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微炭酸summer☆  作者: 真織
3/9

 夏休みに入って、七月の終わりに吹奏楽のコンクール市内予選大会があった。

 それまでは、部活一色。

 先輩たちは、頑張った。

 頑張ったけど、県大会には進めなかった。結果は銀賞で、ここのところ、桜橋高校吹奏楽部は低迷中と言われてしまっている。

 それでも人気のある部活なので、部員数は多く、パートごとにコンクールメンバーに入るのも大変だ。

 夏休みの終わりには、選考会があって、一年生も参加できる。

 部活が休みだったり、早く終わった日は、練習したい。でも、家で大っぴらに吹くわけにもいかず、場所探しに苦労してしまう。

 気候のいい時は、ちょっと恥ずかしいけど公園なんかでもやっちゃうんだけどね。

「で? なんで毎日来るわけ?」

私の顔を見た途端、小島は嫌そうに言った。

 嫌そうな顔なのに、見とれるほど綺麗って、どういうこと?

「お客様に対する態度、改めた方がいいよ?」

カラオケボックスの受付で、もう恒例になりつつある会話。

「……じゃあ、こちらへどうぞ」

 小島がバイトしているカラオケボックスは、夏休みニコニコキャンペーン中。平日はワンコインで三時間、ドリンク注文も不要という破格の安さだ。

 なによりエアコンが聞いてて涼しいし、もちろん防音もばっちり。楽器練習にぴったりというわけで、私は通い詰めているのだった。

「ねえ」

小島の後について歩きつつ、聞いてみた。

「小島は、なんでずっとバイトしてるの?」

「欲しいものがあるから」

 確か小島は部活にも入っていないし、バイトとしてのこなっれっぷりから見ても、入学してすぐから働いていそうだ。そんなに詰めて稼がなければならないほど、高価なものなんだろうか。

 小島の視線が、ちらりと私の持つフルートケースに止まったのを私は見逃さなかった。

「もしかして、楽器?」

「……石塚のそれ、個人持ちだよな?」

「うん。中学の時は、学校のを使わせてもらってたから。ためてたお年玉貯金と入学祝いで」

全額はたいてやっと買えた。

 安く買おうと思えば、もっと安いのもあるけど、中学三年間ちゃんと頑張ってきて、高校でも続けていくなら、それなりのものが欲しかった。

「そっか」

「小島は、何が欲しいの?」

「……トランペット」

「ブラスバンド、入らないの?」

「合奏、興味ないから」

 ……興味ないのか、そっか。でも、楽器は欲しいんだ。吹けるのかな?

「じゃあ、今度吹いてよ」

「え?」

「楽器、手に入ったら」

なんだかどうしても小島の吹く音が聞きたくなって、そう言った。

「じゃあ、そっちも聞かせて」

え?

「今日のシフト、五時までだから。終わったら、来てもいい?」

「あ、うん」

「じゃあ」

今日の部屋に案内し終えると、小島は受付に戻って行った。

 えーと。今から、三時間コース、だから。予約は五時半まで。

 で、バイト終わったら小島が来て、私のフルート、聞くんだよね。

 あれ? なんで? 私は小島の吹く音が聞きたかったのに……どうしてこういうことになってるんだろう? 

 小島って、よくわからない。

 でも。

 たった一人に聞かせるなんて、なんだか緊張する。

 大丈夫かな、私。

 微妙な気分でケースから管体を取り出し、フルートを組み立てた。

 ……とりあえず、練習、練習っと。




 

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