらの女子がイタい気分になりそうだと思って」
慌てて説明すると、
「なに、それ」
と、笑われた。
その笑顔も、ずるい。
「ね、小島。賭けを、しない?」
「賭け?」
「そう。私が、もし、コンクールメンバーに選ばれたら、小島は髪を切って」
もちかけたのは、とても一方的な話。
「石塚なら、大丈夫だって、俺、言わなかったっけ?」
「言ったね」
「……ずいぶん、俺の分が悪くない?」
立ち止まった小島が、射るように私を見る。
こだわりすぎかもって、自分でも思うけど。こんなふうに、隠さないで向き合って欲しいんだ。これは、私のわがままだけど。
小島が、その容姿でどんな思いをしてきたのかなんて、わからない。
でも。
立ち止まってくれた。
その眼を、まっすぐに見返す。
「責任、とるよ?」
私が言えるのは、想いの半分にもならないつたない言葉だけど。
「小島が、嫌な思いしないように、守るから」
「どうやって?」
……えーと。
小島が、ふっと目を細め、仕方ないな、と言うかのように頬を緩めた。
「石塚って、へん」
「へん?」
「んー。こだわりどころ、とか。守る、とか。別に、放っておけばいいのに」
小島が、また先に歩き出す。
公園の出口は、もう、すぐそこだ。
小島とは、バスの路線が分かれるので、一緒に歩けるのはバス停までだった。
「ほんとに、責任取ってくれる?」
ふと背を向けたままの小島が言った。
「うん」
そこは、ちゅうちょなく答えられる。方法は、まだ考えてないけど、ちゃんと考えるつもり。
バス停について、折よく私の乗るバスの方が先に姿を現した。
「じゃあ。今日は、トランペット聴かせてくれてありがとう」
賭けは、成立したんだろうか。曖昧なまま、バスのタラップに足をかけた私に、小島は言った。
「もし、石塚がメンバーに選ばれて、それで、俺が、髪を切ったら……」
バスのタラップを上って、私は小島を振り返る。
「彼女になって」
……はい?
いま、なんて?
彼は乗らないと見切りをつけた運転手が、ブザーの音ととともにバスのドアを閉める。
ガラス越しの小島の表情は、照れた様子もなく、淡々としていた。