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微炭酸summer☆  作者: 真織
2/9

 小島は、同クラの男子で、ちょっと浮いた存在だった。何より顔半分隠す長い前髪が、なんだか怪しい。

 同中出身の子もいないようで、周りの女子は遠巻きに引いていた。一方で、男子の中ではそれなりに話したりもしていた。

 入学当初はからかわれたりしていたけど、何度か自分で前髪を持ち上げ、男子には何やら打ち明けていた。

 担任に指摘された時も、

「ずっと顔で不自由してたんで」

なんて、真面目に言うもんだから、うちの校風の寛容さで、小島はそっとしておこうと暗黙の了解になっていた。

 残りのカラオケの時間は、更にぼんやり過ごしてしまったので、私に声かけしてくれたクラスメイトのかえでに、

「柚葉、やる気なかったね~」

と呆れられてしまった。

 小島のことは言わなかった。別に本人から「言うな」って口止めされたからじゃない。

 ただ、なんとなく、だ。



 期末試験の翌日からは、またしばらく授業がある。

 小島は、相変わらずうっとうしい前髪のまま。特に女子とは関わらない。

 関わらないのは元々だけど、更に私は避けられているような気がした。

 なんだか面白くなかったので、掃除の時に声をかけてみた。

「小島」

ほうきを持って振り向いた小島が、私を認識して微かに引いたのがわかると、ますます面白くない。

「なんで、バイト先ではあんななの?」

具体的に言うのは、一応遠慮してあげた。

「あー、まあ、食べ物扱ってるから。不衛生だって」

小島がぼそぼそと答える。

 不衛生、か。なるほどね。

「だったら、なんで切らないの?」

思わず突っ込んでしまった。

「それ、聞く?」

「え?」

聞いちゃダメだった?

「だって、不自由するような顔じゃないでしょ」

むしろ、美形ともいえるくらい。

「……石塚、俺の下の名前、知ってる?」

は? 

 だったら、あんたはこっちの名前知ってんの? 

 内心の切り返しが顔に出ていたのか、小島は、

瑞希みずき

と自爆した。

「こんな名前で、こんな顔だろ。だからだよ」

 ……今まで、その説明で通ってきた? だからって、何?

「綺麗なのに。どっちも」

なんだか隠されていることに納得できなくて、そう言うと、

「女みたいな名前に女顔。嬉しくないんだよ」

小島は心底嫌そうに言った。

 これでこの話題はお終いとばかりに、小島は私から視線を逸らし、箒を動かし始める。

「でも! もったいないよ」

思わず小島の持ってる箒を掴んでしまった。

 動きを止めた小島の、表情は前髪に遮られてわからない。

 思わず声も大きくなってたようで、クラスの注目を浴びてる。まずかったかな。

 しいんとした空気を救ったのは、楓の、

「柚葉、部活あるんだから、急いで~」

という、一言だった。

 吹奏楽部に所属している私は、今コンクール前で時間が惜しいくらいだった。一年生だから、まだメンバーには入れていないけど、来季の選考がかかってくる。

 なんで小島に絡んでしまったのか、自分でもよくわからないけど、とりあえず、部活に気持ちを切り替えた。



「やけに小島に絡んでたね」

楽器を置いてある音楽準備室に向かう途中、楓が話しかけてきた。

 楓とはクラスも部活も一緒。だからクラスメイトのグループに声かけしてくれたんだ。

 小島のことは……言われるかなって思ってたけど。

「なにが、もったいないの?」

……なんか、それは言いたくないかも。

「あの前髪が、鬱陶しいから」

「ま、ただでさえ暑いのに、あれを見るとね」

「うん、すっぱり切っちゃえって思うでしょ?」

「確かに」

相槌を打ちながらも楓は、

「でも、小島って、そういうの言い難い雰囲気」

と声を絞った。

 そうかな? そんなこと、ないと思うけど。

 カラオケでの(あくまで客相手にだろうけど)丁寧な応対とかに接したからか、やっぱり顔を見たからか、漠然と近寄りがたさは消えていた。

 小島瑞希。

 彼は、私の中で、ただの浮いたクラスメイトから、変化しようとしてた。

 


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