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微炭酸summer☆  作者: 真織
1/9

 恋がしたい。



 目の前には、ちょっと濃いめのヘタレ顔。

 親切に飲み物メニューを寄せてくれたり、マメさをアピールしている。

 でも、彼は……ナイ。



 恋が、したい。



 対面、左端。フツーに爽やか、だけれども。

 いや、けっこうゴツい? 地味に体育会系、肘の毛が……。彼も、ナイ。



 別に王子様を待ってるわけじゃない。上から目線と言われれば、自分何ほどって、自覚してるつもり。

 

 だけど、恋してみたいって思うのは、構わないよね?



 

 友達歴の浅い同クラのとある女子グループの声かけに乗って、男子とカラオケ。



 漠然と。

 高校生になったら、恋ができるかな、なんて考えていた。


 なんとか受験をやり過ごして、入学した県立桜橋高校。

 一学期も終わりにさしかかり、高校生活にも慣れた。憧れていたほど薔薇色でもなかったけど、幻滅するほどでもない。

 勉強も部活も友達つきあいも、それなりにこなせる毎日。


 でも、恋は、降って来なかった。


 同クラや部活や、周りの男子にはときめかなかった。



 きゅうん、ってドキドキするようなこと、ないかな。


 

 ……恋がしたくて。だったら、攻めでしょ、と今日の参加に繋がる。




     ※   ※   ※




「期末最終日にさ、美玖の同中出身の男子たちと集まろーって言ってるんだけど、柚葉ゆずはもどう?」

そんな声がかかったのは、部活動も試験前の短縮に入った日のことで。

 新しい出会い、もしくは再発見があるかも……なんて期待して、参加した。

 でもまあ、出会いがあっても、ときめかないなら、意味ないんだけど。

「飲み物、空になってるよ。追加、頼む?」

親切な対面のマメ男くんに、内心ナイなー、と思いつつ、

「あー、じゃあ、ジンジャーエールで」

と、提案には乗っかった。

 私にとっては、すでに時間つぶしになってるカラオケボックス。はやりの歌の合唱に、とりあえず参加しているだけだった。

 注文からしばらくして、

「失礼しまーす」

飲み物をもって入ってきた店員の、前髪に思わず目が行った。

 前髪をゴムで縛って立たせてる。……なんというか、ファンキー?

 だけど、もったいないな。せっかく綺麗な顔してるのに。

 私が見ているのに気付いたのか、彼は一瞬ぎょっとしたように目を見開き、慌てて顔を逸らした。

 ……いいじゃん、ちょっとくらい見たって。

 ほんとに、男子にしておくには惜しいくらい綺麗だった。

 でも、見てたの嫌がられたし。

 あれ? なんだかちょっと、傷ついたぞ。

「ゆずちゃん、ジンジャー来たよ?」

 同じボックスのみんなにとっては、ただ飲み物が追加されただけで。店員は空気のように去っていった。

 ……ゆずちゃん、言うな。

 初対面で名前呼びのノリは、私には、ない。



 お手洗いにボックスを出て、用を済ませ、気が乗らないながらも再び元のボックスへ戻ろうとしていた時。

 どん。

 がっしゃーん。

 廊下の角で誰かにぶつかった。

「ごめん、大丈夫?」

「いえ、私よりそっちが……」

下げてる途中の食器が、幾つか割れて散らばっていた。

「お怪我、ないですか?」

とっさの口調から、お客相手の口調に代わる。

「あ、はい」

私は多少飛沫がかかった程度だけど、彼の方がグラスに残った水がねて、顔周りから上着にかけて、けっこう濡れていた。

「すぐ、片付けますから」

ガラスの破片があるかもしれないから動かないで下さいと言い置いて、彼は駆けていった。

 ホウキにちり取り、タオルをとって戻ってきた彼は、

「破片とかかかってるといけないから、どうぞ」

と、私にタオルを差し出した。それから手早く床を片付け始める。

 彼って、前髪上げてたさっきの店員、だよね? 濡れたから外したのか自然に取れたのか、前髪のゴムがなくなっていて。

 それは、どこかで見た……!

「え? 小島?」

思い出して呼びかけると、店員の動きが止まった。

「やっぱり、小島」

「……言うな」

「え?」

「だから、言うなって」

 言うな、って、だって、今まで気づいてなかったけど、胸のネームプレートにもちゃんと『小島』って書いてあるし。

「言うなよ、わかったな?」

廊下の片づけを終えた小島は、私の手からタオルを奪い取ると、そう言いながら廊下を戻っていった。





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