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微炭酸summer☆  作者: 真織
4/9

 宣言通りバイトを終えた小島が、スタッフの制服から私服に着替えて、私のいるボックスにやってきた。

「なに吹く?」

とりあえず、聞いてみた。って言っても、私の実力じゃ、リクエストされて何でも吹けるわけじゃないんだけど。

「……何でも。吹けるので」

あっさり言って、小島は私の立ち位置から対面のシートに座った。

 まだ前髪ちょんまげ状態のままで、もったいないくらい綺麗な顔をさらし、目を閉じた小島からは、「ほら聞かせて」と言う無言の圧力を受ける。

 

 ……ふう。

 覚悟を決めて、フルートを持ち上げた。


 

 ……fly me to the moon.



 何でもいいと言われたので、好きにしてみた。

 ちょっとアンニュイな大人のフレーズ。


 吹き始めると、たった一人の観客のことは頭から消えていた。


 

 最後の音が昇華して、ここがカラオケボックスだっていう空気が帰ってくる。

「選曲、意外な気がしたけど。でも、石塚っぽい音だった」

小島は、満足そうに笑ってくれた。

 ヘンな髪型の癖に。

 ……その笑顔は、反則だ。

「私っぽい?」

「うん。ちょっとだるそうなのに、夢見てそうな感じ」

どういうの、それ。

「誉められたのかな?」

口を尖らせた私に、

「そのつもり」

と、また笑う。

 ひとしきり笑って、しばらくして、

「……石塚?」

怪訝そうな小島の声がかかった。

「あ、ごめん」

まさか、不覚にも見とれていましたとは言えない。

「練習、邪魔したよね。俺、帰るから」

シートから腰を上げた小島は、前髪のゴムをするりと抜いた。

 顔半分の前髪と、どこかの国のロゴ入りTシャツにベーシックな紺のストレートジーンズ。スタイルは悪くないのに、残念な小島の出来上がり。

「小島のは、いつ聞かせてもらえるの?」

私が聞くと、

「あと少し。お盆明けには手に入るから」

と小島は答えた。

 ああ、小島の吹くトランペットが聞けるんだ。

 お盆明けで、部活の早く終わる日は……、

「じゃあ、二十四日、空いてる?」

頭の中で予定を思い出して、聞いてみた。選考会の前だけど、構わない。

「夕方なら」

「場所は?」

「鴨池公園の、西入口付近に来てくれたら」

「わかった。六時でいい?」

「うん」

 約束が、心に小さな灯をともす。

「じゃあ」

と、ボックスを出ようとする小島に、

「ねぇ小島」

と、私はかぶせるように呼び止めた。

「前髪、切ったらいいのに。やっぱりもったいないよ」

 一瞬動きを止めた小島は、

「うるさいよ。いい加減、そういうのやめて」

低い声で言い捨てると即座にボックスを出ていった。 


 やっぱり余計なおせっかいだったかな。

 でもなんだか言わずにはいられなくて。

 小島は、私の音をちゃんと聞いてくれた。だからかな、小島も、そのまま隠さずにいてくれたらいいのにって。

 そう、思ったんだ――――。




  

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